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ダンスの相手は選んだほうがいい?

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「やっと、帰って来た……」
「いつでも、側にいますよ?」
「そうかなぁ?いつもどこかへ飛んでいってしまうよね?」


 ジョージアに見つめられ、微笑んで誤魔化した。いつも側にいないのは、他の誰でもない、私自身が知っている。謝るのも変だろう。謝っても、側にいられる時間は多くないことは、お互いわかっているので、あえて口にはしなかった。


「ジョージア様、せっかくですし、踊りましょうか?」
「そうだね?アンナと踊るのは、始まりの夜会以来だね」
「えぇ、楽しみです」


 公への挨拶へ向かう貴族が多い中、大広間の中心は、まだ、ガランとしている。ちょうど、真ん中にいた私たちは、音楽をお願いするべく、目配せした。
 優しい音楽がなり始め、自然と体を揺らす。ゆっくりな音楽も嫌いではない。もちろん、ジョージアは、どんな曲でも、私を完璧に躍らせてくれるので、身を委ねるだけでよかった。


「アンナは、ダンス好きかい?」
「えぇ、ジョージア様とのダンスは特に好きですよ!」
「それは、光栄だね!じゃあ、誰とのダンスは嫌かな?」
「そうですね……内緒ですけど、下級貴族は少し苦手です」
「あまり、リードがうまくないからね……俺もリードをしていてもそれは感じるな」
「もう少し、ダンスの教育にも手を入れてほしいと思いますけど、そこまでは……というお家が多いですからね」
「確かに。ダンスの練習で先生を雇うにも結構な金額がいるからねぇ……その点、我が家は、アンナがいい手本だから」
「ジョージア様もですよ!レオなんて、食い入るようにみていますもの」


 ふふっと、子どもたちの練習風景を思い出し笑いあう。アンジェラたちは、まだ早いので、見ているだけだが、レオやミアは練習をしている。そのときにお手本として、たまに見せることがあった。


「いつか、俺とも踊ってくれるかな?アンジーは」
「もちろんですよ!私もジョージやネイトと踊りたいですわ!」
「そういえば、サシャの練習相手は、アンナだったのかい?」
「……そうですよ?」


 すごく嫌な顔をしていたようで、ジョージアは苦笑いをする。兄は、とてもどんくさかった。ダンスは、私以外と練習ができる状態ではなかったし、エリザベスとのダンスをのために、私がどれほど苦労したか、ジョージアにも語ってあげたいくらいだった。


「そんなに嫌わなくても。サシャなりに頑張ていたんでしょ?」
「そうなんですけど、可愛い妹の足は、お兄様に踏まれ続けていつも真っ赤でしたよ」
「……サシャっぽいな。頭はきれるのにな」
「残念な侯爵です」


 ため息をついていたと同時刻、トワイス国では盛大なくしゃみをしてエリザベスに睨まれていた兄のことを私は知らない。


「音楽が、そろそろ終わりそうだね?」
「そうですね。少し、壁に寄りましょうか。私たちへの挨拶を待ってくださってる方もいるでしょうし」


 音楽が鳴り止むと私たちのダンスも終わる。今年最後の夜会にそれぞれ深々と挨拶をした。あとは、少し壁際によるだけとなったとき、ジョージアの視線が厳しくなる。私の背中に視線を感じたので振り返った。そこには、ゴールド公爵が、微笑みながら私を待っていた。


「アンバー公アンナリーゼ様、1曲踊っていただけますか?」


 その微笑みは、甘美な毒のように甘く優しい。うっかり気を許してしまいそうになる。私は気を引き締め、差し出された手にジョージアから離れ、そっと重ねる。


「お約束ですもの、喜んでお受けいたしますわ!」
「ありがとう。では、音楽を」


 優しく引き寄せられ、音楽に合わせて踊り出す。その瞬間、音楽はなっているにも関わらず、他のものの音は全て消えてしまった。まるで、信じられないものを見たというふうで、固まっているのだろう。


「やけに静かですね?」
「私たちがこうして手を取り合い踊っていることに驚いているのでしょう」
「でしょうねぇ?私もアンナリーゼ様とこうしていることが、不思議でありませんから」
「私もです。まさか、ゴールド公爵と踊れる日が来るとは。あっ、公が驚きすぎて、席を立っていますよ?」
「あぁ、本当ですね?私たちは、それぞれが、公の後ろ盾ですから、この光景は珍しいことではないはずなのですけどね」
「それは、嫌味なのですか?私、この国に来てからというもの、公爵と踊ったことはありませんよ?」


 少し拗ねたように子どもっぽく言ってみると、父のように優しく微笑み、そうでしたと呟く。


「アンナリーゼ様」
「なんでしょうか?」
「先程は、言いそびれてしまいましたが、愚息を助けていただきありがとうございました」
「天下のゴールド公爵も人の親ということですか?」
「そうです。我儘に育ってしまいましたが、大切な息子には変わりはありませんからな。特に奥に取っては、宝物。亡くさせるわけにはいきません」
「そんな弱みを私に言ってもいいの?」
「……そのうち、わかるでしょう。愚息は、私の元から、去っていく……、そんな予感を感じています」


 この言葉は、ゴールド公爵の心の吐露なのだろうか。愚息といいつつも大切にしている、手元から巣立っていくと言われれば、親となった今、判断が鈍ってしまいそうな話だ。


「あの子をお願いします」


 ゴールド公爵からの言葉に、私は言葉を失い、周りはだんだん私たちの異常さに気付き、ざわつき始める。音楽の途中ではあったが、ゴールド公爵は足をとめ、私もそれに倣った。
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