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次は何をするのかしら?

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 家族で話をしていると、ネイトが泣き始める。
 ジョージアはネイトを抱いて立ち上がると、両親に挨拶をしてアンジェラも連れ、部屋を出て行った。

 家族三人水入らずでいられるのは、久しぶりである。


「ジョージア様もなんだか少し変わられたわね?」
「そうですか?」
「えぇ、アンナを甘やかすことしか考えてなさそうだったのに……少し頼もしくなったわ」
「私たちにもここ数年でいろいろとありましたからね」
「新婚と言ってもいいほどなのに……」


 母に曖昧に笑うと隣に来てくれた。


「よくがんばりましたね。子どもを二人も生んだこともだけど……断罪のことも領地運営のことも……
 そして、何よりジョージア様と離れている期間、わかっていても辛かったでしょう?」
「お母様……はい……でも、本当に周りの気遣いに助けられたの。私一人で頑張ったわけではないわ」


 よしよしと抱きしめられ母に頭を優しく撫でられると、私までアンジェラのように小さな子どもに戻ってしまったようだ。


「アンナ、よく頑張ったね」
「お父様まで……今日は、私を甘やかす日ですか?」
「私らはアンナの親だからね。叱りもすれば甘やかしもする。大事な娘だからこそだよ」


 父の手が肩に置かれる。
 今日は、なんていい日なんだろうと両親の温かさにホッとしてしまった。


「それは、そうと……次は何をするのかしら?サシャがドレスを持ってあっちこっちと駆け回っていた
 ようだけど……」
「あぁ、お兄様、動いてくれているようで何よりです」


 目尻に溜まった涙を拭い、微笑むと隣からため息が聞こえてきた。
 いつものことなので、驚きはしないけど……と言う母の雰囲気だ。


「たいしたことではありませんよ?公妃様が少々おいたがすぎるので、こっそり懲らしめるだけです。
 せっかく軌道に乗り始めたハニーアンバー店を潰すとおっしゃったので、それがどういうことなのか、
 教えて差し上げるだけですわ!」
「トワイスの王太子妃と貴族夫人を使ってか?」
「えぇ、協力をお願いしているのは、シルキー様、メアリー様、イリアにエリザベス。
 私のことを応援してくださっている方にしか声はかけていません」
「女性ばかりなのだな?」
「そうですね、夜会に出てもらって目立つドレスを着てもらうためです。
 トワイス国でのハニーアンバー店の広告塔ですからね!」
「それにしても……高貴な方々ばかり……アンナ、ちゃんと控えるところでは控えるのですよ?あまり、
 図に乗らない!」
「わかっています……私が、私がいなくなった後のことも考えながら協力はお願いしているつもりです
 から!」


 小さな私がイタズラを考えている。まるで両親からしたらそんな感じなのだろう。
 今も昔も変わらない私を二人は温かく見守ってくれている。


「サシャは、アンナのこととなると俄然張り切るのよね。何かしてあげたの?」
「いいえ、お兄様には何も。お兄様に助けられることはあっても、私がお兄様を助けることなんて何も
 ありませんから。お兄様は元気ですか?」
「もちろん元気だ。さっきも言ったが、ドレスを渡すためにニコライくんだったかな?
 連れて城やらサンストーン家やら飛び回っていたぞ?」
「ハニーアンバー店の後ろ盾になってもらおうと思っているんですけどね……忙しいなら違う人を探さ
 ないとって思っているんですけど……どうですか?」
「あの子なら、大丈夫でしょう?多少抜けてますけど、それもエリザベスが手助けしていますから。
 クリスもフランも少し大きくなったからね。多少、エリザベスにも心の余裕ができてきたところだと
 思うわ!」
「そうですか。じゃあ、お願いするよう手紙を書くので、帰るときにお願いできますか?」
「えぇ、いいわよ!でも、しばらく、こちらにいたいのだけど……」
「本当ですか?嬉しいです。早速用意しますよ!部屋はたくさんあるので!
 どうせなら、領地を回って見てください。改革はまだ、これからって感じで出すけど……町や村には
 活気が少しずつ出てきていますし、良ければ、お父様にもお母様にも改革を手伝ってくれている友人
 たちを紹介したいの!」
「あらあら、子どもに戻ったみたいに目をキラキラさせて……」
「いつまでも、私たちの可愛いアンナだね?」


 両親の暖かさにほっこりしながら、あと、何回会えるかわからない両親との時間を楽しみたい。私は心からそう思うのである。


「姫さん、ここ?ちょっと、そうだ……」


 ウィルの声がしたと思ったら、扉から顔を出したのはレオだった。


「どうしたの?」
「あぁ……お客さんだったんだね。ごめん、出直してくる。失礼しました」
「いいわ!両親だから、入ってきて!」


 ウィルとレオが一緒に部屋に入ってきたので、両親に紹介することにした。
 両親も見覚えのあるウィルには、挨拶をしている。


「こちら、ウィル・サーラーで私の同級生よ!覚えているかしら?」
「えぇ、覚えているわ!いつも娘がお世話になっているわね!」
「いえいえ、お世話だなんて……いつも、僕の方がアンナリーゼ様に助けられていますよ!」


 伯爵仕様で、ウィルが両親に挨拶をすると、なんだかおかしい。


「ウィルは、近衛中隊長なの。インゼロとの小競り合いの終結に貢献したから今は伯爵位。
 お城から、領地改革のために借りてる人材よ!」
「確か、頭もよかったのはずね!そう、中隊長なのね!」


 母はウィルに感心の目を向けていると、少しだけ眉根を寄せる父。
 はいはい、お母様は心配しなくても、お父様しかその目に映しませんよと心の中で呟く。


「ウィルくんの息子さんかな?」
「ウィルの息子には違いないけど……」


 チラッとウィルの方を見ると、頷いている。隠す必要もないだろう。
 この子は、『予知夢』でアンジェラとともにあった子なのだから……成長したレオはダドリー男爵より、ウィルに似た感じだった。


「ウィルの養子でレオだよ。この子は……私がウィルの養子にしてくれって頼み込んだ子なの」
「なんだって?そんなこともお願いしたのかい?」
「あぁ、はい……でも、最初は渋りましたけど、今は子どもたちに父様と呼ばれることが、何よりの
 幸せです。レオ、フレイゼン侯爵様たちに、挨拶しなさい」


 ウィルがレオの頭をクシャッと撫でると嬉しそうに微笑み挨拶する。


「初めまして、レオノーラ・サーラーです」
「年はいつくだい?」
「七つになりました」
「そうか、ウィルくんに良く懐いているね」
「おかげさまで」


 人懐っこいウィルの笑顔を見て、両親も納得の様子だった。
 後で叱られそうな気はするが、とりあえず、ウィルの話を聞くことにする。


「それで、どうしたの?」
「あぁ、そうだった。リリーから、そろそろ動けそうだって話が来ているんだけど、どうしようかと
 思って……」
「そうね……リリーたちは、春の種まきの関係も手伝って欲しいから、石切の町の方を手伝ってもらえる
 といいかな?」
「あの、貝殻の方?」
「そう、焼いて粉にするんだけど、量があるから、人手はいると思うの」
「わかった、伝えておくわ!で、もういっこあるんだけど、レオのマナーレッスン、もう少し時間増やし
 てもらっても大丈夫になった」
「レオさえ良ければ、夜の時間ならいいわ!昼間は、強くなるための時間が欲しいでしょ?」
「アンナ様、いいの?」
「もちろんよ!レオがウィルみたいに強くなりたいってことは知ってるもの!昼間に体を動かしましょ。
 ダンスは家の中ででもできるから、夜で大丈夫よ!レオ、ダンスの練習の分もちゃんと体力を残して
 おいてちょうだいね?」
「うん、わかった」
「よかったな!レオ」
「うん、父様に相談してよかったよ!」
「話は、それだけなんだ……家族水入らずだったのに、すみませんでした」
「いいのよ!アンナがどんなふうに過ごしているのか、垣間見れてよかったわ!」


 それじゃあとウィルとレオは部屋を出ていく。
 扉がしまった瞬間……視線が痛い……両親の方へ顔が向けられなかった。


「どうしても、必要だったの。レオとあの子の妹ミアが。ウィルに無理を言っていることもちゃんと
 わかっているの。だからこそ、マナーレッスンとかはできる限り私が見るようにしているのよ」
「何故、必要なんだい?」
「レオとミアは、ダドリー男爵の子どもなの。たまたま、公都で母親のリアンといるところに出くわ
 して、こちらに引き込んだんだけど……『予知夢』にあの二人が出てくるのよ。
 それも、アンジェラに近しいところで。あの二人が、アンジェラにとって、なくてはならない存在
 だったから、ウィルには、我儘を聞いてもらったの」
「辛くはないかい?」
「えぇ、二人とも慕ってくれているし、なんなら、ソフィアの子どもも私に懐いている。
 どんなふうに成長していくのか……私は、とても楽しみにしているわ!」


 知らなかった事実を聞かされたようで、多少のショックはあったのだろうが、両親は私がいいならと納得してくれた。
 今、私はあの子どもたちに囲まれて、幸せである。
 だから、このまま幸せな未来を夢見ていたいと願っているのであった。
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