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10人の魔法使いⅫ

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 馬車から降りてきた人は、とても独特な服装の人物であった。
 ウィルと2階の執務室から覗き込んでいたのだが、あまりじっと見ていたからなのか、目が合ってしまった。
 ニッコリ笑顔を向けられては、反応しないわけにもいかないので、私もウィルも愛想笑いする。


「なんか、また、すげぇの来てない?人選ってさ……姫さんのお父さんとサシャ様だろ?」
「そうなの……なんか、頭の痛い人選よね?話を聞いている感じは、その道の人らしいけど、なんて
 いうか……」
「あぁ、わかる。独特な感じだよね……所謂奇人変人」
「私だけじゃなかった……」
「たぶん、イチアも思っていると……」
「なんですか?私も思っているって」
「おはよう!イチア。独特な人選だねって話をしてたの」
「あぁ、なるほど……まぁ、その道を極めるってことは、そういうところあるんじゃないでしょうか?」
「うん、かもね?」


 とりあえず、席に座り来る人物を待っていた。
 扉が開き入ってきた人物は、吟遊詩人のようないで立ちで、私は、もう頭が追いつかない感じである。

 隣も、なんだか固まっているのだろう。挨拶ひとつ進まないこの状況に1番初めに気が付いたのはイチアであった。


「初めまして、アンバー領にようこそいらっしゃいました、えっと……」
「初めまして、アンバー領の方々。僕は、ポテンと申します。あの、そちらの方が、アンナリーゼ様
 ですか?」
「えぇ、初めまして、ポテン。歓迎するわ!」


 私は、ポテンに話しかけられて初めて気が付いたが、何事もなかったかのように取り繕い握手を求めると、それにきちんと応えてくれる。


「ポテン、こちらローズディア公国近衛騎士のウィルとアンバー領で一緒に領地改革を進めてくれて
 いるイチアよ!」
「どうも……」


 三人が挨拶を交わしている間に、私は自分を立て直すための時間に使った。
 あまりにも目の前の人が突拍子もない恰好で、どう考えても、教授と呼ばれる人なのか判断がつかない。
 見た目で判断したらダメだと言われているが……無理だ!でも、リアノの件もあるので、努めて冷静に頑張れと自分を鼓舞する。


「どうぞ、そこにかけて!今日は他に三人来る予定になっているの。それまでの間に、一人一人話を
 聞こうと思っているのだけど……ポテンは何が得意分野なのかしら?」
「僕は、工芸品を研究しています。地方に出向いて集めたり、何故、その工芸品に行きついたのかを
 調べたりと……って、こんな話おもしろくないですし、一体領地の何になるんだっておもうんです
 けど……何でもするので、クビにだけは……」
「えっ?なんで?おもしろいじゃない?」
「へっ?」
「うん、おもしろい!私、あなたのような人を待っていたのよ!各地を回ったのよね?研究のために!」
「はい……回りました!」
「ウィル、ラズが作ったグラス持ってきてくれる?」


 あぁと、おもむろに席を立つウィルに視線を追っているポテン。
 普段は、あの飾り瓶は木箱に入っているので、それを持ってきてもらった。


「持ってきたぞ!」
「ありがとう!ポテン、開けてみて!こんなのって、今まで見たことあるかしら?」


 おずおずと木箱の蓋を開け、布にくるまれている瓶を出したとき、目の色が変わったことを感じた。


「これは……」
「アンバー領で作る最高級葡萄酒にさらにプレミアをつけるために作った飾り瓶よ。どうかしら?
 どこかで、これと同じものを見たことがあって?」
「確かに……これはないですね……これは、素晴らしい。中に入るであろう酒を楽しむだけでなく、
 この瓶にまで細工がされているとは……なんというか、これ、凄い技術ですね?」
「わかる?私、トワイスに帰ってたときに、スカウトしてきた人材が作ってくれているのだけど……
 こういうものを他にも作れないかしら?お酒の瓶だけじゃなくていいの。
 何か、日用品とか……あとは、他の地域にあるもので、この領地では見かけないけど、あると便利な
 ものとか。貴族が便利なものっていうより、領民が使うのに便利なものとかあれば最高ね!
 あとは、この領地にいるこういった物を作ってくれている人たちで毎年、コンテストを開いたりして
 いるのだけど……審査委員とか、逆にこんな感じの物をって提案してくれてもいいわ!」


 私は、ラズの瓶だけでなく、それを支えるための飾りや箱も見てくれるよういうと、ポテンは息を飲むようにしながら、素晴らしいの連続であった。
 そう、アンバーにいる職人たちの技の細かさや飾りとして作らせたら凄いことは私も知っている。
 他にも活かせることがあるなら……と思う。
 生活するには、これだけでなく、色々と手がけて行かないといけないのだ。
 そのためにも、ポテンからのアイデアがほしいと思った。


「この領地には、なかなか腕のいい職人が多いようだ。おもしろい技法があるのだが……
 その技法は、受け継ぐ人がいなく、廃れてしまった。
 もし、それの復活が可能だとしたら……おもしろいことになるだろう。
 そういった提案をしていってもいいのですか?」
「もちろんよ!そういうのを待っているのよ!職人だけだと気づかないことも、工芸を知っている人が
 提案すれば、よりいいものができると信じているわ!」


 ふふっと笑いかけると、何かしら考えてくれているようで、頼もしい限りだ。
 早速、明日にでも職人町あたりに出向くのではないだろうか?

 最初は戸惑ったけど、これはなかなかいい人選ではないだろうか?足りなかった飾りの技術や領地外のものを取り入れられるのは、実にありがたい話である。
 これは、きっと、お父様の人選ね!とほくそ笑むのであった。
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