上 下
888 / 1,493

家族ごっこ?

しおりを挟む
 社交の季節は始まったばかりではあったのだが、今年は先にコーコナ領へ向かうことにした。公に社交の季節が終わるころに帰ってくるよう言われたので、苦肉の策ではある。
 ジョージアの命が狙われていることも考え、ディルの采配を考え、ジョージアが屋敷からでないようにと話はまとまった。
 私は、次の計画や領地運営にも関わってくるので、領地の視察をしないといけないので、出発の準備をする。


「今回、護衛は連れていくんだよね?」


 心配そうにしているジョージアに微笑む。


「領地へ手紙を書きました。アデルがこちらに来てくれるので、到着したら出発を考えています」
「アデルが一緒なら、安心だ。アンナだけだと、無茶をするから……」
「そうですか?そんなこと、ないと思うんですけど……」
「侍従は誰を?リアンは行くのかな?」
「今回は、エマを連れていきます。ディルも後からついてきてくれ、数日の滞在予定です」
「ディルも?」
「えぇ、公都への報告について、指導しないといけないようなので、くるらしいです」
「アンジーの『予知夢』のこと?でも、それって、正確にはよくわからないんだよね?」
「そうです。だからこそ、連絡や報告の強化をはかろうとしているのです」
「確かに、去年は流行り病の話もアンナが領地にいたから、対処できたことだしね?」


 うーんと、悩んでいるジョージアに微笑んでみた。
 どうかした?と尋ねてきたので、私はジョージアに言っていなかったコーコナ領の話をすることにした。


「コーコナ領は、薬の元になる薬草などの宝庫なのですよ!だから、病には負けません。私もあまり知りませんでしたが、質のいい薬草が生えているらしいのです。ヨハンがこっそり手入れのした薬草畑を作っています。
 人に知られるとまずいような薬もあるので、誰かに公開をするつもりはありませんが、ジョージア様のこと、このあたりに関わってくる可能性があるのですよ……」
「アンナには珍しく悩まし気だね?」
「そうですね。その薬草畑には麻薬が含まれているのですよ」
「なんだって?それって……」
「薬草畑の最奥に見えないようにひっそりと。公に栽培は出来ないのですけど、大きな怪我をしたときに、鎮痛剤として使うものもあるのです。そのために、秘密裏に栽培をしています。決して、ジョージア様も口外はしないでください。他に知っているのは、ヨハンを始め、ごく少数とディルのみ。麻薬で快楽を受入れてしまうと、落ちてしまいます。末端価格もとてつもなく高く、みるみるうちに身ぐるみだけでなくいろいろなものが、その手から零れ落ちてしまうでしょう。最悪、命さえも」
「そんなに危険なものが領地にあるの?」
「えぇ、そうですね。元々自然に生えているものではあるのですが、ごくまれにしか、外にでないものです。良質な薬草があるコーコナだからこそ、生息していたと言っても過言ではありません。危険なものであるのは承知していますが、治療に必要なこともあるのです。ヨハンの管理の元ならと許可を出しています。ヨハンのことだから、そのあたりは、きちんとしていますからね」
「信頼されているんだね」


 そっかと、苦笑いをしているジョージア。どこか、羨ましそうである。


「コーコナ領へ向かうのは、アンナとアンジー、アデルと数人の近衛を連れていくんだよね?」
「そうですね。私も、護衛はそれほどいらない気がするけど、そうも言ってられないですからね。ウィルがいない間は、アデルと連携を取るようにしています」
「コーコナへ行っている間は、アデルと三人が家族ごっこしているのかな?」
「……そうかもしれませんね?」


 やきもちをやいているジョージア。護衛となると、ジョージアではどうしようもないので、仕方がないだろう。
 公都でディルと一緒にネイトとジョージを守るようお願いした。


「コーコナか。来年は、また、一緒に向かいたいな。アンバー領とは、気候も人柄も違っていて、去年は少しの滞在だったし、大変な時期だったけど」
「また、行きたいと言ってもらえてよかった。なによりの誉め言葉ですね。領地へ行った人が、また訪れたいと思ってもらえる領地は、繁栄しますから」
「どうして?」
「人の流通は、お金も動きますし、ものが動くのです。コーコナであれば、特産品の布や糸、それらを始めとする衣類や下着など、たくさん作っていますし、実際、そういうお店も多いのですよ。最近では、貴族女性の趣味に刺繍がありますけど、ちょっとした作品展を開こうという話があるくらい、コーコナでは刺繍が流行っています」
「作品展?絵画とかと同じような?」
「えぇ、そうですよ!この夏にコーコナから、そういうタペストリーや掛け布団用の飾りなんかをハニーアンバー店で取り扱うという話もあります。刺繍は、貴族女性だけでなく、領民の中にもかなり上手な方もいるし、かなり斬新なものや驚くほど精緻なものなど、報告で聞く限りでは、心踊るようなものがたくさんあるらしいです。次の冬の手仕事にどうか?って話もあるくらいなので、アンバー領も含め声をかけてみようと思っています。元々、私のドレスの刺繍は、アンバー領の女性たちの力作ですからね!」

 着ているドレスを立ち上がってクルクルと見せると、確かにと頷く。どれもこれも、ナタリーの目にかなった女性たちが、丹精込めて刺繍をしてくれたものばかりである。
 時間があるときにコツコツと仕上げていくので、それほど多くは作れないらしいが、私のドレスは、領地産でなければいけないので、1年かけてでも作ってもらっているらしい。楽しみであった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

真実の愛の言い分

豆狸
恋愛
「仕方がないだろう。私とリューゲは真実の愛なのだ。幼いころから想い合って来た。そこに割り込んできたのは君だろう!」 私と殿下の結婚式を半年後に控えた時期におっしゃることではありませんわね。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

婚約破棄は誰が為の

瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。 宣言した王太子は気付いていなかった。 この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを…… 10話程度の予定。1話約千文字です 10/9日HOTランキング5位 10/10HOTランキング1位になりました! ありがとうございます!!

「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚

ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。 ※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...