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ウェスティン伯爵
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「呼んでおいたぞ?エルドアの」
「本当ですか?こんな時期によく来てくださいましたね?」
「……アンナリーゼが会いたいと言っていると言えば、すぐ飛んできた。手紙がついた頃には、もう、こちらを出発していたのだろう。おかげで、ずいぶん、長いこと、ローズディアへの滞在を許可しないといけなくなったのだぞ?」
褒めたたえよという表情をしたまま、少しげんなりしている。何かあったのだろうが、私は知ったことではない。セバスにお願いしようとしていただけなのに、わざわざ公が動いてくれたということに驚いている。
「いいではないですか?見せて困るようなものもないでしょうし、楽しいひとときを過ごしたのではないですか?かの貴族は多趣味だと聞いておりますから」
「あぁ、確かに……いろいろな遊びを知っていた。退屈はしないのだが、そのどれもこれも一級品だった。チェスなんて、1度も勝てなかったぞ?」
「それは、楽しみです!チェス盤を用意してくれますか?」
「かまわないが……みなの注目を浴びるぞ?強いのか?」
どうでしょう?とジョージアの方をみれば、首を横に振っている。どうやら、私は強くないらしい。
……ジョージア様に負けたことはないのだけど?
小首を傾げていれば、公もジョージアの反応を見て、私の腕前はたいしたことがないと認識したようだ。
「まぁ、さすがに、負け過ぎたら恥ずかしいからな?何回か負けたら、他のものに変わってもらえ」
「わかりました」
「ところで、何故、会いたかったのだ?特に変わったところはないだろう?」
「特にですか?公は、彼にチェスで1回も勝てなかったといいましたよね?」
「あぁ、その通りだ。ギリギリのところを攻めて、いけると思ったら負けている。逆にきっちり守ろうとしていたら、いつの間にやら、門戸を開かされてしまった」
あれは、紙一重の試合だったという公をクスっと笑う。気分を害したのか、こちらを睨んでくるが、いつものことなので、お構いなしである。
「公は、ご自身が強いと思っているのですか?」
「当たり前だろう?ジョージアにだって、五分の勝負ができる。アンナリーゼは、ジョージアにすら、勝てないのであろう?」
「失礼ですね?全戦全勝ですよ!私が、負けるのは、イチアだけです。何回かに1回はセバスに負けますけど……ウィルとの対戦のときは、条件付きで勝負しても勝ちますけど?」
えっへんとアンジェラが胸を張るように、私も同じようにする。後ろでジョージアが、こめかみをグリグリとしているようだが、見えない感じないように振る舞う。公は、はぁ?と言って、固まる。
「……強いわけがなかろう?ジョージアにも負けると」
「俺が、アンナに勝てたときなんてないですよ。体の調子が悪いと、こめかみをもみながらでも、簡単に勝っていきますよ」
優しく頭を撫でられ、目を細めて喜んでいると、沸々と怒りが込み上げてきたのか、公が震えている。
「……アンナリーゼは、弱いのではないのか?」
「強い方だと思いますよ?ただ、彼は、特別です。ほとんどの人が、その存在を知らないのではないですかね?」
「チェスの名人という称号か……」
「常勝将軍軍師のイチアでさえ、一目置く方ですよ。お年は、40代半ばほどでしたよね?」
「……常勝将軍軍師が、一目置くだと?」
「えぇ、確か、肩書はたいしたものではなかったはずです。騎士団の会計係とかそんな感じの役職についてましたよね?」
「あぁ、そんなことを言っていたような気がするが、そうではないのか?軍師を唸らせる会計係なんて、いてたまるか!」
「いるじゃないですか!会計係ではないですけど、イチアを負かしたものが」
「ウィル・サーラーとセバスチャン・トライドか?」
「正確にはセバスだけです。危なっかしいセバスを見ていられなくて、ついて行ったのがウィルですから」
「数年前の話で、なにやら、その時点でも思い違いがあったのか?軍部のほうが、目立つからと思い込みもあったのか……?なんにしても、セバスチャン・トライドも帰ってきたら、表彰ものだ」
「戦争回避に大きく関わったらのだから、勲章くらいあげてくださいね!」
ニッコリ笑っておくと、引きつった顔をしている。頬がピクピクとしており、これから夜会だというのに、可哀想になる。
「では、さっそく、会わせてください!」
「ウェスティン伯爵にか?」
「他にいますか?」
「いない。終わりの夜会が始まったら、席をもうけよう。アンナリーゼに話を聞いて、興味が出てきた。今まで、遠巻きに対処していたが、そういうことなら、きちんとした……」
「振る舞いは、常日頃から、きちんとしてください!」
「アンナが言える立場ではないと思うよ?農民と見分けられないくらい、町に馴染んでしまっているから」
領地でのことを指摘され、言い返せない私を得意げにしながら見ている。
今日のジョージア様、意地悪ね?
チラリと見れば、楽しそうに笑っている。どうやら、今日の夜会を楽しみにしていたようだった。
「本当ですか?こんな時期によく来てくださいましたね?」
「……アンナリーゼが会いたいと言っていると言えば、すぐ飛んできた。手紙がついた頃には、もう、こちらを出発していたのだろう。おかげで、ずいぶん、長いこと、ローズディアへの滞在を許可しないといけなくなったのだぞ?」
褒めたたえよという表情をしたまま、少しげんなりしている。何かあったのだろうが、私は知ったことではない。セバスにお願いしようとしていただけなのに、わざわざ公が動いてくれたということに驚いている。
「いいではないですか?見せて困るようなものもないでしょうし、楽しいひとときを過ごしたのではないですか?かの貴族は多趣味だと聞いておりますから」
「あぁ、確かに……いろいろな遊びを知っていた。退屈はしないのだが、そのどれもこれも一級品だった。チェスなんて、1度も勝てなかったぞ?」
「それは、楽しみです!チェス盤を用意してくれますか?」
「かまわないが……みなの注目を浴びるぞ?強いのか?」
どうでしょう?とジョージアの方をみれば、首を横に振っている。どうやら、私は強くないらしい。
……ジョージア様に負けたことはないのだけど?
小首を傾げていれば、公もジョージアの反応を見て、私の腕前はたいしたことがないと認識したようだ。
「まぁ、さすがに、負け過ぎたら恥ずかしいからな?何回か負けたら、他のものに変わってもらえ」
「わかりました」
「ところで、何故、会いたかったのだ?特に変わったところはないだろう?」
「特にですか?公は、彼にチェスで1回も勝てなかったといいましたよね?」
「あぁ、その通りだ。ギリギリのところを攻めて、いけると思ったら負けている。逆にきっちり守ろうとしていたら、いつの間にやら、門戸を開かされてしまった」
あれは、紙一重の試合だったという公をクスっと笑う。気分を害したのか、こちらを睨んでくるが、いつものことなので、お構いなしである。
「公は、ご自身が強いと思っているのですか?」
「当たり前だろう?ジョージアにだって、五分の勝負ができる。アンナリーゼは、ジョージアにすら、勝てないのであろう?」
「失礼ですね?全戦全勝ですよ!私が、負けるのは、イチアだけです。何回かに1回はセバスに負けますけど……ウィルとの対戦のときは、条件付きで勝負しても勝ちますけど?」
えっへんとアンジェラが胸を張るように、私も同じようにする。後ろでジョージアが、こめかみをグリグリとしているようだが、見えない感じないように振る舞う。公は、はぁ?と言って、固まる。
「……強いわけがなかろう?ジョージアにも負けると」
「俺が、アンナに勝てたときなんてないですよ。体の調子が悪いと、こめかみをもみながらでも、簡単に勝っていきますよ」
優しく頭を撫でられ、目を細めて喜んでいると、沸々と怒りが込み上げてきたのか、公が震えている。
「……アンナリーゼは、弱いのではないのか?」
「強い方だと思いますよ?ただ、彼は、特別です。ほとんどの人が、その存在を知らないのではないですかね?」
「チェスの名人という称号か……」
「常勝将軍軍師のイチアでさえ、一目置く方ですよ。お年は、40代半ばほどでしたよね?」
「……常勝将軍軍師が、一目置くだと?」
「えぇ、確か、肩書はたいしたものではなかったはずです。騎士団の会計係とかそんな感じの役職についてましたよね?」
「あぁ、そんなことを言っていたような気がするが、そうではないのか?軍師を唸らせる会計係なんて、いてたまるか!」
「いるじゃないですか!会計係ではないですけど、イチアを負かしたものが」
「ウィル・サーラーとセバスチャン・トライドか?」
「正確にはセバスだけです。危なっかしいセバスを見ていられなくて、ついて行ったのがウィルですから」
「数年前の話で、なにやら、その時点でも思い違いがあったのか?軍部のほうが、目立つからと思い込みもあったのか……?なんにしても、セバスチャン・トライドも帰ってきたら、表彰ものだ」
「戦争回避に大きく関わったらのだから、勲章くらいあげてくださいね!」
ニッコリ笑っておくと、引きつった顔をしている。頬がピクピクとしており、これから夜会だというのに、可哀想になる。
「では、さっそく、会わせてください!」
「ウェスティン伯爵にか?」
「他にいますか?」
「いない。終わりの夜会が始まったら、席をもうけよう。アンナリーゼに話を聞いて、興味が出てきた。今まで、遠巻きに対処していたが、そういうことなら、きちんとした……」
「振る舞いは、常日頃から、きちんとしてください!」
「アンナが言える立場ではないと思うよ?農民と見分けられないくらい、町に馴染んでしまっているから」
領地でのことを指摘され、言い返せない私を得意げにしながら見ている。
今日のジョージア様、意地悪ね?
チラリと見れば、楽しそうに笑っている。どうやら、今日の夜会を楽しみにしていたようだった。
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