上 下
688 / 1,480

コルクとグラン

しおりを挟む
「随分と大量の荷物だな?」


 ウィルの背をゆうに越えた高さの荷物を大男が器用に部屋の中へと持ってきた。その後ろから、小男も大量の荷物を持って入ってきた。


「遅くなってすみません」


 話しかけているのは、小男の方で、まるで、荷物が話しかけているようにしか聞こえなかった。


「気にしなくていいさ。領主様は、そういうところはあまり気になさらないし、今、別の話をしていたところだから」


 そうですよね?とテクトがこちらを向くので苦笑いをする。普通、領主より先に来ないといけないのだが、テクトの言う通り、私は細かいことは気にしない。この大量の荷物を見ればわかるように、たぶん、ここまで運んでくるだけでも大変だったのは明白だ。


「そうね、私は気にしないわ!ただ、他の領地で同じことをすると、どうなるかわからないから、気を付けてちょうだい!」
「……恐れ入ります!」
「それより、荷物を置いたらどうかしら?重いでしょ?」
「いえ、箱なので……」
「それでも、木箱だから重いでしょ?細工もされていると聞いているし」


 机の上をどけてくれるかしら?とリアンに言うと、飲んでいたカップをどけてくれ、綺麗にしてくれた。


「机、空いたから、おいてもいいわよ!そちらの男性の方もどうぞ!」


 私は大男と小男の二人に声をかけると、二人がコソコソと話し、ゆっくり机の上に荷物を置く。
 ふぅっと、小男の方が小さく息を吐く。きっと、重かったのだろう。
 荷物を置いたことで、私の顔が見えたのだろう。こちらを見て、顔をほんのり赤くさせる。


「は……はじ、初めまして!」


 小男が挨拶をするが、声が裏返ってしまった。私に緊張をしたのだろう。


「コルク、緊張しすぎだ。息を吐け、そして、吸え!」
「えっ、あ、あぁ……ありがとう、グラン」


 はぁ……すぅ……っと、息を整え再度、コルクは私を見た。


「初めまして、領主様。木工職人のコルクと申します。本日は、お招き頂ありがとうございます」
「本当は、工房に向かいたかったのですけど……初めまして、コルクとグラン」
「初めまして、領主様。お名前を……」
「さっき、あなたたちの会話を聞いていたのよ!それだけだわ!」
「なるほど……」
「グラン、敬語っ!」
「今日のところは、敬語は必要ないわ!普段通りにしてちょうだい」
「しかし!」
「いいのよ、領地では、領主っていうより、アンナちゃんで通っているから、そこらへんにいる町娘?として会話してちょうだい!」
「滅相もございません!」
「そうなの?ウィル?」
「あぁ、まぁ、いいんじゃない?好きに話させてあげれば。敬語を使い慣れてないところは、普段のように話せばいいし。今日は、公式な場所ではないから、本当に自由にしてくれて構わないさ」


 ほら、護衛もこう言ってるし!なんていうと、逆に委縮してしまった。そんな様子を見て、テクトが笑い始める。


「て、て、テクトさん!」
「なんだ?コルク」
「そんな、笑ったら、失礼ですよ!それに、叱られるだろうし、領主様の機嫌を損ねたら、どうするんですか!」
「心配しなくても、アンナリーゼ様は、そんなことはしないさ。貴族であり領主ではあるけど、領地や俺たち領民のことを一番に考えてくれている。仕事をしやすいようにと。だいたい、よそから移住してきた二人が、こうして呼ばれるのは、ひとえにアンナリーゼ様が珍しい物が好きだからな。他の領地とは、少々、趣が違う」


 テクトが、コルクに言い聞かせると、こちらをチラッと見てくる。私は、ニッコリ笑いかけた。


「ママ、これ何?」


 たくさん積まれた木箱に興味を持ったのか、部屋の隅で遊んでいた子どもたちの輪から離れ、こちらに来た。


「そこに座って。お兄さんたちに見せてもらいましょうか?」
「うんっ!」


 そういうと、コルクがこちらに寄ってきて、机に置かれたうちのひとつを私に渡してくれる。


「壊したら、ダメだからね?振り回したり、落としたりもよ!」
「はいっ!」


 そのまま、アンジェラに渡す。ソファに座って膝の上において、木箱を開いた。領地の管理簿がすっぽり収まる大きさなので、ちょうど、アンジェラの座ったつま先まであった。
 その木箱の飾りを見ればわかる。丁寧に文様が彫られ、その中に宝石のように輝くガラスが入っていた。


「これ、素敵ね!ガラスよね?この輝いているのは」
「そうです。これは、特殊な加工によりできるガラスを使い、光らせてあります。まるで、ダイヤモンドの輝きのように光の加減で見えるかと……」
「えぇ、見えるわ!とても素敵ね!私、『赤い涙』を入れる飾り箱を今年は見ていないの。だから、言伝で聞いていたのだけど……素敵過ぎるわ!」
「ありがとうございます」
「他もこんな感じかしら?」
「今日は、いろいろな種類を持って来させていただいております」


 机の上に持ってきたときのまま積まれていた木箱を、ひとつひとつ机の上に並べていく。
 アンジェラが持っているもののような木箱が多い中、普通の飾り切りされたものもある。


「どれもこれも、繊細で、いいわね!このガラスの使ったのは、どうやって作ったの?」
「それは、私たちの故郷の技法で作られた、特殊なガラスです。それを使っています」
「そうなんだ……」


 私は、うーんと唸る。確かに細工も申し分がない。ガラスの部分も綺麗に出来ている。開けるのも蓋を上げるのではなく、蝶番になっているので、開くという発想がおもしろかった。


「蝶番は今までなかった手法ね!おもしろいわ!」
「お褒めに預かり、ありがとうございます!」


 コルクは、私に例を言ったが、グランは押し黙ったままだった。何かあるのかしら?と考えながらも、もう少し、この二人の話も聞きつつ、今度の香水の纏め売りの話をしようと思った。
 お世辞ではなく、本当に素敵だと感じたのだ。是非とも、私たちが手掛ける香水の飾り箱もお願いしたいなと、口説き文句を考え始めたのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...