上 下
992 / 1,479

夜会でなんかやらかしてたの?

しおりを挟む
 お茶を一口飲み、喉を潤す。リアンの入れてくれたお茶は、ホッとする。ウィルの方をみれば、ふぅ……と、そちらも息をはいていた。


「俺、聞いていいのかわからないんだけどさ?」
「何?」
「父から聞いたんだけど」
「えぇ、サーラー子爵から?」
「姫さんは夜会でなんかやらかしてたの?」
「……?」
「いや、屋敷に帰ってから、父がずっと話しっぱなしで……俺の勲章の話はほんの少し、母に言っただけで、そのあとは、レオやミア、兄貴たちを集めて、ずっと、チェスの話だったからさ。俺、一応、勲章もらったわけじゃん?」


 拗ねたようにいうウィルにクスっと笑う。サーラー子爵もあの輪の中に入っていたので、私とダリアとのチェスの勝負を見ていたのだろう。


「それね、チェスの勝負をしていたのよ」
「夜会中に?」
「えぇ、そうね」
「夜会ですることじゃないよな……まぁ、姫さん自由だから、いいのかもしれないけどさ」
「……返す言葉がないわ。でも、昨日の夜会は久しぶりに胸が高鳴るほど楽しい一晩になったわよ?」
「へぇーそんな強敵?」


 私がニヤッと笑ったのを見て、あぁあと呆れたような声を出した。


「父が棋譜を並べてくれたけど……確かにおもしろかった。けど、姫さんさ、適当にやるじゃん?ああいう場では」
「そうでもないわよ?負けるのは悔しいから」


 負けず嫌いめっと笑う。私の性格はわかっていても、本気の勝負をしていたと聞いて少しだけ驚いていたように見えた。今回の棋譜はおもしろかったようで、その話になった。


「そこまで、真剣にチェスをするってことは、何かかけてた?」


 私を見て、ウィルが困ったように笑う。何をかけたのか、だいたい予想は出来ているのだろう。


「ジョージア様とウェスティン伯爵をかけたの」
「ジョージア様は相手が欲しいってことだよな?伯爵が、ジョージア様を欲しがるのか?」
「ウェスティン伯爵は女性だからね」
「……なるほどな」
「ジョージア様を旦那様にして、自身が公爵夫人として活躍するつもりだったようね。私が爵位を得ていて、領地運営をしていることは知らなかったみたいだけど……」
「結構大々的に戴冠式とかで、貴族代表とかやってたのにな?んで、姫さんは、なんで伯爵が欲しいわけ?愛妾って……あってんのか?そういうのを考えているわけじゃないんだろ?」
「そうね」
「そんなことしたら、ナタリーに殺される?」
「ナタリーは、そんなことしないわよ!」


 私は立ち上がって、執務室の隅に置いてあるチェス盤を持ってきて、二人の間に置いた。棋譜はわかっているので、並べていく。


「ダリアが欲しかったのは……エルドアにこちらの味方が欲しかったから。私が欲しいと言ったのは、ウェスティン伯爵」
「女伯爵だろ?」
「そう」
「女性をどうこういうつもりはないんだけど、姫さんっていう規格外もいるからさ。でも、ウェスティン伯爵を味方にするのって、意味があるの?」
「あるわよ!軍師なのよ。それも、開戦側の」
「それって、女伯爵を押さえたくらいで、どうこうなるようなもんじゃないじゃん?」
「そうでもないのよ。首に鈴をつけておくことが、まず大事。そのあとは、エレーナにうまくしてもらうわ」
「あぁ、あの侍女か。今は、侯爵家に嫁いで、運輸業を一手に引き受けてくれているんだったな」


 ウィルも学園でエリザベスの侍女として側にいたニナとしてのほうが印象があるようで、エレーナと言われても、それほど親しいわけではないので、あまり関心がない。
 チェックをすると、なるほどなぁ……と呟いて、チェス盤を眺めた。


「鈴をつけるだけでいいって、それって、大丈夫なわけ?」
「えぇ、いいのよ。ヒーナと一緒。背中の刺青と噂話を広げることで、疑心暗鬼を狙っているって感じかしら?ウェスティン伯爵は国一番の軍師だという。その軍師が、たかだか、公爵夫人にチェスに負けたっていうのは、結構な痛手だと思うわよ。
 セバスの後ろに私がいるってことは、大々的に広げているのはね、私には勝てないと思わせればいいだけだから」
「あぁ、なるほどね。軍師に勝ってしまう公爵夫人。その後ろ盾を持っている国の代表はただものではないと」
「今も、十分ただものではないという働きをしてくれているわ!セバスって本当に力をつけているわよね!」


 クイーンをコンコンと爪ではじきながら、盤上を私も見ていた。キング、クイーン、ナイト、をひとつづつつまみ、片付けていく。


「イチアのおかげだよな。俺も、イチアがいたから、いろいろと身に着いたことも多いし、俺より、一緒にいる時間が多い分、学ぶことも多いんだろうな」
「そうね。元々の知識は豊富だったけど、そこに応用力がついたって感じよね。すごいわね……私なんて、足元にも及ばなくなりそうよ」
「それは、ないだろ?俺も含め、姫さんには勝てない。ない道を切り開くっていうのは、まだ、俺たちには備わってないだろ?」
「そんなことないと思うけど?」


 お茶をコクっと飲み、領地に帰る前にダリアに会うことになるとウィルに伝えると、ついていくから連絡するよう言われた。
 そろそろ、混ざってもいいかと、執務室の扉が開いた。ジョージアが執務室へ入ってきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】捨てられ令嬢は王子のお気に入り

怜來
ファンタジー
「魔力が使えないお前なんてここには必要ない」 そう言われ家を追い出されたリリーアネ。しかし、リリーアネは実は魔力が使えた。それは、強力な魔力だったため誰にも言わなかった。そんなある日王国の危機を救って… リリーアネの正体とは 過去に何があったのか

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。

みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。 主人公は断罪から逃れることは出来るのか?

処理中です...