上 下
1,009 / 1,480

取引の話

しおりを挟む
 買ったものを、馬車に運ぶあいだ、私はナタリーの後ろについていた。ナタリーは、やはり、インゼロ帝国からの輸入品について気になるようで、そちらの話をすることになった。


「先ほどの織物」
「あれでございますね?」
「えぇ、とても気に入ったのだけど、どうして、敵対している国から手に入れられるのかしら?」
「……それは、」


 言い淀む店主の代わりに口を開いた。ローズディアでも南の領地でやっていることだから。


「闇取引ですよね?」
「何故、それを?」
「もちろん、ローズディアでもありますから、知ってはいます。闇オークション。人身売買もあったあのオークションでは、敵対しているインゼロ帝国からの品も入ってくる。ただ、エルドアと違うのは、ローズディアの公都までは届かない」
「……アンナ、それは、どういうことですか?」
「どうもこうもありませんよ。本当のことを言ったまで。珍しいものは、基本的に貴族の屋敷にあるでしょうし」
「……金に糸目をつけませんからね。貴族っていうのは。珍しいものには、いくらお金をかけてもかまわないと。それが、貴族としての矜持だそうですから。私には、わかりませんけど」


 そう言って、店主は、下を向く。そのまま、私のほうを見た。


「そのお嬢さんもそのようだ。貴族の道楽には、興味がなさそうで、こちら側の人間のような気がしますが?」
「……貴族令嬢の侍女ですから、そういうわけではありませんが、素敵なドレスにはいつも手に取らせていただいてますので、珍しいものにあまり興味がないだけです」
「値が高ければいいものでもないし、安くても代えがたいほどの素晴らしいものもある。よくわかっていらっしゃいますね」
「製法は、やはりインゼロ帝国でしかわからないのかしら?」


 ナタリーの興味は、それ一択。コーコナ領でできるものなら、作りたい!それがナタリーの思惑だろう。ナタリーの目がインゼロ帝国からの輸入品を見たときから、目がギラギラと光っていたのだから。


「そうですね。そういったものだから、闇取引をしてでも、手に入れているのですから。他の領地でできるなら、わざわざ、高値ではこちらも仕入れませんよ」
「そうよね……この織物は、ドレスに使っても、いいかしら?どう思う?」
「……そうですね、多少目立つんじゃないですか?こんな織物はありませんから。少し、専門家に相談したうえで、使うかどうかは決めた方がいいでしょう。難しい情勢ですから、とくに」
「インゼロとは、本当にいろいろあるわね」


 あの織物を使って、何か考えついているようなナタリーではあるが、今までなかったものを使うのは、ある意味危険である。ノクト経由で仕入れられたと言えないこともないが、私が着る用のドレスに使えば、次の流行になるだろうし、量産できない状態では使えない。


「インゼロ帝国からの購入ルートがないこともないけど……」
「ノクト様経由ですか?」
「そうですね。たまに奥様から連絡が来るので、お願いはできますよ」
「でも、それは、他国を頼るということですよね。自国でできるようになってこそ発展があるのですから、もう少し、考えてみます」
「……あの、お嬢様は、何か商売をしているのですか?」
「私ですか?」


 えぇ、と店主は目を丸くして、ナタリーをじっと見ている。店としては、聞き逃せない話であろう。


「店をしているわけではないわ。ドレスが、すごく好きなだけ。こういうドレスが欲しいだとかを作り手に伝えるのが、好きなの」
「……そうでしたか。今日のお召し物も、この国では見たこともないものでしたから……」
「これは、ローズディアで今流行っているドレスよ。見た目の光沢だけでなく、着心地にもきちんと配慮したもの。ドレスって、豪奢になればなるほど、あちこち擦れたりして、着にくいのよね」


 ドレスを着るときは、それなりの準備がいる。下着やコルセットなど綺麗に見えるようにだ。ナタリーのドレスは、脇のすれがないとか、歩くときに形が崩れないとか、重くなりすぎないとか、きちんと配慮されている。ドレスは女性の戦闘服だなんて、誰がいったかはしらないが、重すぎるドレスは、女性を美しく保つことができない。夜通しある夜会で、どれほど令嬢たちの涙ぐましい努力があるのか、知られていないだろう。


「アンバー公爵であるアンナリーゼ様と同じように作られているこのドレスは、今までのものと違い、とても軽くなっています。だからといって、決して着崩れすることも、見劣りすることもありませんわ」


 スッと立って、店主に自身の着ているドレスを見せる。


「このドレスは、本来、光がある場所でのほうが、輝きますの。公宮のシャンデリア、太陽の元など、光を集めれば集めるほど……エルドアへの輸出はあまりしていないはずなので、ご存じないかもしれませんが、ぜひ、一着でもいいので、仕入れてくださいませ!」


 商売上手なナタリーは、ハニーアンバー店の名を店主に教える。もちろん、輸送にはクロック侯爵家の事業をと宣伝しているあたり、なかなかの商売上手になってきたらしい。

 元々、ナタリーは商才があったように思えるし、人を育てることや使うことは私以上だったもの。

 店主が感心して、ナタリーを見ている。是非とも紹介してほしいと店主がいうので、ニコライに連絡しておくと伝え、どうやら、ハニーアンバー店の協力店舗拡充をナタリー自らしたようであった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...