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後始末
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オリーブ農園からの帰り道、ヒーナに頼んで、ルーイとドールがアンバー領へ来るための馬車の手配をするために、クロック侯爵を王太子に用意された屋敷へ呼び寄せた。
「今日はオリーブ園に向かわれたと聞いていましたが」
「えぇ、行ってきたわ。そこで、農家のルーイと精油の技術があるドールをしばらく借りることにしたの」
「なるほど……期間限定でですか?」
「ルーイはそうね。こちらの農園を継ぐことになっているらしいから。ドールは、アンバー領に移住って形になるわ」
「そこで、うちの事業が役にたつのですね?」
「話が早くて助かるわ。馬車を用意してほしいの。箱馬車を2台と荷馬車6台」
「そんなにですか?」
「えぇ、そうね。箱馬車1台と荷馬車2台は近々お願いしたいわ!」
「それは、構いませんが……」
困惑している侯爵に事情を話す。まだ、公表はされていない事実ではあるが、いいだろう。
「風の噂では聞いているかもしれないけど……」
「ウェスティン伯爵のことでしょうか?彼女の処遇だけは、計りかねていたのです」
「国外追放となるわ。もちろん、爵位も取り上げられる」
「そうですか……それで、馬車を?」
「えぇ、女性の荷物は決して少なくないですからね?」
そういうと、心得ていると頷く侯爵。もちろん、身に覚えがあるだろう。王都と領地を行き来するだけで、エレーナの荷物は驚くほど多いはずだ。私のように、領地では、ほぼ、ドレスを着ない私でさえ、荷物が多いと思うのに、領地でも定期的にお茶会を開いているエレーナは、私の比ではない。
「……馬車の手配はしておきます。荷物は、当日の朝、運ばせてもらえばいいですか?」
「そうね。それまでに準備は終わらせておくと言っていたし、できるだけ、私も早く領地へ帰りたいの。今年は、社交の季節だけでなく、他にもいろいろとあったから、領地でゆっくりできなかったから」
「お子様たちもアンナリーゼ様と一緒にいたいでしょうしね?」
「私は、ダメな母親なのよ。いつもどこかに飛び回っていて、全然顧みれていないわ……」
「私も同じなので、そこは……エレーナも事業のことで飛び回っていますし」
私たちはお互いを見合わせてため息をついた。同じように領地を飛び回るだけでなく、事業の新規開拓をしているクロック侯爵は、夫妻共々忙しいのだ。うちの子たちより、多少年長の子らは、忙しい夫妻を理解してくれているそうで、それでも、寂しいだろうことは変わりない。
「そういえば、後始末はどうなるのでしょう?」
「とりあえず、明日、契約を交わす予定よ。こちらは、事業として人材を貸し出したり、いろいろと提供をするの。その代わり、オリーブの苗木をもらう約束をしたから、多少の減額は予想しているけど……」
「アンナリーゼ様相手に商売なんて、王太子もなかなかの博打をしようとしてますね?」
「そうかしら?戦争をしないでいてくれたことが、もうすでに私たちに勝利だから、あとは、正直なところおまけくらいにしか思っていないわ」
「二国は、インゼロ帝国に面していますからね……そういうきな臭いことは、これからも起こるかもしれませんが」
「そういうことを起こさないことが、私たちには1番のいいことだから。土地を増やしたからといって、痩せた土地では、何にもならないからね……」
そうですねと苦笑いをする侯爵に、うまくいって良かったねと笑っておく。明日は城へ向かうことを伝えると、私も向かいますと言ってくれるので、時間を合わせることにした。
◆
オリーブ農場はどうだったかと聞いてくる王太子に、私は見事なものでしたとニッコリ笑いかけた。まず、特産品であることを知らなかったようで、商売出来ますよとはあえて言わなかったが、何か感じたようだった。
「それで、クロック侯爵と一緒か?」
「えぇ、ダメでしたか?」
「そういうわけではないが、その……」
私とウィル、王太子とクロック侯爵が机を挟んで契約書を見ていた。手に取り、よくよく読み込んで王太子がサインと印を押してくれるので、それをクロック侯爵、ウィルに確認してもらう。私の方もサインと公爵印を押し、それぞれに確認をしてもらった。
「それで?どれくらいから進められそうだ?」
「今、春に向けて種まきが始まっていますので、一度、専門家たちと相談して麦の栽培については聞いてみます。こちらの用意が出来次第、物資共々、第一陣をお送りしますね」
「あぁ、できるだけ早く頼めると助かる。特に、麦なのど主食になるような食料品は、特に」
「わかりました。そちらは、すでに手紙で領地へ指示を出しているので、近々動きがあると思います」
「それにしても、こんなに金額を抑えてもらって、大丈夫なのか?」
「まぁ、ちょっと厳しいところではありますが、1年分だけなので。もし、来年もというのであれば、正規の金額でいただくことになると思います。今、ローズディアでも、食糧は貴重と言ってもいいと思うので」
事情を知っているのか、渋い顔をする王太子ではあるが、備蓄を解放するだけになるので、それほど痛手もないし、収穫量が多いので、他領の穀倉地の三倍は収穫されている麦。考えられた分だけであれば、特に問題ないという領地からの返答もあるので、大船に乗ったつもりでと笑いかけておいた。
「今日はオリーブ園に向かわれたと聞いていましたが」
「えぇ、行ってきたわ。そこで、農家のルーイと精油の技術があるドールをしばらく借りることにしたの」
「なるほど……期間限定でですか?」
「ルーイはそうね。こちらの農園を継ぐことになっているらしいから。ドールは、アンバー領に移住って形になるわ」
「そこで、うちの事業が役にたつのですね?」
「話が早くて助かるわ。馬車を用意してほしいの。箱馬車を2台と荷馬車6台」
「そんなにですか?」
「えぇ、そうね。箱馬車1台と荷馬車2台は近々お願いしたいわ!」
「それは、構いませんが……」
困惑している侯爵に事情を話す。まだ、公表はされていない事実ではあるが、いいだろう。
「風の噂では聞いているかもしれないけど……」
「ウェスティン伯爵のことでしょうか?彼女の処遇だけは、計りかねていたのです」
「国外追放となるわ。もちろん、爵位も取り上げられる」
「そうですか……それで、馬車を?」
「えぇ、女性の荷物は決して少なくないですからね?」
そういうと、心得ていると頷く侯爵。もちろん、身に覚えがあるだろう。王都と領地を行き来するだけで、エレーナの荷物は驚くほど多いはずだ。私のように、領地では、ほぼ、ドレスを着ない私でさえ、荷物が多いと思うのに、領地でも定期的にお茶会を開いているエレーナは、私の比ではない。
「……馬車の手配はしておきます。荷物は、当日の朝、運ばせてもらえばいいですか?」
「そうね。それまでに準備は終わらせておくと言っていたし、できるだけ、私も早く領地へ帰りたいの。今年は、社交の季節だけでなく、他にもいろいろとあったから、領地でゆっくりできなかったから」
「お子様たちもアンナリーゼ様と一緒にいたいでしょうしね?」
「私は、ダメな母親なのよ。いつもどこかに飛び回っていて、全然顧みれていないわ……」
「私も同じなので、そこは……エレーナも事業のことで飛び回っていますし」
私たちはお互いを見合わせてため息をついた。同じように領地を飛び回るだけでなく、事業の新規開拓をしているクロック侯爵は、夫妻共々忙しいのだ。うちの子たちより、多少年長の子らは、忙しい夫妻を理解してくれているそうで、それでも、寂しいだろうことは変わりない。
「そういえば、後始末はどうなるのでしょう?」
「とりあえず、明日、契約を交わす予定よ。こちらは、事業として人材を貸し出したり、いろいろと提供をするの。その代わり、オリーブの苗木をもらう約束をしたから、多少の減額は予想しているけど……」
「アンナリーゼ様相手に商売なんて、王太子もなかなかの博打をしようとしてますね?」
「そうかしら?戦争をしないでいてくれたことが、もうすでに私たちに勝利だから、あとは、正直なところおまけくらいにしか思っていないわ」
「二国は、インゼロ帝国に面していますからね……そういうきな臭いことは、これからも起こるかもしれませんが」
「そういうことを起こさないことが、私たちには1番のいいことだから。土地を増やしたからといって、痩せた土地では、何にもならないからね……」
そうですねと苦笑いをする侯爵に、うまくいって良かったねと笑っておく。明日は城へ向かうことを伝えると、私も向かいますと言ってくれるので、時間を合わせることにした。
◆
オリーブ農場はどうだったかと聞いてくる王太子に、私は見事なものでしたとニッコリ笑いかけた。まず、特産品であることを知らなかったようで、商売出来ますよとはあえて言わなかったが、何か感じたようだった。
「それで、クロック侯爵と一緒か?」
「えぇ、ダメでしたか?」
「そういうわけではないが、その……」
私とウィル、王太子とクロック侯爵が机を挟んで契約書を見ていた。手に取り、よくよく読み込んで王太子がサインと印を押してくれるので、それをクロック侯爵、ウィルに確認してもらう。私の方もサインと公爵印を押し、それぞれに確認をしてもらった。
「それで?どれくらいから進められそうだ?」
「今、春に向けて種まきが始まっていますので、一度、専門家たちと相談して麦の栽培については聞いてみます。こちらの用意が出来次第、物資共々、第一陣をお送りしますね」
「あぁ、できるだけ早く頼めると助かる。特に、麦なのど主食になるような食料品は、特に」
「わかりました。そちらは、すでに手紙で領地へ指示を出しているので、近々動きがあると思います」
「それにしても、こんなに金額を抑えてもらって、大丈夫なのか?」
「まぁ、ちょっと厳しいところではありますが、1年分だけなので。もし、来年もというのであれば、正規の金額でいただくことになると思います。今、ローズディアでも、食糧は貴重と言ってもいいと思うので」
事情を知っているのか、渋い顔をする王太子ではあるが、備蓄を解放するだけになるので、それほど痛手もないし、収穫量が多いので、他領の穀倉地の三倍は収穫されている麦。考えられた分だけであれば、特に問題ないという領地からの返答もあるので、大船に乗ったつもりでと笑いかけておいた。
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