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さぁさぁ、乗り込む体制は整ったわよ!

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 あれから、王都へと移動をし、王太子が準備してくれた宿で滞在することになった。今日は、計画どおり、王との謁見が決まったと連絡が入ったので、王太子が迎えに来る前に、順をしているところだ。
 ナタリーに1番映える化粧を施していく。素肌が綺麗なナタリーには厚い化粧は必要ない。控えめなくらいに押さえ、元々の美しさを引き立たせた。


「アンナリーゼ様にこのような才能があるとは、思いませんでしたわ」
「……私、いつも着飾ってもらうほうですからねぇ?こういうの一応、得意なのよ?」
「ドレスを選ぶ目は素晴らしいですからね!」


 ナタリーは嬉しそうに私を褒めてくれるが、そこまでの技量はないだろう。ただ、美しいものを見るという目は養われている。
 ナタリーにほんのり薄桃の頬紅をし、オレンジを混ぜたようなピンク色の紅をさした。


「ヒーナ、どうかしら?」
「えぇ、とてもお似合いですよ!今日のドレスにも合うかと」


 私のドレスを何着も漁り、ナタリーに合うものを探した昨夜。1着だけ、薄桃色のドレスが入っていた。冬に向かっているこの時期に、暖色はあまり好まれない傾向ではあるが、側室にと王へのお披露目であり祝い事であるため、この色を選んだ。


「アンナリーゼ様からいただいた指環は、外さないといけませんね……」


 左薬指にはまっているアメジストの薔薇を一撫でして、大仰にため息をつくナタリー。余程、紫の薔薇を外すことが嫌だったのか、少し怒っているような表情をしている。


「外すのは嫌かしら?」
「……えぇ、そうですね。でも、そういうわけにもいきませんし……側室候補となれば、それに似合った指環をしないと……」
「そういえば、宝石類の話はしていなかったわね?どうしましょう?」


 私たちは、首を捻りながら考えた。エルドアの王宮へ向かうのだから、それなりの準備が必要だ。昨日の今日に決まっていることだから、宝石をそれ相応に用意することは難しいだろう。


「そうだわ!これをつけていったらどうかしら?」


 私は、昨日つけていたネックレスをナタリーとヒーナに見せた。そこには、夜会や茶会へ行くときにつけられるよう、一式揃っている。それを見てナタリーは一瞬喜んだが、すぐに暗い表情になった。


「どうしたの?気に入らない?」
「そういうわけではありません。これは、アンナリーゼ様を引き立てるものです。私では到底……」


 ヒーナに箱を渡し、その中からネックレスを取る。少し俯くナタリーの後ろに回り、デリアがよくしてくれたように首にネックレスをあてた。大ぶりのアレキサンドライトは、ナタリーの白い肌によく映え、輝いている。


「ナタリー、見てちょうだい。ナタリーが宝石を輝かせるのではなくて、宝石がナタリーを輝かせるの。エルドアの特産品でもあるこのアレキサンドライトをつけることに、意味があるわ。貴族令嬢であれば、その意味、わかるわね?」
「……はい、アンナリーゼ様。私がつけても大丈夫でしょうか?」
「えぇ、とてもよく似合っている。私のためじゃなく、ナタリーのために私の手元に来たのかもしれないわね?数回使ってしまったけど、今回のお礼に受取ってくれるかしら?」
「そんな!いただけません!」
「もらってちょうだい。とても、よく似合っているもの。それに、王太子殿下からの贈り物ではなく、私からの贈り物のほうが……」


 鏡に映るナタリーの表情が、困惑気味からはにかむような笑顔に変わる。「私からの」というのが嬉しいようで、ありがたくいただきますと言ってくれた。
 ピアスにネックレス、ブレスレットと指環がセットになっており、まさに必需品が全て揃っていた。


「間違っても、謁見で、私にもらったとは言わないでね?」


 念を押すと、ナタリーはクスクス笑いながら、頷いている。


「本当は言いたいです。アンナリーゼ様からいただいたものなのですよ!と、世界中の方々に。愛しい人から宝石をいただける……それが、どれほど嬉しいことか」


 ネックレスの宝石に触れ、愛おしそうに指で揺らしている。そんな姿を見れば、応えてあげられないことが苦しく感じた。


「アンナリーゼ様は、そのような顔をなさいませんように!」
「わかったわ!」
「笑顔が一番素敵です。そうですわ……どこかに、青紫薔薇が欲しいのですけど……」
「どうして?」
「……これでも、緊張しているのです。私、普段は、気が強く振る舞えますけど、さすがに今回は、少し怖いです」


 微かに震えるナタリーの手。そっと握ると、少し安心したような表情になるが、指先は冷たい。
 鏡越しに何かないかとヒーナに合図を送ると、何か思い出したのか、パタパタと駆けていく。


「アンナリーゼ様、こちらをナタリー様にお貸ししてもよろしいですか?」


 それは、普段、私が社交界へ向かうときに持っていくセンスであった。センスの留め具のところにアメジストの薔薇が咲いていた。


「えぇ、もちろんよ。それをお守り代わりに持っていって」


 ヒーナからナタリーへ渡されるそれは、元々ナタリーのものだった。懐かしいですわね?と呟いているあたり、覚えていたようだ。


「ナタリーの準備も出来たわ!さぁさぁ、乗り込む体制は整ったわよ!」


 迎えに来てくれる馬車もちょうど宿の前に停まったようだ。私もすでに着替えていたので、ナタリーの手をとり、部屋を出た。ヒーナもついてきており、後ろには護衛としてのウィル、子爵家の執事としてセバスがついて歩くことになっている。


「みんなに迷惑かけるけど、頑張りましょうね!」


 青紫の薔薇を持つものたちは、それぞれ頷き、王太子が用意してくれた馬車へと乗り込んだ。もちろん、毒対策もしてあるし、武力行使で何かしようものならと、ドレスの中に愛剣を忍ばせてきた。
 どうなるかはわからないが、一波乱ありそうな……そんな胸騒ぎがしたのである。
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