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ひとときの休憩は終わった。各々席に戻り、神妙な顔になる。
「続きはお話します。領地の現状を把握したアンナリーゼ様が各領地にいる町医者へ声をかけて回ってくださったおかげで、病で苦しむ国民へ少しでも早く治療を受けられるようになりました。
まず、感謝したいこととして、自らの領地も自然災害にあわれ、さらには、感染病も広がり大変だったアンナリーゼ様が、ローズディアのために医師団派遣のために、ヨハン教授の助手たちを貸してくれたこと、知識を医師たちと共有してくれたこと、そして、薬の供給を申し出てくれたことは、我が国にとって、返しきれない恩ができました。
みなさまの中にも、領地が大変だったと言われる方もいらっしゃると思いますが、危機に瀕したとき、差し伸べられる手の優しさに救われたと思うでしょう」
大仰にいう宰相には苦笑いを送っておくだけにする。口を開けば、何かを言わされるような気がしたのだ。
「アンナリーゼ様は、公の名代として視察に出られたと伺っています。南の方は、どのような状況なのでしょうか?」
「……」
頑なに話さないと思っていたら、他の領主から質問が出る。みな、未知なる病との戦いに恐怖を感じているのだろう。それは、わかる。
「みなさまの領地がどの程度の罹患者がいたのかは、把握できておらずわかりませんが、少なくとも、領地の中心となる街の広場は、罹患した患者で溢れかえり、診断を受けようと列に並ぶもの、道に横たわるもの、痛ましくも亡くなった方が放置されている、そんな状態でした。南へ行けば行くほど、その様子は酷くなっていき、今、最南端には私の主治医であるヨハンが治療にあたっていますが、目を覆いたくなるような惨状だったと聞きおよんでいます」
「目を覆いたくなるような……」
「えぇ、そちらにいらっしゃるサーラー子爵の御子息は、ヨハン教授とともに護衛として最南端で警護していますが、まるで戦場の後のようにあちらこちらに躯があると伝えてきています」
「戦場の後……」
「サーラー子爵の子息は、大規模な戦争を知らないのではないですか?」
「それが、うちの愚息は、近衛に入る前、数週間だけ、インゼロ帝国が大規模展開をした戦争を直に見に行っております。今後のためにと、本人が強く願って。アンナリーゼ様は、ご存じだったでしょうか?」
「いいえ、子爵。私は友人として、サーラー伯爵とはお付き合いがありますが、その話は初めて伺いました」
「アンナリーゼ様にも言っていないことがあったのですね。息子がいうに、いつかの日のためにというのですが、何かご存じでしょうか?」
ウィルたちには、『予知夢』のことを話したことがある。ハニーローズであるアンジェラが、インゼロ帝国との戦争に終止符うつ存在となるんだと伝えた。
未来の準備をしてくれていたのね……全然知らなかったわ。
「私の口からは何もありません。未来のことですから、未確定要素として、サーラー伯爵が想定していたのかもしれません。現に、インゼロ帝国では、第二皇子のクーデターにより、皇帝が入れ替わっていますから……帝国国内が整ったとき、戦争好きなインゼロ帝国ではなく、さらに残忍な帝国と事を構えなくてはいけなくなるやもしれません。宰相」
「はい、アンナリーゼ様。その話は私の方から。今回の感染病のの広まりを含め、インゼロ帝国の陰謀ではないかとふんでいます。
ただ、病に関しては何もそれらしい証拠は出てきていません」
「……病に関してはというのは、どういうことか説明願えますか?宰相」
穏やかそうなジェラン侯爵が、領主らしく厳しい顔になった。これが本来なら、公が身につけるべきものなのだとジェラン侯爵を見つめた。
「今回の病について、調べた結果、裏で糸を引いていたのが、インゼロ帝国の人間と繋がっていた貴族たちです。罰することが決まったものに関しては、今現在、地下牢にいます。すでに逮捕者があちらこちらと出ていると漏れ聞こえていることでしょう」
「確かに……何人か私でも名を知る方々が逮捕されていると聞きおよんでいます」
「同盟国であるトワイス国やエルドア国と違い、インゼロ帝国は相容れぬ相手。それは、仕方のないことです。みなさまもくれぐれもインゼロ帝国との関係について、後ろめたい取引などはせぬようお願いします。それと、ここからが重要な話です」
今までの経緯報告と声音が変わる宰相。みなの注目がより一層宰相へと向かった。
「何かあるのでしょうか?これ以上、驚くようなことが……」
「あります。この感染病の流行で、公室も行き届いていない情報が、今回、紛れ込んでいました。インゼロ帝国から、戦争仕掛けをする裏のものを招き入れたことが発覚しています」
「それは、一大事なのではないか?病が流行って、人が多く死に、国力が下がっている。領民もこの春先に農作物のことをどうしようかと憂いていたのだが……」
「私たちはそのうちの幹部候補を一人捕らえてあります。皇帝に近しい間柄のようで、口を割ることはしません。この人物は、現在丁重に扱っているところであります」
「何故ですか?皇帝に近しい人物であれば、皇帝の弱点となりうるのでは?」
「そうは、ならないでしょう。本人は、自死を選ぶでしょうし、皇帝はなんなくその人物を切ってしまう。インゼロ帝国の現皇帝はそういう情に訴えたようなことをしても、躊躇なく切り捨てる人なのです
その人物を殺すことは、すなわち宣戦布告になるでしょう。善良たるとは言えないですが、皇帝には尽くしてきたようなので、非力な国民を殺したと戦争を始めるのでしょう」
ヒーナのことを思い出す。美貌をもつヒーナは、最近の夜会も茶会も目立っていた。背中に見せる女神と蜂たちを、みなが見惚れているくらいに。
背中のそれの意味を知らない人たちが多いのだが、きっと、勘のいいサーラー子爵あたりは、気が付いているようで、複雑な顔をしていた。
「続きはお話します。領地の現状を把握したアンナリーゼ様が各領地にいる町医者へ声をかけて回ってくださったおかげで、病で苦しむ国民へ少しでも早く治療を受けられるようになりました。
まず、感謝したいこととして、自らの領地も自然災害にあわれ、さらには、感染病も広がり大変だったアンナリーゼ様が、ローズディアのために医師団派遣のために、ヨハン教授の助手たちを貸してくれたこと、知識を医師たちと共有してくれたこと、そして、薬の供給を申し出てくれたことは、我が国にとって、返しきれない恩ができました。
みなさまの中にも、領地が大変だったと言われる方もいらっしゃると思いますが、危機に瀕したとき、差し伸べられる手の優しさに救われたと思うでしょう」
大仰にいう宰相には苦笑いを送っておくだけにする。口を開けば、何かを言わされるような気がしたのだ。
「アンナリーゼ様は、公の名代として視察に出られたと伺っています。南の方は、どのような状況なのでしょうか?」
「……」
頑なに話さないと思っていたら、他の領主から質問が出る。みな、未知なる病との戦いに恐怖を感じているのだろう。それは、わかる。
「みなさまの領地がどの程度の罹患者がいたのかは、把握できておらずわかりませんが、少なくとも、領地の中心となる街の広場は、罹患した患者で溢れかえり、診断を受けようと列に並ぶもの、道に横たわるもの、痛ましくも亡くなった方が放置されている、そんな状態でした。南へ行けば行くほど、その様子は酷くなっていき、今、最南端には私の主治医であるヨハンが治療にあたっていますが、目を覆いたくなるような惨状だったと聞きおよんでいます」
「目を覆いたくなるような……」
「えぇ、そちらにいらっしゃるサーラー子爵の御子息は、ヨハン教授とともに護衛として最南端で警護していますが、まるで戦場の後のようにあちらこちらに躯があると伝えてきています」
「戦場の後……」
「サーラー子爵の子息は、大規模な戦争を知らないのではないですか?」
「それが、うちの愚息は、近衛に入る前、数週間だけ、インゼロ帝国が大規模展開をした戦争を直に見に行っております。今後のためにと、本人が強く願って。アンナリーゼ様は、ご存じだったでしょうか?」
「いいえ、子爵。私は友人として、サーラー伯爵とはお付き合いがありますが、その話は初めて伺いました」
「アンナリーゼ様にも言っていないことがあったのですね。息子がいうに、いつかの日のためにというのですが、何かご存じでしょうか?」
ウィルたちには、『予知夢』のことを話したことがある。ハニーローズであるアンジェラが、インゼロ帝国との戦争に終止符うつ存在となるんだと伝えた。
未来の準備をしてくれていたのね……全然知らなかったわ。
「私の口からは何もありません。未来のことですから、未確定要素として、サーラー伯爵が想定していたのかもしれません。現に、インゼロ帝国では、第二皇子のクーデターにより、皇帝が入れ替わっていますから……帝国国内が整ったとき、戦争好きなインゼロ帝国ではなく、さらに残忍な帝国と事を構えなくてはいけなくなるやもしれません。宰相」
「はい、アンナリーゼ様。その話は私の方から。今回の感染病のの広まりを含め、インゼロ帝国の陰謀ではないかとふんでいます。
ただ、病に関しては何もそれらしい証拠は出てきていません」
「……病に関してはというのは、どういうことか説明願えますか?宰相」
穏やかそうなジェラン侯爵が、領主らしく厳しい顔になった。これが本来なら、公が身につけるべきものなのだとジェラン侯爵を見つめた。
「今回の病について、調べた結果、裏で糸を引いていたのが、インゼロ帝国の人間と繋がっていた貴族たちです。罰することが決まったものに関しては、今現在、地下牢にいます。すでに逮捕者があちらこちらと出ていると漏れ聞こえていることでしょう」
「確かに……何人か私でも名を知る方々が逮捕されていると聞きおよんでいます」
「同盟国であるトワイス国やエルドア国と違い、インゼロ帝国は相容れぬ相手。それは、仕方のないことです。みなさまもくれぐれもインゼロ帝国との関係について、後ろめたい取引などはせぬようお願いします。それと、ここからが重要な話です」
今までの経緯報告と声音が変わる宰相。みなの注目がより一層宰相へと向かった。
「何かあるのでしょうか?これ以上、驚くようなことが……」
「あります。この感染病の流行で、公室も行き届いていない情報が、今回、紛れ込んでいました。インゼロ帝国から、戦争仕掛けをする裏のものを招き入れたことが発覚しています」
「それは、一大事なのではないか?病が流行って、人が多く死に、国力が下がっている。領民もこの春先に農作物のことをどうしようかと憂いていたのだが……」
「私たちはそのうちの幹部候補を一人捕らえてあります。皇帝に近しい間柄のようで、口を割ることはしません。この人物は、現在丁重に扱っているところであります」
「何故ですか?皇帝に近しい人物であれば、皇帝の弱点となりうるのでは?」
「そうは、ならないでしょう。本人は、自死を選ぶでしょうし、皇帝はなんなくその人物を切ってしまう。インゼロ帝国の現皇帝はそういう情に訴えたようなことをしても、躊躇なく切り捨てる人なのです
その人物を殺すことは、すなわち宣戦布告になるでしょう。善良たるとは言えないですが、皇帝には尽くしてきたようなので、非力な国民を殺したと戦争を始めるのでしょう」
ヒーナのことを思い出す。美貌をもつヒーナは、最近の夜会も茶会も目立っていた。背中に見せる女神と蜂たちを、みなが見惚れているくらいに。
背中のそれの意味を知らない人たちが多いのだが、きっと、勘のいいサーラー子爵あたりは、気が付いているようで、複雑な顔をしていた。
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