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催眠術
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私はルチルのぼんやりした目の前で、手を振ってみた。ぼっとしているだけで、何の反応もない。
「ヨハン、大丈夫なの?いくら私でも、心配になるわ……」
「大丈夫ですよ。体への悪影響は特にありませんし」
「それより、こんなことができるって……ヨハンは本当、何者?って感じだよね?」
ウィルも同じように手を振ってみたが、やはり、ルチルの反応はない。
「では、さっそく始めましょう。害はないとはいえ、催眠術をかけている間の記憶は曖昧か覚えていないことが多いので、短い時間に終わらせる方がいいです」
「わかったわ!じゃあ、慣れ染めから聞く?」
「慣れ染めって……姫さんとジョージア様じゃないんだからさ?」
「なんでもいいので、始めてください!」
ヨハンにぴしゃっと言われ、私は質問をする。横で、ヨハンがメモを取ってくれるようで、ペンを走らせる。
「紫の瞳の女性とは、どこで出会ったの?」
私が問いかけると、ルチルは私を見上げ、ニヤッと笑う。
「目の前にいるではないか!」
私の頬を撫でようと手をあげたところで、ウィルに止められる。
「触ってもいいけど、腕、折られるぜ?やめておけ」
言われた意味がわからない……というふうに小首を傾げた。
「ぼんやりしてはいますが、見えてはいるので、妹と勘違いしたのでしょ?サーラー様が質問する方がいいでしょう。見た目から女性でも紫の瞳でもないですから」
「じゃあ、姫さんは下がって」
私は、ウィルの後ろから、ルチルの反応をみることになった。言葉だけでなく、わずかな表情のを見逃さないために、じっくり見た。
「もう一度聞く。紫の瞳の女性とは、いつどこであった?」
「……二日前、この領地の貴族の屋敷に招かれたときにあった」
「貴族?屋敷に招かれたとは、どういう繋がりだ?」
「……名は知らぬ。南の領地で行われていたオークションで買った珍しい瞳の女生と遊べると聞いて、わざわざ、ゴールド公爵領から来てやったのだ。肌は玉のようにすべすべとしており、白くきめ細やかで……」
「そういうのは、いい。オークションで買ったというと、人身売買か?」
「そうだ。この国のアホな公は知らないだろうが、未だにこの国には根強く残っている。男性なら労働力、女性なら花買いだ。貴族の愛人の半分は、そうやって手に入っているのさ」
知らないのか?とニタっと笑う。その気持ち悪さに私は手をぎゅっと握った。
「ゴールド公爵は、人身売買を黙認しているのか?」
声音の変わったウィル。ただ静かに言葉にしたが、その背中からは怒りが湧いてくるようだった。
「してる。当たり前じゃないか。奴隷は資産だからな。使えなくなるまで使い潰してしまえばいい。使えなくなったら、別のものを仕入れればいいだけのこと。それで、領地がうまく回っているのなら、何の問題もないだろ?」
バカなことをと今度は嘲るルチルに蹴りをお見舞いしたくなるも、ウィルに引き留められる。
「姫さん、尋問ね。そんなことしたら、催眠がとけてしまうし、聞きたいことをきけていない。我慢してくれ」
苦しいところから、領民と手を取り合って領地再興に頭を悩ませてきた私としては、ルチルの言った言葉も、ゴールド公爵が黙認しているのも許せなかった。青いから……そう言われれば、そうなのかもしれないが……、人が人として生活できる環境を整えるのも、私たち貴族の役割なのにと思えば、悔しくなる。
ただ、住む家も生活する糧も得られず、誰かのものにならないと生きていけない人がいることを目の当たりにすれば、何も言えなくなる。
奴隷だと言っても、買われた先によっては、自力で生活するより、ずっと生活が楽になる人もいる。少なからず、貴族の愛人となった人々は、飢餓に苦しむことはなくなる。
「紫の瞳の女性の名は知っているか?」
「……ジニー」
「瞳以外の特徴は?」
「ストロベリーピンクの髪をしていた。とても美しく……そうだ!彼女からもらったジュースは、初めて飲んだが上手かった。赤い実を絞って作るらしい」
「赤い実?」
「ヨハン!」
「あぁ、たぶん、妹も飲んでいる、もしくは……」
「唾液でも、発症するのかしら?」
頷くヨハン。微量でも反応が出るらしい。
「唾液ってどういうこと?」
「赤い実を絞ったジュースをルチルが飲む。そのまま、ジニーがキスをせがんだら?」
「あぁ、なるほど。唾液ね。娼婦をしているなら、お安い御用か。この坊ちゃん、手玉に取るなんてすぐだろうしな……」
とろんとしているルチルを見ながら、ため息をつく。
「そろそろ、時間が長くなってきた。あと、数問問うくらいが限界だろう」
「わかった。じゃあ、ジニーは、次、どこに言ったかわかるか?」
「次は、わからない。何人もの貴族に買われているとは言っていたが……日単位で買われているらしい。何処かへ移動したとしか知らない」
「何処かへか……糸は切れてしまったな」
「ジニーを買った貴族の名前は何かしら?」
「ナルド子爵」
「ここの領主の親族筋の貴族よね?確か、ここは伯爵位が領主となっているのだから」
「なるほど。そちらを同じようにしょっ引けば、行先は繋がるかもしれない……そういうことだね?」
私はウィルとヨハンに頷く。
「最後に……ジニーの絵をかけるかしら?」
紙とペンを渡せば、黙々と描き上げていくルチルの画力に驚かさ餌れる。ヨハンの目元によく似た女性を描く。幼い顔をしているので、一見わかりにくいが、実物のヨハンと見比べれば、と頷けた。
「ヨハン、大丈夫なの?いくら私でも、心配になるわ……」
「大丈夫ですよ。体への悪影響は特にありませんし」
「それより、こんなことができるって……ヨハンは本当、何者?って感じだよね?」
ウィルも同じように手を振ってみたが、やはり、ルチルの反応はない。
「では、さっそく始めましょう。害はないとはいえ、催眠術をかけている間の記憶は曖昧か覚えていないことが多いので、短い時間に終わらせる方がいいです」
「わかったわ!じゃあ、慣れ染めから聞く?」
「慣れ染めって……姫さんとジョージア様じゃないんだからさ?」
「なんでもいいので、始めてください!」
ヨハンにぴしゃっと言われ、私は質問をする。横で、ヨハンがメモを取ってくれるようで、ペンを走らせる。
「紫の瞳の女性とは、どこで出会ったの?」
私が問いかけると、ルチルは私を見上げ、ニヤッと笑う。
「目の前にいるではないか!」
私の頬を撫でようと手をあげたところで、ウィルに止められる。
「触ってもいいけど、腕、折られるぜ?やめておけ」
言われた意味がわからない……というふうに小首を傾げた。
「ぼんやりしてはいますが、見えてはいるので、妹と勘違いしたのでしょ?サーラー様が質問する方がいいでしょう。見た目から女性でも紫の瞳でもないですから」
「じゃあ、姫さんは下がって」
私は、ウィルの後ろから、ルチルの反応をみることになった。言葉だけでなく、わずかな表情のを見逃さないために、じっくり見た。
「もう一度聞く。紫の瞳の女性とは、いつどこであった?」
「……二日前、この領地の貴族の屋敷に招かれたときにあった」
「貴族?屋敷に招かれたとは、どういう繋がりだ?」
「……名は知らぬ。南の領地で行われていたオークションで買った珍しい瞳の女生と遊べると聞いて、わざわざ、ゴールド公爵領から来てやったのだ。肌は玉のようにすべすべとしており、白くきめ細やかで……」
「そういうのは、いい。オークションで買ったというと、人身売買か?」
「そうだ。この国のアホな公は知らないだろうが、未だにこの国には根強く残っている。男性なら労働力、女性なら花買いだ。貴族の愛人の半分は、そうやって手に入っているのさ」
知らないのか?とニタっと笑う。その気持ち悪さに私は手をぎゅっと握った。
「ゴールド公爵は、人身売買を黙認しているのか?」
声音の変わったウィル。ただ静かに言葉にしたが、その背中からは怒りが湧いてくるようだった。
「してる。当たり前じゃないか。奴隷は資産だからな。使えなくなるまで使い潰してしまえばいい。使えなくなったら、別のものを仕入れればいいだけのこと。それで、領地がうまく回っているのなら、何の問題もないだろ?」
バカなことをと今度は嘲るルチルに蹴りをお見舞いしたくなるも、ウィルに引き留められる。
「姫さん、尋問ね。そんなことしたら、催眠がとけてしまうし、聞きたいことをきけていない。我慢してくれ」
苦しいところから、領民と手を取り合って領地再興に頭を悩ませてきた私としては、ルチルの言った言葉も、ゴールド公爵が黙認しているのも許せなかった。青いから……そう言われれば、そうなのかもしれないが……、人が人として生活できる環境を整えるのも、私たち貴族の役割なのにと思えば、悔しくなる。
ただ、住む家も生活する糧も得られず、誰かのものにならないと生きていけない人がいることを目の当たりにすれば、何も言えなくなる。
奴隷だと言っても、買われた先によっては、自力で生活するより、ずっと生活が楽になる人もいる。少なからず、貴族の愛人となった人々は、飢餓に苦しむことはなくなる。
「紫の瞳の女性の名は知っているか?」
「……ジニー」
「瞳以外の特徴は?」
「ストロベリーピンクの髪をしていた。とても美しく……そうだ!彼女からもらったジュースは、初めて飲んだが上手かった。赤い実を絞って作るらしい」
「赤い実?」
「ヨハン!」
「あぁ、たぶん、妹も飲んでいる、もしくは……」
「唾液でも、発症するのかしら?」
頷くヨハン。微量でも反応が出るらしい。
「唾液ってどういうこと?」
「赤い実を絞ったジュースをルチルが飲む。そのまま、ジニーがキスをせがんだら?」
「あぁ、なるほど。唾液ね。娼婦をしているなら、お安い御用か。この坊ちゃん、手玉に取るなんてすぐだろうしな……」
とろんとしているルチルを見ながら、ため息をつく。
「そろそろ、時間が長くなってきた。あと、数問問うくらいが限界だろう」
「わかった。じゃあ、ジニーは、次、どこに言ったかわかるか?」
「次は、わからない。何人もの貴族に買われているとは言っていたが……日単位で買われているらしい。何処かへ移動したとしか知らない」
「何処かへか……糸は切れてしまったな」
「ジニーを買った貴族の名前は何かしら?」
「ナルド子爵」
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「なるほど。そちらを同じようにしょっ引けば、行先は繋がるかもしれない……そういうことだね?」
私はウィルとヨハンに頷く。
「最後に……ジニーの絵をかけるかしら?」
紙とペンを渡せば、黙々と描き上げていくルチルの画力に驚かさ餌れる。ヨハンの目元によく似た女性を描く。幼い顔をしているので、一見わかりにくいが、実物のヨハンと見比べれば、と頷けた。
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