上 下
595 / 1,480

商談ですよ?

しおりを挟む
「そういえば、今日は何の集まりだったのでしょう?」


 そう口火を切ったのは、ルイジであった。すると、隣から旦那様?と少し冷ややかな声がエレーナから漏れ、ニコライがコホンとひとつ咳をした。


「いつもエレーナには無理をお願いしているので、そのお礼と、今後のことについての打ち合わせ
 ですよ!」
「そうでしたか、お恥ずかしいことに、エレーナがとても優秀でして……私は、エレーナの後ろを
 ついて歩くだけの木偶……頼りっきりなのです」


 少々恥ずかしそうにルイジは言うが、エレーナは旦那様がいるからこそですわ!と、こそっと煽てると、見たことがある光景だねとジョージアが呟いた。

 コホンと私も咳をひとつすると、緩んだ空気も多少は引き締まる。


「今日は、商談ですよ?ジョージア様」
「えっ?そうだったの?」
「ジョージア様……ほら、コーコナ領のお話です。たくさん事業をしているから、お忘れになり
 ましたか?」


 ジョージアを責めることはせず、たくさんありますからね、忘れてしまいますよねと言う風に話すと、そうですよね!とルイジが話に乗ってきた。
 こちらも、見る感じ、うちと似たりよったりのようで、ニコリと微笑んでおく。


「アンナ様、そういえば、大規模な災害が起こったとかで……」
「いいえ、まだ、起こっていないわ!雨が多いから、起こる可能性を考えて、動いているの。
 コーコナ領が、少し、例年より雨量が多くて、もしかしたら……っていう懸念があるのよ!」
「なるほど……確かに雨が多いのは気になりますね。自然がすることですから、私たちには何もでき
 ませんが、少しでも、災害の被害が減るよう動かれているのは、さすがです!」
「ありがとう。そう、それで、お願いがあったのよ!エレーナのところの運輸業なんだけど、もう少し
 だけ、人を貸し出してくれないかしら?近衛を災害対策に投入しているんだけど、移動手段として、
 馬車が必要なの!」
「馬車ですか?人が乗る用のですよね?」
「いいえ、荷馬車でいいわ!」


 そんな話をすれば、ウィルがいたら、姫さんひでぇ!と言われそうだが……泥だらけの近衛を乗せるのに、きちんとした馬車に乗せるなんて、もったいない。荷物も大量に運ぶことになるので、荷馬車で十分である。


「建物も建てる予定だから、それも考えたら、やっぱり、荷馬車が最適だと思うのよ!」


 近衛を荷馬車に積んでもいいのか……懸念があるようだが、そこらへんは任せてほしい。
 私が言うに、荷馬車に乗れないなら、とっとと公都へ帰ってしまえということになる。
 その辺も踏まえて、今回、公から近衛を借りているのだ。綺麗な仕事をできると思ってきたのなら、大間違いであることを十分にわからせてあげよう。身をもってなのか、どうなのかは、そのとき考えるとしている。


「あの、近衛を運ぶのですよね?」
「えぇ、そうよ!近衛のことはついでだから、それ程気にしてもらうことはないわ!泥だらけになって
 働くのだから、綺麗な馬車は必要ないの。それと、アンバーからも荷物を運んでほしいから、荷馬車が
 最適なのよ!」
「依頼主であるアンナ様からの申出ですので……それは、こちらでも手配をさせていただきますが、
 近衛……」
「いいのよ!私は、ちゃんと、公に募集をかけるときにそういう仕事をしてもらうって、伝えてある
 のだもの。それを甘く考えていたような近衛なら、アンバーに来たって、何の役にもたたないから!」
「あの、アンバーでは、どんな仕事を?」
「土木工事とか農作業とか……いろいろね。綺麗な近衛の制服を着れるのは、月の内5日もないと思うわ!
 私の近くで護衛をしている近衛ですら、毎日泥だらけよ?」


 エレーナとルイジは、お互いの顔を見合わせていた。近衛の使い方を間違っていないか……というふうに考えているのだろう。
 普通に考えて、間違ってはいると思う。でも、実際、ノクトという化け物みたいな将軍が何をして鍛えたのか……と聞くと、戦場に出続けたということ以外なら、畑や土木工事を常日頃からしていたと聞けば、そんなものなのかってなる。

 出来上がった成功例があるなら……近衛も強くなるし、アンバー領も綺麗になるし、一石二鳥だからこその公への提案であった。それを理解しての、近衛の追加借りだしであった。
 公も近衛の強化については、頭を悩ませていたそうなので、願ったり叶ったりな申出ではあったのだ。
 おまけとしては、畑や土木工事が休みの日は、ウィルに模擬戦、セバスに戦術などの抗議までつけてある。これは、公やアンバーに来ていない近衛には内緒であるが、ノクトやイチアも時間があるときには、ウィルやセバスに混ざることもある。
 一見、遠回りをしているような近衛の強化ではあったが、理にかなった強化方法ではあったのだ。生きた戦術書であるノクトとイチアは、どこへ行っても手には入らない。聞くだけでも近衛にとって、戦術が広がり、少しずつ強くなっているという報告を受けていた。


「あの、ひとつ伺っても?」
「どうぞ!」
「うま味とはなんでしょうか……?」
「旦那様?」
「あぁ、いえ……近衛が土木工事など……国を守ってこそなのだと思っておりまして……」
「それは、そうね。ただ、短期的に力をつけるには、とてもいい環境ではあると考えているの」

 私は、ノクトやイチアなどの話も含めて、どういう状況なのかを話していく。特に隠していることもなく、ただただ、農作業に土木工事をひたすらしてもらっている話がほとんどなのだが、納得したようにルイジは頷いた。


「例えば、ですが……我が領からも派遣させていただいたら、その……強くなるでしょうか?」
「旦那様!」
「エレーナ、大丈夫よ!何かお悩みでも?」
「……」


 エレーナの方を見てから、ルイジは私に視線を戻す。その顔は、エレーナへの甘い顔ではなく、領主としての顔をしていた。


「いいかい?エレーナ」
「……旦那様が領主です。アンナ様に相談するつもりでしたから、お願いします」


 私を見据えるルイジは、微笑みを一切消した厳しい顔へと変貌させたのである。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

異世界八険伝

AW
ファンタジー
これは単なる異世界転移小説ではない!感涙を求める人へ贈るファンタジーだ! 突然、異世界召喚された僕は、12歳銀髪碧眼の美少女勇者に。13歳のお姫様、14歳の美少女メイド、11歳のエルフっ娘……可愛い仲間たち【挿絵あり】と一緒に世界を救う旅に出る!笑いあり、感動ありの王道冒険物語をどうぞお楽しみあれ!

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...