上 下
870 / 1,479

目指せ学園都市!Ⅲ

しおりを挟む
「私の考えですけど、基礎的なものは、やはり、前フレイゼン領主である父が元になっています。学園都市っていっても、研究好きな大人ばかりですから。みんな目を輝かせて、子どものように好きなことをしているんです。私もそのうちの一人ではありたいのですけど……いくぶん、研究するものがありませんから、資金を出しているに過ぎないのですよ!」
「大人が子どもみたいに……」
「代表なのが、ヨハンです。元々の研究は毒に関するものですが、あれもこれもそれも知りたい!って、医師までできますし、他にも農業分野でもかなり活躍してくれました」
「……確か、研究費は、物凄く多いんでしたよね?公にこの前、私費でどこまでなら……と相談されたので、よく覚えています」
「高いですよ!もんのすっごく。でも、それだけの成果をあげてくれています。今回の病も、インゼロ帝国で定期的に広まるものですが、帝国出身者に聞けば、薬はとても飲みにくい上に、効きもそれほどいいとはと聞いています。それに比べ、重症者でも、時間はかかりますが、治るんです。後遺症も今のところ報告もされていない。
 かなり、優秀な成果ではありませんか?」
「確かに……有事の際、これほど助かったと感じたことはなかった。あと、アンナリーゼのところの災害だが、復旧についても迅速に終わっていることも感心していたのだ」
「それも、フレイゼンから呼び寄せた教授たちの力の賜物ですよ!」
「……それもか」


 一度深く考えるようにして、こちらを見てくる公。


「学都にすることで、人口を増やすというのが、アンナリーゼの目論みなのか?」
「もちろん、それもありますが……それだけではありません。知識をひけらかすのが、目的ではないのです。学んだことを、他領にも広めて行きたい。最終はここですね」
「なにゆえに、そのようにお考えなのですか?アンナリーゼ様。私は、剣1本で近衛団長まで昇りつめました。そのような生き方もあるのでは?」
「……それは、恵まれていたから、可能だったのです」
「恵まれていた」
「曲がりなりにも、貴族の令息ですよね?幼いころから、嗜みとして剣を握ることが出来る。おまけに、その体格。鍛えてはいるのでしょうが、いくら鍛えても、それほどの体格になれる確証はありません。令息であれば、当然読み書きが出来ますから、近衛に入ったとしても、昇進の機会は早い」
「では、エリックは、どう見るのですか?今は、元平民であれど、公の側近の一人だ」
「エリックも恵まれた部類に入るでしょう。体格と縁において、たぐいまれなる幸運があった。あのままでは、私と出会うことすらないはずでしたし、何より、ウィルという上官を得ることは、難しかった。たまたま、私の目にとまり、ウィルという上官が声をかけ、丁寧に育てたのだから」
「そういう幸運に恵まれなかったものに差し伸べられるのが、学問ということですか?」
「ちょっと違いますけど……学問は、幸運に辿り着くためのひとつの入口だと考えてもらえればいいと思います」
「ひとつの入口……」
「アンバー領の識字率を聞いて、公はとても驚かれた。それは、たぶん、他領の領主も同じでしょう」
「それを可能にしたのは、どうしたのでしょう?」
「それは、領地秘密だと言いましたけど……学都を目指しているので、もちろん生活に困らない程度の識字率はあげておく必要があります。私、それだけのことをしただけなのです。貴族でいうところ、5歳程度の子が教わることを教えただけです。その後は、自身の身の丈にあった方法で、自由に学んでいます。
 そのまま、高等な学問を学びたいという領民にはそれ用の授業がありますし、農業の分野で学びたいという領民には、それに精通する教授の元、勉学に励んでいます。もちろん、実験もありますので、領民に協力してもらっている部分も多くあり、ほとんどのことを秘匿はしていません」
「何故です?」
「生産量が向上しますからね。ただ、他領のものへは、自主的に口を閉ざしていると報告も受けてはいますけど……識字率が上がったことで、報告書もかけますから、実験の成果を普通の農民が書いて、提出ということもしているようです。より、密に」
「だから、研究と農家の間で、摩擦が起こらないのか」


 感心したような声をあげるのは、宰相。疑問に思い続けたことが、少しわかれば、頭のいい宰相なら、その先も考えられるだろう。


「それにしたって……何年もかかる改革でしょう?街道工事もしていると聞いています。人手も足りないと」
「そうなのです!ですが、急いでいません。何十年も領地内は酷い有様でしたかたから、改善が目に見えて出来ている今、誰も焦ってはいないでしょう。人手は、近衛増強のために借りていますし。そろそろ、今の近衛の内、帰りたい人だけ返す予定です」
「……果たして、帰りたいという近衛はいるのだろうか?」
「いるとは思いますけどね。労働環境は、かなり過酷ですから」
「そうは言っても……」
「選抜については、アデルとリリーに任せてありますから、大丈夫だと思いますよ!」


 領地でウィルの代わりに動き回ってくれている二人を思い出していると、興味を持ったものが二人。
 聞きたそうにしているが、これって言わさるのかしら?と小首を傾げておいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。

みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。 主人公は断罪から逃れることは出来るのか?

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。

夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。 陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。 「お父様!助けてください! 私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません! お父様ッ!!!!!」 ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。 ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。 しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…? 娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)

処理中です...