614 / 1,493
屋敷に帰ろう!そして、また、出発!Ⅲ
しおりを挟む
「あとのことは、よろしくね!」
私は馬車に乗り込み、屋敷のものに手を振ると、行ってらっしゃいませと頭を下げてくれた。そこには、ジョージアや子どもたち、ウィルやセバス、デリアやディルなど侍従たちが見送ってくれた。
私の馬車には、リアンとベリルが乗っているのだが、しれっとどこで聞きつけたのかナタリーも座っていた。
増えた人数のおかげで、馬車はぎゅうぎゅうで、荷物もたくさんであり、少々狭い。
外を馬で並走するノクトは悠々としていて羨ましかった。
「な……ナタリーは、今日の移動のこと、どこで聞きつけてきたの?」
「アンナリーゼ様が逃げた日から、ずっと、屋敷を見張っていましたよ!屋敷の者にも聞いて、帰って
きた日に旅支度を整えたのです。本当に大変でした」
「……無理は、しなくてもよかったのに」
「アンナリーゼ様、私を置いて行かないでください!コーコナへ向かうなら、なおさら!」
「確かに……コーコナはナタリーが行った方がみなが喜ぶわね!」
ナタリーに言葉をかけると嬉しそうにしている。コーコナ領でニコライと共に動き回っているのは、ナタリーなのだ。ドレスを作ったり、布に関しての提案をしているのだから、私が行くより、ナタリーの方が喜ばれるだろう。
「そういえば、あの……」
「ライズですか?先に向かわせていますよ!」
「あの、一応、アンバー公爵家預かりなんだけど……」
「……本当ですね」
「まぁ、ナタリー専属でもいいよ……あまり、屋敷では役に立ちそうにないし、誰の言うことも聞か
ないし……好きに使ってやって」
「ありがとうございます。そういえば、こちらの令嬢は、なぜ、アンナリーゼ様と同じ馬車に乗って
いるのですか?まさか……また、たぶらかしてきたのですか?」
「ナタリーも失礼なことをいうわね!私が望んで手に入れたのは、デリア、ジョージア様、ウィルに
ナタリーにセバスだけよ!あっ、リアンたち親子も!」
「では、一体、このものは何者なのです?」
図々しいとナタリーがベリルを睨むが、普通にいえば、ナタリーの方が……では、ある。でも、ナタリーなくして、公爵である私は語れないので黙っておく。
「……お初にお目にかかります。元コーワ伯爵の娘、ベリルと申します」
「私より爵位が上でしたの?あっ、でも、元ということは、男爵家の事件に関わっていたきぞ……
アンナリーゼ様!」
「は、はい!」
「なぜ、そのようなものを側におくのですか!」
ごもっともな言葉に、返す言葉もなく、これには深い事情が……と、言葉を濁す。実のところ、デリアと双肩するほど、ナタリーも怖い。愛ゆえの言葉だとは知っているので、多少、胸にグサグサささっても正しいことを言われることが多いので反論出来ない。
「深い事情ってなんですか?今度は、何を考えているのですか?」
「……えっと、まず……ベリルとは、刺客と狙われた者として、襲ってきたのが出会いでして……」
「しーかーく?アンナリーゼ様!」
「は、はいっ!」
「刺客を同じ馬車に乗せるのですか?打ち首か投獄ですよね?公爵だって自覚はありますか?」
「……あります」
今回は、デリアよりナタリーの方のお説教を聞くはめになりそうで、しゅんと縮んでいく。
「ナタリー様、それくらいに……アンナリーゼ様も、ちゃんと考えておられますし、令嬢だったことを
見込んで、ナタリー様に仕込んでもらいたいとお考えです!」
「私にですか?でも、アンナリーゼ様の命を狙った輩ですよね?私が、許すと思いますか?」
「「いえ、全く……」」
私とリアンの声が重なり、ナタリーの怒りの矛先が、きっちりベリルへと向かった。
ナタリーのその目力に、ベリルは逃げ場のない馬車の中で逃げ場を探す。
「だいたい、どこぞのアホな貴族に唆されて、アンナリーゼ様の命を狙ったのでしょうけど、私の
アンナリーゼ様を嘗めすぎです!」
いいですか!と始まるナタリー劇場。私は、ただただ恥ずかしさに身悶えし、それを優しくリアンが気遣ってくれ、意気揚々と語るナタリーをだんだん尊敬の眼差しで見つめるベリル。
なんだか、狭い馬車の中は、混沌としていた。久しぶりの空気感に、馬車から1抜けしたいと、外に出たのは、他ではない私であった。
「おもしろいことになっているじゃないか?」
「ノクト……助けて……」
「仕方がない、後ろに乗るか?」
「えぇ、お願い」
馬車の外に出ても聞こえてくる熱の籠ったナタリーの語りに耐えかねた私は、馬車から降りてノクトの後ろに乗る。残暑残る熱い時期だ。熱風にあてられるが、馬車の中も別の意味で熱すぎる。
声を聞くに、リアンも参戦したらしく、ときどき声が聞こえてきた。
「アンナは、女子会は向いてないな?」
「そんなことは、ないと思うよ?」
「幼いときは、誰と遊んでいた?学生のときは?きっと、側には男ばかりだったんじゃないか?」
「幼いときは……お兄様、それから、ハリーと殿下。学生のときも似たようなメンバーにウィルと
セバスとナタリーが加わって……」
「今のままの遊び相手だな?」
「そう言われると、そうね……長い間、みんなに助けられて、私は幸せね!それに、大好きだし!」
チラッと後ろを見たノクトににぃっと笑うと、本当に侯爵家の令嬢だったのか?と疑われた。
「本当に、侯爵家の令嬢でしたよ?ノクトの息子さんとの縁談もそういえば来ていたと思うけど……」
「はぁ?そんなこと……」
「今、思い出したの。ノクトが戦場に出ている間に、夫人からいただいていたのかもしれないわね!
息子の嫁じゃなくて、まさか、夫人は、旦那が小娘のところに行くというとは思っていなかった
でしょうけど!」
「確かに……でも、息子の嫁か……それは、それで、悪くはなかったな。俺の領地を自由気ままに跳ね
回っているんだろ?」
「もう、ノクトの領地じゃないけどね!ノクトの息子さんは出来る人らしいから、私を外に連れまわ
してくれなさそうね?」
「そのための、親父がいるわけだがな?」
「ノクトに領地を連れまわされてた未来もあったってこと?」
そういうことだと笑う頃には、今日、泊まる予定の宿が見えてきた。急ぐ旅ではあるが、前回のことで、一緒に行動する人の体調の考慮も必要だと感じたので、今回は失敗しないようにと、日程を組んである。
宿についた瞬間から、リアンは忙しく飛び回り、私もそれに続こうとしてナタリーに止められ、代わりに、ナタリーにしっかり教育されたベリルがリアンと共に動き回るのであった。
私は馬車に乗り込み、屋敷のものに手を振ると、行ってらっしゃいませと頭を下げてくれた。そこには、ジョージアや子どもたち、ウィルやセバス、デリアやディルなど侍従たちが見送ってくれた。
私の馬車には、リアンとベリルが乗っているのだが、しれっとどこで聞きつけたのかナタリーも座っていた。
増えた人数のおかげで、馬車はぎゅうぎゅうで、荷物もたくさんであり、少々狭い。
外を馬で並走するノクトは悠々としていて羨ましかった。
「な……ナタリーは、今日の移動のこと、どこで聞きつけてきたの?」
「アンナリーゼ様が逃げた日から、ずっと、屋敷を見張っていましたよ!屋敷の者にも聞いて、帰って
きた日に旅支度を整えたのです。本当に大変でした」
「……無理は、しなくてもよかったのに」
「アンナリーゼ様、私を置いて行かないでください!コーコナへ向かうなら、なおさら!」
「確かに……コーコナはナタリーが行った方がみなが喜ぶわね!」
ナタリーに言葉をかけると嬉しそうにしている。コーコナ領でニコライと共に動き回っているのは、ナタリーなのだ。ドレスを作ったり、布に関しての提案をしているのだから、私が行くより、ナタリーの方が喜ばれるだろう。
「そういえば、あの……」
「ライズですか?先に向かわせていますよ!」
「あの、一応、アンバー公爵家預かりなんだけど……」
「……本当ですね」
「まぁ、ナタリー専属でもいいよ……あまり、屋敷では役に立ちそうにないし、誰の言うことも聞か
ないし……好きに使ってやって」
「ありがとうございます。そういえば、こちらの令嬢は、なぜ、アンナリーゼ様と同じ馬車に乗って
いるのですか?まさか……また、たぶらかしてきたのですか?」
「ナタリーも失礼なことをいうわね!私が望んで手に入れたのは、デリア、ジョージア様、ウィルに
ナタリーにセバスだけよ!あっ、リアンたち親子も!」
「では、一体、このものは何者なのです?」
図々しいとナタリーがベリルを睨むが、普通にいえば、ナタリーの方が……では、ある。でも、ナタリーなくして、公爵である私は語れないので黙っておく。
「……お初にお目にかかります。元コーワ伯爵の娘、ベリルと申します」
「私より爵位が上でしたの?あっ、でも、元ということは、男爵家の事件に関わっていたきぞ……
アンナリーゼ様!」
「は、はい!」
「なぜ、そのようなものを側におくのですか!」
ごもっともな言葉に、返す言葉もなく、これには深い事情が……と、言葉を濁す。実のところ、デリアと双肩するほど、ナタリーも怖い。愛ゆえの言葉だとは知っているので、多少、胸にグサグサささっても正しいことを言われることが多いので反論出来ない。
「深い事情ってなんですか?今度は、何を考えているのですか?」
「……えっと、まず……ベリルとは、刺客と狙われた者として、襲ってきたのが出会いでして……」
「しーかーく?アンナリーゼ様!」
「は、はいっ!」
「刺客を同じ馬車に乗せるのですか?打ち首か投獄ですよね?公爵だって自覚はありますか?」
「……あります」
今回は、デリアよりナタリーの方のお説教を聞くはめになりそうで、しゅんと縮んでいく。
「ナタリー様、それくらいに……アンナリーゼ様も、ちゃんと考えておられますし、令嬢だったことを
見込んで、ナタリー様に仕込んでもらいたいとお考えです!」
「私にですか?でも、アンナリーゼ様の命を狙った輩ですよね?私が、許すと思いますか?」
「「いえ、全く……」」
私とリアンの声が重なり、ナタリーの怒りの矛先が、きっちりベリルへと向かった。
ナタリーのその目力に、ベリルは逃げ場のない馬車の中で逃げ場を探す。
「だいたい、どこぞのアホな貴族に唆されて、アンナリーゼ様の命を狙ったのでしょうけど、私の
アンナリーゼ様を嘗めすぎです!」
いいですか!と始まるナタリー劇場。私は、ただただ恥ずかしさに身悶えし、それを優しくリアンが気遣ってくれ、意気揚々と語るナタリーをだんだん尊敬の眼差しで見つめるベリル。
なんだか、狭い馬車の中は、混沌としていた。久しぶりの空気感に、馬車から1抜けしたいと、外に出たのは、他ではない私であった。
「おもしろいことになっているじゃないか?」
「ノクト……助けて……」
「仕方がない、後ろに乗るか?」
「えぇ、お願い」
馬車の外に出ても聞こえてくる熱の籠ったナタリーの語りに耐えかねた私は、馬車から降りてノクトの後ろに乗る。残暑残る熱い時期だ。熱風にあてられるが、馬車の中も別の意味で熱すぎる。
声を聞くに、リアンも参戦したらしく、ときどき声が聞こえてきた。
「アンナは、女子会は向いてないな?」
「そんなことは、ないと思うよ?」
「幼いときは、誰と遊んでいた?学生のときは?きっと、側には男ばかりだったんじゃないか?」
「幼いときは……お兄様、それから、ハリーと殿下。学生のときも似たようなメンバーにウィルと
セバスとナタリーが加わって……」
「今のままの遊び相手だな?」
「そう言われると、そうね……長い間、みんなに助けられて、私は幸せね!それに、大好きだし!」
チラッと後ろを見たノクトににぃっと笑うと、本当に侯爵家の令嬢だったのか?と疑われた。
「本当に、侯爵家の令嬢でしたよ?ノクトの息子さんとの縁談もそういえば来ていたと思うけど……」
「はぁ?そんなこと……」
「今、思い出したの。ノクトが戦場に出ている間に、夫人からいただいていたのかもしれないわね!
息子の嫁じゃなくて、まさか、夫人は、旦那が小娘のところに行くというとは思っていなかった
でしょうけど!」
「確かに……でも、息子の嫁か……それは、それで、悪くはなかったな。俺の領地を自由気ままに跳ね
回っているんだろ?」
「もう、ノクトの領地じゃないけどね!ノクトの息子さんは出来る人らしいから、私を外に連れまわ
してくれなさそうね?」
「そのための、親父がいるわけだがな?」
「ノクトに領地を連れまわされてた未来もあったってこと?」
そういうことだと笑う頃には、今日、泊まる予定の宿が見えてきた。急ぐ旅ではあるが、前回のことで、一緒に行動する人の体調の考慮も必要だと感じたので、今回は失敗しないようにと、日程を組んである。
宿についた瞬間から、リアンは忙しく飛び回り、私もそれに続こうとしてナタリーに止められ、代わりに、ナタリーにしっかり教育されたベリルがリアンと共に動き回るのであった。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
真実の愛の言い分
豆狸
恋愛
「仕方がないだろう。私とリューゲは真実の愛なのだ。幼いころから想い合って来た。そこに割り込んできたのは君だろう!」
私と殿下の結婚式を半年後に控えた時期におっしゃることではありませんわね。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
婚約破棄は誰が為の
瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。
宣言した王太子は気付いていなかった。
この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを……
10話程度の予定。1話約千文字です
10/9日HOTランキング5位
10/10HOTランキング1位になりました!
ありがとうございます!!
「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。
義妹がピンク色の髪をしています
ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる