989 / 1,480
南の領地での報告会Ⅸ
しおりを挟む
「それで、向こうでは、他に何か起こったの?」
「あぁ、それな。俺だけすることがなかったからさ、ちょっとだけ、見回りに出てたんだ」
「それは……何かおもしろいことが起こっていそうな響きね?」
「おもしろいって……どこを見ても、人が倒れているのは、さすがにおもしろくはないけどな」
「たしに」
「そこで、おもしろいやつは見つけたけど」
「やっぱり……それで?」
暗い表情から一転、難しい顔をしながら、それでも笑うのを堪えているような変な感じがした。
「何よ?何があったの?」
「ヒーナと似たようなやつらが、暗躍してた」
「それは……興味深いわね?」
「だろ?まぁ、そういうのがいたら、厄介なんだけど……捕まえてヨハンの自作した自白剤がおもしろく作用したんだよな」
「自白剤なんか作っている?ヨハンは」
「驚くの、そっち?」
「当たり前じゃない!そんなものがあって、飲まされた日には、たまったものじゃないわ!」
「確かに。口の固そうな戦争屋がよくしゃべろうとしてた」
私は過去形で終わる話しぶりに疑問を持つ。
「使ったのよね?」
「あぁ、使った。新しく作ったとかなんとかで」
「それで、その効力で死……」
「違う違う。殺されたんだ。たぶん、ヒーナと違って、かなり末端の人物を捕まえたらしくってさ。喋ろうとしたときに、苦しみだしたんだ」
「苦しみだすって……自白剤の副作用みたいなものじゃないの?」
「んー違うかな?ヨハン教授は言わなくてもわかるだろうけど」
「自身と、自ら実験体になりたい、ちょっとへ……変わりものの助手が試すのよね?」
「そう。教授合わせて五人が飲んで何ともなかったから、自白以外での行動は俺らには強制力はないし、何より、死にたくないと言いながら、舌を噛んで自殺したんだ」
「……捕まったら、自殺をするように刷り込まれていたとかかしら?」
「その可能性は高いって。ヨハン教授がそのあと検死をするって言い出して、大変だったのは覚えてる……」
「検死したの?」
「あぁ、したなぁ。俺も立ち会ったけど……初めて人体を見たんだけど……なんていうか……姫さんは、大丈夫なの?こんなの聞いて」
「どうして?」
「さすがに、気分が悪いと行ったり、ひっくり返った町医者もいたから」
「ヨハンとウィルだけがしたわけじゃないんだね?」
ちょっと気まずそうにしていたウィル。検死をするのは、この国ではほとんどないのだが、近衛がいれば、可能ではあった。
許可を出したのは、他の誰でもないウィルだったのだろう。
「えっと……後学のために。ヨハン教授も死に方が変だって言ったし、何かあるかもって思って、俺が許可を出したんだ。むやみやたらと切り刻んだわけじゃないから許してほしいんだけど……」
「私でも、ヨハンが変だと言えば、許可を出すわよ?何か掴んだのでしょ?」
「さすが、姫さん?」
「あなたたち二人が動いて何もないなんて、ありえないでしょ?」
確かにと頷きながら、当時の検死の話をしてくれた。気分のいいものではないが、ヨハンが説明してくれたことを事細かに教えてくれる。
「一番最初に目に飛び込んできたのは、体を切ったとき、全体的に紫色になっていたんだ」
「紫色?人体って……赤い色をしているわよね?」
「あぁ、そのはずだったけど……俺が見たのはどす黒い紫色。ヨハン教授が言うに、体が、毒に長い年月をかけて侵されているってこと。何の毒かは、あの日はわからなかったから、細胞をとって、調べることになったんだ」
「なるほどね。毒に侵されてか……それって、今思い出せるのは、水質汚染かしらね?インゼロ帝国の戦争屋をしているような人たちって、貧民街の出のものが多いのよ」
知っていると言葉を濁すように小さく私に答えた。ウィルも、インゼロ帝国については、イチアから情報を得ていた。インゼロ帝国常勝将軍の軍師であるイチアは、インゼロ帝国で起こっていたことで知らないことはなかった。
「イチアに聞いた話ばかりだけど、隊では共有しているし、近衛にも情報を流してはいる。全部が全部流せるものではないこともわかってはいて、ときたま、嘘の情報を混ぜられることもあるしな……俺やセバスを試すために。姫さんが持っている情報と同等になるようにって、底上げしてもらっている中で、聞いたことがある」
「そう。貧民街では、綺麗な水を得るだけでも難しいらしいわね。汚染された水を飲むしかないから飲んで、毒のようなものに侵されている国民があの帝国にはたくさんいるのよ」
「水なんて、人間が生きるためには、もっとも必要なもののはずなのにな」
「普通の水を飲むことさえ許されない人がいるの。帝国は、大きくなりすぎた。戦争で土地を大きくして、奪った国の国民を奴隷として扱い、見せかけの豊かさだわ。一部の人だけが贅沢をできる、それも結構なことだけど、最低限の生活ができるよう、地盤は必要だと思うの」
ウィルが頷いた。貧民街と然程変わらないほど、荒れたアンバーを共に見てきた仲だ。同じ苦しみの中にいたアンバー領を立て直した中から見てきたウィルには、今の話、どう思っているのだろう。
悲しいようなアイスブルーの瞳を床に向け、次の言葉を選んでいるようだった。
「あぁ、それな。俺だけすることがなかったからさ、ちょっとだけ、見回りに出てたんだ」
「それは……何かおもしろいことが起こっていそうな響きね?」
「おもしろいって……どこを見ても、人が倒れているのは、さすがにおもしろくはないけどな」
「たしに」
「そこで、おもしろいやつは見つけたけど」
「やっぱり……それで?」
暗い表情から一転、難しい顔をしながら、それでも笑うのを堪えているような変な感じがした。
「何よ?何があったの?」
「ヒーナと似たようなやつらが、暗躍してた」
「それは……興味深いわね?」
「だろ?まぁ、そういうのがいたら、厄介なんだけど……捕まえてヨハンの自作した自白剤がおもしろく作用したんだよな」
「自白剤なんか作っている?ヨハンは」
「驚くの、そっち?」
「当たり前じゃない!そんなものがあって、飲まされた日には、たまったものじゃないわ!」
「確かに。口の固そうな戦争屋がよくしゃべろうとしてた」
私は過去形で終わる話しぶりに疑問を持つ。
「使ったのよね?」
「あぁ、使った。新しく作ったとかなんとかで」
「それで、その効力で死……」
「違う違う。殺されたんだ。たぶん、ヒーナと違って、かなり末端の人物を捕まえたらしくってさ。喋ろうとしたときに、苦しみだしたんだ」
「苦しみだすって……自白剤の副作用みたいなものじゃないの?」
「んー違うかな?ヨハン教授は言わなくてもわかるだろうけど」
「自身と、自ら実験体になりたい、ちょっとへ……変わりものの助手が試すのよね?」
「そう。教授合わせて五人が飲んで何ともなかったから、自白以外での行動は俺らには強制力はないし、何より、死にたくないと言いながら、舌を噛んで自殺したんだ」
「……捕まったら、自殺をするように刷り込まれていたとかかしら?」
「その可能性は高いって。ヨハン教授がそのあと検死をするって言い出して、大変だったのは覚えてる……」
「検死したの?」
「あぁ、したなぁ。俺も立ち会ったけど……初めて人体を見たんだけど……なんていうか……姫さんは、大丈夫なの?こんなの聞いて」
「どうして?」
「さすがに、気分が悪いと行ったり、ひっくり返った町医者もいたから」
「ヨハンとウィルだけがしたわけじゃないんだね?」
ちょっと気まずそうにしていたウィル。検死をするのは、この国ではほとんどないのだが、近衛がいれば、可能ではあった。
許可を出したのは、他の誰でもないウィルだったのだろう。
「えっと……後学のために。ヨハン教授も死に方が変だって言ったし、何かあるかもって思って、俺が許可を出したんだ。むやみやたらと切り刻んだわけじゃないから許してほしいんだけど……」
「私でも、ヨハンが変だと言えば、許可を出すわよ?何か掴んだのでしょ?」
「さすが、姫さん?」
「あなたたち二人が動いて何もないなんて、ありえないでしょ?」
確かにと頷きながら、当時の検死の話をしてくれた。気分のいいものではないが、ヨハンが説明してくれたことを事細かに教えてくれる。
「一番最初に目に飛び込んできたのは、体を切ったとき、全体的に紫色になっていたんだ」
「紫色?人体って……赤い色をしているわよね?」
「あぁ、そのはずだったけど……俺が見たのはどす黒い紫色。ヨハン教授が言うに、体が、毒に長い年月をかけて侵されているってこと。何の毒かは、あの日はわからなかったから、細胞をとって、調べることになったんだ」
「なるほどね。毒に侵されてか……それって、今思い出せるのは、水質汚染かしらね?インゼロ帝国の戦争屋をしているような人たちって、貧民街の出のものが多いのよ」
知っていると言葉を濁すように小さく私に答えた。ウィルも、インゼロ帝国については、イチアから情報を得ていた。インゼロ帝国常勝将軍の軍師であるイチアは、インゼロ帝国で起こっていたことで知らないことはなかった。
「イチアに聞いた話ばかりだけど、隊では共有しているし、近衛にも情報を流してはいる。全部が全部流せるものではないこともわかってはいて、ときたま、嘘の情報を混ぜられることもあるしな……俺やセバスを試すために。姫さんが持っている情報と同等になるようにって、底上げしてもらっている中で、聞いたことがある」
「そう。貧民街では、綺麗な水を得るだけでも難しいらしいわね。汚染された水を飲むしかないから飲んで、毒のようなものに侵されている国民があの帝国にはたくさんいるのよ」
「水なんて、人間が生きるためには、もっとも必要なもののはずなのにな」
「普通の水を飲むことさえ許されない人がいるの。帝国は、大きくなりすぎた。戦争で土地を大きくして、奪った国の国民を奴隷として扱い、見せかけの豊かさだわ。一部の人だけが贅沢をできる、それも結構なことだけど、最低限の生活ができるよう、地盤は必要だと思うの」
ウィルが頷いた。貧民街と然程変わらないほど、荒れたアンバーを共に見てきた仲だ。同じ苦しみの中にいたアンバー領を立て直した中から見てきたウィルには、今の話、どう思っているのだろう。
悲しいようなアイスブルーの瞳を床に向け、次の言葉を選んでいるようだった。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
僕のおつかい
麻竹
ファンタジー
魔女が世界を統べる世界。
東の大地ウェストブレイ。赤の魔女のお膝元であるこの森に、足早に森を抜けようとする一人の少年の姿があった。
少年の名はマクレーンといって黒い髪に黒い瞳、腰まである髪を後ろで一つに束ねた少年は、真っ赤なマントのフードを目深に被り、明るいこの森を早く抜けようと必死だった。
彼は、母親から頼まれた『おつかい』を無事にやり遂げるべく、今まさに旅に出たばかりであった。
そして、その旅の途中で森で倒れていた人を助けたのだが・・・・・・。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※一話約1000文字前後に修正しました。
他サイト様にも投稿しています。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
そのうち結婚します
夜桜
恋愛
氷の令嬢エレイナはそのうち結婚しようと思っている。
どうしようどうしようと考えているうちに婚約破棄されたけれど、新たなに三人の貴族が現れた。
その三人の男性貴族があまりに魅力過ぎて、またそのうち結婚しようと考えた。本当にどうしましょう。
そしてその三人の中に裏切者が。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる