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許されないわ!
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私たちは、下座から公を見上げている。
後ろに続いていたエリックも壇上の奥に引っ込み警備に戻ったようだ。
一歩前へ出て、公の口上が始まる。
「真夏の太陽が降り注ぐ中、公へとなりこの国の舵取りをすることとなった。
前公から託された通り、国民がより良い生活ができるよう邁進していく。
貴族たちよ、記憶も新しいと思うが、ダドリーのことを忘れることなく、自領の民や
この国に住まう者のため、心してこれからこの国を支えてくれ!
この公国にハニーローズが生まれ落ちた。
知らぬものもおるかもしれぬが、『厄災と繁栄の象徴』である。
今も言った通り、厄災が起こることが予想される。
どんなことになるのか、今後の動向で変わるのだろうが、みな、それに備えるよう心
して生活をしてくれ。
繁栄については、何も心配はしてない。
来る厄災にみなで打ち勝てるよう、この国を盛り立てていく。
一人一人を大切に思える国になるよう、力を貸してくれ!」
公世子の口上が終わり、静まり返る会場。
『ハニーローズ』が生まれたことをみなが受入れるまでに時間がかかったのか、誰も何の反応も示さない。
「ここは、私の出番なのかしら?」
「なんのこと?」
ウィルに聞かれた瞬間、私は拍手をする。
それもちゃんと呼び水となるよう、この大広間に響き渡るように手を打ち鳴らす。
パン……パン……パン……
それを見ていた私の回りにいた友人たちもパラパラと拍手をし始めた。
口上としては……微妙だなと思いながらも、領民や民を思っている、だから貴族たちも領民や国民のため、来る厄災に備えよ!と言うものだ。
なんか、もっと華々しいものはないものかと思ってしまう。
ただ、それも含めて公なのだろう。
拍手を贈る私の方をチラッと見て、公となったばかりの元公世子は少しホッとしたような顔をしていた。
「まぁまぁの出来ね!私、自分の口上を言うのが……なんだか、恥ずかしくなってきたわ!」
「あれと比べられるなら、まだ、姫さんの方が上じゃない?」
「どういうことよ!」
ウィルと普通に話せているのは、疎らだった拍手が、今ではたくさんの拍手へと変わっているからだろう。
逆に煩すぎて、聞こえない……
「静粛に!」
宰相の声が響いて、再度の静寂に次は何が起こるのかみなが期待している。
期待することも何もない……
貴族たちを代表して、私が公へ誓いをたてるだけなのだが、これがまた面倒なのだ。
この階段を登らないといけない。
そのあと、剣を渡しての宣誓……貴族には騎士も近衛も含まれているかららしいのだが、このお腹で立ったり座ったりは意外と大変なのだ。
「公爵位1位、アンナリーゼ・トロン・アンバー」
私の名前を聞き、貴族たちがざわめく。
無理もないだろう。私が貴族位1位になっているなんて、誰も思わないだろうし、いつまでもアンバー公爵夫人のイメージが強い。
何せ、隣国の侯爵令嬢に過ぎない私が、女の身でありながらこの国の貴族の頂にいること自体が異例中の異例。
ざわめくのも、仕方がないと言うものだが……目の前で揉め始めた公と公妃は、正直いただけない。
私は椅子から立ち上がるために、ノクトへと視線を送った。
すると、首を横に振るノクト。
どうやら、私と一緒に晒しものになる気はないようで、視線の先はウィルを指している。
「ウィルを壇上に連れていくのはイイとは思えないけど?」
ノクトへ質問をする。
「俺より相応しいものは、ウィルしかいないだろ?旦那だと……なんちゅーか、なぁ?」
同意を求めて視線を彷徨わせる。
いやいや、正直、ノクト以上に相応しい人はいないだろう。
ウィルって……近衛の隊服着ているのだから、国への忠誠を表している。
そのウィルを連れて、壇上へ?
どう考えても、公に喧嘩吹っ掛けに来ました!みたいなノリなんですけど……と、ウィルを見上げる。
ウィルも思うところがあるようで、困った顔をしていた。
ただ、宰相の視線も感じる……仕方がないので私から声をかけることにした。
「ウィル、私のエスコートをしてちょうだい!」
そこにいたみなが私を見るが、とにかく、無視だ。
「まぁ……姫さんがどうしてもっていうなら……?」
「どうしてもとは言ってないぞ?俺が……」
「旦那は、大人しくしていてくれ!ウィルの今後も含めてアンナが好きにすればいい」
ジョージアをノクトがとめてしまい、私は、再度ウィルを見上げる。
ノクトが持っていた私の剣をウィルに差し出す。
その剣を取るかどうするか悩んでいるようだ。
ウィルにも近衛としての立場もある。
「姫さん、俺、職なくなったら、雇ってくれる?」
「いまの10分の1の給金でいいなら雇ってあげるわ!」
「使わないから、それで。んじゃ、手を……」
ノクトから剣を預かり、私の手を取る。
椅子から立たせてくれ、ナタリーがサッとドレスを整えてくれた。
白い軍服に白を基調とした青紫薔薇が咲き誇ったドレスを着た二人は、さながら結婚式のバージンロードを歩いているようであった。
「結婚式見たいだな?」
「私と結婚でもしたくなったかしら?」
「全く……できれば、ミアみたいな可愛い子がいいわ!」
「ミアにぞっこんね?」
「だってよ、可愛いんだぜ?父様父様って……」
若干しまりのない顔を私に向け話ながら、公の元まで歩いて行く。
隣にいる公妃からは敵意むき出しの視線をもらい、私はニコッと微笑んでおく。
ウィルから手を放し、私はその場に約束通り公に傅く。
見上げた公はしたり顔で笑っているのが、また、癪ではあるが、約束は約束なので、ニコッと笑い返すと、満面の笑みだったのに、引きつっている。
「近衛であるあなたが、たかだか公爵のエスコートをするだなんて!許されないわ!」
ウィルを見て、公妃は言ってやったと満足そうに言い放つ。
「あぁー公妃様、俺、そういうのどうでもいいんで。
就職先も見つかったんで、許されないなら、ここで俺、近衛辞めます!」
「な……ならぬ!ウィルが中隊長としている間だけならと、エリックが……」
「あら、エリックって頼りにされているのね?
それに、ウィルもエリックに好かれていて羨ましいわ!」
「何をいうか……エリックは、アンナリーゼ様が辞めちゃダメって言ったから渋々残って
いるだけなんでとかほざいてるぞ?」
「そうなのです?」
「姫さん、相変わらずモテモテだな!」
小声で笑い話をしているが、近くにいる公妃にはもちろん聞こえているので、地団太をふみそうなくらい、怪しい雰囲気になってきた。
ただ、ここで捕らえろと命令したところで、私の味方の方が多いだろう。
公妃は、唇を噛みしめ、憎々し気に私を睨む。
そして、ウィルも目をつけられただろう……ごめんね、巻き込んじゃってと思いつつ、きっと気にしないウィルのズボンをギュっと握る。
わかっているという意味なのか、その手をポンポンと軽く叩いてきた。
「じゃあ、口上言わせていただきますね!」
「あぁ、そなたの言葉を待っていた」
待たなくていいですよ!と笑い、私はウィルから渡された剣を公へと渡す。
2度目の宣誓。
同じことを言ってもいいのかな?なんて思っていたけど、違うことをいうことにした。
でも、根本は同じ……民への想いだ。
「私、ローズディア公国貴族位1位アンバー公爵、アンナリーゼ・トロン・アンバーで
ございます!
本日、公へとなられたこと、誠に喜ばしく、国民を代表しお喜び申し上げます!」
当たり障りのない、公への祝辞から始める。
普通の人なら、公になってよかったね、おめでとうから始めるだろう。
私もそれに倣っただけである。
俯いているので、私から見えないがさぞ、満足気に笑っていることだろう。
「国民代表として、私から公へひとつお願いがございます。
私達国民は、公へ信頼と期待をもっています。
春の木漏れ日のような温かな太陽のように、夏の大木の木陰のように、秋の実りを
揺らす優しい風のように、冬の寒さから温めてくれる火のように……
私達を未来ある子たちが、歩みやすい道を照らしてくださいますよう、お願いします。
私達はいついかなるときも、公と共に歩き公とともに悩み公とともに語らうのです。
私達の言葉に耳を傾け、良き指導者へとなることを期待しております」
傅いている私は、公を見上げる。
ニコッと笑いかけると、応えてくれ頷いている。
「あっ!ひとつ、ライズっていうの預かっているんです!
それ、前公の差し金で私のところに連れてこられたんですけど……いろいろと問題あり
なんで、貸しひとつですから、覚えておいてくださいね!」
小声で公にニコニコしながらライズのことを言うと、半歩後ずさって、苦笑いに変わっていた。
でも、こんなときじゃないと、なかなかこれから会う機会も少なくなるので、私は言っておくことにした。
「アンナリーゼ、あんまり難しいお願いごとは勘弁してくれ!」
「難しいことは言っているつもりないですけどね!」
「善処するさ!」
不敵に笑ったことを確認して、ウィルに視線を合わせると、私を立たせてくれる。
その姿でも忌々しそうに公妃はしているので、嫌味のひとつも言いたくなってきた。
「公妃様、あまり怖いお顔してますと、せっかくの戴冠式も台無しですわ!
これから、民の前に出るのです!もっと、にこやかになさいませ!
その座は盤石じゃないですわよ!
お飾り公妃はいつでも挿げ替えることができますから!
ウィル、行きましょうか?」
エスコートされながら、自席へと戻ると、ここからでも見える。
公妃が地団太をとうとうふみ始めたところを。
「姫さんさ、やりすぎ!」
「何をなさったの?」
「あれ見たら、なんとなく何をしてきたか、わからぬか?ナタリー」
「わかりますけど、おもしろそうなんで、聞いてみたいと思いましたのよ!
お茶会、楽しみにしておきますわ!」
「解毒剤はちゃんと持って行った方がいいわよ!」
私たちは席で話をして笑いあい、公と公妃の退出を見ている。
「睨んじゃって……女は怖いな!」
ノクトの言葉で更にみなが一様に苦笑いをし、つつがなく貴族の方の戴冠式は終わったのであった。
公と公妃のお披露目を国民へすれば、戴冠式は全て完了となる。
見に来ていた国民から広まった市井で公妃は怖い人とまことしやかに噂されていいるのは、私だけが原因ではないだろうと思いたいところであった。
後ろに続いていたエリックも壇上の奥に引っ込み警備に戻ったようだ。
一歩前へ出て、公の口上が始まる。
「真夏の太陽が降り注ぐ中、公へとなりこの国の舵取りをすることとなった。
前公から託された通り、国民がより良い生活ができるよう邁進していく。
貴族たちよ、記憶も新しいと思うが、ダドリーのことを忘れることなく、自領の民や
この国に住まう者のため、心してこれからこの国を支えてくれ!
この公国にハニーローズが生まれ落ちた。
知らぬものもおるかもしれぬが、『厄災と繁栄の象徴』である。
今も言った通り、厄災が起こることが予想される。
どんなことになるのか、今後の動向で変わるのだろうが、みな、それに備えるよう心
して生活をしてくれ。
繁栄については、何も心配はしてない。
来る厄災にみなで打ち勝てるよう、この国を盛り立てていく。
一人一人を大切に思える国になるよう、力を貸してくれ!」
公世子の口上が終わり、静まり返る会場。
『ハニーローズ』が生まれたことをみなが受入れるまでに時間がかかったのか、誰も何の反応も示さない。
「ここは、私の出番なのかしら?」
「なんのこと?」
ウィルに聞かれた瞬間、私は拍手をする。
それもちゃんと呼び水となるよう、この大広間に響き渡るように手を打ち鳴らす。
パン……パン……パン……
それを見ていた私の回りにいた友人たちもパラパラと拍手をし始めた。
口上としては……微妙だなと思いながらも、領民や民を思っている、だから貴族たちも領民や国民のため、来る厄災に備えよ!と言うものだ。
なんか、もっと華々しいものはないものかと思ってしまう。
ただ、それも含めて公なのだろう。
拍手を贈る私の方をチラッと見て、公となったばかりの元公世子は少しホッとしたような顔をしていた。
「まぁまぁの出来ね!私、自分の口上を言うのが……なんだか、恥ずかしくなってきたわ!」
「あれと比べられるなら、まだ、姫さんの方が上じゃない?」
「どういうことよ!」
ウィルと普通に話せているのは、疎らだった拍手が、今ではたくさんの拍手へと変わっているからだろう。
逆に煩すぎて、聞こえない……
「静粛に!」
宰相の声が響いて、再度の静寂に次は何が起こるのかみなが期待している。
期待することも何もない……
貴族たちを代表して、私が公へ誓いをたてるだけなのだが、これがまた面倒なのだ。
この階段を登らないといけない。
そのあと、剣を渡しての宣誓……貴族には騎士も近衛も含まれているかららしいのだが、このお腹で立ったり座ったりは意外と大変なのだ。
「公爵位1位、アンナリーゼ・トロン・アンバー」
私の名前を聞き、貴族たちがざわめく。
無理もないだろう。私が貴族位1位になっているなんて、誰も思わないだろうし、いつまでもアンバー公爵夫人のイメージが強い。
何せ、隣国の侯爵令嬢に過ぎない私が、女の身でありながらこの国の貴族の頂にいること自体が異例中の異例。
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私は椅子から立ち上がるために、ノクトへと視線を送った。
すると、首を横に振るノクト。
どうやら、私と一緒に晒しものになる気はないようで、視線の先はウィルを指している。
「ウィルを壇上に連れていくのはイイとは思えないけど?」
ノクトへ質問をする。
「俺より相応しいものは、ウィルしかいないだろ?旦那だと……なんちゅーか、なぁ?」
同意を求めて視線を彷徨わせる。
いやいや、正直、ノクト以上に相応しい人はいないだろう。
ウィルって……近衛の隊服着ているのだから、国への忠誠を表している。
そのウィルを連れて、壇上へ?
どう考えても、公に喧嘩吹っ掛けに来ました!みたいなノリなんですけど……と、ウィルを見上げる。
ウィルも思うところがあるようで、困った顔をしていた。
ただ、宰相の視線も感じる……仕方がないので私から声をかけることにした。
「ウィル、私のエスコートをしてちょうだい!」
そこにいたみなが私を見るが、とにかく、無視だ。
「まぁ……姫さんがどうしてもっていうなら……?」
「どうしてもとは言ってないぞ?俺が……」
「旦那は、大人しくしていてくれ!ウィルの今後も含めてアンナが好きにすればいい」
ジョージアをノクトがとめてしまい、私は、再度ウィルを見上げる。
ノクトが持っていた私の剣をウィルに差し出す。
その剣を取るかどうするか悩んでいるようだ。
ウィルにも近衛としての立場もある。
「姫さん、俺、職なくなったら、雇ってくれる?」
「いまの10分の1の給金でいいなら雇ってあげるわ!」
「使わないから、それで。んじゃ、手を……」
ノクトから剣を預かり、私の手を取る。
椅子から立たせてくれ、ナタリーがサッとドレスを整えてくれた。
白い軍服に白を基調とした青紫薔薇が咲き誇ったドレスを着た二人は、さながら結婚式のバージンロードを歩いているようであった。
「結婚式見たいだな?」
「私と結婚でもしたくなったかしら?」
「全く……できれば、ミアみたいな可愛い子がいいわ!」
「ミアにぞっこんね?」
「だってよ、可愛いんだぜ?父様父様って……」
若干しまりのない顔を私に向け話ながら、公の元まで歩いて行く。
隣にいる公妃からは敵意むき出しの視線をもらい、私はニコッと微笑んでおく。
ウィルから手を放し、私はその場に約束通り公に傅く。
見上げた公はしたり顔で笑っているのが、また、癪ではあるが、約束は約束なので、ニコッと笑い返すと、満面の笑みだったのに、引きつっている。
「近衛であるあなたが、たかだか公爵のエスコートをするだなんて!許されないわ!」
ウィルを見て、公妃は言ってやったと満足そうに言い放つ。
「あぁー公妃様、俺、そういうのどうでもいいんで。
就職先も見つかったんで、許されないなら、ここで俺、近衛辞めます!」
「な……ならぬ!ウィルが中隊長としている間だけならと、エリックが……」
「あら、エリックって頼りにされているのね?
それに、ウィルもエリックに好かれていて羨ましいわ!」
「何をいうか……エリックは、アンナリーゼ様が辞めちゃダメって言ったから渋々残って
いるだけなんでとかほざいてるぞ?」
「そうなのです?」
「姫さん、相変わらずモテモテだな!」
小声で笑い話をしているが、近くにいる公妃にはもちろん聞こえているので、地団太をふみそうなくらい、怪しい雰囲気になってきた。
ただ、ここで捕らえろと命令したところで、私の味方の方が多いだろう。
公妃は、唇を噛みしめ、憎々し気に私を睨む。
そして、ウィルも目をつけられただろう……ごめんね、巻き込んじゃってと思いつつ、きっと気にしないウィルのズボンをギュっと握る。
わかっているという意味なのか、その手をポンポンと軽く叩いてきた。
「じゃあ、口上言わせていただきますね!」
「あぁ、そなたの言葉を待っていた」
待たなくていいですよ!と笑い、私はウィルから渡された剣を公へと渡す。
2度目の宣誓。
同じことを言ってもいいのかな?なんて思っていたけど、違うことをいうことにした。
でも、根本は同じ……民への想いだ。
「私、ローズディア公国貴族位1位アンバー公爵、アンナリーゼ・トロン・アンバーで
ございます!
本日、公へとなられたこと、誠に喜ばしく、国民を代表しお喜び申し上げます!」
当たり障りのない、公への祝辞から始める。
普通の人なら、公になってよかったね、おめでとうから始めるだろう。
私もそれに倣っただけである。
俯いているので、私から見えないがさぞ、満足気に笑っていることだろう。
「国民代表として、私から公へひとつお願いがございます。
私達国民は、公へ信頼と期待をもっています。
春の木漏れ日のような温かな太陽のように、夏の大木の木陰のように、秋の実りを
揺らす優しい風のように、冬の寒さから温めてくれる火のように……
私達を未来ある子たちが、歩みやすい道を照らしてくださいますよう、お願いします。
私達はいついかなるときも、公と共に歩き公とともに悩み公とともに語らうのです。
私達の言葉に耳を傾け、良き指導者へとなることを期待しております」
傅いている私は、公を見上げる。
ニコッと笑いかけると、応えてくれ頷いている。
「あっ!ひとつ、ライズっていうの預かっているんです!
それ、前公の差し金で私のところに連れてこられたんですけど……いろいろと問題あり
なんで、貸しひとつですから、覚えておいてくださいね!」
小声で公にニコニコしながらライズのことを言うと、半歩後ずさって、苦笑いに変わっていた。
でも、こんなときじゃないと、なかなかこれから会う機会も少なくなるので、私は言っておくことにした。
「アンナリーゼ、あんまり難しいお願いごとは勘弁してくれ!」
「難しいことは言っているつもりないですけどね!」
「善処するさ!」
不敵に笑ったことを確認して、ウィルに視線を合わせると、私を立たせてくれる。
その姿でも忌々しそうに公妃はしているので、嫌味のひとつも言いたくなってきた。
「公妃様、あまり怖いお顔してますと、せっかくの戴冠式も台無しですわ!
これから、民の前に出るのです!もっと、にこやかになさいませ!
その座は盤石じゃないですわよ!
お飾り公妃はいつでも挿げ替えることができますから!
ウィル、行きましょうか?」
エスコートされながら、自席へと戻ると、ここからでも見える。
公妃が地団太をとうとうふみ始めたところを。
「姫さんさ、やりすぎ!」
「何をなさったの?」
「あれ見たら、なんとなく何をしてきたか、わからぬか?ナタリー」
「わかりますけど、おもしろそうなんで、聞いてみたいと思いましたのよ!
お茶会、楽しみにしておきますわ!」
「解毒剤はちゃんと持って行った方がいいわよ!」
私たちは席で話をして笑いあい、公と公妃の退出を見ている。
「睨んじゃって……女は怖いな!」
ノクトの言葉で更にみなが一様に苦笑いをし、つつがなく貴族の方の戴冠式は終わったのであった。
公と公妃のお披露目を国民へすれば、戴冠式は全て完了となる。
見に来ていた国民から広まった市井で公妃は怖い人とまことしやかに噂されていいるのは、私だけが原因ではないだろうと思いたいところであった。
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