1,110 / 1,480
よく寝たわ!
しおりを挟む
閉じたままの瞼をゆっくり押し上げようとする。どうも力が入らず、諦めた。耳をすませば、苛立たし気にあちこちをあるき靴音。
聞き覚えのあるその足音は、アデルの者だろう。意識を広げていけば、他にも人がいる。カチャカチャと、ガラスがあたるような音が聞こえてきて、ようやく、私がヨハンが用意した蟲毒を飲んだことを思い出した。
……どうりで体が重いはずね。解毒薬を飲んだというのに、効き目がないだなんて。
開かない瞼より、指を動かしてみることにした。耳は聞こえるので、私の体が動けば、きっと、アデルが気が付いてくれるはずだ。
それよりも声を出したほうがいいのだとはわかっているが、どうやら、こちらも回復していないらしい。
人差し指をゆっくりあげてみると、苛立たし気に歩いていた足音がピタリと止まったあと、私の枕元に駆け寄ってきた。
「アンナ様!わかりますか?」
声も出ない私は、力を振り絞って、アデルに指で文字を伝える。最初は何を意味しているのかわからなかったようだが、ヨハンが隣にいたので解読したようだ。
「体が動かないだって?でも、ヨハン教授は……」
「きき方が違ったんだ。毒も薬も、人それぞれに出る症状が微妙に違う。軽微なものだと思っていたが、予想以上に重いか」
「ヨハン教授、なんとかなりませんか?」
「なんとかじゃなくて、なんとかするんだよ!水を持ってきてくれ。お嬢さんに飲ませる。ジニーも手伝うように声をかけて」
「あぁ、そっか……トイレですね!」
「女性にあまり、そう言うのはよくない。一応……な?」
慌てている男性二人にクスクス笑いたくなった。気にしないと言えば嘘になるが、慌てる二人の様子が、音だけでわかるのでおもしろいのだ。指でトントンとして水を求める。喉が乾いているので、お願いするとアデルが慌てて水を飲ませてくれる。変なところに入って行かないように飲ませてくれる。
喉が潤ったおかげか、少し声がでそうだ。
「あーうぇる?」
「アンナ様!声が……!」
「げぇふぉくざふぃ……」
「わかりました!ヨハン教授、解毒剤」
「はいはい。慌てずにのんで。とりあえず、二本飲んでみて」
試験管が口元に当たる。コクコクと水と同じように飲んでいけば、体の中を蚕のような虫が這うような間隔が少しだけ消えていった。二本飲んだとき改善される。重たかった瞼がゆっくりと開き、涙目のアデルがぼんやり見えた。何度か目をパチパチとさせると、焦点があい、にっこり笑いかける。余程嬉しかったのか、アデルが抱きついてきた。
「よかった……アンナ様が、戻ってきてくれて」
グズグズの涙声に申し訳なく思った。毒の耐性をつけるためとはいえ、今回は結構な危ない橋を渡ったのかもしれない。
水をコップ一杯もらって飲めば、7割程回復した。そこそこの時間、眠っていたようで、体のあちこちが痛かった。
「……どれくらい眠っていたの?」
「3日半だな。今は、もう、夜だから」
ヨハンが申し訳なさそうに言っている。私の間隔では精々数時間だと思っていたが、意外と長い時間に驚いた。
「ジョージア様の知らないところで実験してよかったね?まだ、連絡はしていないのでしょ?」
「まだだ。明日の朝、意識が戻らなければ……と思ってはいたが」
「その判断は、ありがたいわ。これほどまでに眠るとは」
「……本当に、驚いたんですからね?亡くなったかと思ったほど、体は冷たくなるし……」
グズグズと泣いているアデルにごめんなさいと謝る。その様子は、いつだったかのハリーと同じで、私をとても心配してくれていた。
「なんだか、似たような光景を見たことがある気がするんだけど?違ったか?」
「違わないと思うわ。ハリーに、とても叱られたこと、あったわね。ヨハンも覚えていたのね」
「あぁ、あの宰相の息子?」
「そう」
「懐かしいな。あのとき、すごい剣幕で、何をした!って詰め寄られたっけ?今も似たような感じで、アデルに軽く襟クリを捕まれたんだけどさ?」
「ヨハンの方が強いでしょ?」
「……そう言う問題じゃありません!アンナ様が言ったことに、理解はしましたけど……こんな結末になるなんて、聞いていませんよ?」
「そりゃ、私も思いがけずだからね……心配かけてごめんね?」
睨んでくるアデルに、苦笑いをしておく。二度としないで欲しいという表情に、もう一度謝ってヨハンに話を聞くことにした。
どうやら、毒を飲んだすぐに、眠るように倒れていったらしい。解毒剤を定期的に飲ませていたが、目を覚まさず、今に至ったということだ。
「蟲毒って、すごいね?」
「これは、蟲毒とは言わない代物だからな。とりあえず、もう、この実験はしない」
「でも、しないと……」
「死ぬって言いたいのか?」
「……うん。昔は諦めていて、死ぬのもあぁそんなもんだよね?程度にしか思っていなかったんだけどね。私のことを心配してくれる人や未来への渇望ができたら、死にたくないんだよね?未来は変えられるって、信じようと思っているんだ」
「そのためのだろうけど、さすがに今回のことで、許可は出来ないあと2日ほど休んだあと、屋敷へ戻るように」
わかったとヨハンの言葉に従う。そのまま、ベッドに横たわると、消化のよさそうなものをもらってくると食べ物をお願いしに階下へ降りていった。
「アデルはずっと付きっ切りだったんだから、よくお礼を言っておいたほうがいいぞ?」
「もちろんよ!」
パン粥を持って部屋に戻ったアデルに私は笑いかけ、ありがとうと伝えた。食べてくださいと、お盆にのったパン粥を私の膝の上に載せるので、スプーンを持ち、アデルに押し付けた。
ひな鳥が親鳥にエサをせがむ様に、私もアデルに甘える。甘える人が違うと呟きながらも、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのであった。
聞き覚えのあるその足音は、アデルの者だろう。意識を広げていけば、他にも人がいる。カチャカチャと、ガラスがあたるような音が聞こえてきて、ようやく、私がヨハンが用意した蟲毒を飲んだことを思い出した。
……どうりで体が重いはずね。解毒薬を飲んだというのに、効き目がないだなんて。
開かない瞼より、指を動かしてみることにした。耳は聞こえるので、私の体が動けば、きっと、アデルが気が付いてくれるはずだ。
それよりも声を出したほうがいいのだとはわかっているが、どうやら、こちらも回復していないらしい。
人差し指をゆっくりあげてみると、苛立たし気に歩いていた足音がピタリと止まったあと、私の枕元に駆け寄ってきた。
「アンナ様!わかりますか?」
声も出ない私は、力を振り絞って、アデルに指で文字を伝える。最初は何を意味しているのかわからなかったようだが、ヨハンが隣にいたので解読したようだ。
「体が動かないだって?でも、ヨハン教授は……」
「きき方が違ったんだ。毒も薬も、人それぞれに出る症状が微妙に違う。軽微なものだと思っていたが、予想以上に重いか」
「ヨハン教授、なんとかなりませんか?」
「なんとかじゃなくて、なんとかするんだよ!水を持ってきてくれ。お嬢さんに飲ませる。ジニーも手伝うように声をかけて」
「あぁ、そっか……トイレですね!」
「女性にあまり、そう言うのはよくない。一応……な?」
慌てている男性二人にクスクス笑いたくなった。気にしないと言えば嘘になるが、慌てる二人の様子が、音だけでわかるのでおもしろいのだ。指でトントンとして水を求める。喉が乾いているので、お願いするとアデルが慌てて水を飲ませてくれる。変なところに入って行かないように飲ませてくれる。
喉が潤ったおかげか、少し声がでそうだ。
「あーうぇる?」
「アンナ様!声が……!」
「げぇふぉくざふぃ……」
「わかりました!ヨハン教授、解毒剤」
「はいはい。慌てずにのんで。とりあえず、二本飲んでみて」
試験管が口元に当たる。コクコクと水と同じように飲んでいけば、体の中を蚕のような虫が這うような間隔が少しだけ消えていった。二本飲んだとき改善される。重たかった瞼がゆっくりと開き、涙目のアデルがぼんやり見えた。何度か目をパチパチとさせると、焦点があい、にっこり笑いかける。余程嬉しかったのか、アデルが抱きついてきた。
「よかった……アンナ様が、戻ってきてくれて」
グズグズの涙声に申し訳なく思った。毒の耐性をつけるためとはいえ、今回は結構な危ない橋を渡ったのかもしれない。
水をコップ一杯もらって飲めば、7割程回復した。そこそこの時間、眠っていたようで、体のあちこちが痛かった。
「……どれくらい眠っていたの?」
「3日半だな。今は、もう、夜だから」
ヨハンが申し訳なさそうに言っている。私の間隔では精々数時間だと思っていたが、意外と長い時間に驚いた。
「ジョージア様の知らないところで実験してよかったね?まだ、連絡はしていないのでしょ?」
「まだだ。明日の朝、意識が戻らなければ……と思ってはいたが」
「その判断は、ありがたいわ。これほどまでに眠るとは」
「……本当に、驚いたんですからね?亡くなったかと思ったほど、体は冷たくなるし……」
グズグズと泣いているアデルにごめんなさいと謝る。その様子は、いつだったかのハリーと同じで、私をとても心配してくれていた。
「なんだか、似たような光景を見たことがある気がするんだけど?違ったか?」
「違わないと思うわ。ハリーに、とても叱られたこと、あったわね。ヨハンも覚えていたのね」
「あぁ、あの宰相の息子?」
「そう」
「懐かしいな。あのとき、すごい剣幕で、何をした!って詰め寄られたっけ?今も似たような感じで、アデルに軽く襟クリを捕まれたんだけどさ?」
「ヨハンの方が強いでしょ?」
「……そう言う問題じゃありません!アンナ様が言ったことに、理解はしましたけど……こんな結末になるなんて、聞いていませんよ?」
「そりゃ、私も思いがけずだからね……心配かけてごめんね?」
睨んでくるアデルに、苦笑いをしておく。二度としないで欲しいという表情に、もう一度謝ってヨハンに話を聞くことにした。
どうやら、毒を飲んだすぐに、眠るように倒れていったらしい。解毒剤を定期的に飲ませていたが、目を覚まさず、今に至ったということだ。
「蟲毒って、すごいね?」
「これは、蟲毒とは言わない代物だからな。とりあえず、もう、この実験はしない」
「でも、しないと……」
「死ぬって言いたいのか?」
「……うん。昔は諦めていて、死ぬのもあぁそんなもんだよね?程度にしか思っていなかったんだけどね。私のことを心配してくれる人や未来への渇望ができたら、死にたくないんだよね?未来は変えられるって、信じようと思っているんだ」
「そのためのだろうけど、さすがに今回のことで、許可は出来ないあと2日ほど休んだあと、屋敷へ戻るように」
わかったとヨハンの言葉に従う。そのまま、ベッドに横たわると、消化のよさそうなものをもらってくると食べ物をお願いしに階下へ降りていった。
「アデルはずっと付きっ切りだったんだから、よくお礼を言っておいたほうがいいぞ?」
「もちろんよ!」
パン粥を持って部屋に戻ったアデルに私は笑いかけ、ありがとうと伝えた。食べてくださいと、お盆にのったパン粥を私の膝の上に載せるので、スプーンを持ち、アデルに押し付けた。
ひな鳥が親鳥にエサをせがむ様に、私もアデルに甘える。甘える人が違うと呟きながらも、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのであった。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
異世界八険伝
AW
ファンタジー
これは単なる異世界転移小説ではない!感涙を求める人へ贈るファンタジーだ!
突然、異世界召喚された僕は、12歳銀髪碧眼の美少女勇者に。13歳のお姫様、14歳の美少女メイド、11歳のエルフっ娘……可愛い仲間たち【挿絵あり】と一緒に世界を救う旅に出る!笑いあり、感動ありの王道冒険物語をどうぞお楽しみあれ!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
転生先は水神様の眷属様!?
お花見茶
ファンタジー
高校二年生の夏、私――弥生は子供をかばってトラックにはねられる。気がつくと、目の前には超絶イケメンが!!面食いの私にはたまりません!!その超絶イケメンは私がこれから行く世界の水の神様らしい。
……眷属?貴方の?そんなのYESに決まってるでしょう!!え?この子達育てるの?私が?私にしか頼めない?もう、そんなに褒めたって何も出てきませんよぉ〜♪もちろんです、きちんと育ててみせましょう!!チョロいとか言うなや。
……ところでこの子達誰ですか?え、子供!?私の!?
°·✽·°·✽·°·✽·°·✽·°·✽·°
◈不定期投稿です
◈感想送ってくれると嬉しいです
◈誤字脱字あったら教えてください
異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる