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宰相代理
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セバスと話をした翌日には、公から城への呼び出しがあり、出向いているところであった。
「アンナリーゼ様」
「セバスも呼ばれていたのね」
「一応、承諾の返事は、今日することになっているので……アンナリーゼ様と一緒に呼ばれましたよ」
「一人じゃなくてよかったわ!」
「僕でよければ、エスコートしましょうか?」
「えぇ、お願い」
差し出されたセバスの手に私の手を重ねる。然程、背丈の変わらない私たちは、歩幅もあい、とても歩きやすい。
「なんだか、注目を浴びている気がするんですけど……」
「そう?いつもより少ないくらいよ?」
「いつもはこれ以上の注目を浴びているんですか?」
「だいたいは、そうね。ジョージア様といると、どうしても目立つし……」
「アンナリーゼ様が、目立つのだと思いますけどね?」
「エリック!」
迎えに来てくれたらしいエリックが、私とセバスの会話を聞いて苦笑いしている。
「セバスチャン様、変わりましょうか?」
「……そうだね」
「えぇ、変わるの?セバスにエスコートなんて、滅多にしてもらえない貴重な時間なのに……」
「それなら、俺もアンナリーゼ様をエスコートしたいのですけど?」
エリックが茶目っ気いっぱいに口角をあげる。城以外で、エリックと顔を合わせる機会が減ったので、なかなか、エリックが求めることは出来ていないのだが、今日は、せめて行きだけでもと、セバスに言えば、セバスもエリックも苦笑いをして、私の我儘を聞いてくれた。
「アンナリーゼ様、帰りは俺とですからね?」
「もちろん!約束よ!」
私とセバスの前を歩いて行くエリックの背中を追いかけるようにして歩く。体の大きなエリックの後ろを歩くと、先程より注目を浴びる。
通された部屋に入り、公の到着を待った。中にはすでに、元近衛団長がいて立ち上がって会釈される。
「お元気ですか?アンナリーゼ様」
「えぇ、元気よ!団長も……アンナリーゼ杯ぶりだから、会うのは随分前になるわね?」
「そうですね……アンナリーゼ様の活躍を聞かない日はないので、こちらとしては、いつもアンナリーゼ様と会っていると勘違いしてしまっていますが、もうそれほどの月日が経ったのですね」
最近は、新人教育の方を担っていると聞いているので、少々、性格も丸くなったように思うが、相変わらずの雰囲気ではあった。
「今回の件、アンナリーゼ様も知っていたのですね?」
「えぇ、先日呼ばれたときに教えてもらいました。セバスへの打診も聞いているので、たぶん、その話をされるのでしょうね」
雑談をしていると宰相を先頭に公とパルマが入ってきた。
「遅くなった」
「今来たところです」
「それならよかった」
公が部屋に入ってきたので席を立とうとしたが、そのままでと指示が出たので、そのまま座っていた。
「集まってもらったのは、他でもない。先日からのエルドアの話だ。本日、返事を出そうと思っている。それで、集まってもらったんだ」
「公にひとついいですか?」
「なんだ?アンナリーゼ」
「私が呼ばれるのは、変ではないですか?」
「……どこも変ではないと思うが?筆頭公爵として、相談役としてだな?」
「相談役って……宰相がいるではないですか?」
「……こんなじいさんではなく、アンナリーゼ様がいいのかと」
宰相が笑いを誘おうとしたらしく、冗談めかしたが、笑えない。
「……コホン。アンナリーゼのいうことは確かにそうなのだが、仮にも国としては、文官であるトライドをアンバー領へ貸しているという立場上、来てもらったのもひとつだ」
「確かに、アンバー領は、セバスがいないと立ち行かないですからね!」
「トライドがいなくても、アンバー領には、稀代の軍師がいるであろう?」
「……イチアですか?」
「あぁ、そうだ。一人いれば、いいではないか?」
「……広大な領地の情報を一人で捌いていくことの大変さは、一生公にはわかりっこないですね?セバスがいても、執務室は山のように書類が積み重なってるものですよ」
「……アンナリーゼ、それをいうなら、国も同じだぞ?国の方が広いんだ。そこのところだな……」
「広いだけじゃなく、処理能力が伴わない文官が多すぎるだけなのでは?」
喧嘩をしに来たわけではないのに、思わず本音が出てしまい、セバスにドレスの袖を引っ張られる。
「……えっと、エルドアのお話を」
「あぁ、そうだな。アンナリーゼ、しばらく話を遮るな」
念を押され、私は黙ったまま、聞くことになった。
「手紙については、パルマに書いてもらうことにした。それで、エルドアとの協議などの様々な話をするために、役職をひとつ作り、トライドに行ってもらう。役職は、宰相代理。今回かぎりのものとなる役職ではあるが、国に益があるよう、ある程度自由に動いてくれ。アンナリーゼほどになると、さすがに、言い訳も壮大になるからなぁ……真面目なトライドには、そんないらぬことは要求していない」
「……はい、かしこまりました」
「宰相代理補佐として、元近衛団長が同席する。わからないことがあれば、聞くように」
「……はい、それは。あの、それにしても、宰相代理とは、随分名が仰々しいのですけど?」
「貴族は見栄えを大事にするから、それくらいついていてもかまわない。今回の交渉、任せた」
珍しく、きりっとした顔で言うものだから、おかしくて仕方がない。ただ、辞令が出るようだったので、笑わないようにしっかり口を閉じた。
「アンナリーゼ様」
「セバスも呼ばれていたのね」
「一応、承諾の返事は、今日することになっているので……アンナリーゼ様と一緒に呼ばれましたよ」
「一人じゃなくてよかったわ!」
「僕でよければ、エスコートしましょうか?」
「えぇ、お願い」
差し出されたセバスの手に私の手を重ねる。然程、背丈の変わらない私たちは、歩幅もあい、とても歩きやすい。
「なんだか、注目を浴びている気がするんですけど……」
「そう?いつもより少ないくらいよ?」
「いつもはこれ以上の注目を浴びているんですか?」
「だいたいは、そうね。ジョージア様といると、どうしても目立つし……」
「アンナリーゼ様が、目立つのだと思いますけどね?」
「エリック!」
迎えに来てくれたらしいエリックが、私とセバスの会話を聞いて苦笑いしている。
「セバスチャン様、変わりましょうか?」
「……そうだね」
「えぇ、変わるの?セバスにエスコートなんて、滅多にしてもらえない貴重な時間なのに……」
「それなら、俺もアンナリーゼ様をエスコートしたいのですけど?」
エリックが茶目っ気いっぱいに口角をあげる。城以外で、エリックと顔を合わせる機会が減ったので、なかなか、エリックが求めることは出来ていないのだが、今日は、せめて行きだけでもと、セバスに言えば、セバスもエリックも苦笑いをして、私の我儘を聞いてくれた。
「アンナリーゼ様、帰りは俺とですからね?」
「もちろん!約束よ!」
私とセバスの前を歩いて行くエリックの背中を追いかけるようにして歩く。体の大きなエリックの後ろを歩くと、先程より注目を浴びる。
通された部屋に入り、公の到着を待った。中にはすでに、元近衛団長がいて立ち上がって会釈される。
「お元気ですか?アンナリーゼ様」
「えぇ、元気よ!団長も……アンナリーゼ杯ぶりだから、会うのは随分前になるわね?」
「そうですね……アンナリーゼ様の活躍を聞かない日はないので、こちらとしては、いつもアンナリーゼ様と会っていると勘違いしてしまっていますが、もうそれほどの月日が経ったのですね」
最近は、新人教育の方を担っていると聞いているので、少々、性格も丸くなったように思うが、相変わらずの雰囲気ではあった。
「今回の件、アンナリーゼ様も知っていたのですね?」
「えぇ、先日呼ばれたときに教えてもらいました。セバスへの打診も聞いているので、たぶん、その話をされるのでしょうね」
雑談をしていると宰相を先頭に公とパルマが入ってきた。
「遅くなった」
「今来たところです」
「それならよかった」
公が部屋に入ってきたので席を立とうとしたが、そのままでと指示が出たので、そのまま座っていた。
「集まってもらったのは、他でもない。先日からのエルドアの話だ。本日、返事を出そうと思っている。それで、集まってもらったんだ」
「公にひとついいですか?」
「なんだ?アンナリーゼ」
「私が呼ばれるのは、変ではないですか?」
「……どこも変ではないと思うが?筆頭公爵として、相談役としてだな?」
「相談役って……宰相がいるではないですか?」
「……こんなじいさんではなく、アンナリーゼ様がいいのかと」
宰相が笑いを誘おうとしたらしく、冗談めかしたが、笑えない。
「……コホン。アンナリーゼのいうことは確かにそうなのだが、仮にも国としては、文官であるトライドをアンバー領へ貸しているという立場上、来てもらったのもひとつだ」
「確かに、アンバー領は、セバスがいないと立ち行かないですからね!」
「トライドがいなくても、アンバー領には、稀代の軍師がいるであろう?」
「……イチアですか?」
「あぁ、そうだ。一人いれば、いいではないか?」
「……広大な領地の情報を一人で捌いていくことの大変さは、一生公にはわかりっこないですね?セバスがいても、執務室は山のように書類が積み重なってるものですよ」
「……アンナリーゼ、それをいうなら、国も同じだぞ?国の方が広いんだ。そこのところだな……」
「広いだけじゃなく、処理能力が伴わない文官が多すぎるだけなのでは?」
喧嘩をしに来たわけではないのに、思わず本音が出てしまい、セバスにドレスの袖を引っ張られる。
「……えっと、エルドアのお話を」
「あぁ、そうだな。アンナリーゼ、しばらく話を遮るな」
念を押され、私は黙ったまま、聞くことになった。
「手紙については、パルマに書いてもらうことにした。それで、エルドアとの協議などの様々な話をするために、役職をひとつ作り、トライドに行ってもらう。役職は、宰相代理。今回かぎりのものとなる役職ではあるが、国に益があるよう、ある程度自由に動いてくれ。アンナリーゼほどになると、さすがに、言い訳も壮大になるからなぁ……真面目なトライドには、そんないらぬことは要求していない」
「……はい、かしこまりました」
「宰相代理補佐として、元近衛団長が同席する。わからないことがあれば、聞くように」
「……はい、それは。あの、それにしても、宰相代理とは、随分名が仰々しいのですけど?」
「貴族は見栄えを大事にするから、それくらいついていてもかまわない。今回の交渉、任せた」
珍しく、きりっとした顔で言うものだから、おかしくて仕方がない。ただ、辞令が出るようだったので、笑わないようにしっかり口を閉じた。
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