1,109 / 1,479
ヨハンの方から
しおりを挟む
部屋に入ると、だらけきったヨハンが、ベッドにころがていた。その前には、つい先ほどまで、何かを作っていたのか薬品やら色のあやしい液体が置かれている。こんな場所にきてまで実験はしないほうがいいのではないかということばをぐっと飲み込んだ。
「お兄様、アンナリーゼ様ですよ?」
「……あぁ、きたか」
まるで、弟子でもきたかのように迎える姿に、ジニーはヨハンを睨んでいた。いつものことなので、私は気にしないが、長年の付き合いで、なんとなく呼ばれた理由がわかった。
「きたかじゃないわよ?あと1日くらい待てなかったの?」
「ん……まぁ、ちょっと、こればっかりはな。弟子たちにも見せない方がいいかと思ってな」
「何?なんなの?」
「……蟲毒だ」
「!」
私の反応を見て、ヨハンがにやりと笑う。ただ、私とヨハンが求めているものではないことは明白ではあった。
「見つかったのかと思ったわ」
「お嬢さんが見つけられないもの、引きこもりが見つけられるわけがないだろう?今に消息はわからないんだっけ?ソフィアに仕えていた執事」
「そうね。私の……というより、フレイゼンやアンバーの情報網をもってしても、見つけられないの。目ぼしはなんとなくついてはいるんだけど……」
「いわゆる魔窟ってやつだな。公爵家でも手が付けられない場所なんて、ひとつしかないな」
「そうね。もう、そこしかないのだけど……今のところ何の接触もないから放置しているわ。それで?」
「……そこの坊ちゃんはいてもいいのか?」
アデルをさすヨハン。私は首を横に振るだけで、何も言わなかった。そうすると、ヨハンはジニーに出ていくようにいう。何を作っているのか、知識のあるジニーならわかるだろう。
「外したほうがいいのなら……」
「護衛に隠しても仕方がないから、知っていて。ずっと濁してきたけど、私はアンジェラのデビュタントを過ぎたら、死ぬことになるわ」
「……死……ぬ?」
「えぇ、今もそのときが刻一刻と近づいてきているの」
「えっと、ごめんなさい。理解が及ばなくて……アンナ様が死ぬのですか?」
「えぇ、そうよ。人間、遅かれ早かれ死ぬのだけど……普通の人より、寿命が短いのよ」
あっけらかんと言い放つ私に頭が追いついていないアデルは、瞬きを何度もした。
私は、優しく微笑むだけしかできない。
「この毒によって死ぬの」
「それは、何ですか?」
「蟲毒っていうもの。東の国で発案されたもの。ありとあらゆる毒をもった草木や虫、小動物をひとつの瓶に入れて、最後のひとつになるまで、毒の濃度をあげていくの」
「そんな!」
「これは、毒だけでもないんだけどね?これを作った人の感情も左右される。私への恨みが濃ければ毒は他の効力もあって、絶大な効果をもたらすの。たとえば、憎い憎いと思いながら蟲毒を作れば、その感情も乗っていく……そんな感じかしら」
私の説明をぼんやり聞いていたアデルは息を忘れていたようで、声をかけるまで止まっていた。それほど、この話が異様だと言うことではあるのだが、意識の戻ったアデルは私に掴みかかった。
「避ける方法はないのですか?」
「見抜ければ、避けることは出来るでしょうけど……無理だろうと思っている。蟲毒ってね、その作った状況によって、毒が変わるから、調合のしいがいもないの。あるていどなら私も毒の免疫をつけてはいるんだけどね。蟲毒だけは全く別物の毒……怨念というものよ。執着しているって感じかしらね?」
「でも、それって……」
「ソフィアが作っていたのだけど、見つられなくて。おそらくだけど、執事が持っている可能性が高いのよ」
「だから、さっきの……」
私はコクンと頷く。そして、今日、今からの話をすることになった。基本的には、手に入れた蟲毒を飲んで、万能解毒薬で打ち消せるかの実験だ。50本ほどの解毒債を置き、その隣であやしい色のものが揺らめいていた。
「今回の効き目は、薄い。毒だけであれば、それほど強力なものは使っていないはず。作ったのは、知れてる田舎貴族だから。効果は実証済み。解毒は多少時間がかかる」
「なるほど……だから、ここで飲むのね?」
「そういうこと。いつもより、かなり強力だからな。他の弟子に見られるのはまずい。領主殺しで捕まるのは、勘弁してほしい」
「私もだけど……そっか。もう、飲んだってことだよね?」
「あぁ、そうだな。2日寝込んだ」
「2日も?じゃあ……私はもう少しながそうね……」
軽く話をしているので、アデルが会話に着いてこれるようになって、私とヨハンを叱った。でも、この実験だけは、辞めるわけにはいかない。生きる道があるのなら、少しの可能性にもかけたいという私の願いだから。
未来は決まっていても、夢くらい見てもいいじゃない。ジョージアと皺皺になるまで生き、子どもたちの子や孫まで見たいと欲張りなのだから。
そんな私の夢を語ると、アデルは、何も言わなくなった。さしだされたあやしい液体を口に含む。
ドロッとしたものが、口の中から体に入って行った。今までと明らかに違うのは、体の中で何か蠢くようなそんな感じがする。今日は、倒れるのも早いようだ。10秒もたたないうちに、意識を失いそうになったので、万能解毒薬を流し込む。他の毒とは違うことが十分わかったと言ったあと、3日ほど、眠りにつくことなった。
微かに聞こえる声を荒げたアデルに、ありがとうと伝えたくなった。
「お兄様、アンナリーゼ様ですよ?」
「……あぁ、きたか」
まるで、弟子でもきたかのように迎える姿に、ジニーはヨハンを睨んでいた。いつものことなので、私は気にしないが、長年の付き合いで、なんとなく呼ばれた理由がわかった。
「きたかじゃないわよ?あと1日くらい待てなかったの?」
「ん……まぁ、ちょっと、こればっかりはな。弟子たちにも見せない方がいいかと思ってな」
「何?なんなの?」
「……蟲毒だ」
「!」
私の反応を見て、ヨハンがにやりと笑う。ただ、私とヨハンが求めているものではないことは明白ではあった。
「見つかったのかと思ったわ」
「お嬢さんが見つけられないもの、引きこもりが見つけられるわけがないだろう?今に消息はわからないんだっけ?ソフィアに仕えていた執事」
「そうね。私の……というより、フレイゼンやアンバーの情報網をもってしても、見つけられないの。目ぼしはなんとなくついてはいるんだけど……」
「いわゆる魔窟ってやつだな。公爵家でも手が付けられない場所なんて、ひとつしかないな」
「そうね。もう、そこしかないのだけど……今のところ何の接触もないから放置しているわ。それで?」
「……そこの坊ちゃんはいてもいいのか?」
アデルをさすヨハン。私は首を横に振るだけで、何も言わなかった。そうすると、ヨハンはジニーに出ていくようにいう。何を作っているのか、知識のあるジニーならわかるだろう。
「外したほうがいいのなら……」
「護衛に隠しても仕方がないから、知っていて。ずっと濁してきたけど、私はアンジェラのデビュタントを過ぎたら、死ぬことになるわ」
「……死……ぬ?」
「えぇ、今もそのときが刻一刻と近づいてきているの」
「えっと、ごめんなさい。理解が及ばなくて……アンナ様が死ぬのですか?」
「えぇ、そうよ。人間、遅かれ早かれ死ぬのだけど……普通の人より、寿命が短いのよ」
あっけらかんと言い放つ私に頭が追いついていないアデルは、瞬きを何度もした。
私は、優しく微笑むだけしかできない。
「この毒によって死ぬの」
「それは、何ですか?」
「蟲毒っていうもの。東の国で発案されたもの。ありとあらゆる毒をもった草木や虫、小動物をひとつの瓶に入れて、最後のひとつになるまで、毒の濃度をあげていくの」
「そんな!」
「これは、毒だけでもないんだけどね?これを作った人の感情も左右される。私への恨みが濃ければ毒は他の効力もあって、絶大な効果をもたらすの。たとえば、憎い憎いと思いながら蟲毒を作れば、その感情も乗っていく……そんな感じかしら」
私の説明をぼんやり聞いていたアデルは息を忘れていたようで、声をかけるまで止まっていた。それほど、この話が異様だと言うことではあるのだが、意識の戻ったアデルは私に掴みかかった。
「避ける方法はないのですか?」
「見抜ければ、避けることは出来るでしょうけど……無理だろうと思っている。蟲毒ってね、その作った状況によって、毒が変わるから、調合のしいがいもないの。あるていどなら私も毒の免疫をつけてはいるんだけどね。蟲毒だけは全く別物の毒……怨念というものよ。執着しているって感じかしらね?」
「でも、それって……」
「ソフィアが作っていたのだけど、見つられなくて。おそらくだけど、執事が持っている可能性が高いのよ」
「だから、さっきの……」
私はコクンと頷く。そして、今日、今からの話をすることになった。基本的には、手に入れた蟲毒を飲んで、万能解毒薬で打ち消せるかの実験だ。50本ほどの解毒債を置き、その隣であやしい色のものが揺らめいていた。
「今回の効き目は、薄い。毒だけであれば、それほど強力なものは使っていないはず。作ったのは、知れてる田舎貴族だから。効果は実証済み。解毒は多少時間がかかる」
「なるほど……だから、ここで飲むのね?」
「そういうこと。いつもより、かなり強力だからな。他の弟子に見られるのはまずい。領主殺しで捕まるのは、勘弁してほしい」
「私もだけど……そっか。もう、飲んだってことだよね?」
「あぁ、そうだな。2日寝込んだ」
「2日も?じゃあ……私はもう少しながそうね……」
軽く話をしているので、アデルが会話に着いてこれるようになって、私とヨハンを叱った。でも、この実験だけは、辞めるわけにはいかない。生きる道があるのなら、少しの可能性にもかけたいという私の願いだから。
未来は決まっていても、夢くらい見てもいいじゃない。ジョージアと皺皺になるまで生き、子どもたちの子や孫まで見たいと欲張りなのだから。
そんな私の夢を語ると、アデルは、何も言わなくなった。さしだされたあやしい液体を口に含む。
ドロッとしたものが、口の中から体に入って行った。今までと明らかに違うのは、体の中で何か蠢くようなそんな感じがする。今日は、倒れるのも早いようだ。10秒もたたないうちに、意識を失いそうになったので、万能解毒薬を流し込む。他の毒とは違うことが十分わかったと言ったあと、3日ほど、眠りにつくことなった。
微かに聞こえる声を荒げたアデルに、ありがとうと伝えたくなった。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
悲恋を気取った侯爵夫人の末路
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。
順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。
悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──?
カクヨムにも公開してます。
前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。
夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。
陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。
「お父様!助けてください!
私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません!
お父様ッ!!!!!」
ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。
ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。
しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…?
娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる