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リアンへの提案Ⅱ

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 翌朝、朝の支度をしてくれるリアンをジッと見つめていた。手際よく進めて行く様子は、ここへ来たときと変わらず、とても、丁寧だった。


「リアン」
「どうかされましたか?朝食はあと少しでご用意できますけど」


 部屋に用意してもらった朝食を机の上に並べてくれているところだった。あとは、お茶を入れてもらえば、いつでも食べられる状態だ。


「少し、話があるのだけど……朝食のあと、時間はとれるかしら?」
「えぇ、大丈夫です。何なりと申し付けください」


 優しく微笑むリアンに用意してもらった朝食を食べに向かった。珍しく、未だにだらしない格好でいる私に何も言わないでくれる。


「アンナリーゼ様、あとで少し髪を結いましょうか?」
「そうね、少しこのあたりが長くなってきたように思うわ」
「夜会も近いことですから、整えられますか?」
「やめておくわ!それより、リアンが結ってくれないかしら?」
「私で大丈夫ですか?」
「もちろんよ!お願いね?」


 お茶を飲み、朝食を食べる。綺麗になったお皿から、ワゴンへ片付けていってくれた。もう一杯もらえるかとカップを出せば、おいしいお茶を入れてくれた。


「今から、いいかしら?」
「はい、もちろんです」
「じゃあ、そこに座ってくれる?」


 失礼しますと少し緊張したようにソファの前の方に腰掛けた。
 いつでも立てるようにと配慮してくれているのだろう。そんなリアンだからこそ、レオやミアと離れて暮らさないといけなくなる提案は、心苦しかった。


「実は1つ提案があるの。ただ、これは、断ってくれてもかまわないとだけ、前置きをしておくわ!」
「断ってもですか?アンナリーゼ様からなら、私、耐えられますけど……少し、怖いですね」
「そう、だよね?面と向かって話すは、少しだけ、私も怖いわ」


 リアンは、肯定も否定もせず、ただ、優しく微笑むだけだった。

 本当に、受け入れてくれるんだ……私の提案。

 いう前から、何でもするというふうな視線に、私は正直、戸惑ってしまう。
 私の提案の方が、おかしいのではないかと……。


「アンナリーゼ様は、私に何をお望みでしょうか?」
「……望み、望みね」


 なかなか言い出さない私を不思議に思っているようで、優しい姉のように問うてくれる。そのたびに、胸が少しずつ苦しくなっていった。
 逸らした視線をリアンに向けると、いつも以上にこちらを見つめてくれる。


「何かあったのですか?」
「何もないわ。ちょっと言い出しにくいだけ」
「……私を追い出すというお話でしょうか?」


 リアンの言葉に、私の方が驚く。結果的に同じような仕打ちをしてしまうことになる。どうしらと思うこともあるが、新しい仕事にもやりがいはあるのではないかとおもってはいた。


「……追い出し。それに近い話になるかもしれないわね」
「そうですか。私は、アンバー公爵家に必要ではないものなのですね。ちらほら戦争が起きるのではないかという噂があります。それに何か関係がありますか?」


 私は頷く。肩を落とすリアンにどう言葉をかけるか考えていた。


「……いつ、お屋敷を出ればいいでしょうか?引継ぎや準備も必要ですし、住む場所も。子どもたちは、どうなるのでしょうか?」


 気になる点をすらすらあげていってくれる。これは、私の身の回りをする上で、どうしても後任への引継ぎをする関係上、時間が欲しいということだった。


「……提案はね、今すぐ、屋敷を出ていってほしいというものではないの。私、リアンにお願いしたいことがあるの。耳を傾けてくれるかしら?」
「はい、それは……私を追い出すということではないのですか?」
「結果、そうなるかもしれないけど、リアンは、私のアンバーの侍従ですから、そんなことはしません。ただ、私が望むことは、リアンの配置換えを考えています」
「私のですか?」
「えぇ、コーコナ領で孤児を連れて来たのは知っている?」
「はい、アデルから昨日聞きましたので、知っています。それが、何か関係があるのですか?」
「そう。断ってもらってもいいから。あくまでも提案、相談という意味で聞いてほしいの」


 はいっと、さらにソファにの浅い場所へ座り直した。


「孤児たちをアンバー領へ連れていこうと思っているの。乳飲み子だけは、信頼できる貴族が、育てたいと連絡をくれたので、お願いしようと思っているの」
「アンバー領へ行ったあと、その孤児たちを見る役が必要で、その役を私にというお話でしょうか?」
「話が早くて助かるわ!」
「それでしたら、私、よろこんで孤児たちの面倒をみさせていただきます!」
「いいの?そんなに、即答で」
「はい、もちろんです!もう少ししたら、ウィル様も帰ってくると聞きおよんでいます。戦争があれば、近衛ですから、戦地に向かわれることでしょうが……子どもたちには、あの方がついていらっしゃったら、私は、少し身をひいたくらいがちょうどいいのかと思っていました」


 リアンをみれば、養子に出したのに、いつまでも世話をしているわけにはいかないというふうだ。


「それに、孤児たちの方が、レオやミアより小さいのですもの。私にできることなら、何だってしますわ!」
「ありがとう。それでね?」


 孤児たちを前領地の屋敷に居を構えたいという話をすれば、それは素敵ですね!と笑ってくれたのである。
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