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庶民的な服
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陳列されている場所を幾度となく往復する。ビルは私の後ろをついて歩いてくれているのだが、アデルは歩き疲れたらしいアンジェラを抱きかかえてついてきていた。
「あの、アンナ様?」
「……何かしら?あと、その『アンナ様』っていうの、すごく気になるから、アンナと呼んでちょうだい?」
「……はい」
「お二人は、夫婦なのですから、当然ですよね?」
ビルに言われ、先程まで流していた『アンナ様』が許されなくなったことに暗い顔をしているアデル。
「アデル様、ジョー様に飲み物を用意いたしますので、あちらに移動してくださいませ」
「あぁ、助かる。アンナ、いいかな?」
「えぇ、もちろんよ!ビル、お願いね?」
「はい。アンナ様は、まだ、見て回りますか?」
「えぇ、そうするわ!」
私は一人店内を歩き回り、ビルに連れられ、アデルとアンジェラは休憩室へと向かった。
「だいたいよさそうなものは、目星をつけたから……ビルが戻ってきたら、買い物しましょうか」
何往復も歩き回っている間、アデルの服を見繕っていた。3着もあれば十分だろうと頷きながら、他にもジョージア、ウィル、セバスへの贈り物を見繕っている。
「戻りました。アンナ様、何か気になるものはございましたか?」
「えぇ、もちろん。このお店、気に入ったわ。お客もいい感じに入っているし、見ている限りでは、接客も好ましい」
「ここのお店は、ニコライが昨年から目をつけていた場所であったのです。コーコナ領での服やドレス、下着などの売り上げは、どこの店もよかったらしいのですが、店の雰囲気で、どうもこの店だけ入りにくかったと聞きおよんでいます。ニコライが直接相談を受けた案件だったらしいので、接客や陳列方法など、少しテコ入れをしたとも。店主が今年になって、ハニーアンバー店の傘下に入りたいと申してきたところから、ご相談ははじまっています」
「なるほどね。傘下に入るよりかは、独自路線にいった方が、いいわね?領民向けの店、いわゆる、中間層の取り入れという感じね」
「えぇ、そのとおり。ハニーアンバー店では、高級なものから安価なものまで、たくさんの取り扱いがありますが、日常的でありながら、少しいいものを買いたいときのお店というのは、実は、どこの領地を見ても、公都を考えてもないのです」
「なるほどね。確かに……それは、今まで、考えもしなかったもの。今後、アンバーでももう少しお金に余裕が出来る領民が増えたなら、背伸びをしすぎない程度の服は、買い求められることも十分考えられるわね。おもしろいわ。ハニーアンバー店と同じように展開していきたいわね?」
「はい、そうしていければというのが、最終目標です。ハニーアンバー店でさえ、まだ、それほどの広がりがあるわけではありません。店舗数は店の一部を借りるような商売をしていることもあり、増えてはいます。知名度も上がってきていますが、専用の店というのは、限られている」
「確かにね……そろそろ、本格的に店舗を展開していく時期に入っているのかもしれないわ。まずは、ローズディア国内の掌握ね。ゴールド公爵家の息がかかっていないところの。イチアにも言われているのよね……他領との繋がりを広げていくべきだって」
懐かしそうな誇らしいような表情のビルにどうしたの?と小首を傾げてみる。
「いえ、なんだか、嬉しくて。アンバー領が、領主に見捨てられた領地だと言われ、他領からも搾取され、散々だったところを普通の領地並、いえ、それよりもいい領地へとアンナ様が変えてくださいました。腐っていたころが、懐かしく、ずいぶんと変わった自身にも驚かされる毎日です」
「そう?私は、アンバー領がよくなるようにと少し手伝いをしただけにすぎないわ!頑張ってくれたのは、アンバー領を見捨てず、諦めず、見ず知らずの私に手を貸してくれた領民のおかげよ?」
「それだけとおっしゃいますけど、それが出来るのがアンナ様ただ一人です。あのころの領地へそれもみなが驚くほどのボロを着て、泥だらけになりながら笑う貴族が、この国のどこにいますか?」
「いないかもね?私は、兵士たちの訓練とかにも勝手に行ったり、母に狩りへ連れて行ってもらったりしてたから、なんとも思わなかった。人の死だけには、どうしてもなれないけどね……」
「それでいいのですよ。アンナ様は、アンナ様らしくいてくれれば、みなが笑っていられるのですから」
褒められると、こそばゆい。みなに同じようなことで褒められるけど、私のは打算があって、しただけのことだからと心内に呟いた。
「長話をしてしまいました。それで、アデルへの贈り物はもう、お決まりですか?」
「えぇ、もちろん。選んで行くから、あとで屋敷へ送ってもらえるかしら?お金は持っているから、払っていくわ!」
「ありがとうございます。では、選んでいただいたものを、私めに」
ビルが後をついて歩くので、私は次から次へと選んでいく。なんだかんだと、ナタリーやリアン、パルマやエマなど、いつも世話になっているものたちへの贈り物も買い、ビルの腕には、山のように服がつまれている。
「毎度ありがとうございます」
大店の商人らしい笑顔に満面の笑みを返しておく。お金については、ギリギリ足りたくらいだったので、少しだけ胸を撫でおろした。
「あの、アンナ様?」
「……何かしら?あと、その『アンナ様』っていうの、すごく気になるから、アンナと呼んでちょうだい?」
「……はい」
「お二人は、夫婦なのですから、当然ですよね?」
ビルに言われ、先程まで流していた『アンナ様』が許されなくなったことに暗い顔をしているアデル。
「アデル様、ジョー様に飲み物を用意いたしますので、あちらに移動してくださいませ」
「あぁ、助かる。アンナ、いいかな?」
「えぇ、もちろんよ!ビル、お願いね?」
「はい。アンナ様は、まだ、見て回りますか?」
「えぇ、そうするわ!」
私は一人店内を歩き回り、ビルに連れられ、アデルとアンジェラは休憩室へと向かった。
「だいたいよさそうなものは、目星をつけたから……ビルが戻ってきたら、買い物しましょうか」
何往復も歩き回っている間、アデルの服を見繕っていた。3着もあれば十分だろうと頷きながら、他にもジョージア、ウィル、セバスへの贈り物を見繕っている。
「戻りました。アンナ様、何か気になるものはございましたか?」
「えぇ、もちろん。このお店、気に入ったわ。お客もいい感じに入っているし、見ている限りでは、接客も好ましい」
「ここのお店は、ニコライが昨年から目をつけていた場所であったのです。コーコナ領での服やドレス、下着などの売り上げは、どこの店もよかったらしいのですが、店の雰囲気で、どうもこの店だけ入りにくかったと聞きおよんでいます。ニコライが直接相談を受けた案件だったらしいので、接客や陳列方法など、少しテコ入れをしたとも。店主が今年になって、ハニーアンバー店の傘下に入りたいと申してきたところから、ご相談ははじまっています」
「なるほどね。傘下に入るよりかは、独自路線にいった方が、いいわね?領民向けの店、いわゆる、中間層の取り入れという感じね」
「えぇ、そのとおり。ハニーアンバー店では、高級なものから安価なものまで、たくさんの取り扱いがありますが、日常的でありながら、少しいいものを買いたいときのお店というのは、実は、どこの領地を見ても、公都を考えてもないのです」
「なるほどね。確かに……それは、今まで、考えもしなかったもの。今後、アンバーでももう少しお金に余裕が出来る領民が増えたなら、背伸びをしすぎない程度の服は、買い求められることも十分考えられるわね。おもしろいわ。ハニーアンバー店と同じように展開していきたいわね?」
「はい、そうしていければというのが、最終目標です。ハニーアンバー店でさえ、まだ、それほどの広がりがあるわけではありません。店舗数は店の一部を借りるような商売をしていることもあり、増えてはいます。知名度も上がってきていますが、専用の店というのは、限られている」
「確かにね……そろそろ、本格的に店舗を展開していく時期に入っているのかもしれないわ。まずは、ローズディア国内の掌握ね。ゴールド公爵家の息がかかっていないところの。イチアにも言われているのよね……他領との繋がりを広げていくべきだって」
懐かしそうな誇らしいような表情のビルにどうしたの?と小首を傾げてみる。
「いえ、なんだか、嬉しくて。アンバー領が、領主に見捨てられた領地だと言われ、他領からも搾取され、散々だったところを普通の領地並、いえ、それよりもいい領地へとアンナ様が変えてくださいました。腐っていたころが、懐かしく、ずいぶんと変わった自身にも驚かされる毎日です」
「そう?私は、アンバー領がよくなるようにと少し手伝いをしただけにすぎないわ!頑張ってくれたのは、アンバー領を見捨てず、諦めず、見ず知らずの私に手を貸してくれた領民のおかげよ?」
「それだけとおっしゃいますけど、それが出来るのがアンナ様ただ一人です。あのころの領地へそれもみなが驚くほどのボロを着て、泥だらけになりながら笑う貴族が、この国のどこにいますか?」
「いないかもね?私は、兵士たちの訓練とかにも勝手に行ったり、母に狩りへ連れて行ってもらったりしてたから、なんとも思わなかった。人の死だけには、どうしてもなれないけどね……」
「それでいいのですよ。アンナ様は、アンナ様らしくいてくれれば、みなが笑っていられるのですから」
褒められると、こそばゆい。みなに同じようなことで褒められるけど、私のは打算があって、しただけのことだからと心内に呟いた。
「長話をしてしまいました。それで、アデルへの贈り物はもう、お決まりですか?」
「えぇ、もちろん。選んで行くから、あとで屋敷へ送ってもらえるかしら?お金は持っているから、払っていくわ!」
「ありがとうございます。では、選んでいただいたものを、私めに」
ビルが後をついて歩くので、私は次から次へと選んでいく。なんだかんだと、ナタリーやリアン、パルマやエマなど、いつも世話になっているものたちへの贈り物も買い、ビルの腕には、山のように服がつまれている。
「毎度ありがとうございます」
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