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手紙に添えられた紫の花

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 ウィルに言われたが、私には何のことかわからなかった。きょとんとウィルの方を見ていると、ため息をつかれてしまう。


「何のことかわからないわ」
「……返って、お嬢にチクってやろう!」
「……お嬢って、アンジェラのことよね?アンジェラ……って、あの手紙!」


 やっと繋がった。アンジェラが送ってきてくれた絵は、紫の花の絵だった。何かの警告かもしれないと、自身が言ったにも関わらず、すっかり忘れていたのだ。後ろからも何やら残念な雰囲気が漂ってきた。


「私、アンナリーゼ様がご存じだったのではないかと思っていたのですけど、そうではなかったのですね?」
「そうね?ナタリーが声をあげてくれて助かったわ。見落とすところだった!」
「アンバー公、何やら、そちらでは情報を掴んでいたのか?」
「そういうわけではないのですけど、紫の花に気を付けたほうがいいと占いで出ていたのです」


 アンジェラの予知夢を他国に漏らすわけにはいかないので、占いの結果として濁しておく。


「アンバー公が占いを信じているとは……」
「私、そういったものは、なるべく信じるようにしているのです」


 ニッコリ笑うと、王太子もつられて笑ってくれる。なんとか誤魔化せたようで、何よりだ。それより、今後のことを考えないといけない。エルドアの内部は、このトリカブトの花がきっとそこかしこで咲いているのだろう。


「殿下、花摘みはどうされるのですか?」
「……もちろんするが、まずは、この場だな」


 ウィルとヒーナが睨みをきかせているからか、誰も動くことができないようだ。じゃあ、片っ端から、縛っていきましょうとでもいうように、動き始める近衛たちだが、少し待ってほしい。


「ずっと、気になっていたのだけど?」


 視線をダリアへ向けると、優しく微笑んでいる。私のものとなったはずでも、元々はあちら側の人間。そうやすやすとこちらに傾くはずもない。


「私のことですか?」
「えぇ、そうね」
「元々、こちら側の人間ではありますので、殿下のご指示に従います。こちらに、とりあえず、捕らえるのであれば、それで構いません」
「それでは、そうさせていただきます。城のほうが落ち着くまでということで大丈夫かしら?」
「……それで、いいのだろうか?」
「殿下の憂いはごもっともですね。どうするかは、私ではなく殿下がお決めになったらよろしいのではないですか?」


 うむという顔。何を考えているのか……興味はあっても、口は出さない。エルドアのことなのだから。


「では、こうしよう。この場の花摘みをまず行う。階下にある牢へ入れろ。そやつだけは、特別室へ案内してやれ。ダリア・ウェスティンは、別室の客間へ捕らえておけ。見張りも忘れずに」
「捕らえたあとは、毒物を持っていないか、確認をしておいてください。文官が大量に死ぬようなことがあるのは好ましくないですから」
「わかった。今聞いたな?必ず、牢に入れる前には、自殺するようなものは取り上げておくように。見張りも頼む」


 それぞれが動き始める。ローズディアの方はそれを見ているだけだったが、セバスが号令をかけ、手伝うようにいえば、そのように動いてくれる。あとは、この部屋には、王太子の一団と私たちだけが部屋に残った。私も円卓のほうに座り直せば、王太子もそちらへ座った。


「最後の仕上げは王宮内だが、少し、手伝ってくれないか?」
「私ですか?こう見えて、忙しい身ではありますし、エルドア国内のことに関わるつもりはありません」
「頼む。王を……父を取り戻したい」
「そういえば、どうやって、代理に動けるようにしたのです?」
「王妃は正常だからな。どうやら、父がおかしいというのは薄々感じていて、王が何かあったときに託した書状をもって、王の代理として動いている」
「なるほど……王妃様は、とても賢い方なのですね」
「父から距離を取らされたことをずっと考えていたらしい。王妃らしいといえば、王妃らしい」


 感心していると、セバスが話に割って入ってきた。それは、珍しいので驚いていたが、今は宰相代理でここにいるのだから、意見があるなら聞いた方がいいだろう。


「殿下は、エルドア王を取り戻すために、どんなふうにお考えですか?」
「そうだなぁ……今、特別なことがない限り、謁見は難しい。そこでなのだが……事情の知っているアンバー公に側室候補として、父との謁見に立ち会って欲しいのだ」
「私が側室候補?」
「もちろん、フリだけだ。アンバー公なら……顔も知られていないし」
「それなら、アンナリーゼ様より、私のほうがよいのではありませんか?アンナリーゼ様は、国を代表する公爵です。例え、フリだったとしても……」
「そうね。それはダメね。私がただの公爵だけならまだしも、筆頭公爵という立場ですから」
「なら、頼めるだろうか?」


 王太子はナタリーの方を見ている。私へナタリーも視線を送ってくるので、どうしたものか悩んだ。


「ナタリーがいいのであれば……許可します。ただ、エルドア王への謁見をするとなれば、必ず、ニックも側にいるはず。危険を伴うことになるわよ?」
「承知しています。アンナリーゼ様に何かあるより、ずっといいですから!」


 笑ってはいても、不安はあるだろう。ナタリー一人で、そんな場所には行かせられない。


「では、私は、ナタリーの侍女として、お城についていくことにします」
「あぁ……じゃあ、僕たちも一緒にいこう!ウィル」
「乗りかかった船だしな……」
「決まりでいいのか?」
「いいようですよ?出発は明日の朝でもいいですか?私たち、少々準備があるので」
「もちろんだ。こんなことに巻き込んでしまいすまない」
「アンナリーゼ様のお役に立てるなら、なんともないですよ!」


 ナタリーは王太子にニッコリ笑いかける。その後は、明日からの話になり、私たちは屋敷に戻って準備をすることになった。
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