上 下
935 / 1,480

文書を書いて送るわ

しおりを挟む
「コーコナの隊長って出回っていることが多いんだっけ?」
「……そうですね」
「わかったわ。正式に文書にして渡すことにするから。あと、警備隊については、再編するようそちらも連絡することにします」
「この女!現場を知らないヤツが何を!」
「現場ね……先日、人身売買があったことは知っているかしら?」
「……」
「聞いていないの?領地の外れにある教会でのことよ?この領地では、未だにあるんですってね?それって、警備隊が手引きしているってことじゃないわよね?」
「……しらねぇーよ!そんなこと」
「調べればいいことだから、別にいいわよ。この領地って、最初から少しおかしなところが多いのよね。領主がずっといる状態ではないから、目の届きにくいところもあるし……少し考えないといけないと思っているのよ。手放すって言うのもひとつだし……」
「辞めてください!そんな冗談。アンナリーゼ様が領主でなくなったら……ここは、この領地は、ダメになります!」


 コットンの必死な訴えに微笑むだけにして何も言わず、心内で、少し考える。

 私には、圧倒的に使える人が少なすぎるわ。貴族でありながら、私と志を同じくしてくれる人が、まだまだ多くない。ゴールド公爵家の息のかかっていない貴族が欲しいのだけど……中立を守っている貴族は、どちらかと言えば、ゴールド公爵家よりなのよね……。
 誰か、適任はいないかしら?ローズディア公国内で貴族であまりもの……。


 そんな都合のいいものは、いないんだろうな……と、大きくため息をついたら、慌てているコットン。コットンにとって、私が領主になったことで、大きな利益を出せている。もちろん、コットンだけではなく、農家全体的にだ。ここにも、農家の移住がわずかながらも増えていることが報告されているので、死活問題となることもあった。私も、主要産業となっているコットンの綿花農家を手放すわけにもいかない。


「心配しなくても、コットンが作ってくれる綿もタンザのところの生糸も工場長のところの布も、私にとって大切な商売の相手だからね。手放したりしないよ?」
「……それなら、いいですけど。何か起こっているようですし、それが、警備隊が関わっているとなると……」
「関わってなんてない!いい加減なことをいうな!」
「それは、まだ、調べてみないとわからないことでしょ?積極的に関わっていないかもしれないけど、間接的にってこともあるし」
「そんなこと、あるわけ!」
「それほど焦る必要もないではないですか?何を焦っているのです?」


 コットンの質問に副隊長たちは、何も言い返せなくなった。何か隠している可能性は高いが、私が何かをする必要はない。ここは、アデルに任せようと後ろを見る。
 心得たというように頷いてくれたので、何しかしらの報告はくれるのであろう。


「さて、帰りましょう!他にも行く場所があるから。お邪魔したわ!」


 私たちが部屋から出ていこうとすると、いかつい青年の方が、私を呼び止めた。何を考えているのか、目を見ればわかる。
 バカにされたと思っているのだろう。勝負をしろと言ってきたのだ。


「アンナ、私が」
「いいけど、それじゃあ、納得いかないのでしょ?天下の副隊長は、女である私に負けるはずはないし、気に入らないのだから。そうでしょ?」
「そうだ。勝負で勝ったほうのいうことをきく。それでどうだ?」
「私に何の得があるの?一人の領民が職を失うだけのことに。体を動かしたいから、別にかまわないけど……そうね。私が勝ったときは、少し考えておくわ!あなた、文字の読み書き計算はできるかしら?」
「副隊長だからな。それくらいは、できる」
「わかった。なら、勝負しましょう。私にもうまみがでるように、あなたが、万が一にも勝てば、きけそうなことなら1つだけ叶えてあげる。お金はないからダメよ!」
「あぁ、わかった。その体を一日貸してもらうだけでいい」
「そんなことでいいのかしら?対等でない気がするけど……まぁ、いいわ。あなたが負ければ、あなただけでなく、そちらのあなたも一緒に私の願いをきいてもらうことにするわ!」


 行きましょうと部屋を出て、訓練場へと向かう。倒れこんでいた警備隊は、未だ立てずに寝転んでいるものもいるが、ほとんどが、酔いからの惰眠だろう。副隊長が大きな声でどけっ!と叫んだ瞬間、蜘蛛の子を散らすように訓練場の真ん中に障害物がなくなった。
 木剣を拾い、真ん中まで歩いて行くと、青年は、剣を抜く。


「卑怯だぞ!アンナリーゼ様は、木剣なのに!」
「うるさいっ!黙れ!」


 コットンが抗議したにも関わらず、自身の行動に疑いもせずに私に切りかかってきた。大きな体は、さすがに鍛えてあるので、筋肉の塊。振るった剣には風圧もあり、鋭い。


「避けてくれて、嬉しいよ!せっかくの体、傷がついちゃ、もったいない!」
「ふーん。そう」
「木剣で、俺に勝てるなんて、本気で思ってないんだろ?負けたときの口実に……私は、私は……なんて」
「もういいかしら?無駄口、聞いている暇はないのよね!領主って、本当に忙しいの!公との約束もあるから、日も限られているし!」


 キッと睨み上げ少しだけ距離を取る。ニマニマ笑っている青年は、剣を振り下ろした瞬間、私の木剣の餌食となり無様に崩れ落ちることになった。
 たいしたことないねと呟くと、もう一人の青年は、私を背に逃げようとしたので、木剣をなげ、自慢の顔面から地面に倒れるよう足を絡ませてやる。思惑通りとなり、笑うものが多く、ある意味可哀想なことをしてしまったなと頬をポリポリとかくのであった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...