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適性検査Ⅴ
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「ずっと、聞いてみたかったことがあるのですが」
「何かしら?」
子どもたちの礼儀作法の教育をディルに任せ、私たちは、馬小屋へと向かう。アンジェラとエマ、ココナは屋敷に残り、他の子どもたちのことを話し合うようだ。アンジェラは、護衛対象として、エマとココナの側にいることになっていた。
私は、レナンテを厩舎から出して、頭を撫でる。気持ちよさそうにしていたのだが、アデルが連れてきた牡馬が気に入らないのか、少々ご機嫌斜めになる。
「レナンテって、アンナ以外に懐く人いるんですか?」
「あれ?知らない?」
「えっ?」
「ノクトとアンジェラは、何も言わないわよ?」
「……ノクト様が乗っている馬って……もしかしなくても、レナンテだったのですか?」
「そうね。私が乗っていないときは、だいたいノクトが乗ってる。アンジェラもノクトと一緒に乗っていることもあるけど」
「見たこと、あります」
手を貸してもらい、レナンテに飛び乗ると、私はアデルが馬に乗るのを待った。
行きましょうかとレナンテに指示を出せば、コットンの治めている綿農家へと歩を進める。領地を回る時間が今回は十分取れずにいたので、人攫いを片付けたあと、コットンに会いに行く予定をしていたのだ。
「そういえば、さっきの質問はなんだったの?」
アデルが、聞きたいと言っていたことを聞き返すと、少し難しい顔をしながら、答えてくれる。
「今回、四人の適正をみたじゃないですか?」
「簡易的なものね。これから先、もっと、あの子たちにあった教育をするためには、見極めがひつようだけど……」
「そうですよね。簡易的だと、ディルさんも言っていましたからね」
「そう。デビュタントと同じ年まで、まだ、時間があるから、焦りながらもじっくり育てていくつもり。アンバー領でなら、それが、可能だから」
「確かに、先生になる人物が多いですからね。最初、ナタリー様が何故重宝されているかわかりませんでしたけど、商才を買ってのことだったり……」
「ナタリーの商才は後付けね。ニコライと関わるうちについたものだし……、ニコライの目もナタリーがいてこそ、身に着いたものね。貴族の子女として、より多くの本物を見て、目や感覚を磨き、貴族だからって横柄にするんじゃなくて、ニコライに対しても、自ら学んでいたわよ!」
「……それを聞けば、頭が上がりません。アンバー領でもコーコナ領でも女性の登用が多いのは、ナタリー様の関係でですか?」
私は苦笑いをし、ナタリーが結婚も離婚も経験したことを伝えると、驚いているアデル。一般的に政略結婚した女性は、離婚をしない。そうすれば、親元からも疎まれ、生活苦でとても身が持たないから。何もかもを侍女やメイドがしてくれているカラマス子爵家であれば、将来を考えても、ナタリーにとって何の得もないはずだ。
「自身では、政略結婚も受け入れていたらしいわ。どんな、旦那様でもね。でも、ナタリーには、守る女性たちが出来た。人攫いをしていたのよ、チャギルが。年頃の女性ばかりをね。そんな、彼女たちを守るために、立ち上がったのが、当時、暇を持て余していたナタリーね。元々、才能はあったんだと思うの。私と違って、勉強もそこそこできていたし。礼儀作法だって、所作がとっても綺麗でしょ?」
「確かに。あまりお見かけしませんが……馬に乗っているところ以外」
「そうね。あちこち飛び回っているから。チャギルから、守っていた女性を連れて離縁してきて、私に働き口がないかって話をしてきたとき、驚いたけど……今の姿を見れば、きっと、あれが本来のナタリーなんじゃないかって思えるわ!とっても輝いているもの」
遠いところを見ながら、なんでもできるナタリーが欲しいとごねていたときが懐かしい。やはり、アンバー領再興になくてはならない存在であったことは、誰が見てもわかる。
「ナタリー様は商の道、ウィル様は剣の道、セバス様は文の道。それぞれ適材適所へと向かわれたのですね?」
「そうね、ウィルもセバスも貴族社会で爵位を得ることは難しかったから、自身で道を切り開いて行ったのよ。私は何もしていないし、いつも助けられてばかりよ」
学生のころの話をしながら、笑い合ったり驚いたりと忙しくなくしているアデル。年が違えば、学園での過ごし方も変わってくるし、将来の考え方も違う。
「アデルは、ずっと近衛に?」
「そうですね。ウィル様と同じような考えでです。食える道として、父がくれたものは、健康な体だけでしたから。聞きたかったこと、いいです?」
「そういえば、いつも遠回りしてしまうわね?」
「全然です」
「何が聞きたいの?」
「アンジェラ様の適正です。まだ、小さいですから、これからわかっていくのでしょうけど、どんなふうに……」
「……適正なんて、ないわ」
「えっ?」
アデルの答えに私は自身が知っているアンジェラを思い浮かべる。適正というものが、アンジェラには、ない。何が特に好きはあっても、できないことがないのだから。
「アデル、その胸にしまっておきなさい。いつの日にか、アンジェラのことを見失わないためにも」
隣に並ぶアデル。その緊張が伝わってくるようだった。
「適正はないの。何でも出来てしまうから……神様に近いのかもしれないね?」
私は、微笑む。私を見るアデルは、とても悲しそうな表情をこちらへ向けてきたのである。
「何かしら?」
子どもたちの礼儀作法の教育をディルに任せ、私たちは、馬小屋へと向かう。アンジェラとエマ、ココナは屋敷に残り、他の子どもたちのことを話し合うようだ。アンジェラは、護衛対象として、エマとココナの側にいることになっていた。
私は、レナンテを厩舎から出して、頭を撫でる。気持ちよさそうにしていたのだが、アデルが連れてきた牡馬が気に入らないのか、少々ご機嫌斜めになる。
「レナンテって、アンナ以外に懐く人いるんですか?」
「あれ?知らない?」
「えっ?」
「ノクトとアンジェラは、何も言わないわよ?」
「……ノクト様が乗っている馬って……もしかしなくても、レナンテだったのですか?」
「そうね。私が乗っていないときは、だいたいノクトが乗ってる。アンジェラもノクトと一緒に乗っていることもあるけど」
「見たこと、あります」
手を貸してもらい、レナンテに飛び乗ると、私はアデルが馬に乗るのを待った。
行きましょうかとレナンテに指示を出せば、コットンの治めている綿農家へと歩を進める。領地を回る時間が今回は十分取れずにいたので、人攫いを片付けたあと、コットンに会いに行く予定をしていたのだ。
「そういえば、さっきの質問はなんだったの?」
アデルが、聞きたいと言っていたことを聞き返すと、少し難しい顔をしながら、答えてくれる。
「今回、四人の適正をみたじゃないですか?」
「簡易的なものね。これから先、もっと、あの子たちにあった教育をするためには、見極めがひつようだけど……」
「そうですよね。簡易的だと、ディルさんも言っていましたからね」
「そう。デビュタントと同じ年まで、まだ、時間があるから、焦りながらもじっくり育てていくつもり。アンバー領でなら、それが、可能だから」
「確かに、先生になる人物が多いですからね。最初、ナタリー様が何故重宝されているかわかりませんでしたけど、商才を買ってのことだったり……」
「ナタリーの商才は後付けね。ニコライと関わるうちについたものだし……、ニコライの目もナタリーがいてこそ、身に着いたものね。貴族の子女として、より多くの本物を見て、目や感覚を磨き、貴族だからって横柄にするんじゃなくて、ニコライに対しても、自ら学んでいたわよ!」
「……それを聞けば、頭が上がりません。アンバー領でもコーコナ領でも女性の登用が多いのは、ナタリー様の関係でですか?」
私は苦笑いをし、ナタリーが結婚も離婚も経験したことを伝えると、驚いているアデル。一般的に政略結婚した女性は、離婚をしない。そうすれば、親元からも疎まれ、生活苦でとても身が持たないから。何もかもを侍女やメイドがしてくれているカラマス子爵家であれば、将来を考えても、ナタリーにとって何の得もないはずだ。
「自身では、政略結婚も受け入れていたらしいわ。どんな、旦那様でもね。でも、ナタリーには、守る女性たちが出来た。人攫いをしていたのよ、チャギルが。年頃の女性ばかりをね。そんな、彼女たちを守るために、立ち上がったのが、当時、暇を持て余していたナタリーね。元々、才能はあったんだと思うの。私と違って、勉強もそこそこできていたし。礼儀作法だって、所作がとっても綺麗でしょ?」
「確かに。あまりお見かけしませんが……馬に乗っているところ以外」
「そうね。あちこち飛び回っているから。チャギルから、守っていた女性を連れて離縁してきて、私に働き口がないかって話をしてきたとき、驚いたけど……今の姿を見れば、きっと、あれが本来のナタリーなんじゃないかって思えるわ!とっても輝いているもの」
遠いところを見ながら、なんでもできるナタリーが欲しいとごねていたときが懐かしい。やはり、アンバー領再興になくてはならない存在であったことは、誰が見てもわかる。
「ナタリー様は商の道、ウィル様は剣の道、セバス様は文の道。それぞれ適材適所へと向かわれたのですね?」
「そうね、ウィルもセバスも貴族社会で爵位を得ることは難しかったから、自身で道を切り開いて行ったのよ。私は何もしていないし、いつも助けられてばかりよ」
学生のころの話をしながら、笑い合ったり驚いたりと忙しくなくしているアデル。年が違えば、学園での過ごし方も変わってくるし、将来の考え方も違う。
「アデルは、ずっと近衛に?」
「そうですね。ウィル様と同じような考えでです。食える道として、父がくれたものは、健康な体だけでしたから。聞きたかったこと、いいです?」
「そういえば、いつも遠回りしてしまうわね?」
「全然です」
「何が聞きたいの?」
「アンジェラ様の適正です。まだ、小さいですから、これからわかっていくのでしょうけど、どんなふうに……」
「……適正なんて、ないわ」
「えっ?」
アデルの答えに私は自身が知っているアンジェラを思い浮かべる。適正というものが、アンジェラには、ない。何が特に好きはあっても、できないことがないのだから。
「アデル、その胸にしまっておきなさい。いつの日にか、アンジェラのことを見失わないためにも」
隣に並ぶアデル。その緊張が伝わってくるようだった。
「適正はないの。何でも出来てしまうから……神様に近いのかもしれないね?」
私は、微笑む。私を見るアデルは、とても悲しそうな表情をこちらへ向けてきたのである。
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