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 並べられた木箱をひとつひとつ手に取ってみる。大きいものは、葡萄酒用のみたいだし、小さいものは、小物入れのようだ。いろいろな大きさがあり、どれもこれも素敵なものであった。


「ねぇ、これって、どうやって作っているの?」
「あっ、はい。アンナリーゼ様。これは私がデザインを作り、グランがそれに合うように飾りを作ります」
「なるほど……グラン、手を見せてくれるかしら?」
「それは、何故です?」
「単純に興味があったからかしらね?」
「よくわかりませんが……」


 すごく嫌な顔をされたので、手を見せてもらうのは無理だろうなって思っていたら、コルクがグランの手を引っ張って私の前へ来る。


「ちょ、ちょっと待て、コルク!」
「手ぐらい減るものじゃないんだし、見せてあげればいい!」
「お前は、嫌じゃないないのかよ!」
「……?」


 コルクは、グランを顔をじっと見つめ、何を言っている?というふうだった。

 あぁ、ね、わかった。


「グラン、いきなりごめんなさいね!私、思い付きで話をするから、いつも後ろにいるウィルたちに怒られるの!今の気にしないでくれる?」
「……まぁ」
「まぁ、じゃないだろ?領主様に対して!」
「コルクも、私が悪いの。大事な手ですものね!本当に気が利かなくてごめんなさい」


 私が含みを持って言った言葉に反応を示したのは、殆ど話していなかったグランだった。
 慌てているところをみると……そうなのかもしれない。


「手って不思議よね。大好きな人に触れるためだけにあればいいのにって思うことがあるわ。私なんて、剣を握るからよけいにそう思うのかもしれないけど……」


 隣に座っているアンジェラの頬に優しく手を添えると、スリスリと頬を寄せてきた。そんな様子を見て、コルクは赤くなり、グランは押し黙った。
 なんとなく、距離が近いような気はしていたのだが……と、視線を二人に戻す。


「どうかして?」
「いえ、なんでもありません。そのようにされていると、領主様と言うより、一人のお母さんって感じがしますね。お子さんへの愛情が伝わってきます」
「そう言ってもらえるとうれしいわ!」


 私はニッコリ微笑み返す。私たち三人以外は、何を意味してこんな話になったのかわかっていないようだったので、それ以上は語らないことにした。


「グランがこの飾り箱を作っているのよね!とても繊細な手先をしているのね!是非、今度のハニーアンバー店への協力をお願いしたいわ!」
「それは、俺だけじゃなく……」
「もちろん、コルクと一緒に決まっているでしょ?コルクも一緒に作っているのでしょ?」
「えぇ、まぁ……ところで、どんな、ご要望でしょうか?」
「そうね……大きさ的には、これくらいの大きさで、貴族やお金を持っている方へ売り出す香水を入れるための飾り箱を、とりあえず、120箱お願いしたいの!」
「120ですって!?」
「そう、それも、デザインを変えて……ただ、もし、二人がいいと言ってくれるなら、120箱のうち、他の職人にも任せることも視野に入れているわ!」
「……私のデザインで、グラン以外が作るということですか?」
「えぇ、そう考えているわ。でも、そこは、私の提案を受けるかどうかを二人で考えて返事をしてくれたらいいわ!ラズベリーっていうガラス職人がいるのだけど……彼女は、この香水を入れる小瓶をとりあえず120個分、一人で作るつもりらしいわね!寝ずになるから、私は全力で止めるけど……」


 二人は顔を見合わせながら、無理だろ?と呟いた。それが、ラズベリーの腕なら、父親という助手をつければ、出来上がるだろうことは、想像はできた。


「できるのに、何故止めるのですか?」
「当たり前よね?そのあと、製品用の入れ物を作ってもらうのよ!間髪入れずに。あなたたちには、120個の飾り箱と言ったけど、ラズが作るのは120個の箱に3から5瓶の種類の違う香水を入れる小瓶を作ってもらうのよ!それも……」
「瓶の種類が違うとか言いませんよね?」
「違うわよ?だから、真ん中に置くのだけをラズが作って、他を任せてもいいと思うのよね!見本は、作って」
「アンナリーゼ様は、簡単にできると思っているのですか?」
「全然。だから、職人であるラズが納期を決めてくれるわよ!私たちは、ぼんやりこのあたりで売り出したいからって言えば、だいたい合わせてくれるの。そこにいるテクトを始めアンバー領の三商人が調整をしてくれるの」
「なるほど……仕事が領主直接であっても、他の領地と違い、商人が仲立ちしているのは何故かと思っていましたが」
「単純に、テクトたちに任せているからね。私から直接連絡が行くことは珍しいわ!基本的にコンテストとかもして、技術を競わせて、その中で、今、必要なものを、よっているだけに過ぎないわよ?」


 そうよね?とウィルに話しかけると、あぁと返事が返ってくる。基本的に領地運営については、口を出さないというに決めているらしい。こういうときは、セバスをつれている方が、助かる。


「そうなのですか……ひと月にどれくらいのものを見るのですか?」
「どれくらいかしら?こうやって、出かけることもあるし、麦の種まきとかの体験をしにいくとか……形にこだわらないから……」
「「えっ?」」

 突然コルクとグランが驚いた声を出したので、こちらも何事かとかと思った。


「ん?何?」
「今、麦の種まき体験って……聞こえましたけど?」
「行くわよね?体験。普通に?」
「普通の貴族は、行かないからな?俺も行ったことないから」
「そうなの?」


 私は、周りを見渡すと、きょとんとしているアンジェラ以外は、大きく頷いていた。よくよく考えたら、私も子どもの頃に、麦の種まきはしたことなかったかもと呟くと、声を揃えて、それが普通だからとみなに言われるのであった。
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