967 / 1,493
ダンスの相手は選んだほうがいい?
しおりを挟む
「やっと、帰って来た……」
「いつでも、側にいますよ?」
「そうかなぁ?いつもどこかへ飛んでいってしまうよね?」
ジョージアに見つめられ、微笑んで誤魔化した。いつも側にいないのは、他の誰でもない、私自身が知っている。謝るのも変だろう。謝っても、側にいられる時間は多くないことは、お互いわかっているので、あえて口にはしなかった。
「ジョージア様、せっかくですし、踊りましょうか?」
「そうだね?アンナと踊るのは、始まりの夜会以来だね」
「えぇ、楽しみです」
公への挨拶へ向かう貴族が多い中、大広間の中心は、まだ、ガランとしている。ちょうど、真ん中にいた私たちは、音楽をお願いするべく、目配せした。
優しい音楽がなり始め、自然と体を揺らす。ゆっくりな音楽も嫌いではない。もちろん、ジョージアは、どんな曲でも、私を完璧に躍らせてくれるので、身を委ねるだけでよかった。
「アンナは、ダンス好きかい?」
「えぇ、ジョージア様とのダンスは特に好きですよ!」
「それは、光栄だね!じゃあ、誰とのダンスは嫌かな?」
「そうですね……内緒ですけど、下級貴族は少し苦手です」
「あまり、リードがうまくないからね……俺もリードをしていてもそれは感じるな」
「もう少し、ダンスの教育にも手を入れてほしいと思いますけど、そこまでは……というお家が多いですからね」
「確かに。ダンスの練習で先生を雇うにも結構な金額がいるからねぇ……その点、我が家は、アンナがいい手本だから」
「ジョージア様もですよ!レオなんて、食い入るようにみていますもの」
ふふっと、子どもたちの練習風景を思い出し笑いあう。アンジェラたちは、まだ早いので、見ているだけだが、レオやミアは練習をしている。そのときにお手本として、たまに見せることがあった。
「いつか、俺とも踊ってくれるかな?アンジーは」
「もちろんですよ!私もジョージやネイトと踊りたいですわ!」
「そういえば、サシャの練習相手は、アンナだったのかい?」
「……そうですよ?」
すごく嫌な顔をしていたようで、ジョージアは苦笑いをする。兄は、とてもどんくさかった。ダンスは、私以外と練習ができる状態ではなかったし、エリザベスとのダンスをのために、私がどれほど苦労したか、ジョージアにも語ってあげたいくらいだった。
「そんなに嫌わなくても。サシャなりに頑張ていたんでしょ?」
「そうなんですけど、可愛い妹の足は、お兄様に踏まれ続けていつも真っ赤でしたよ」
「……サシャっぽいな。頭はきれるのにな」
「残念な侯爵です」
ため息をついていたと同時刻、トワイス国では盛大なくしゃみをしてエリザベスに睨まれていた兄のことを私は知らない。
「音楽が、そろそろ終わりそうだね?」
「そうですね。少し、壁に寄りましょうか。私たちへの挨拶を待ってくださってる方もいるでしょうし」
音楽が鳴り止むと私たちのダンスも終わる。今年最後の夜会にそれぞれ深々と挨拶をした。あとは、少し壁際によるだけとなったとき、ジョージアの視線が厳しくなる。私の背中に視線を感じたので振り返った。そこには、ゴールド公爵が、微笑みながら私を待っていた。
「アンバー公アンナリーゼ様、1曲踊っていただけますか?」
その微笑みは、甘美な毒のように甘く優しい。うっかり気を許してしまいそうになる。私は気を引き締め、差し出された手にジョージアから離れ、そっと重ねる。
「お約束ですもの、喜んでお受けいたしますわ!」
「ありがとう。では、音楽を」
優しく引き寄せられ、音楽に合わせて踊り出す。その瞬間、音楽はなっているにも関わらず、他のものの音は全て消えてしまった。まるで、信じられないものを見たというふうで、固まっているのだろう。
「やけに静かですね?」
「私たちがこうして手を取り合い踊っていることに驚いているのでしょう」
「でしょうねぇ?私もアンナリーゼ様とこうしていることが、不思議でありませんから」
「私もです。まさか、ゴールド公爵と踊れる日が来るとは。あっ、公が驚きすぎて、席を立っていますよ?」
「あぁ、本当ですね?私たちは、それぞれが、公の後ろ盾ですから、この光景は珍しいことではないはずなのですけどね」
「それは、嫌味なのですか?私、この国に来てからというもの、公爵と踊ったことはありませんよ?」
少し拗ねたように子どもっぽく言ってみると、父のように優しく微笑み、そうでしたと呟く。
「アンナリーゼ様」
「なんでしょうか?」
「先程は、言いそびれてしまいましたが、愚息を助けていただきありがとうございました」
「天下のゴールド公爵も人の親ということですか?」
「そうです。我儘に育ってしまいましたが、大切な息子には変わりはありませんからな。特に奥に取っては、宝物。亡くさせるわけにはいきません」
「そんな弱みを私に言ってもいいの?」
「……そのうち、わかるでしょう。愚息は、私の元から、去っていく……、そんな予感を感じています」
この言葉は、ゴールド公爵の心の吐露なのだろうか。愚息といいつつも大切にしている、手元から巣立っていくと言われれば、親となった今、判断が鈍ってしまいそうな話だ。
「あの子をお願いします」
ゴールド公爵からの言葉に、私は言葉を失い、周りはだんだん私たちの異常さに気付き、ざわつき始める。音楽の途中ではあったが、ゴールド公爵は足をとめ、私もそれに倣った。
「いつでも、側にいますよ?」
「そうかなぁ?いつもどこかへ飛んでいってしまうよね?」
ジョージアに見つめられ、微笑んで誤魔化した。いつも側にいないのは、他の誰でもない、私自身が知っている。謝るのも変だろう。謝っても、側にいられる時間は多くないことは、お互いわかっているので、あえて口にはしなかった。
「ジョージア様、せっかくですし、踊りましょうか?」
「そうだね?アンナと踊るのは、始まりの夜会以来だね」
「えぇ、楽しみです」
公への挨拶へ向かう貴族が多い中、大広間の中心は、まだ、ガランとしている。ちょうど、真ん中にいた私たちは、音楽をお願いするべく、目配せした。
優しい音楽がなり始め、自然と体を揺らす。ゆっくりな音楽も嫌いではない。もちろん、ジョージアは、どんな曲でも、私を完璧に躍らせてくれるので、身を委ねるだけでよかった。
「アンナは、ダンス好きかい?」
「えぇ、ジョージア様とのダンスは特に好きですよ!」
「それは、光栄だね!じゃあ、誰とのダンスは嫌かな?」
「そうですね……内緒ですけど、下級貴族は少し苦手です」
「あまり、リードがうまくないからね……俺もリードをしていてもそれは感じるな」
「もう少し、ダンスの教育にも手を入れてほしいと思いますけど、そこまでは……というお家が多いですからね」
「確かに。ダンスの練習で先生を雇うにも結構な金額がいるからねぇ……その点、我が家は、アンナがいい手本だから」
「ジョージア様もですよ!レオなんて、食い入るようにみていますもの」
ふふっと、子どもたちの練習風景を思い出し笑いあう。アンジェラたちは、まだ早いので、見ているだけだが、レオやミアは練習をしている。そのときにお手本として、たまに見せることがあった。
「いつか、俺とも踊ってくれるかな?アンジーは」
「もちろんですよ!私もジョージやネイトと踊りたいですわ!」
「そういえば、サシャの練習相手は、アンナだったのかい?」
「……そうですよ?」
すごく嫌な顔をしていたようで、ジョージアは苦笑いをする。兄は、とてもどんくさかった。ダンスは、私以外と練習ができる状態ではなかったし、エリザベスとのダンスをのために、私がどれほど苦労したか、ジョージアにも語ってあげたいくらいだった。
「そんなに嫌わなくても。サシャなりに頑張ていたんでしょ?」
「そうなんですけど、可愛い妹の足は、お兄様に踏まれ続けていつも真っ赤でしたよ」
「……サシャっぽいな。頭はきれるのにな」
「残念な侯爵です」
ため息をついていたと同時刻、トワイス国では盛大なくしゃみをしてエリザベスに睨まれていた兄のことを私は知らない。
「音楽が、そろそろ終わりそうだね?」
「そうですね。少し、壁に寄りましょうか。私たちへの挨拶を待ってくださってる方もいるでしょうし」
音楽が鳴り止むと私たちのダンスも終わる。今年最後の夜会にそれぞれ深々と挨拶をした。あとは、少し壁際によるだけとなったとき、ジョージアの視線が厳しくなる。私の背中に視線を感じたので振り返った。そこには、ゴールド公爵が、微笑みながら私を待っていた。
「アンバー公アンナリーゼ様、1曲踊っていただけますか?」
その微笑みは、甘美な毒のように甘く優しい。うっかり気を許してしまいそうになる。私は気を引き締め、差し出された手にジョージアから離れ、そっと重ねる。
「お約束ですもの、喜んでお受けいたしますわ!」
「ありがとう。では、音楽を」
優しく引き寄せられ、音楽に合わせて踊り出す。その瞬間、音楽はなっているにも関わらず、他のものの音は全て消えてしまった。まるで、信じられないものを見たというふうで、固まっているのだろう。
「やけに静かですね?」
「私たちがこうして手を取り合い踊っていることに驚いているのでしょう」
「でしょうねぇ?私もアンナリーゼ様とこうしていることが、不思議でありませんから」
「私もです。まさか、ゴールド公爵と踊れる日が来るとは。あっ、公が驚きすぎて、席を立っていますよ?」
「あぁ、本当ですね?私たちは、それぞれが、公の後ろ盾ですから、この光景は珍しいことではないはずなのですけどね」
「それは、嫌味なのですか?私、この国に来てからというもの、公爵と踊ったことはありませんよ?」
少し拗ねたように子どもっぽく言ってみると、父のように優しく微笑み、そうでしたと呟く。
「アンナリーゼ様」
「なんでしょうか?」
「先程は、言いそびれてしまいましたが、愚息を助けていただきありがとうございました」
「天下のゴールド公爵も人の親ということですか?」
「そうです。我儘に育ってしまいましたが、大切な息子には変わりはありませんからな。特に奥に取っては、宝物。亡くさせるわけにはいきません」
「そんな弱みを私に言ってもいいの?」
「……そのうち、わかるでしょう。愚息は、私の元から、去っていく……、そんな予感を感じています」
この言葉は、ゴールド公爵の心の吐露なのだろうか。愚息といいつつも大切にしている、手元から巣立っていくと言われれば、親となった今、判断が鈍ってしまいそうな話だ。
「あの子をお願いします」
ゴールド公爵からの言葉に、私は言葉を失い、周りはだんだん私たちの異常さに気付き、ざわつき始める。音楽の途中ではあったが、ゴールド公爵は足をとめ、私もそれに倣った。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。
なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。
真実の愛の言い分
豆狸
恋愛
「仕方がないだろう。私とリューゲは真実の愛なのだ。幼いころから想い合って来た。そこに割り込んできたのは君だろう!」
私と殿下の結婚式を半年後に控えた時期におっしゃることではありませんわね。
下げ渡された婚約者
相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。
しかしある日、第一王子である兄が言った。
「ルイーザとの婚約を破棄する」
愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。
「あのルイーザが受け入れたのか?」
「代わりの婿を用意するならという条件付きで」
「代わり?」
「お前だ、アルフレッド!」
おさがりの婚約者なんて聞いてない!
しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。
アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。
「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」
「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる