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どこから来たの?
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ホクホクとシチューを貪るように食べている兄弟。冷え切った体に染みわたっていくのか、頬に熱が籠っていくように赤くなる。可愛いほっぺねと机に肘をつきながら、見つめていた。
「……ほひぃひぃ」
「ほら、ちゃんと食べてから話せ?」
口元についているシチューを兄が拭ってやると、目を細めながらされるがままであった。私が見つめているのを思い出したかのように、二人がこちらを見た。
「……いいんですか?ここの人に怒られませんか?」
「えぇ、大丈夫。ここの人たちの中で、私が1番えらいから」
そういうと、驚いたというふうに目を見開いている。二人ともよく似た赤毛で、兄の方は、痩せこけてはいるが、そこそこの年齢に達してはいるだろう。弟の方は、まだ小さく、うちの子とほとんど変わらない様子であった。
「あなたたち、どうして、盗みに入ったの?」
「……お腹が空いていて。食べるものに困って……」
「あの……ごめんなさい」
きちんと謝れるところを見ると、弟の方は見た目より、大きいのかもしれない。
「怒っているわけじゃないの。あの施設は、研究所だから、どうしてかな?って思っただけで」
「……数日、何も食べていなくて、食べられそうな実がついていたので」
「そう。美味しかった?」
「はい、とても。トマトは夏の植物だと思っていましたが、そうではなかったのですか?」
「そうよ?ここは、アンバー領の研究所。いろいろな研究をしている一環で、あなたたちが入ったのもそのひとつね。あそこでは、冬でも夏野菜を食べられるように研究しているのよ?」
「……そうだったんですか。そうとは知らず、ごめんなさい」
「いいのいいの。おいしいって言ってもらえることの方が研究員たちも嬉しいはずだから」
ニコリと微笑むと、困惑したような笑顔をこちらに向けてくる。その様子をみれば、やはり、弱々しく感じた。
「あなたたちは、どこから来たの?」
私は、思い切って話を聞くことにした。言わなければ、それまでだが、言ってくれるだろう。
「ここから8日ほど離れたところから来ました。こんなに大変だとは思わず」
「徒歩で8日?それなら、1つ離れた隣の領地からかしら?」
兄の方がコクと頷くので、大変だったわね?と労う。子どもが、8日も歩いて移動というのは、大変なことがわかる。それも、幼い子を連れてとなれば、なおのことだ。
「あの!」
「どうかして?」
「領地には戻さないでください!」
「領地に戻すようなことって……事情によるけど、何かあるの?」
言いずらそうにする兄に向かって、先に名を聞くことにした。少し困った表情をしたあと、答える気になったようだ。
「ナイト……13歳、弟のライト4歳」
「ナイトとライトね?まだ、ライトのほうは、4歳か……うちの子と同い年かしら?」
それにしては、小さく見えるライトに、ナイトが言いずらそうにしている理由を考えた。
「言いにくかったらいいわ、言わなくても。ただ、子どもだけで生きていくのは、難しいわよ?」
「……成人しているので、働きます!」
「それにしたって、ナイトは線が細すぎるわ。そんなんじゃ、働いたらすぐに寝込んでしまう」
「それじゃあ、どうすれば……」
私はナイトを見ながら、ライトも見る。どちらも栄養失調なのだろう。骨と皮だけだと言っても過言ではないので、提案をすることにした。ちょうど、領地の屋敷には孤児もいるので、そこに加わればいいだろう。それに事情にしたって、ちゅんちゅんと鳴けば、わかってしまう。見たところ、育児放棄をされたか、親から酷い仕打ちを受けているような気がする。
「いつか、事情を話したくなれば話してちょうだい。仕事をしたいというなら、私の屋敷に来なさい。そこで、仕事を与えるわ。ちょうど、あなたくらいの子どもたちも預かっているから。窮屈かもしれないけど、食べることに困ることもないから、どうかしら?」
二人で顔を見合わせている。判断に迷っているようで、仕事をするかしないかは別として、領地の屋敷の見学をすればいいわと言えば、二人とも頷いた。
「働かざるもの食うべからずだから、何かと仕事をしてもらうことにするわね。難しいことを頼むわけじゃないし、二人の能力に見合った仕事を割り振るから、そんなに身構えないで」
「お願いします」
領地の屋敷に来るようにしたらしく、こちらをじっと見てくる。
「明日の朝、出発だから、今日はもう休みなさい。私のベッドを使って」
子どもたちに私の部屋を案内して、私はソファに寝転んだ。余程疲れていたのか、はたまた、なれないことに緊張していて、糸がキレたのか、布団に入ったと同意に眠りについてしまった。
眠ったのを見計らって、ちゅんちゅんに二人の素性を調べてもらうことにする。眠る二人の頭をそっと撫でた。
優しさや愛しさが実生活の中で、得られるようなものではなかったようだ。それなら、愛を渡す算段をしていく。どんな性質なのか、少し一緒にいるだけではわかりにく。しばらく、同じ領地内で暮らすようになれば、お互いを知るにはちょうどいい機会なのかもしれない。
「……ほひぃひぃ」
「ほら、ちゃんと食べてから話せ?」
口元についているシチューを兄が拭ってやると、目を細めながらされるがままであった。私が見つめているのを思い出したかのように、二人がこちらを見た。
「……いいんですか?ここの人に怒られませんか?」
「えぇ、大丈夫。ここの人たちの中で、私が1番えらいから」
そういうと、驚いたというふうに目を見開いている。二人ともよく似た赤毛で、兄の方は、痩せこけてはいるが、そこそこの年齢に達してはいるだろう。弟の方は、まだ小さく、うちの子とほとんど変わらない様子であった。
「あなたたち、どうして、盗みに入ったの?」
「……お腹が空いていて。食べるものに困って……」
「あの……ごめんなさい」
きちんと謝れるところを見ると、弟の方は見た目より、大きいのかもしれない。
「怒っているわけじゃないの。あの施設は、研究所だから、どうしてかな?って思っただけで」
「……数日、何も食べていなくて、食べられそうな実がついていたので」
「そう。美味しかった?」
「はい、とても。トマトは夏の植物だと思っていましたが、そうではなかったのですか?」
「そうよ?ここは、アンバー領の研究所。いろいろな研究をしている一環で、あなたたちが入ったのもそのひとつね。あそこでは、冬でも夏野菜を食べられるように研究しているのよ?」
「……そうだったんですか。そうとは知らず、ごめんなさい」
「いいのいいの。おいしいって言ってもらえることの方が研究員たちも嬉しいはずだから」
ニコリと微笑むと、困惑したような笑顔をこちらに向けてくる。その様子をみれば、やはり、弱々しく感じた。
「あなたたちは、どこから来たの?」
私は、思い切って話を聞くことにした。言わなければ、それまでだが、言ってくれるだろう。
「ここから8日ほど離れたところから来ました。こんなに大変だとは思わず」
「徒歩で8日?それなら、1つ離れた隣の領地からかしら?」
兄の方がコクと頷くので、大変だったわね?と労う。子どもが、8日も歩いて移動というのは、大変なことがわかる。それも、幼い子を連れてとなれば、なおのことだ。
「あの!」
「どうかして?」
「領地には戻さないでください!」
「領地に戻すようなことって……事情によるけど、何かあるの?」
言いずらそうにする兄に向かって、先に名を聞くことにした。少し困った表情をしたあと、答える気になったようだ。
「ナイト……13歳、弟のライト4歳」
「ナイトとライトね?まだ、ライトのほうは、4歳か……うちの子と同い年かしら?」
それにしては、小さく見えるライトに、ナイトが言いずらそうにしている理由を考えた。
「言いにくかったらいいわ、言わなくても。ただ、子どもだけで生きていくのは、難しいわよ?」
「……成人しているので、働きます!」
「それにしたって、ナイトは線が細すぎるわ。そんなんじゃ、働いたらすぐに寝込んでしまう」
「それじゃあ、どうすれば……」
私はナイトを見ながら、ライトも見る。どちらも栄養失調なのだろう。骨と皮だけだと言っても過言ではないので、提案をすることにした。ちょうど、領地の屋敷には孤児もいるので、そこに加わればいいだろう。それに事情にしたって、ちゅんちゅんと鳴けば、わかってしまう。見たところ、育児放棄をされたか、親から酷い仕打ちを受けているような気がする。
「いつか、事情を話したくなれば話してちょうだい。仕事をしたいというなら、私の屋敷に来なさい。そこで、仕事を与えるわ。ちょうど、あなたくらいの子どもたちも預かっているから。窮屈かもしれないけど、食べることに困ることもないから、どうかしら?」
二人で顔を見合わせている。判断に迷っているようで、仕事をするかしないかは別として、領地の屋敷の見学をすればいいわと言えば、二人とも頷いた。
「働かざるもの食うべからずだから、何かと仕事をしてもらうことにするわね。難しいことを頼むわけじゃないし、二人の能力に見合った仕事を割り振るから、そんなに身構えないで」
「お願いします」
領地の屋敷に来るようにしたらしく、こちらをじっと見てくる。
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子どもたちに私の部屋を案内して、私はソファに寝転んだ。余程疲れていたのか、はたまた、なれないことに緊張していて、糸がキレたのか、布団に入ったと同意に眠りについてしまった。
眠ったのを見計らって、ちゅんちゅんに二人の素性を調べてもらうことにする。眠る二人の頭をそっと撫でた。
優しさや愛しさが実生活の中で、得られるようなものではなかったようだ。それなら、愛を渡す算段をしていく。どんな性質なのか、少し一緒にいるだけではわかりにく。しばらく、同じ領地内で暮らすようになれば、お互いを知るにはちょうどいい機会なのかもしれない。
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