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どちらの方が患者ですか?

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「こちらにかけてお待ちください」


 言われるがまま、三人が腰掛ける。おじさんは、ぼんやり周りを見渡していた。ウィルも全体的に周りを見ていたので、私はおじさんの様子を見ている。
 さっきからも、少し違和感はあるけど普通のおじさんだと感じていたが、こうして見ると、なんだか怪しい。


「ん?どうしたんだい?お嬢ちゃん」
「そのお嬢ちゃんっていうのやめてもらえます?」
「じゃあ、お嬢さん。俺の顔に何かついているか?」
「おじょ……はぁ……顔についているんじゃなくて……」
「ん?」
「おじさんは、近衛か警備隊の方かしら?」
「どうして、そう思う?」
「なんとなくよ。要人を守る人っぽいよねって思って。言葉遣いが平民と馴染みすぎているから、あまり違和感がないのだけど……」
「……よく見ているな」


 聞き取れないくらい小さく呟いた声を私は聞き逃さなかった。


「お嬢さんは、いつもそういう人に守られているのか?例えば、隣にいる青年とかに」
「だとしたら?」
「本当に、何処かのお嬢様なのかと驚くだろうな」
「ふふっ、驚くだけか……まぁ、いいわ!」
「どうぞ、次の方、中に入ってください!」


 そう言われたので、おじさんが入って行こうとする。私たちは、次に行こうとしていた。


「お嬢さんたちも一緒に入ってこれば?」
「いいの?」
「あぁ、問題ない」


 私とウィルはおじさんについて診察室へと入って行く。そこには、疲れ果てた青年が、患者さんを不安にさせないようにと、それでも必死に笑いかけてくれている。


「どちらの方が患者さんですか?」


 落ちくぼんだ目からわかるように、休めていないのだろう。


「患者は、私たちではなくお医者さんの方でなくて?」
「えっ?」
「寝不足よね?目の下にくっきりクマがあるわ!それに、栄養剤を飲んで、無理にでも診察している……そんな感じ?」


 指摘した瞬間、笑っていた顔が困惑になり、怒りだした。


「何がわかるんですか!休憩する間もなく人が運ばれてくる!感染症対策をしてほしいと領主にかけあったりするのも、何もかも全部やらないといけないのに、その領主は、非協力的で、打つ手がなく、薬も他の医師も取り上げられ……もぅどうしたらいいのか……」
「それは、可哀想に……」
「可哀想だって?そう思うなら、変わってくれよ!なぁ、おじさん。どこも悪いところがないなら、帰ってくれ!」


 すごい剣幕でまくしたてる青年におじさんが若干引く。年頃を見れば、まだまだ若い。


「ヨハンの助手かしら?」
「……えっ?ヨハン教授を知っているのですか?」
「えぇ、ヨハンのパトロンよ!」
「えっ、こんなところに、そんな……」


 私は頷く。すると、青年からみるみるうちに涙が流れてくる。


「大丈夫よ。少しだけ話を聞かせてくれるかしら?」
「……構いませんが、患者がいますので……」
「ウィル、少しの間だけ……」
「わかった」
「1時間だけ、休憩をしましょう」
「でも……」
「患者も大切だけど、あなたも大切な一人よ?アンバーの一員だから!」
「領主様……」
「領主様?」


 おじさんが、こちらに顔を向ける。


「えぇ、領主よ!ここのではないけど、この医師の住まうところの領主なの!」
「……アンバー領のということですか?」
「よくわかったわね?」


 じっと見つめてくる。私も見つめ返すと、はぁ……とため息をつかれる。


「アンバー公爵が何故こんなところへ?」
「何故と言われても……公の要請で来ています」
「病が流行っているのにと聞いています」
「私は、幼い頃にこの病にかかっているので、抗体があり、かかりにくいのです。それに、何故、近衛が、私服でウロウロしているのですか?」
「何故、近衛だと?」
「領主が雇っている警備兵では、アンバー公爵だとわからないでしょ?さすがに」


 ニッコリ笑いかけると、身分をばらしていましたかと肩を落とす。


「私の知らない方ってことは、領地へ向かったあとに、近衛に入った方かしら?」
「えぇ、そうです。噂はかねがね」
「どんな噂か気になるところだけど、聞かないことにするわ!それより、少しだけしか時間がないけど、仮眠を取りなさい。睡眠不足は、寿命を縮めるから!」
「でも……」


 ヨハンの助手は抵抗するので、首に一発、手刀を入れる。


「お見事!」


 倒れる助手を抱きかかえ、ベッドへと寝かせてくれた。


「本当は話を聞きたいのだけど……仕方がないわよね……」
「この助手は、本当に見るから疲れていましたからね」
「こんなになるまで、公は何故何もしないのかしら……毎度ながら、机に置かれた報告書ばかり信じているから……こうなるのよね!」


 怒ったようにいうと、クスっと笑うおじさん。


「どうかして?」
「いえ、近衛たちから聞いていたとおりの人だなと思いまして……とても、気さくな方だとは聞いていましたが、率直な意見をこんな場所で言っていてもいいのですか?」
「いいんじゃない?陰口を言いたければ言えばいいし、公に告げ口をしたければすればいいわ!その代わりと言っちゃなんだけど……筆頭公爵を降りるわ!後ろ盾がなくなって困るのは公だし、私はアンバーで改革をしていたいから、全く困らないもの」
「しかし、アンバー公爵が筆頭なのは変わらないので、旦那様がなるのではないですか?」
「そうだけど……ジョージア様では、古だぬきにまんまとトカゲのしっぽを握らされて、公共々失脚させられるわよ?それで、国が立ちいくなら何も言わないけど……そうは、思えないから、私を後ろ盾としたはずなのよね」


 やり手のご婦人でしたかと頷くおじさん。


「私はこの地位を拝命したのには、いろいろな経緯があるけど……公が倒れないよう支える役目を仰せつかっているのよ。本来は、公妃のするべきことなのでしょうけど……権力に目がくらんでいるのか、目の敵にされているだけなのよね!」


 私は、助手を時間まで眠らせる間、おじさんと話をした。そういえば、名前を聞いていないなと思い、尋ねることにした。
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