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せっかく、コーコナにいるのだから!Ⅵ

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 日が昇るより前に準備を終え、外に出るとコットンも準備を始めていた。荷馬車を確認するコットンに、おはようと声をかけると、とても驚かれた。


「おはようございます!アンナリーゼ様、お早いのですね?」
「うん、これでも、いつもより遅いくらいだよ!」
「そうなのですか?貴族の方は、朝はゆっくりだと思っていました」
「まぁ、そうだよね?ジョージア様もゆっくりなんだけど……私は朝方だから、暗い時間から準備を
 して、剣の鍛錬とかしているかな」
「確かに、アンナリーゼ様はお強いと噂で聞いたことがありますけど……本当に?」
「本当にだよ!今日は、もう少ししたら出発する?」
「そうですね、日が昇りますからね。それまでは、ゆっくりなさってください!」


 私は首を振り、手伝うわ!と準備するコットンの準備を手伝うことにした。
 いいですと断られたが、させてと言って手伝うと、コットンはみなが何故諦めた方がいいって言っていた意味が分かったのか、わかりましたと項垂れた。


「一人でするより、二人でした方が、早く終わるでしょ?」
「それでも、領主にさせる、ましてや貴族の夫人にさせるようなことではありません。昨日は、人手
 不足で、お願いしてしまいましたけど……」
「うーん、貴族も人間だからね。興味あることは、してみたいのよ!人に聞いても、やっぱり自分の
 目で見て触ってってしたものの方が、実感が湧くし、みながどんなことに困っているかって想像も
 つきやすいから……」
「アンナリーゼ様は、なぜ、そのように庶民の営みに入ってこようとするのですか?」
「ただの興味本位……って言ったら、コットンは、怒るかしら?恵まれた環境に育って、何をって
 思うかもしれないわね……」
「まぁ、思いますね。ただ、貴族には貴族の苦労があるのだろうと想像は出来ますけど、生活が
 違いすぎて、苦労がどんなものか……そういうことか!」


 私が、貴族であるかぎり、領民たちの生活をすることは出来ない。せめて模擬体験という形で、サラおばさんを手伝ったり、町や村へ繰り出して、作業を見たり聞いたり実際に体験させてもらったりしている。
 それが、コットンもわかったようで、なるほどと頷いていた。


「アンナリーゼ様は、本当に変わった貴族だ。まさか、領民の生活がどんなものなのか、少しづつでも
 いいから、自身で感じたいってことなんですね?」
「そういうことね。私は、知識だけでは補えない部分がどうしてもあるの。頭も良くないからね……
 効率がいいわけでもなくて、回り道をして、下準備をして、さらに石橋は叩いたうえでもさらに
 叩いて、真ん中は決して通らないかんじかしら?」
「そんなふうには、全く見えませんけどね!でも、なんとなく、ダドリー男爵より、遠くて近い感じが
 したのは、そう言うことなのですね!納得しました。それに、みながアンナリーゼ様がなさることに
 ついては、諦めろっていうのは……」
「それは、ただたんに、言っても聞かないからだと思うよ!」


 クスクス笑いあっていると、ノクトが近づいてきた。
 荷馬車に綿花畑に持っていく荷物がちょうど収まったころだ。


「おはようさん!今日もアデルを連れていくのか?」
「一応、護衛だからね!ノクトが来てくれてもいいけど、ノクトの方が、そっちで体を動かしたいん
 じゃないかと思って!」
「正解!さすが、アンナだな」


 ニヤッと笑うノクトを見て、コットンに私と同じ性質のおじさんがここにいるわよ!と教えてあげると、類は友を呼ぶんですねと苦笑いされた。
 そのあと、アデルとリアンが来たので、三人で先に昨日の場所で作業すると荷馬車を借りて出発することにした。


 綿花畑に先行して向かった私たちは、少しでも早く終わるようにと、早速始めることにした。


「リアン、昨日と同じように頑張りましょう!今日は、応援も来るそうだけど、出来る限り、今日中に
 終わらせるようにしないといけないから!」
「わかりました。でも、休憩もちゃんととってくださいね!」
「リアンもね!アデルも、昨日と同じように運んでくれるかしら?」
「任せてください。たまに、荷運び行くかもしれませんが……」
「大丈夫よ!そっちも大事だから!」
「いえ、護衛……」
「心配ないわ!」


 ですよね……と小さくため息をつくアデルに、今日も頑張りましょうとお尻を叩いた。
 元気よく、はい!と返事をするアデルを道に置いておいて、はさみを持ちカゴを背負う。


「こりゃたまげた、もう作業に入っている人がいるべ……遅くなってすまなん……だ?」
「おはよう!」
「……!領主様じゃねぇーべか?」
「んだ?なして領主様が?」


 わらわらと他の地区から手伝いに来てくれた農家さんたちが寄ってくる。物珍しいようで、私に挨拶していく!


「領主様が早朝から、作業さしてくれんだ、おらたちも早く始めっぺ!」
「夕方には、雨がふ……」
「雨、降るの?」
「んだ、匂いからして、雨がふるべ!早く終わらせないと、また長雨になるかもしんねからな!」
「また、降るのか……みんな、気合入れて作業するよ!がんばろうね!」
「領主様が?すっべか?」
「えぇ、私も、微力ながら、作業に混じますから!」


 あっちこっちから無茶苦茶に話しかけられ、目を白黒させながら、答えたり、作業にと話す。


「アデル、ノクトたちに伝えて来てくれる?」
「わかりました!早急に話してきます!夕方には降る可能性ありますか?」
「あぁ、あるっぺ!だんだん、濃い匂いがすんべからな……」
「ありがとうございます!向こうの作業の人に話してきます!今日、出来るだけ進めてくれるように」
「よろしくね!私は、とにかく、こっちを頑張るわ!」


 私は、作業する手にも力が入る。長雨がまた来る……綿花を、コーコナの産業を守るため、とにかく体を動かすのである。
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