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増えた仕事

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 私が領地に帰ってきたことは、瞬く間に広がった。
 おかげで、朝からひっきりなしに人の入れ替わりがあり、今にも目眩を起こしそうだった。
 お昼からは休息してください!とデリアに叱られ、私に会おうと外に並んだ人たちもみんなデリアに追い返えされてしまった。

 いや、いいんだけどさ……いいんだけどさ……せっかく来てくれたのに申し訳ない。
 その後もセバスがうまくやってくれたようで、私との面会については予約を取ってくれるようになった。
 おかげで、なんとか事なきですんだのだが……これから、こんな状態が続くとなると、問題だなと考えている。


「アンナリーゼ様に秘書が必要ですね……?」
「そうね、いつまでもセバスにお願いするわけにもいかなし……誰かいないかしら?」


 セバスに指摘され、私は椅子にもたれかかり、どうしたものかと思案する。
 パルマがいれば、任せられるのだけど、これから城勤めになるだろうから、私の側に置くわけにもいかない。
 パルマほど、優秀な人材が手元で余ってはいなかった。
 育てれば別なんだけど、その手間はかなりある。
 侍女のデリアがいればと思うかもしれないけど、あくまでデリアは侍女で私の私生活の方の面倒をみてくれている。
 たまにおつかいは行ってもらうが、それは、私たち二人の中で決め事。
 公爵の仕事まで面倒見てもらおうとするとデリアにとってかなりの負担だ。
 言えば優秀なデリアならこなしてしまう可能性はあるが、デリアにだって自分の時間は作ってもらいたい。
 一応、新婚なわけだし……デリアを一人占めしたら、ディルに叱られるだろう。


「アンナリーゼ様、この前買ったリンゴでお酒作るって話……」


 ノックもなしに執務室へ無遠慮に入ってくるライズが目に入り思わずため息をつく。
 もし、ライズが優秀なら……いうことはないのだが、どうも私のいうことは聞かないし、頓珍漢なことを言い始めたりもする。
 なので、私の秘書としては、使えなかった。


「顔を見てすぐにため息つかれるのってとっても失礼な気がする!」


 ライズの口からそんな言葉がでるとは思ってなかった。
 私は目をパチクリして驚いてしまう。


「えっと……本当にライズ?」
「何?それ?僕は僕ですけど!」


 そうは言っても残念なライズである。
 多少、良くなったくらいでは、常人にすらなれていない。
 じぃーと目を凝らすと幸せそうに笑っていた。


「気持ち悪いんだけど……何かあったの?」
「さっき、ナタリー様に褒められたんだ!いいよね!ナタリー様!」
「ナタリーは私のナタリーだからあげないわよ?」
「そんなのわかんないじゃん!アンナリーゼ様より、僕の方がいいって言ってくれるさ!」


 どこから来るのかわからないライズの自信をセバスは見事に打ち砕こうとした。
 セバスの言葉では、ある意味鋼鉄の心臓であるライズは折れることもしないだろうとやり取りを見守る。


「それは……ないなぁ……ナタリーはしっかりした人が好きだからね。
 ああ見えて、アンナリーゼ様と競えるぐらいやらかしているからね……」
「そうなの?でも、それでも、可愛らしいじゃないですか!」
「セバス……恋は盲目勘違い!わかった?」
「あぁ、なんとなくわかった……ナタリーもまた、変なのに好かれて……これじゃ、再婚なんて、
 どう考えても無理だよね……?」


 セバスはため息をつき、書類を整え始めた。


「セバス?」
「なんでしょう?」
「ナタリーのことどう思っているの?」
「どうって……よくできた令嬢だと思っていますよ!アンナリーゼ様に似てきたのは、そこに心が
 向かっているからなのでしょうけど、ナタリーの並々ならぬ努力は認めていますよ!」
「そう、ナタリーは私の知らないところで努力を積み重ねてくれているのね!」
「そうですよ!アンナリーゼ様が次に何をしたいのか、何に興味があるのか……毎日聞かされています。
 僕もウィルも。おかげで、僕はイチアともの相談しやすくてありがたいですけどね。
 ナタリーの洞察力と情報収集は素晴らしいです!まぁ、アンナリーゼ様の情報収集能力には誰も勝て
 ないんですけどね!」


 トンっと書類を纏めると、こちらに向き直った。


「ところで、アンナリーゼ様?」
「何かしら?」
「公と何かお約束でもされているのでしょうか?」
「……何故?」


 こちらをとセバスから手渡された手紙を読む。
 そこには公の筆跡で、アンバー領にて文官5名と近衛5名を受入れるよう指示書ならぬ命令書があった。


「何これ……私は聞いていないわ!セバスは?」
「僕もイチアも聞いてませんよ!他に、これに対応できるのは、アンナリーゼ様以外にいませんけど……?」
「私は、公の申し出を断っているわ!」
「なんの話です?」
「これよ!どういうことか、知っているかしら?」


 ライズに見せると、考えていたがすぐに思い出したらしい。


「えっと……これは、そんなにまずいことなの?
 領地で屋敷でいろいろ学びたいって人がいれば、受入れるって言っていたじゃないか?」
「それは、あくまで領民がってことよ!わざわざ公都から公の手先を受入れると思っているの?
 誰よ!こんな無責任に回答したの!今更追い返せないじゃない!」


 ばつの悪そうに頬をかいているライズ。
 なんとなく、犯人が誰だかわかってしまった。


「ライズ!」
「はひぃ!」
「あなたね……もう、頼むから大人しくしていてちょうだい!
 それか、学ぶ気があるなら、この今度来る文官たちに混ざって仕事をしてもらいます」
「何をするのです?」
「何も?ただ、四六時中一緒にいてもらって、今日の出来事を報告してもらうだけの簡単な仕事よ!
 罰として、断ることはできない!私がいいというまで、やってみなさい!」


 ライズは知ってか知らずか、めんどくさそうに返事をしてくる……ライズに何を言っても無駄なのだなと思うと、辛い。


「ナタリーに協力してもらいましょう。私、こんな状態だし、セバスも悪いのだけど、協力してちょう
 だい!」
「当たり前ですよ!本当、有難迷惑な話ですね……」
「あと、フレイゼン領からも10人程こちらに呼ぶことになっているの!」
「学校とか領地改革に必要な人たちの受入れですね?」
「そう、本格的に、学びの都に変えて見せるわ!そちらの方も、少しずつでいいから、進めて行きま
 しょうか!」
「わかりました!さっそくイチアと相談した上で、話し合いましょう!」
「受けた本人は、我関さず?」
「あっと……そんな大事になるとは思ってなかったんだよ!」
「もう少し吟味して物事は進めるべきね。ライズ、今度来る5人の文官に関してはあなたに任せるわ!
 私たちは手伝うけど、彼彼女たちを立派に使える文官として育てた上で、公都に返してちょうだい。
 これ以上、仕事は増やさないで!私がこれからしばらくの間、抜けることもちゃんと考えなさい!」


 叱っても諭しても私のいうことなど聞かないだろう。
 もう、ナタリーにお願いしようと心の中で呟いた。
 面倒ばかり押し付けてごめんね……ナタリー。私もライズに対しては努力はしているのよ……と独り言ちたのであった。
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