ハニーローズ ～ 『予知夢』から始まった未来変革 ～

ねぇ？あの子

　大男が倒れた音で、事務所の中から数名、訓練場へ駆けてくる。


「な、なんだこれは？」
「一体どうなって？」
「あぁ、また、やっちゃってましたか？お嬢さんたち、ここは、そういう場じゃないんだからとっとと出ってください！」


　一際背の低い子どものような子が、警備隊員と『遊んでいた』女性たちを追い出す。その中で、駆け寄ってきたアデルと二人、倒れた隊員の真ん中で、その様子をみていた。


「また、問題を起こしていたのですか？困った人たちだ。今度、女性たちをここへ呼び込んだら、どうなるか……話しましたよね？」
「スピア様、たぶん……誰も聞いていないかと」
「……それも困りましたねぇ？もう、毎度毎度、問題を起こすのはどこの誰ですか？領主が変わって、だいぶマシになってきたと思っていたのに……本当に手間のかかる人ばかり。解雇してしまいますからね！約束通り。不当解雇ではありませんよ！ちゃんと、血判状もありますからね！」
「……いや、それもですね？スピア様」


　スピアと呼ばれる背の低い男性の副官なのだろう。隣に並ぶと親子帆の身長差があるスピアに話しかけている。あまりにも、ちぐはぐで、思わず笑ってしまった。


「アハハハハハハ！アデル、ダメ……もう、堪えられない！」
「……アンナ、失礼ですよ！ほら、睨まれて……」
「なんだ、いきなり大笑いして。出て行くよう命令したはずですが？」


　スピアと副官数名が腹を抱えて大笑いを始めた私を睨んだりいぶかしんだりして、警戒をしている。


「……ここは、強制的に退去していただこう。いうことを聞かないなら、力ずくでも……！」


　副官が私たちへ退去するよう命令するが、未だに笑いが止まらい私とそれを宥めるようにアデルがソワソワしているのを苛立たしそうに見ていた。


「いい加減にしないか！ここは警備隊の訓練場なんだぞ！」
「……強制退去を。捕まえろ！」


　副官たちが、剣を構えた。私とアデルを捕まえるために。さすがの私も、剣を構えられたら笑ってばかりもいられない。


「アデル、あちらさんやる気よ！アデルも参加する？」
「……えっと」
「そういうところよね！私とアデルには実力差があるのはわかるわ。でもね？こういうときだからこそ、剣を振りなさい。何かあったら、全部私が対処してあげる。骨は拾ってあげるわよ！」


　ニコッとアデルに笑いかけると、最後のは余計です！といい、足元も木剣を掴んだ。朝の練習の成果か、今までのアデルとは少し違う構え方をする。全身に力が入りすぎていたアデルの基本姿勢を見直したのだ。疲れにくくなったらしく、他の訓練も合わせて体力もついたので、構え方も自然だ。
　私はアデルの二歩後ろで、微笑んだ。ここに来て、朝の練習もそれほどの日数はこなしていないのに、頼もしい背中になりつつある。
　一歩近づき、背中をバンッと叩く。


「リアンを任せもいいかも？くらいの疑問系くらいの頼りがいのある背中になったわよ？」
「それ、まだ、褒めてないですよね？」
「当たり前じゃない！リアンは筆頭侍女デリアと引けを取らないほど、優秀な侍女なのだから。易々と渡すと思う？」


　ニィっと覗き込むように笑うと、困りましたね？とアデルは苦笑いをしながら、前を睨んだ。


「……何をこそこそと！木剣を持ったということは、歯向かうつもりか！どこの所属だ。言え！」
「……本当のことは、言わないで。あの人たち、ここの人より強いから、確認したいわ！」
「……わかりました」
「何をこそこそと！早く言え！」
「……ただの通りすがりの領民ですよ！」
「領民？そんな髪の女性、見たこともないぞ！」
「最近引越ししてきたから、知らないんじゃないですか？妻のアンナは、美人ですから、すぐに噂の一つや二つや三つくらい、すぐに広まるんですけどね！」


　まぁいいとしびれをきらした警備隊が、突っ込んでくる。スピアは、私たちのことをずっと観察はしていたが、何も言わなかった。転がっている隊員たちと交互に見ながら私の手に握っている木剣を見ていた。


「行くぞ！少々、痛い目にあわないとわからないようだからな！」
「……血の気の多い。領地はこんなのばかりですか？」
「そうでもないけど……ここもそうみたいね？」


　先に仕掛けてきたのは、警備隊。アデルにあと数歩というところに来て、スピアが叫んだ。


「停まれッ！バカ者！」


　剣を振るうものは、急にはとまれない。そのまま、アデルに切りかかる。当然、警備隊は剣だ。アデルにケガをさせてしまうと思っただろう。スピアも慌てて、私たちの方へ駆けてくる。スピアは、ただ駆けるだけ。後ろの副官たちは、剣を抜いた。


「バカ野郎！剣をしまえ！そして、お前らついてくんな！」


　スピアを守ろうとついて来る副官たち。剣を抜いているので、こちらもとまらないだろう。スピアの命令でも、誰もいうことを聞こうとしていないのだから。


「……アンナ！」
「アデルは、そちらを何とかなさい。私が、向こうを片付けるわ！」


　木剣を構え、私も駆け出した。相手はスピアを除いて三名。膝をつかせることに、それほど時間はかからなった。
　その様子を見ていたスピアは、目が零れ落ちるのではないかと言うほど、見開いている。そのき、アデルの方も決着がついたようで、警備隊員の方が、地面に倒れこんだところであった。