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同伴謁見

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「アンナ様、ここがお城ですか?」


 上を見上げてふぁあっと感嘆の声をあげているレオ。馬車から降り、可愛らしいレオの反応に微笑んだ。
 レオの年なら、公の子どものご学友というものになれるだろうが、身元のこともあり、今まで城の奥まで来たことがなかったようだ。


「迷子になるといけないから、手を繋ぎましょう」
「エスコートですね?」
「この場合は、どちらかというと私がその役目ね!」
「どうしてです?男性が女性をエスコートするものですよね?」
「レオは、このお城のことを知っていて?」
「……知りません」
「やみくもに歩くと、女性を疲れさせるでしょ?そうならないためのエスコートでもあるのだから、女性のほうが、知っているときはそれとなく任せてもかまわないのよ!
 でも、やっぱり、格好はつけたいでしょうから、それっぽく演出するといいわよ!」


 なるほどと頷くレオ。日頃のこういうところから教えていくと、身につきやすい。
 私の手を握り、城の中へ入って行く。見るもの見るものが新鮮なようで、顔が綻んでいる。


「レオもいつか、ここで近衛になるんだから、しっかり剣の練習も励まないとね!」
「はいっ、頑張ります!そういえば、父様が、今日は城へ行くと制服に着替えていましたが……この城の何処かにいるのでしょうか?」
「えぇ、いるわよ!」


 廊下を歩けば、みなが道をあけてくれる。公爵だからなのだが、そこで一人の青年が声をかけてきた。


「アンナリーゼ様!」
「パルマじゃない。今からどこに向かうの?」
「宰相様の執務室です」
「そう。途中まで一緒に行きましょう!なんだか久しぶりだけど、ずいぶん顔色もよくなったわね!」
「えぇ、セバスチャン様のおかげで、仕事がやりやすくなりました。新人いびりもぐっと減ったとかで、僕だけでなく、セバスチャン様は新人の憧れとなっています。この城で、物凄い支持率ですよ!」
「そう、それは嬉しいわ!そろそろ、領地へ帰るから……セバスは返してもらうけどね!」
「そんなぁ……みなが悲しみます」
「セバスさんもお城にいるのですか?」
「えぇ、いるわよ!今日も登城しているはずよ!」
「今は、謁見の準備に向かわれています。それって、アンナリーゼ様でしたか?」
「そう、私よ!」


 クスクス笑ながら、宰相の部屋まで行くと、エリックが迎えに来てくれていた。


「一段と逞しくなったわね……」
「アンナリーゼ様、お久しぶりです!」
「エリックさん!」
「おっ、レオも来たのか?」
「うん!今日は、アンナ様をエスコートしてきました!」
「ふふっ、そうね!さて、役者は揃ったことですし、向かいましょうか?」


 エリックに先導され、謁見の間の横にある小部屋へ入って行く。
 困った顔をして、疲れている公に思わず笑ってしまった。その側には、宰相、ウィル、セバスが揃っている。


「お久しぶりです、公。お元気してましたか?」
「お元気してるように見えるか?」
「うーん、全く?また、何か問題が発生しているのですよね?」
「わかっているなら、早く席につけ!」


 疲れていて、イライラとしていることがわかる。私も自身の領地であるコーコナにかかりっぱなしだったので、公の心まで慮ってあげる余裕がなかった。
 ここまで、疲れているとは……思いもよらなかった。


「まずは、領地の報告だけさせてください」
「あぁ、手紙にも書いてあったが、思ったより被害が少なくて助かった。コーコナでも大災害になっていたら、目も当てられん!」
「本当ですね……今のところ、土砂災害による被害は、2名の死亡と1名の重傷者と数名のけが人で済んでいます。公に近衛を貸していただいたおかげで、格段に成果をあげることができました。お礼を申し上げます」
「あぁ、そなたが始めたときは、バカなことをと思っていたが、実際に大規模な土砂災害が起こったこと、災害の最小限にしてくれたこと、ありがたく思う。引き続き近衛に関しては、アンナリーゼ采配の元、強い近衛兵になるよう頼む」
「わかりました。お任せ下さい。あと、同時期に伝染病がコーコナでも流行りました。一時、収まりましたが、新しい症状で、また、広がり見せていました。幸い私の主治医のおかげで、収まりつつあります」


 ほうっと興味をひかれた公。今は、その情報がほしいのだろうことはわかっていたので、ニッコリ笑う。


「それで、どうやったんだ?」
「どうと、申しますと?」
「その主治医がどうやって、伝染病をなおしたか聞いている」
「知りたいですか?」


 国の危機ではあるが、こちらもおいそれと情報を提供するわけにはいかない。ヨハンたちへの研究費も含めて、掻っ攫わないといけないのだ。
 公を頷かせるのは、それ程難しいわけではないので、微笑んだ。


「その微笑みは、俺の最大の難所だな……何が……」
「公っ!」


 さすがに宰相が割って入ってくるので、そうそう上手くはいかないのだろう。でも、まずは吹っ掛けるところから始めようかと宰相の方を見た。焦らず、怒らず、静かに微笑む。


「アンナリーゼ様……こちらには、アンナリーゼ様が望まれるようなものは、ご用意出来ないと思いますよ?」
「そうかしら?今、南の方で流行っている病。コーコナ領で流行っていたものと同じものじゃなくて?我が領地は、流行地を隔離していますが、さて、南の方は、どうかしら?」
「……宰相、アンナリーゼに勝とう思うことが、まず、無駄だ。提示させて、そこから値引き交渉の方が、建設的で摩擦も起こらない。金勘定に煩いアンナリーゼだからこそ、成り立つものだからな」
「よくわかっていらっしゃる」


 ニコリと笑うと、何が望みだ?とこちらを見てくる。


「ハニーアンバー店で、今回の伝染病に関する薬を独占的に販売をさせてください」
「独占的にか……それは何故だ?」
「インゼロ帝国の伝染病が元だとは、聞いていますわ!ただ、今、流行っているのは、大人ではないですか?」
「何故それを?」
「帝国での伝染病は、子どもに罹りやすく大人には滅多にうつらない。従来の薬で治るのは、子どもだけです。うちの主治医は、治験をして、大人にも有効な薬を見つけた。ただ、それだけです。ただでさえ、南の方はきな臭くなってきているのです。有効性のある薬で早々に治さないと、国中に伝染病が広がるかもしれない。隔離していないのであれば、すでに広がってもいるでしょう」
「……背に腹は変えられんということだな。ただ、大量に薬を作ることができるのか?」
「可能ですし、実は、すでに始めています。私としては、買ってくださると嬉しいのですが?あと、南の販売区で大々的に公が認めた薬として販売させてくれればいいですよ!」
「国への見返りは?」
「そうですね……売上の0.5割を国治めるあたりでどうでしょう?今回は、国相手に売りつける方が多いかもしれませんが、今後一般的に薬が普及してしまった後のことを考えても悪い話でないはずですよ!」


 ニッコリ笑いかけると、はぁ……と深い深いため息をつく公。
 わかったと言わせるまで、あと少しだろう。
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