上 下
964 / 1,480

ルチル・ゴールドとの睨み合い?

しおりを挟む
「あぁ、そうだね。アンナリーゼは、とても素晴らしい女性だよ。ルチル様に言われなくても、よくわかっている」


 私はさらに一歩下がる。どう考えても、ジョージアが纏う空気がとても冷たい。いつもの穏やかさはどこに消えてしまったのか、思わず両腕をさすってしまった。


「そう警戒されなくても……、どこまでご存じかしりませんけどね?確かに、、アンナリーゼという女性にとても興味があったのです。今回の件で、命を落とすほどの冒険もしましたが、おもしろい収穫もあった」


 ジョージアとは違い、とてもにこやかななルチル。それはそれで、不気味な気がする。南の領地でのことを思い出せば、ただのできの悪い坊ちゃんなんだろうと思えたが……少し、雰囲気があのときと違うことに気が付いた。


「おもしろい収穫?」
「えぇ、そうです。ジョージア様は南の領地へは出迎えなかったそうですね?病に対する抗体ないだとか。それで、アンナリーゼ様に止められていたのでしたね」
「それのどこがおもしろい収穫なんだい?だいたい、アンナリーゼが抗体を持っていて、生死を彷徨うルチル様を救うから面倒になるのでしょ?」
「面倒とは失礼な。ただ、お近づきになりたいだけですよ。貴族の一員として、その最溢れる女性のそばにいたいと願うことの何がいけないので?のほほんと過ごしてきただけのジョージア様が、本当に相応しいのか疑問ですけどねぇ?」
「のほほんと過ごして来ているわけではない!」


 そうですか?と鋭い視線を送ってくる。私と南の領地で別れたあと、何やら周辺を探っている者がいるとディルから聞いていた。まさかとは思っていたが、そのまさかのようだ。
 ただ、ここで私が口を開くと、火に油を注ぐような大火事を起こしそうな予感しかしないので、黙っておく。向こうで、おもしろそうにこちらの様子を窺っているゴールド公爵もうすら笑いをしていた。


「本当ですか?アンナリーゼ様との婚姻が決まっていながら、わざわざ、男爵家から無理な婚姻をする必要があったのですか?アンナリーゼ様が自ら詳らかにされましたが、領民を苦しめていた張本人とその親族だったようではありませんか!」
「……それは!」


 やらしく笑うルチルに反論できないジョージア。事実を言われれば、言い返すこともできないだろう。その男爵を動かしていたのが、ルチルの父、ゴールド公爵だったとしても、それを公にすることも、今はできなかった。
 あのとき、散々調べたのだ。公とありとあらゆることを紐解き、隅の隅まで調べつくした。が、ゴールド公爵が関わった記録だけ、すっぽり抜けていたのだ。

 ……トカゲのしっぽ切りがうまいのよね。ゴールド公爵って。

 その後も、小さなことからコツコツとセバスが自身の信頼できる人を使って、パルマが動いて、どんな些細なことでもいいからと情報を集めてみても、『らしい』とかで、確証が取れたことがなかった。
 ルチルは、ゴールド公爵が何かをしていることは知っているだろう。身内なのだし、外で、そんな話はしないだろうから、茶会や夜会に紛れて、何らかのやり取りをしていることまでは、突き止められている。
 ただ、全容は知らされていないに違いない。私がした『ダドリー男爵の取り潰し』も世間の見解どおり、私の怒りをかったからとしか思っていないはずだ。

 ……目の付け所は、よかったんだけど、まさか、身内の黒い部分だったとは、気付かないんだろうな。そんなはずはないと、目をつぶったのか。どちらにしても、社交界でも実生活でも、うちに入れることはない人物。派手に注目を浴びているけど、そろそろ、お開きにしてほしいわ。


「ルチル、そこまでにしたらどうだい?ジョージア様も困っている」
「いえ、困っているだなんて、強調していただかなくても……ゴールド公爵。ジョージア様は、困っているわけではありませんわ。こんな場所で、非常識な物言いに呆れているのです」
「それは、それは、アンナリーゼ様。失礼をいたしました。愚息の躾がなっていませんで……」
「いいのよ?そんな些末なこと。ルチル様は、私のことを大層気に入ってくださっているようですもの。ぜひ、お時間ができましたら、ダンスなどいかがですか?」


 女性からの誘いはマナー違反ではあるが、私は公爵だ。ダンスをしてやるからと高圧的に言ってやることはできる。
 定石としては、『公爵様のお時間を取るには』と断るのが正解だが、きっと、ルチルは断らないだろうと踏んでいた。最上級のまさかの予想を1つしたまま、どういう反応がくるのかと、答えを待った。


「では、愚息ではなく、私と1曲踊ってくだされ。筆頭と並ぶ公爵位。過不足はないかと存じます」
「えぇ、もちろんよ!喜んで」


 最上級のまさかを言ってくる当たり、さすがのタヌキだと本当の意味で微笑んだ。もちろん、会場はざわついた。冷戦状態だと言っても過言ではない公爵家同士のダンスなんて、一生に一度見れるかというほど、貴重なものだ。大広間にいるみなが、隣通しで囁きあっている。
 ザワザワとしている会場に遅れて入って来た公。私の方を見て、今度は何をやらかしたんだ!と目が吊り上がっていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

処理中です...