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始まりの夜会Ⅱ

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 デリアによって公爵として全て整え終えたのは、もう夕方であった。
 軽くお菓子をつまみ、空腹を満たしてから、私室に迎えに来てくれたジョージアと馬車に乗り込む。


「今日の宝飾品は、青薔薇たちではないんだね?」
「えぇ、私は青薔薇たちが好きですけど、今日は公妃も出席する夜会になる予定なのだから、公爵らしく
 時代の最先端にしましょうと言われ、新しい宝飾品を何点かとお兄様にいただいたアメジストのネック
 レスをつけています」
「確かに、あまり見ないネックレスだと思っていたよ」
「私の卒業祝いにくれたものですわ!」


 私の瞳と同じ色をしていて綺麗だと褒めてくれるので、とても嬉しい。
 このネックレスを中心に、宝飾品を揃えることになったのだが、元々ティアの実家の宝飾品店で買ったものであったので、ティアが上手に合わせてくれた。
 ジョージアがくれたサファイアの青薔薇たちに対して、さしずめ、アメジストの紫薔薇と言ったところだろう。
 今日は、ルビーの真紅の薔薇のチェーンピアスも青薔薇たちも、宝石箱の中でお留守番となっている。


「ドレスもアンナにぴったりだね?」
「ありがとうございます。今回の流行として、胸元や背中を大きく開いたデザインとなっているんです
 けど、これもナタリーの戦略のひとつらしいですね!」
「ナタリーの?アンナの胸元は、背中もレースがあしらわれているよね?」
「はい。それも込みで、ナタリーの戦略ですよ」
「ナタリーは、どこまで考えているんだい?」
「わかりません。ただ、今回のデザインに関しては、このレースを流行の最先端にしたいようなのです。
 クーヘンという編み物の上手な女性が、フレイゼンから来たことで、ドレスのデザインの方向転換を
 したみたいですね。大きく開きすぎる胸元は、豊満な方とか若い令嬢なら、目を引くでしょうけど、
 妙齢の女性が露出が過度にあれば、着にくいですよね。今、流行の最先端であるハニーアンバー店の
 ドレスは着たいけど、諦めてしまうご婦人向けにってことみたいです」
「なるほど、レースで隠してしまえば、見え隠れする部分があり、それも魅力のひとつに変えるって
 ことかな?」


 そうです!とジョージアの気づきに手を打ち、さすがですと褒めると、照れていた。


「俺の奥さんにも、過度な露出は控えてもらいたいからね。確かに、そう考えると、過度に肌を出して
 いるより、レースを使って見え隠れする白い肌が逆に艶めかしかったりもするよね?」


 そうは思わない?というジョージアに、よそでは言わないでくださいね?とニコッと笑いかけた。


「もちろん、アンナ以外には言わないよ。さて、着いたようだね。行こうか!」


 ジョージアは、私の手を取り、馬車から降ろしてくれる。
 正面玄関は、他にも貴族たちがぞくぞくと集まってきており、騒然としていた。
 私とジョージアが、馬車から降り立つと、その前がパッと開く。
 大広間までの道が出来、私はジョージアへ微笑みながらエスコートされてゆっくりと向かうのであった。


 ◇◆◇◆◇



 大広間へ入る前、控室に私たちは向かう。
 爵位が上がれば、それぞれ控室が用意され、夜会の始まりの直前に大広間へ向かえばいいようになっている。


「そういえば、サシャ……ソルトはもう着ているの?」
「えぇ、もうどこかにいるはずですよ!ザワザワと人だかりができているところにいるかと」
「あぁ、黒の貴族が人気だからね。女性たちの嫉妬に悩まされなければいいけど?」
「そうですね!でも、お兄様程整った女性はいないですから。それにカレンを彷彿させるような女性に
 ちょっかいかける女性は、この国にはいないでしょ?」
「なるほどね!」
「ミネルバには事情を連絡済みですから、うちのお兄様と過ちがあったという噂が出回ることはあって
 も、笑い飛ばしてくださいと言ってあります」


 根回しをすませていたのかとジョージアは感心しているが、普通の話ではあった。謀をするとなれば、誰かには迷惑かけることがある。こちらの味方にかける迷惑を考えたうえで、先に知らせられるものなら、教えてしまっても構わないので、今回、ミネルバには連絡した。
 国も違うし、ミネルバがこちらの社交界に出張ってくることもないので、知らせたまででもある。
 ある程度、ひとつの波を俯瞰的に見ていないとなかなか先を考えて動けない。
 ジョージアには、その部分がまだ、できていないのだ。ずる賢い貴族とやり合わないといけないのだから、これくらい簡単なものはわかるようにしないといけない。
 今回の顛末をジョージアに説明をしているところで、控室の扉がノックされた。

 そろそろ始まりの夜会が、始まるのだろう。公より遅く大広間へ入るのは失礼なので、ジョージアにエスコートされ大広間へ入っていく。
 ここでは、爵位が上の者に関しては名前を呼ばれて入るので、誰が大広間へ入るかわかるため、扉が開いた瞬間から、注目の的ではあった。


「相変わらずだね?」
「私だけのことだと思いますか?ジョージア様ももちろん、ご婦人たちの注目の的ですよ。ほら、見て下さい!」


 そういって、ジョージアに黄色い声をあげようとしている独身女性たちに、私は流し目ひとつで黙らせる。
 うちの旦那様に何か御用かしら?と視線を送れば、すごすごと人ごみに消えていく。
 ソフィア程の度胸がある令嬢は、もう、この国にはいないのかもしれない。
 ジョージアだけなら、若さで押し倒せるとでも思っているのだろうか?私の目の届く所では令嬢たちが決してジョージアにちょっかいかけて来たりしないのだ。
 まぁ、だいたいそんなことをすれば、どうなるか令嬢たちの親たちは知っているので、気が気ではないだろうけど、私は、怖い顔ひとつせず、微笑むだけに留める。
 私が公や他の貴族と話をしているうちに、ジョージアに群がるのはわかっていても、こういうちょっと牽制はしておかないといけない。
 何かあれば、責任はきっちり取ってもらう。ジョージアではなく、相手側の方に。
 そうそう、バレてないと思っているかもしれないが、生憎、私に聞こえてこない話などないことだけは伝えて置かないといけないことだ。
 それも、令嬢たちの親たちなら、みなが知っていることなのだが。

 ただ、ジョージアの隣で微笑んでいるだけの夫人ではないことだけ、多くの貴族が身をもって知っている。
 私たちが所定の場所についたころ、大広間がざわざわとした。
 公が来るのだろう。ジョージアに合図して公を向かえる準備を始めた。
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