上 下
645 / 1,480

いつものアンナ

しおりを挟む
 ジョージアが来てくれたことで、いつもの私を取り戻せた気がする。心の中は、まだ、痛いけど……その痛みを忘れずに、領地改革へといかしていかなければならないと整理できた。


「いつものアンナに戻ったみたいだね?」
「おかげ様で……ジョージア様は、私のお薬ですね?」
「安いお薬だこと」


 二人で笑いあう。悲しいことがあれば、ひとときはしっかり悲しむべきだ。時折そのときを思い出し、故人を偲ぶときもあってもいい。
 でも、私たちは生きている。これからの人を守ることは、領主としてもっと考えなければいけないのだ。目の前に迫る危機は、たくさんあるのだから……


「報告書、こっちにまだ来ていないと思って、先に読んだものの話をするよ?」
「お願いします」
「アンバー領だけどね、収穫期が終わって、刈り入れたそうだ。昨年より収穫量が多くなったから、
 近衛の分や他に回す余剰分も出来たそうだ。あと、既に2期作目に入ったよ!
 それと報告書に書かれていたのは、3期作を今年は目指すようにするらしい。羊が入ってきている
 だろ?」
「えぇ、確かいましたわね!」
「家畜の食糧としても、確保したいそうだ」
「そうですね。口のあるもの、食べ物は必要ですものね!」
「あぁ、それで、夏に羊の毛刈りをしたそうだ」
「毛刈りですか?どんな事するんだろ?」
「ごっそり、まるまると毛を刈るそうだよ。毛糸の材料になるそうだよ!俺も知らなかったんだけどね」


 照れたように笑うジョージアには悪いが、毛糸の材料は知っていた。ただ、夏の時期に毛刈り……というのに驚いた。専門の知識があるわけではないので、任せるしかできないのだが……なるほど、おもしろそうだ。来年は、是非とも混ぜてもらいたいなと考えていた。


「その顔は、来年は、その毛刈りに混ざるつもりだね?」
「バレましたか……なんだか、おもしろそうじゃないですか?」
「……まったく」
「それで、その報告をくれたということは、まだ、何かあるのですよね?」
「あぁ、毛糸にするのに、糸巻機がないんだそうだ。コーコナには、余っているものはないかと、
 聞いてほしいと」
「それなら……ナタリーを呼びましょう!その方がいいですね!」


 廊下に出ると、軽くナタリーを呼ぶ。貴族らしからぬ私にジョージアが大きなため息をついたのは、知らずにすんだ。


「どうされたのですか?」
「うん、ちょっと相談。入って!」


 執務室に入ると、ジョージアがちょっと疲れたよという顔を向けてくる。どうしたの?と小首を傾げておいた。


「それで、何か問題でも?」
「アンバー領で羊さんを飼っているのは知っていて?」
「えぇ、もちろんです!それが?」
「毛糸にしたいそうなんだけど……」
「あぁ、糸巻機ですね!確か、コーコナには、毛糸用の機器も揃っていたと思います。冬の手仕事と
 して、そちらを借りれるかお願いしましょうか?」
「そうね。ところで、今年の冬で大丈夫なの?」
「そうですね……今年の必要分は揃っているので、来年に回せばいいかと……なので、冬の手仕事と
 して、みんなのお小遣い稼ぎにしましょう」
「また、小遣い稼ぎ?」
「必要ですよ!アンバー領も豊かになりましたし、いろいろなモノを手にしたくなっています。心に
 余裕が出来れば、気を遣うところもできるのです。服などもそのうちのひとつで、ちょっといい服を
 来て、お出かけすることが、今では少しずつですが、浸透していっています。そうすると、必要に
 なってくるのは、お金なのです。
 少しいい服、少しいい食卓に並ぶ食べ物……どうしても、お金は必要ですよね?」
「社会が循環し始めて来たってことね!」
「なるほど……死にかけていたアンバーが、息を吹き返したということか!」
「まだ、完全ではないでしょうが、当面の目指してきた目標は達成できそうですね!」


 私とナタリーは微笑みあう。人が人として、生活するために……食糧の確保、仕事の確保、住む場所の確保と揃えてきた。
 人が流れてしまっていた、アンバー領も少しずつではあるが、人が戻ってきている。


「アンバーは、少し見ないうちにどんどん様子を変えていきますからね!」
「そうなの?」
「そうですよ!1年の殆どをアンバーで過ごすアンナリーゼ様には実感がないかもしれませんが、どん
 どん変って行っていますよ!」
「例えば?」
「アンナリーゼ様がずっと拘っていらっしゃった小麦の作付けもですし、街道整備も私が以前見たとき
 より、ずっと進んでいました。きっと、今度帰られたら、変わっているアンバーにすごく驚くこと
 だと思いますよ!」


 私はジョージアの方を見ると、ジョージアも同意なのか頷く。


「俺が知っているアンバーは、もうどこにもないよ。父にも報告を書いているが、春当たりに1度、
 帰ってきたいと連絡をもらっている」
「お義父様とお義母様が?嬉しい!久しぶりに会えるだなんて!」
「気ままにしているからね……きっと、変った領地を観たら、腰をぬかすんじゃないか?」


 ふふっと笑うと、楽しみだなとジョージアも嬉しそうにしていた。なんと言っても、アンバー再興を願っていたのは、義父でありジョージアであったのだ。変ってしまったアンバーに寂しさはあるかもしれないが、活気づいたアンバーに頬を緩めてほしい。
 領民と手を取り合って、新しくなっていくアンバーを1番見てもらいたかったのは、義父だったのだ。


「そういえば……小麦の話のときに言い忘れていたけど……水車小屋を1つ作ったそうだ。設計図を
 渡してあっただろ?」
「えぇ、確かに……」
「職人たちを集めて作ったらしいんだけど……意外とうまく行ったようだよ!石は、石切りの町から
 持ってきたらしいね。石臼を新しく水車ように開発したそうだ。おかげで、小麦がいつもより上質な
 ものになったそうだ。
 アンナが領地に帰ったら、焼きたてのパンを1番に食べて欲しいと報告があったぞ!」
「本当に?嬉しい!アンバーに帰るのが、楽しみになりました!」


 私の笑う顔を見て、ジョージアとナタリーが優しく微笑んでいる。
 みんなには、とても、心配をかけてしまったのだと、深く反省した。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

処理中です...