上 下
760 / 1,480

おしおき必要?

しおりを挟む
 御者台から足をぶらぶらさせているヒーナを睨む。高みの見物をしながら、ちょっとだけジニーのお手伝いをしていた彼女こそが、この組織の頭なのだろう。途中で気が付いても、騙されるふりをしていたのだが、どこまであちらも見抜いていたのかはわからない。
 違和感からずっと考えていた結果から導いた答え。ノクトの顔をこんな幼そうなヒーナが知るはずもない。余程、皇室に近い場所にいない限り、公爵であり将軍であるノクトには会えないはずであった。
 ニッコリ笑うその顔は、未だ興奮冷めやらぬと言わんばかりに目がランランとしていて、おもしろそうだ。


「いつから気付いていたの?」
「……最初から違和感があったのよ。あなたほど幼い容姿なのに、名乗る名乗らない関係なくノクトだとわかったことに。インゼロでは、すでにお葬式まで済ませている人物を見間違わずに、皇族に従うと判断したでしょ?普通の幼い子どもであれば、いくら訓練をしていても、躊躇するものだと思うのよね!」
「それで、泳がせていたつもりが、逆に泳がされていたのね……アンバー公爵、皇帝がいうとおり……すごいわ!」


 感心したというふうに、拍手をおくってくるヒーナにどう答えるのか迷った。見た目どおりの年齢なら、デビュタントもまだくらいの年齢である。
 きっと、容姿が幼いだけで、中身は大人なのだろうと思うと身震いする。子どものふりをして、ヒーナはあちこちに潜伏するのだろう。


「それより、このままにしておくと、ジニーは死んじゃうわよ?」
「そうね。それもジニーの運命ってことよね。アンバー公爵は、助けないの?人助け大好きなんでしょ?」
「……人助け大好きってわけじゃないわ!打算的なだけだもの。ヒーナと同じよ」


 足を組み、余裕をみせているヒーナ。身軽な彼女を捕らえるのは、難しいだろうと考えていた。ヒーナの動きだけをじっくり見ている。それだけでも、牽制になる場合もあるからだ。


「捕まってあげてもいいわよ?もう一度」
「どういう風の吹き回しかしら?主を主と思わないような人材はいらないのだけど?」
「誰も手駒になるとは言ってない!」
「誰も手駒にするなんて言ってないわ!むしろ願い下げよ!」
「いいのかなぁ?そんなこと言って」
「組織の人間がこの国に混ざりこんでいるって言いたいんでしょ?でも、それは生憎と私の仕事ではなくて、公の仕事だから……未来におこる火種はけしておきたいのはやまやまだけど、それほど興味はないわ!それより、我が家で帰りを待つ子どもたちの元へ帰りたいの」
「その子どもたちを襲うといえば?」
「全力でつぶすわよ!」
「怖い怖い。それにしても、お貴族様になのに、言葉遣いが荒いなぁ……」


 ため息交じりに、私の方を見てクスっと笑った。


「ジニーが死にそうな今、私には交渉をする必要もないのよね。かといって、あなたたちを捕まえて、近衛へ引き渡したとしても、逃げられるでしょ?」
「それなら、ここで息を止めるしかないってことだよね?」


 余裕を持って話をしているのは、ヒーナが強いからなのだろう。動いたとして、確実に殺されるのは、キースであろうことはわかる。私も無事でいられるか……本気でぶつかったら、五分かもしれない。
 ノクトにキースを守れと指示をだすのも変なものだしなっと思っていると、ヒーナが御者台から飛び降りた。


「とりあえず、ジニーの手当てをしましょう。捕らえないにしても、聞きたいこともあるのでしょ?」


 近寄ってくるヒーナの前に剣を構えるキースであったが、私は剣を下げるよう言うと、何故ですか?と訴えてくる。緩く首を横に振るだけにした。


「予定通り、子爵家へ向かうことにするわ。そこで、手当てを」
「それなら、広場に戻りましょう!医師がいる方が、命の助かる確立は上がるし、あなたに殺されることもないでしょ?」
「……確かに。用済みだから、死んでもらうのもひとつだものね」


 寝転ぶジニーを見て、馬車に運んでと伝えてくる。


「ナイフは、そのままの方が出血を抑えられるわ。ゆっくり運んでちょうだい。他の者たちは……その辺に転がして置いてくれれば、その内気が付くでしょう。勝手に集まってくるからほっといてもいいわ」
「なんだか、かわいそうね」
「弱肉強食。強いものに従うのが、この組織のルールだから仕方がないでしょ?それぞれが強ければ、ノクト将軍にもアンバー公爵にも負けるはずがないですもの。それが情けないことに、醜態を晒すとは……」


 大袈裟にため息をつき、御者台に座り直す。ノクトにジニーを馬車に乗せてもらい、私も一緒に乗った。
 レナンテをノクトに任せると、馬車は動き始める。二人が馬車を並走してくれているので、二人きりの馬車内でジニーを観察した。


「それにしても、ソックリね……」


 頬にかかるストロベリーピンクの髪をどけると、私の顔立ちとよく似た顔があった。

 坊ちゃんが描いた絵のときは、思わなかったけどな。

 なるべく、揺らさないように道を選んで走ってくれるおかげで、馬車の揺れは少ない。ときおり、苦しそうに息をはくジニーは、そろそろ意識を取り戻すのだろう。


「もう少しだけ、待ってね。手当てしてあげるから」


 馬車に揺られ、1時間。
 広場へ戻り、診療所へと駆け込んだ。ヨハンの師匠でもある医師に見せれば、驚きはしていたが、すぐに処置をしてもらえた。


「妙な真似はしないでね?兄であるヨハンにも会わせるんだから!」
「はいはい。私は、どうしていたらいいですか?公爵様」


 投げやりなヒーナに、暇なら話でもする?と問えば、苦笑いされる。
 なんなら、お仕置きでもいいのだけど……と考えていたら、通じたのだろうか。ものすごく嫌な顔をしていた。


「おしおきは必要?」
「そんなもの、必要なヤツは、相当ヤバいやつよ!できるなら、いらないわ!」
「それも、そうね……でも、おしおきできるものもないし……罰を与える権限も私にはないのよね……そうね……何か……」


 そう考えていたとき、思いついたことがあった。それは、もう、嫌がるだろうことを考えニッコリ笑ったのである。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

転生先は水神様の眷属様!?

お花見茶
ファンタジー
高校二年生の夏、私――弥生は子供をかばってトラックにはねられる。気がつくと、目の前には超絶イケメンが!!面食いの私にはたまりません!!その超絶イケメンは私がこれから行く世界の水の神様らしい。 ……眷属?貴方の?そんなのYESに決まってるでしょう!!え?この子達育てるの?私が?私にしか頼めない?もう、そんなに褒めたって何も出てきませんよぉ〜♪もちろんです、きちんと育ててみせましょう!!チョロいとか言うなや。 ……ところでこの子達誰ですか?え、子供!?私の!? °·✽·°·✽·°·✽·°·✽·°·✽·° ◈不定期投稿です ◈感想送ってくれると嬉しいです ◈誤字脱字あったら教えてください

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...