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さて、次なるは……

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「人にはわからない特技があるものね?」
「ジニーの絵か?」
「そうそう。すごくよく描けてると思わない?それも、一晩のことでしょ?」
「一晩……どころか、数時間くらいじゃないの?」
「……そこは、もう、一晩ってことにしておきましょう」


 ジニーの絵を見ながら、魅力的よね?と呟く。


「絵だけではわからないけど、紫の瞳に見つめられると姫さんに見つめられているみたいだな……貴族がこぞって買ってしまいたくなる気持ちがわかるような」
「わかるの?」
「えっ?」
「ウィルが言ったんだよ?」
「……あぁ、そうだな。ストロベリーピンクの髪なんだろ?」
「それは、きっと、染めたんだと思いますけど。元の髪は違いますから」


 自分の髪を触りながらヨハンが呟いた。


「さて、ルチル坊ちゃんの情報を元に、動くことになるけど……私たちには南へ向かうという使命もあるのよね……」
「医師と薬を取り返すってやつね。こればっかりは、姫さんの権力を振りかざしてくれないと困るやつだからな。どうする?」
「キースに追跡……は、難しいよね。病になったことがないって言ってたし」
「今、強制的になることはできますが?」
「それじゃ、数日寝込むことになるでしょ?身動き取れないのは……まずいのよね。かといって、他に誰か……もいないのよね」
「じゃあ、助手に向かわせましょう!」
「「はい?」」


 ウィルの声と重なる。思うことは同じだったようで思わず声が出てしまった。


「さすがにそれは、なくないか?」
「大丈夫ですよ。ちゃんと、訓練されているんで!」
「訓練って誰から?」
「フレイゼン侯爵ですよ!いやですね。アンナリーゼ様を溺愛しすぎているので……アンバーへ向かう人選は、もちろん侯爵自らが夫人と共にしていますよ。いろいろな教育は受けさせられていますから、近衛より強いって言うのは、さすがにどうかと思うんで言いませんけど……アンバーの警備隊より、アンバーへ来た者たちのほうが強いですよ。なんせ、夫人仕込みですからね!」
「……お父様、……お母様」
「私よりあとに来ている10人については、サシャ様直伝の経済学から処世術を叩き込まれているらしいですけどね。先に来ていてよかった。サシャ様と話をしていたら、いつまでたっても時間が足りませんからね」
「……お兄様まで」


 ヨハンが心底安心した顔をしている横で、困惑顔を作っていた。家族が、私のために、手をかけてくれ、送り出してくれた魔法使いたち。
 家族には、感謝しかなかった。


「本当に、姫さんのお父さんって、溺愛だよね……」
「サーラー様も同じではございませんか?」
「はっ?」
「ミレディア様ですよ。お二人を見ていれば、あのくらいのころのアンナリーゼ様とフレイゼン侯爵を思い出します」
「だ、そうよ?親ばかね?」


 クスクス笑うと、まいったなぁ……とウィルは満更でもない顔と困惑顔をまぜこぜにする。付き合いの長い私にはわかる。嬉しいのだろう。あえて言わず、微笑んでおいた。


「それじゃあ、お願いできるかしら?」
「かまいませんよ。ここの助手を使いましょう。最南端へ向かったものをここに戻し、そちらへ向かいます」
「ヨハンが、1番患者の多い場所へ向かってくれるってこと?」
「そうなりますね」
「大丈夫なの?」
「かまいませんよ。妹がしたことなら……その償いを。死者も多いと聞きます。病で苦しんでいるひとも多い。それが、償いになるのかは、わかりませんが……少しでも苦しんでいる人を助けに向かいます。しばらくの間、ここは、助手がいない状態となりますが……」
「町医者を集めるわ!それと、南に向かうなら、ウィルを連れて行って!危ない場所に変わっているって聞いているから!」
「それは、かまいませんが……護衛は、どうするのですか?」
「元々、単身で駆け回ろうとしていたから、必要はないのだけど……たまたま、いい人材を拾ったから、そのまま拾い上げしてみようかと思って」


 おっっとウィルが反応を示した。キースが私の護衛をしたいと申し出ているのだから、そのように働かせみるのもいいだろう。


「じゃあ、姫さんは、このまま西に向かうのか?」
「そうね。そのつもりよ!ウィルたちが南へ最速で行けたとして、どれくらいでつくかしら?」
「三日だな。向こうの助手の移動準備もあるから、1週間はここをあけることになるだろう」
「わかった。ノクトがいれば、助手の護衛もできるんだけど……」
「大丈夫だろ?その助手も、一般の領民よりかは強いってことだろ?」


 意味ありげにヨハンを見るウィルに頷く。それなら、護衛はいらないのかもしれない。ただ、用心はした方がいい。


「一人、護衛をこの領地から出すわ!その人をつけて、向かってくれるかしら?」
「わかった。強行だ。ついてこれるのか?姫さんのあてにしてるヤツは」
「さぁ、ウィルのほうがよく知っているのでなくて?」
「俺?」
「元近衛ですもの。ねぇ?」


 そう言って後ろを向くと、そこに立っていたのはウィルの隊に初めからいたレイスだった。


「ご無沙汰しています。サーラー中隊長」
「レイスか?」
「えぇ、そうです。覚えてくださいましたか?」


 レイスは、家族に不幸があり跡取りの補佐として呼び戻された子爵家二男であった。家系はゴールド公爵家よりではあるが、信頼できる人物ではある。


「あぁ、覚えている。それより、どうして?領主の補佐をしているのだろ?」
「はい。隣の領地の補佐をしておりますが、アンナリーゼ様がおみえだと、風の噂で聞きつけたので、ご挨拶にまいりました。何か、私が手伝えることがあるなら、なんなりと。私は、サーラー中隊長へ生涯の忠誠を誓ったと思っておりますから」
「でも、領地が……」
「1週間程度でどうにかなることは、ありません。先日から、アンナリーゼ様が動いてくださっているおかげで、我が領地内にも動きがあり、落ち着いてきたのです。サーラー中隊長、どうぞ、ご命令を」


 ウィルは私を睨むが、私が手をうったわけではないので知らん顔しておく。これで、人数は、揃ったので、貴族の屋敷……ナルド子爵のところへ向かうことにした。
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