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南の領地での報告会Ⅸ

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「それで、向こうでは、他に何か起こったの?」
「あぁ、それな。俺だけすることがなかったからさ、ちょっとだけ、見回りに出てたんだ」
「それは……何かおもしろいことが起こっていそうな響きね?」
「おもしろいって……どこを見ても、人が倒れているのは、さすがにおもしろくはないけどな」
「たしに」
「そこで、おもしろいやつは見つけたけど」
「やっぱり……それで?」


暗い表情から一転、難しい顔をしながら、それでも笑うのを堪えているような変な感じがした。


「何よ?何があったの?」
「ヒーナと似たようなやつらが、暗躍してた」
「それは……興味深いわね?」
「だろ?まぁ、そういうのがいたら、厄介なんだけど……捕まえてヨハンの自作した自白剤がおもしろく作用したんだよな」
「自白剤なんか作っている?ヨハンは」
「驚くの、そっち?」
「当たり前じゃない!そんなものがあって、飲まされた日には、たまったものじゃないわ!」
「確かに。口の固そうな戦争屋がよくしゃべろうとしてた」


私は過去形で終わる話しぶりに疑問を持つ。


「使ったのよね?」
「あぁ、使った。新しく作ったとかなんとかで」
「それで、その効力で死……」
「違う違う。殺されたんだ。たぶん、ヒーナと違って、かなり末端の人物を捕まえたらしくってさ。喋ろうとしたときに、苦しみだしたんだ」
「苦しみだすって……自白剤の副作用みたいなものじゃないの?」
「んー違うかな?ヨハン教授は言わなくてもわかるだろうけど」
「自身と、自ら実験体になりたい、ちょっとへ……変わりものの助手が試すのよね?」
「そう。教授合わせて五人が飲んで何ともなかったから、自白以外での行動は俺らには強制力はないし、何より、死にたくないと言いながら、舌を噛んで自殺したんだ」
「……捕まったら、自殺をするように刷り込まれていたとかかしら?」
「その可能性は高いって。ヨハン教授がそのあと検死をするって言い出して、大変だったのは覚えてる……」
「検死したの?」
「あぁ、したなぁ。俺も立ち会ったけど……初めて人体を見たんだけど……なんていうか……姫さんは、大丈夫なの?こんなの聞いて」
「どうして?」
「さすがに、気分が悪いと行ったり、ひっくり返った町医者もいたから」
「ヨハンとウィルだけがしたわけじゃないんだね?」


ちょっと気まずそうにしていたウィル。検死をするのは、この国ではほとんどないのだが、近衛がいれば、可能ではあった。
許可を出したのは、他の誰でもないウィルだったのだろう。


「えっと……後学のために。ヨハン教授も死に方が変だって言ったし、何かあるかもって思って、俺が許可を出したんだ。むやみやたらと切り刻んだわけじゃないから許してほしいんだけど……」
「私でも、ヨハンが変だと言えば、許可を出すわよ?何か掴んだのでしょ?」
「さすが、姫さん?」
「あなたたち二人が動いて何もないなんて、ありえないでしょ?」


確かにと頷きながら、当時の検死の話をしてくれた。気分のいいものではないが、ヨハンが説明してくれたことを事細かに教えてくれる。


「一番最初に目に飛び込んできたのは、体を切ったとき、全体的に紫色になっていたんだ」
「紫色?人体って……赤い色をしているわよね?」
「あぁ、そのはずだったけど……俺が見たのはどす黒い紫色。ヨハン教授が言うに、体が、毒に長い年月をかけて侵されているってこと。何の毒かは、あの日はわからなかったから、細胞をとって、調べることになったんだ」
「なるほどね。毒に侵されてか……それって、今思い出せるのは、水質汚染かしらね?インゼロ帝国の戦争屋をしているような人たちって、貧民街の出のものが多いのよ」


知っていると言葉を濁すように小さく私に答えた。ウィルも、インゼロ帝国については、イチアから情報を得ていた。インゼロ帝国常勝将軍の軍師であるイチアは、インゼロ帝国で起こっていたことで知らないことはなかった。


「イチアに聞いた話ばかりだけど、隊では共有しているし、近衛にも情報を流してはいる。全部が全部流せるものではないこともわかってはいて、ときたま、嘘の情報を混ぜられることもあるしな……俺やセバスを試すために。姫さんが持っている情報と同等になるようにって、底上げしてもらっている中で、聞いたことがある」
「そう。貧民街では、綺麗な水を得るだけでも難しいらしいわね。汚染された水を飲むしかないから飲んで、毒のようなものに侵されている国民があの帝国にはたくさんいるのよ」
「水なんて、人間が生きるためには、もっとも必要なもののはずなのにな」
「普通の水を飲むことさえ許されない人がいるの。帝国は、大きくなりすぎた。戦争で土地を大きくして、奪った国の国民を奴隷として扱い、見せかけの豊かさだわ。一部の人だけが贅沢をできる、それも結構なことだけど、最低限の生活ができるよう、地盤は必要だと思うの」


ウィルが頷いた。貧民街と然程変わらないほど、荒れたアンバーを共に見てきた仲だ。同じ苦しみの中にいたアンバー領を立て直した中から見てきたウィルには、今の話、どう思っているのだろう。
悲しいようなアイスブルーの瞳を床に向け、次の言葉を選んでいるようだった。
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