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3枚目

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 パルマが2枚目の紙をもらい書き始めた頃、なんだかとても不安になり始めた。
 入って1ヶ月?2ヶ月くらいの新人も新人が書く引き継ぎ書が、もう半分くらい埋まっているのに私は目を背けたくなった。
 これって……セバスやイチアに同じことをさせたら、一体何枚……考えるのはやめよう。きっと、紙で収まらない。ジョージアの執務室にあった書棚を埋め尽くすくらいの冊子となって渡される気がするので考えることを放棄した。


「パルマとか言ったか?」
「……はい、公」
「そなた、まだ、今年入ったばかりだと言うが……その量の引き継ぎ書は一体……」
「畏れながら、私はアンナリーゼ様のはからいで、長期休暇のときに少しだけ城で仕事をさせていた
 だいた経験とアンバー公爵家筆頭執事の補佐及びアンナリーゼ様の仕事を少し手伝っておりました。
 おかげで、城は勝手知ったる庭のようなもので……」


 パルマが勝手知ったると言った瞬間、公が私を睨んでくる。私としては、この国で私の役に立ちたいとわざわざ来てくれたパルマにこんなところで働くのかと問うつもりで行かせただけであって、内情視察をして来いと……言わないこともなかった。
 パルマが城の内情視察も完ぺきにこなしてきたことは、公には黙っておくが、わかっているからこそ、こちらを睨んでくるのであろう。
 訓練の一環なんだから、仕方がない。将来、仕事についたときや社交に出ないといけなくなったときに、必要になってくる情報収集方法を少々叩き込んだだけである。


「そのせいか、先輩たちの仕事の無駄が見えてしまい、つい手を出してしまったり、口をだしてしまった
 りしてしまい……気づいたときには、私は今の業務量になっていました。先輩たちの業務を押し返す
 わけにも行かず、毎日、日付が変わるまで……」


 大きくため息をついてしまい、慌てて口を塞ぐパルマの背中をそっと撫でると、少し表情が和らいだ。


「公は、昨日の日付が変わった頃、何をされていましたか?」
「……そ、それはだな……」
「第二妃といちゃこらしてたんじゃないでしょうね?」


 私は、逆に公を睨んでやると、開き直った。それも仕事だと。
 確かに、そうなんだけど……うん、首切って道に晒してやろうかと思ってしまった。こんなにパルマが頑張っているのに?というなんとも言えない怒りのようなものが湧き上がる。


「……首、落としましょうか?」
「……そ、そ、それは……勘弁してほしいです。アンナリーゼ様……」
「いらないでしょ?そんな首。公の仕事なら、子どもでも出来ますし、挿げ替えますか?」
「いえ、挿げ替えないでください」
「どうしてです?」
「そんなに怒ることでも?」
「やっぱり、切ってしまいましょう。五体満足でいる必要も、首と胴がくっついている必要もないです。
 子どもなら、私もさらに御しやすいですしね?どう思われますか?宰相」


 私は、宰相をキッと睨みつけると慌てている。
 うちの子が、こんな働いてるのに?と小首を傾げると何か怖いものでも見たかのような顔をしている公と宰相にニコリと笑う。


「アンナリーゼ様のお怒りはごもっともです」


 そう宰相が言い始めたとき、裏切者と公は宰相の方を見ていた。たぶん、ウィルがいつだったか言っていたように、私の瞳がいつもより少し濃くなっているのだろう。
 私が剣を取り出さないよう、握り拳をきつく、さらにきつくしている上から優しく包んでくれる。


「私どもはトライド男爵の一件から、何も学んでいないのがご不満なのは私どもの至らぬところです。
 氷山の一角であることをわかっていながら、何も手を打てていない現状。こちらも、人手不足なの
 です」
「人手不足なら、それを補う上の判断が必要だと思うのよね?公は何かしてくれたの?私は、今日2ヶ月
 だけセバスを返す提案はしたけど、セバスやパルマのような人材ってどれくらいいるのかしら?
 せめて、それくらいは把握しているのかしら?ベッドでいちゃこらしてるだけが、仕事じゃないこと、
 その首に教えましょうか?」


 押し黙る公に私はため息をもらした。


「アンナリーゼは、どうやって領地運営をしているんだ?」
「私は何も。むしろ、私より私の元に集まったセバスやイチアが苦労はしています。私は私やセバス、
 イチアに上がってこない現場の声を拾いに行ってるくらいです。正直私のところに来たからって、
 パルマの仕事が減るかと言えばむしろ増えるでしょうね。無理難題を突きつけるのが私なので。
 それでも、ここまで心を折るようなことはしません。セバスやイチアがきちんと考えてくれています。
 ギリギリのところがあるのですよ!そのギリギリより少し上を目標として指示を出すので、何でも
 かんでも押し付けるようなことはしませんから」
「ギリギリのところの少し上を目標値としているか……それは、何故だ?」
「何故って、能力を引き出すためですよ。仕事の時間もこんな時間までさせませんしね。部下の管理
 体制にも問題があるのですよ!」


 私は、セバスに現状を伝えるのが、億劫になるほど悲惨な状況に正直肩を落とす。
 これでは、セバスが城にいた頃と何も変わっていない。
 私は、ダドリー男爵の断罪と同時に城の変革を期待して公になってもらったにも関わらず、なんてことだろうとため息しかでない。


「仕事のさせすぎは、だいたい寿命も縮めますから、その人の大切な人生を公もちゃんと大切に扱って
 ください。まずは、上司となる貴族たちの教育も怠っていてはダメですよ!あっ!公は、そういう
 人権ないんで、馬車馬のように働いてくださいね!それだけの特権を持っているのですから!わかり
 ましたか?」


 私は、パルマの書いている引き継ぎ書が3枚目になり、書き終わったことを確認して、宰相へと渡す。
 結局丸々両面3枚の引き継ぎ書は、ざっと見ただけでも新人がする量ではないことがわかる。要領よくしても、これだけを終わらせようとすれば、優先順位をつけてしていったとしても、午前様だろう。
 公は、その引き継ぎ書を見て、驚くと共にかなり疲れた顔をしていた。
 引き継ぎ書にかかれていることなんて、全部ではないだろう。それでも、これだけあるのだ。パルマを休ませてあげても、誰も文句なんて言わない、いや、私が言わせない。

 ニコニコと微笑みかけながら、そうだ!と私は微笑んだのであった。
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