上 下
544 / 1,480

ママ、あれ、あれ!

しおりを挟む
 私が玄関まで行くともう出かける準備が終わっていた。
 エマがネイトが乗った乳母車を押して、アンジェラとジョージがそれを背伸びしながら覗いている。
 ジョージアが、それを微笑みながら子どもたちを見ていた。


「お待たせ!」


 私もその輪の中に混ざると、ママ!と二人の子どもが寄ってくる。私は二人と手を繋ぎ、ジョージアとアンジェラが手を繋いでいる。
 ジョージは、車道側でなく中側をホテホテと歩き始めた。


「ひーめさん!」


 私を呼ぶウィルに振り返ると、こちらに向かって手を振っていた。


「どうしたの?」
「いや、出かけるって聞いたからさ、今日レオとミアも両親に連れられて街に出ているみたいだからさ!
 どっかで、会うかも?ミアが怒っていたら謝っておいてくれる?」
「わかったわ!ウィルを一人占めしてごめんって言っておく!」
「いや……そこまでは……」
「ウィール!」
「よぉ!嬢ちゃん、今日は姫さんもジョージア様も一緒でいいな!」


 ニパッと花が咲いたかのように笑うアンジェラは、相当ご機嫌のようだ!
 握った手をさらにギュっと握っている。


「気を付けて!」


 手を振るウィルを見ながら、両手を繋いでいたアンジェラはジタバタしていた。ウィルに手を振りたいのだろうと私がアンジェラの手を放してあげると、ブンブン手を振っている。


「アンジー行こうか?」


 ジョージアに言われ、再度、私の手を取るアンジェラ。さっきよりもご機嫌に私のジョージアの手をブンブン振り回す。


「アンジェラ、そんなに振り回したら痛いわ!」
「……はい」
「いい子ね!」


 私たちは並んで歩く。子どもの足では、少しだけ街まで遠いが、アンジェラもジョージも一生懸命足を動かして歩いている。
 領地の屋敷で、レオたちと走り回っているおかげか、普通よりかは、二人共体力がありそうだが、きっと、帰りは抱きかかえて帰るはめになるだろう。

 公都の中心地へ近づくと、露店などが並び、お客を呼び込むおじさんやお姉さんたちの声があちこちから聞こえてきて活気づいている。初めて公都の街並を見たアンジェラもジョージも目がキラキラと輝いていた。
 アンバー領で過ごすことが多いことと、公都に帰ってきても屋敷から出たことがなかったから、活気ある街並みに心躍るのは仕方がない。
 私も小さい頃、両親に連れられ初めて街へ出たときは、こんな感じだったのだろうか?


「アンナは、街で遊んでたりしたの?」
「もちろん!4歳くらいからですか?お兄様と遊びに出ていましたよ!あとは、ハリーと出会ってからは、
 いつもハリーと遊びまわってましたよ!ローズディアとは違って、私すごい有名人なんですよね!
 アンナって名前は、珍しくないでしょうが、この髪の毛が目印で、すごく有名人だったんですよ……」


 私の顔をみると、トワイス国王都ではゲッっという顔をされる。でも、同時に王都のみんなにそこそこ可愛がられていた自負はあった。


「なんとなく、想像が出来るよ……アンナが先頭に立って後ろからヘンリー殿やサシャがついて歩いて
 いる様子が」
「お兄様やハリーだけではないんですけどね……はぁ……あの頃は、本当に楽しかった!」


 そんな様子に苦笑いのジョージアであるが、きっと、ジョージアが思っているより私の子ども時代はお転婆ぶりを発揮していた。
 じゃじゃ馬アンナは、通り名だったし……私を見たら、公都の強そうな男の子でも道を譲ってくれ、さらに後ろをついてくるくらいだった。


「ママ、ハリーって誰?」
「私の幼馴染のヘンリーおじさんね!」
「おじさんって……アンナ、ヘンリー殿に怒られるぞ?」
「怒りませんよ!なんたって、おじさんって言うのは、私の娘ですもの!嬉しいに決まってます!アン
 ジェラもハリーに会ったらおじさん!って言ってあげてね!」


 意味がわからないと言うふうであったが、とにかくおじさんと呼べと言われたので、アンジェラはいい返事を返してくれた。
 そんな様子を見て、ジョージアはため息をつく。


「どうかされました?」
「アンジェラもアンナみたいになるんじゃないかって……アンナを見てたらそう思うよ。レオもミアも、
 もしかしたら、ジョージまで引き連れて、この街を練り歩いている……そんな想像をする日が来る
 とは……思いもしなかった」
「意外とそのときは、近いかもしれませんね!」


 外を出歩くようになるには小さいから、まだ、ダメだけどね!と少し拗ねたようにいうジョージア。
 アンジェラが可愛くて仕方がないので、危ないかもしれない外へは出したくないらしい。
 私は、その気持ちもわからなくもないが、たぶん……アンジェラは私に似たのだから、外への興味は尽きないと未来を想いこそっと笑う。


「ジョージア様は、子どものときは外に遊びに行かなかったのですか?」
「俺は、基本的に遊ぶのは公とだけだったから、公がお忍びのとき以外は、外に出なかったかな?」
「おぉー、なんというか……」
「言わなくてもわかってる。面白みがないって言うんだろ?」
「そこまでは、言いませんよ!公と出かけていたのなら、いいじゃないですか?」
「言いわけないだろ?」
「どうしてです?」


 私はジョージアをじっと見つめると……言葉を濁すジョージア。
 それを見逃すはずもない。


「ナンパしに行ったんだ?」
「俺は、してないから!」
「本当ですか?」


 ジョージアに疑いの眼差しを向けると誤解を解こうと私を言いくるめようとし始める。


「ジョージア様も公もませた子どもだったんですね!」


 ニッコリ笑いかけて、黙らせておいた。口がパクパクしておもしろい。


「ママ、ママ!」
「ん?どうしたの?ジョージ」
「ナンパって何ですか?」


 真摯な目で言われると、私からは説明をしにくい。今、言葉を覚えている最中なので、出来る限り言葉を選んでいたつもりだったのだが、ジョージは新しい言葉が気になってしまったようだ。


「それは、パパに聞いてみるといいよ!パパ、たぶん、得意だから!」
「アンナさん……俺は……」
「パパ、何?」
「……えーっと、遊びに行きましょうかとか……?ねぇ?アンナさん?」
「知りませんよ?私、したことないですから!」
「パパ?」


 プイっとジョージアの方を見ないでおくと、大人の都合のいい言葉をジョージアが口に出した。


「お……大人になったら、わかるよ!ジョージもね?年頃になったらね?」
「年頃になっても、ジョージが公みたいにはなりませんように……」


 わからないと小首を傾げているジョージをよそに、アンジェラのお鼻センサーが動いたようだ。
 ジョージアは、魔法の言葉で切り抜けたと思っていたが、ジョージにじっと見つめられると言葉に困ったので、アンジェラのクンクンはありがたかったようだ。


「ママ、あれ、あれ!」
「ん?どうしたの?」


 繋いでいたジョージアの手を離し、アンジェラが指さした先は今日の目的地であった。


「いい匂いがする!」
「いい匂い?」
「甘い匂い!」


 ハニーアンバー店で製菓を作っているキティがお世話になっている喫茶店である。結構離れているのにアンジェラは大好きな甘い匂いをかぎ分けたようだ。


「おっ!本当だな!アンジーは何か食べたいものがあるかな?」
「クリームいーーーっぱいのケーキ!」


 アンジェラに助けられたようで、ジョージアは少しだけホッとした顔をしジョージの質問をかわすようであった。
 それもありだろう。空気を読まない我が道を進むアンジェラは、かなりの大物だといえよう。
 今日は、大きなケーキをジョージアは、アンジェラのために頼むに違いなかった。


「生クリームいっぱいって……」


 親子なんだね……と言葉にならない視線をジョージアから痛いほど感じたが、私とアンジェラはもう美味しい生クリームいっぱいのケーキのことで頭がいっぱいとなり、幸せな気持ちでいっぱいであった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...