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商談ですよ!

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 侯爵であるルイジもこんな顔をするのかと、私は見つめ返す。
 厳しい顔つきを見れば、何か領地で起こっていることはわかった。


「それで、どんなことでしょうか?」
「運輸業を始めてから、少しずつ受入れられ、事業を拡大していっているとこです。運輸業がうまく
 いっているからなのかわかりませんが、お恥ずかしい話、領地に夜盗が出たり、領主の館に盗人が
 出たりと、随分頭を抱えることになっております」
「……それは」
「被害額も少なくなく、領民への危害も増えてきました。私は、夜盗に狙われようが、盗人に取られ
 ようが構いませんが、エレーナや子どもたちを含め領民への被害を無くしたいと……」
「領地にも警備兵はいるのでしょ?」
「いるには……います。ただ……」
「あまり練兵がされていないか、統率が取れていない。はたまた、全く役に立たないってことかしら?」


 アンナ!とジョージアにドレスを引っ張られるが、目の前にいる切実な二人の顔を見ればわかる。


「…………そのとおりです」
「日に日に、領民の生活が脅かされ、普通の生活が難しい環境になってきています」
「運輸業には、人がたくさん出払ったりしてしまうものね……女子どもの生活を余儀なくさせている
 場合もあるんではなくて?」
「はい、そうなのです。そういうところを狙った夜盗等も多く……」


 今、お願いしているだけでもアンバー領地内、ハニーアンバー店関係、先行してコーコナ領へ行ってもらっている。回し回しで入ってもらっているが、常駐で20台は確保していた。
 休暇等を考えて人は、三十人から四十人の確保されている。他にも請け負っている仕事もたくさんあるとエレーナから聞いているので、百人単位で人がいないことはわかっていた。
 その間、留守を守るのは、女子ども、老人たちだろう。クロック侯爵家が抱える領地も大きいが、人材としては、運輸業とは別に働く人も多くいる。
 その中で助け合いながら生活しているであろうことはわかるが、夜盗とや盗人となると、話は少々難しいだろう。
 自身を守るすべがない領民が、例え悪党だとわかっていても、危害を加えることは憚れることは想像できる。
 そのために、警備兵がいるのだが……役にたたなければ、ただのごく潰しだ。
 アンバーでも同じようなことがあったので、気持ちはわかる。


「なんとかしてあげたいのは、やまやまなのだけど……うちも人手が全然足りていないの。アンバーへ
 来てくださると言うのであれば受入れますよ!警備兵への給金等はそちら持ちで、食住だけは、提供
 できるかと」


 私の言葉を聞き、二人の顔は一気に明るくなった。それだけ、困っているということだろう。


「でも、侯爵は、今の状況も、すぐにでも打破したいと思いませんか?」


 私の提案に二人は顔を見合わせて、こちらに向き直った。


「……それは、どういうことでしょうか?」
「例えばですけど、ここから領地までは何日かかりますか?」
「5日もあれば……」
「往復10日ですね。プラス3日つけましょう。合計13日。その間に、一人、私から護衛をお貸しします」
「アンナ様のですか?」
「えぇ、そうです。まぁ、態度はでかいですし、少々面倒ではありますが、顔を見れば、みなさんやる
 気になると思いますよ!侯爵には悪いのですが、護衛へ道案内をお願いします。エレーナと子ども
 たちは、私がここにしばらく滞在しますので、侯爵がお戻りなるまでいていただきます」
「えっ?あの……」
「失礼ですが、お年をめしてらして大変かと思いますが、お願いしてもいいですか?護衛と言いまし
 ても、一応、元貴族ですので、それ相応の対応を望みます。食事とか粗末なもので構いませんので!」


 勝手に話を進めて行く私についてこれていない二人。たぶん、ジョージアもだろう。


「ニコライ、契約書を。ノクトを13日間無償で貸し出すと記載してちょうだい」
「かしこまりました。そのあとは、ノクト様を呼んでくればよろしいですか?」
「えぇ、お願いね!」


 契約書をさらさらっと書いていくニコライ。すぐに私の手元にそれが来る。
 私は、間違いがないか確認をして、サインを入れる。


「私からの贈り物ですわ!また、いつの日かに返していただければ、結構ですので、受取ってください!」
「あの……ノクト様って、先程言われていた」
「元貴族のおじさんですよ!私は、ここに数日滞在するつもりでしたが、少々期間を伸ばしましょう。
 売れる恩は、売れるときに最大限に売らせていただきますわ!」


 急に笑いだしたルイジにみなが驚いた。


「……すみません、あまりにもアンナリーゼ様のお考えがおもしろくて」
「旦那様、さすがに失礼ですよ!」
「いいのよ!エレーナ」
「でも……」
「エレーナ」
「はい、旦那様」


 エレーナは、ルイジに呼ばれ、黙ってしまった。


「私の胸の内を聞いてくださいますか?アンナリーゼ様」
「えぇ、もちろんよ!」


 厳しい顔から、少し和らいだルイジに微笑みかける。


「私は、アンナリーゼ様から多大な恩をすでに1ついただいております。まだ、それをお返しする
 ことが出来ておりませんのに、今回、また、恩を売られるとは……」
「それは、何かしら?私、ルイジに売った恩なんてなかったと思うけど?」


 小首を傾げて、わからないというと、エレーナの手を握り頷くルイジ。


「私に、エレーナという素晴らしい伴侶を与えてくださいました!それが、侯爵家として、どれほどの
 恩に匹敵するか。子も授かり、次代を繋いでくれるだけでなく、さらに事業の後押しまで……この
 受けた恩を私どもクロック侯爵家は大変喜んでおりました。何かの際にはと、常々思っていたのです。
 それなのに……また、受けるとなると、いつ、この大きな恩を返したらいいのか……」
「そういうこと?それなら、私じゃなくて、娘が大きくなったときに手伝ってくれるだけでいいわよ!
 私は、エレーナと友人で、事業にかんしても、二人ともとても真摯に向き合ってくれていることを
 知っています。だからこそ、ハニーアンバー店の仕事もお任せさせてもらっていますから、そんな
 大きく考えてもらう必要はないわ!」


 にっこり笑うと、本当にそれで……と、ルイジはいう。実際、エレーナのことを進めてくれたのは母だ。でも、あの事件をうやむやにしたのは私だったので、今、エレーナがここにいられることを恩だというのであれば、返しきれないものではある。
 私は、そんなことには拘らないし、これからもアンバーを発展させるには、エレーナたちの事業である運輸業は必須であるのだから、持ちつ持たれつでいいのではないだろうか?


「アンナ、呼んだか?」


 部屋にニコライとあらわれたおじさんに私は笑いかけ、お願いを可愛くするのであった。
 ため息ひとつ、あぁ、わかった、今すぐ行くぞ!と侯爵を連れて出て行ったのである。

 部屋に残されたエレーナは、突然のこと過ぎて、ポカンとしていた。
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