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茶化す私
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「よかったねぇ!セバス」
私ははしたなくセバスに思わず抱きついた。ウィルと違い、突然のことで驚き、フラフラとして前に倒れてしまう。もちろん、私は、そんなセバスから離れ、顔面から地面に倒れていく様を見送っていた。
「姫さん、ひでぇな……ほら、セバス」
ウィルが、手を差し伸べると、セバスはいたたた……と顔を顰めて、起き上がった。その場に座り込んでいるが、突然の私の行動に下からキッと睨まれてしまう。なかなかない光景に、ウィルもナタリーも笑い始めるが、ヒーナは呆れているし、ダリアは慌てて駆け寄って土をはらっていた。
「……アンナリーゼ様、祝福してくれるのは嬉しいですが……ちょっと、これは」
いつものことだと流してくれるかと思いきや、さすがに、今は、格好もつけたかったところだろう。何しろ美人なお嫁さんを口説き落としたところなのだから。
「ごめんね。嬉しくてつい……セバスに浮いた話がなかったのも心配だったし、昨日、申し出てくれたこともあって、あの……本当にごめんね?」
「……いいですよ。いつものことですし、僕がウィルみたいに鍛えていれば、こんなことにはならなかったでしょうから」
「別に鍛えてても、あの勢いなら、前のめりにはなるな……セバスみたいに倒れないけど」
「ウィル!」
私たちが軽口を叩いていると、ダリアがその様子を見ておかしそうに笑いだした。
言い合っていた私たちは、一斉にダリアの方を見て、どうしたの?と首を傾げる。
「みなさん、同じように首を傾げないでください……もぅ、本当に、おかしい!」
貴族婦人とは思えないほど、大笑いしている。私たちは、いつものやり取りなので、四人がお互いの顔を見て、なんで?と視線を交わす。その後ろからヒーナが、呆れたように大きなため息をついた。
「四人が仲の良い友人だっていうこと、にわかに信じられませんでしたが、今のやり取りを見ていれば、本当のことなのだと思い知りました。セバス様は本当によい友人をお持ちなのですね?」
「……あぁ、えっと……そうだね。この三人の行動力は、本当に凄くて、いつも置いてけぼりだけど……頼りになる友人たちだよ」
「セバスこそ、ふだん大人しいから、いつも突飛なことをするじゃない?」
「ナタリーには、負けるだろ?セバスは、馬が乗れないから、行動範囲も狭いし!」
「ウィル、僕は馬には乗れるよ!」
「乗れて走れるけど、止まれないんでしょ?」
アンナリーゼ様!とセバスの叫びがオリーブ畑に響いた。いつも、領地のことやお店の経営のことで議論することはあっても、四人がはしゃいで大声で笑ってっていうのは、学園での秘密のお茶会以来だろう。一頻り笑いあうとナタリーがぽつりと言葉にした。
「なんだか、学園でアンナリーゼ様が開いていたお茶会みたいですわね」
「あのころは、いつもウィルが「姫さん、姫さん」って、突っかかってたっけ?」
「そんなこと、ないだろ?」
「それは、今も変わらないことないかしら?」
クスクスと笑うナタリーが、ダリアの方をチラリと見た。事情の知らないダリアにとって、退屈な時間だったかもしれない。
「私たち、いわゆる下級貴族の出身ばかりで、学生のころは、将来をどうするのかって、不安だったの。アンナリーゼ様に出会ったことで、いろいろな経験をさせてもらったし、今も進行形で、学ばせてもらっているわ。……ダリア様」
「はい」
「私たちは、一人一人では、アンナリーゼ様の力になりたいって思って、それぞれが、自分の得意な分野で成長を続けているの。こうやって、分け隔てなく笑いあってくれるアンナリーゼ様が目指すもののために、微力では到底役に立てないから。ウィルは、近衛で大隊長になり伯爵の称号を得た、セバスは文官として国の役に立ちながらも領地改革に大きく関わっている。私も、それほどの功績は……」
「いや、実際問題、ナタリーが1番姫さんの役に立っていると思うけどな?そう思わねぇ?」
「思うな……僕らではやっぱり、貴族相手にドレスを売ってやろうなんて思いもしなかったし、それを領地の女性たちの働き口にしてしまえなんて、考えもつかなった」
「そう?じゃあ、私が1番アンナリーゼ様の役に立っているとして……、こうして、私たちは、アンナリーゼ様と志を同じにしたいと側にいるの。その中の一人として、ダリア様が加わっていただけること、嬉しく思います」
ナタリーがセバスの服の土を払うためにしゃがみ込んでいたダリアと同じ視線になり、そっと手を優しく握る。
「……私も、その中に入ってもよろしいのですか?」
「もちろんです。セバスの……トライド男爵夫人となるからには、私たち同様、同じ方向を向いてくださると嬉しいです。ときには意見の食い違いもあるかもしれません。生まれた場所も生活の基盤も違うので、意に反することもあるかもしれませんが、そういうときは、心にしまわず、私たちに話してください。私たちは、ダリア様、あなたの言葉にもきちんと耳を傾けるつもりですから」
ありがとうございますとダリアの頬に涙が流れる。セバスは慌ててポケットからハンカチを取り出し、どうぞと渡す。ナタリーがセバスを睨んでいる。
「そこは優しく拭って差し上げるのが、旦那様としての役割ですわよ?」
ナタリーのきつい一言は、セバスに行動させるには十分だった。ダリアの名を呼び、大丈夫だよとそっと引き寄せ抱きしめる。
満足そうに、私たち三人は、視線を交わして頷きあった。
私ははしたなくセバスに思わず抱きついた。ウィルと違い、突然のことで驚き、フラフラとして前に倒れてしまう。もちろん、私は、そんなセバスから離れ、顔面から地面に倒れていく様を見送っていた。
「姫さん、ひでぇな……ほら、セバス」
ウィルが、手を差し伸べると、セバスはいたたた……と顔を顰めて、起き上がった。その場に座り込んでいるが、突然の私の行動に下からキッと睨まれてしまう。なかなかない光景に、ウィルもナタリーも笑い始めるが、ヒーナは呆れているし、ダリアは慌てて駆け寄って土をはらっていた。
「……アンナリーゼ様、祝福してくれるのは嬉しいですが……ちょっと、これは」
いつものことだと流してくれるかと思いきや、さすがに、今は、格好もつけたかったところだろう。何しろ美人なお嫁さんを口説き落としたところなのだから。
「ごめんね。嬉しくてつい……セバスに浮いた話がなかったのも心配だったし、昨日、申し出てくれたこともあって、あの……本当にごめんね?」
「……いいですよ。いつものことですし、僕がウィルみたいに鍛えていれば、こんなことにはならなかったでしょうから」
「別に鍛えてても、あの勢いなら、前のめりにはなるな……セバスみたいに倒れないけど」
「ウィル!」
私たちが軽口を叩いていると、ダリアがその様子を見ておかしそうに笑いだした。
言い合っていた私たちは、一斉にダリアの方を見て、どうしたの?と首を傾げる。
「みなさん、同じように首を傾げないでください……もぅ、本当に、おかしい!」
貴族婦人とは思えないほど、大笑いしている。私たちは、いつものやり取りなので、四人がお互いの顔を見て、なんで?と視線を交わす。その後ろからヒーナが、呆れたように大きなため息をついた。
「四人が仲の良い友人だっていうこと、にわかに信じられませんでしたが、今のやり取りを見ていれば、本当のことなのだと思い知りました。セバス様は本当によい友人をお持ちなのですね?」
「……あぁ、えっと……そうだね。この三人の行動力は、本当に凄くて、いつも置いてけぼりだけど……頼りになる友人たちだよ」
「セバスこそ、ふだん大人しいから、いつも突飛なことをするじゃない?」
「ナタリーには、負けるだろ?セバスは、馬が乗れないから、行動範囲も狭いし!」
「ウィル、僕は馬には乗れるよ!」
「乗れて走れるけど、止まれないんでしょ?」
アンナリーゼ様!とセバスの叫びがオリーブ畑に響いた。いつも、領地のことやお店の経営のことで議論することはあっても、四人がはしゃいで大声で笑ってっていうのは、学園での秘密のお茶会以来だろう。一頻り笑いあうとナタリーがぽつりと言葉にした。
「なんだか、学園でアンナリーゼ様が開いていたお茶会みたいですわね」
「あのころは、いつもウィルが「姫さん、姫さん」って、突っかかってたっけ?」
「そんなこと、ないだろ?」
「それは、今も変わらないことないかしら?」
クスクスと笑うナタリーが、ダリアの方をチラリと見た。事情の知らないダリアにとって、退屈な時間だったかもしれない。
「私たち、いわゆる下級貴族の出身ばかりで、学生のころは、将来をどうするのかって、不安だったの。アンナリーゼ様に出会ったことで、いろいろな経験をさせてもらったし、今も進行形で、学ばせてもらっているわ。……ダリア様」
「はい」
「私たちは、一人一人では、アンナリーゼ様の力になりたいって思って、それぞれが、自分の得意な分野で成長を続けているの。こうやって、分け隔てなく笑いあってくれるアンナリーゼ様が目指すもののために、微力では到底役に立てないから。ウィルは、近衛で大隊長になり伯爵の称号を得た、セバスは文官として国の役に立ちながらも領地改革に大きく関わっている。私も、それほどの功績は……」
「いや、実際問題、ナタリーが1番姫さんの役に立っていると思うけどな?そう思わねぇ?」
「思うな……僕らではやっぱり、貴族相手にドレスを売ってやろうなんて思いもしなかったし、それを領地の女性たちの働き口にしてしまえなんて、考えもつかなった」
「そう?じゃあ、私が1番アンナリーゼ様の役に立っているとして……、こうして、私たちは、アンナリーゼ様と志を同じにしたいと側にいるの。その中の一人として、ダリア様が加わっていただけること、嬉しく思います」
ナタリーがセバスの服の土を払うためにしゃがみ込んでいたダリアと同じ視線になり、そっと手を優しく握る。
「……私も、その中に入ってもよろしいのですか?」
「もちろんです。セバスの……トライド男爵夫人となるからには、私たち同様、同じ方向を向いてくださると嬉しいです。ときには意見の食い違いもあるかもしれません。生まれた場所も生活の基盤も違うので、意に反することもあるかもしれませんが、そういうときは、心にしまわず、私たちに話してください。私たちは、ダリア様、あなたの言葉にもきちんと耳を傾けるつもりですから」
ありがとうございますとダリアの頬に涙が流れる。セバスは慌ててポケットからハンカチを取り出し、どうぞと渡す。ナタリーがセバスを睨んでいる。
「そこは優しく拭って差し上げるのが、旦那様としての役割ですわよ?」
ナタリーのきつい一言は、セバスに行動させるには十分だった。ダリアの名を呼び、大丈夫だよとそっと引き寄せ抱きしめる。
満足そうに、私たち三人は、視線を交わして頷きあった。
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