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領地からの報告

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 私から遅れること2日後。
 ジョージアはアンジェラとジョージを連れ、アンバー領から公都へと帰ってきた。
 そこには、もちろんウィルやセバスも伴っていて、護衛を兼ねてくれている。


「ジョージア様、アンジェラ、ジョージおかえりなさい!」


 とてとてと競うように馬車から降ろされたばかりの子どもたちは、私のところまで駆けてきた。
 私は二人を向かえるように膝をつき両手を広げると、二人とも私抱きついてくる。
 それを微笑ましそうに、ジョージアとウィル、セバスが見ていた。


「ママ、ママ」


 銀と黒の頭が私に同時にグリグリと甘えてきたので、ギュっと抱きしめた。
 すると、満面の笑みを私に向けてくる。


「アンジェラ、ジョージ。おかえりなさい」
「しゃい!」
「ママ!」


 思い思いに話しかけてくるのだが、後ろで苦笑いしてジョージアがジョージを、アンジェラをウィルが抱きかかえる。
 スルッと私の腕の中から離れてしまったことを残念に思いながら、セバスの手を借り立ち上がった。


「二人とも大きくなったわね!」


 わしゃわしゃっと頭を撫でると、きゃっきゃっと喜んでいた。


「アンナに会うのを楽しみにしていたみたいだよ!やっぱり母親が恋しいのかな……?」


 なんて、ちょっと肩を落としているジョージアに寄り添う。


「俺もアンナが恋しかったんだけどね……アンナは子どもたちに会えた方が嬉しそうだ」
「そんなことないですよ!二人に会えたことはもちろん嬉しいですけど、ジョージア様に会えたことも
 嬉しいですよ!」
「コホン……姫さん、そういうのは、俺たちが帰った後にしてくれ!」


 アンジェラを抱きかかえたまま、後ろをついてきているウィルと視線を外しているセバスにごめんと謝ると苦笑いだけされた。
 何を思ったか、ウィルの頬っぺたにアンジェラはキスをし、それはそれで、ジョージアが落胆する。


「アンジー父様にも……」


 ほっぺを出すと、アンジェラの小さな手でぺチンと叩かれてしまい、さらに肩を落としたジョージアに私たちは顔を見合わせて笑ってしまった。
 アンジェラとジョージを部屋へ連れて行ってもらい、デリアとパルマが面倒を見てくれることになった。
 ここに残ったのは、私の専属執事として勉強しているモレンがお茶の用意などをテキパキとしていく。


「新しい執事?」
「そう、新しい執事見習い。パルマのいいライバルになるかなって思って、ディルが預かっている子
 なんだけど、私が育ててるところ。
 筋がいいから、すっかりパルマにも引けを取らないくらい成長したわよ!」


 私はモレンを褒めると、みなが一様に見て、へぇっと言って見定めている。
 パルマは、天才型の努力人なので、それに追いつけるとなると一目置かれるだろう。


「せっかくだから、領地の話を聞かせてくれる?もう一人の従者もそっちに行ったと思うんだけど……」


 期待せずに話をすると、ウィルとセバスが顔を見合わせため息をついた。
 と、いうことは……ライズが役に立たなかったということだ。


「麦畑は、やっぱり肥料を混ぜて畑を土から変えた畑と何もしなかった畑では、出来高も品質も雲泥の
 差のでした。
 しいていうなら、高級そうなふわっふわパンとカッチカチの歯が折れそうなパンと言えば、想像しや
 すいでしょうか?
 品種改良したものは、なかなかいい具合の出来上がりました!」
「セバスは、収穫の方へ行ってたの?」
「今年は、イチアさんと二人で農地を回ってますよ!新しく砂糖も始めているので、そちらも気になって
 いましたし。工場もまだ、簡易的ではありますが、ひとまず出来上がりました。
 そこを元に、来年のシーズンまでに改良する予定です」


 イチアが設計士と相談して作ってくれた工場。
 慌てて作ったのと、工場で働く人の意見を丸々取り入れたので、かえって使い勝手が悪かったらしい。
 そこで、次の夏までに少しだけ改良をすることになったそうだ。


「宿舎はどうかしら?」
「宿舎の方は、住み心地イイらしいですよ!これは、領地の主要町にも建てたいと思っています。
 街道整備の人々が移動を少なめにしてという配慮出すけど、今、少しずつですが、人が増えて来た
 のです。新しい事業のおかげで、注目を浴びているような……そんな感じがします。
 なので、その人たちが住む場所として、作ってもいいのかなと」
「なるほどね、街道整備用の宿舎としての役目が終われば、家賃という形で金銭を取って住まわせる
 のもいいかもしれないわ!」


 私の提案にセバスはメモを取っている。


「それで、砂糖はどうなった?」
「砂糖は、順調ですよ!今収穫をしていまして、砂糖を作る作業にも取り掛かっています。
 試作品として作ったのを持ってきましたので……」


 ガサガサと鞄を弄っているセバスは目的のものに当たったらしく、机の上に出してくれた。


「こちらが、今回作ったものです。
 黒いのは、そのままのものですね、甘いですけど、少し独特な味がします。
 一般的に使っているのは、これですね。試されてみますか?」


 セバスの声に反応し、小皿を差し出してくれるモレンにお礼をいい、そのまま、お皿に酒類別に出していく。
 ジョージアも食べたことが無かったらしく、手を伸ばしてきた。


「この黒いのは、甘いのだけど、確かに少し独特な味がするわ!」
「こちらは、普通の砂糖です」


 皿に出された白い砂糖を舐めると甘い。
 私が夢にまで見ていた砂糖である。


「成功ね!これは、農場から加工まで、引き抜いて良かったわ!
 どれくらい砂糖って作れるかしら?」
「今年は試作だと思って、数を絞っていたので、来年はもう少し植える数も増やすそうです。
 大体、今、領地で1年分を生産できたみたい何ですけど、もう1年貯められれば、来年あたりには、
 喫茶で砂糖を使ったお菓子も出来そうです。
 砂糖は、あるので、試作として、出してみるのもいいかもしれないです。
 そろそろ、ハニーアンバー店も開店準備にかかりますか?」
「そうね、秋ぐらいに開店でどうかしら?人も育っているでしょ?」
「えぇ、ビルたちが丹精込めて育てていますよ!50人程いますから、トワイスへ人材をわけたとしても
 大丈夫です。ご要望のあったコーコナ領の養蚕業へも経営、経理の出来る人手は出せますよ?」
「本当?タンザが、そこを担ってくれる人がいるならって言ってたから、助かるわ!
 これで、新しい領地もひとまず運営は出来そうね!」
「綿花、養蚕を元に布製品を主流とするのですよね?」
「そのつもりよ!ナタリーのおかげでお針子さんたちも多くなってきたから、専属で
 している人で、コーコナに移っても大丈夫な人は、向こうで作業に入ってもらおうかって話も
 出ているのよね!移動させる手間がまず少なくなるから、その分の人件費が削減できるでしょ?」


 なるほどとセバスは頷いている。
 ジョージアもそういうことに多少精通しているので、セバスと同じく頷いていた。


「お菓子の話なんだけどね?」
「はい、作り手がいないのですよね。誰か任せたい人がいますか?」
「えぇ、いるの!領地の厨房にキティっていう女の子がいるのだけど、その子に任せたいって思って
 いるの。アンジェラの誕生日のときに作ったクッキーはキティ手製なのよ!」
「あぁ、あのクッキーですね!」
「姫さんが籠って集計してたやつ?」
「よく覚えてたわね?」
「あぁ、なんか、引越しのあたりで、大変そうだったじゃん?
 部屋から出るなってデリアに叱られて……」


 ここで、そんなことを披露しなくてもいいのにとウィルを睨むが、もう、あのとき食べたクッキーの話になっていた。


「あれは、確かにうまかったよな!甘すぎず、サクッとして。
 女の人は、ケーキとかも欲しかったりするんだろ?」
「えぇ、あればいいけど……値段設定を考えると……小ぶりのケーキかなとか……
 これは、戴冠式が終わって、領地に帰ってからキティに要相談ね!」


 まずは、報告通り、麦と砂糖の収穫がうまくいったことを喜ぶことで、第一段階が終わることになる。
 アンバー領へ帰る楽しみが出来、私はうきうきと浮かれているところだった。


「ところで、アンナ」
「なんです?」
「戴冠式の口上ってもう考えてあるの?」
「あ……まだです」
「ローズディア公国の貴族代表なんだからね!そこをきちんと踏まえて、歴史に残る戴冠式の口上を
 聞けることを楽しみにしているよ!」
「ジョージア様、プレッシャーかけすぎじゃないですか?」
「噛んだりしてな!」
「ウィル、そういうこと言わない!本当に噛んでしまいそうよ!」
「我らのアンナリーゼ様なら、大丈夫ですよ!僕は、下座でアンナリーゼ様の口上、楽しみに聞かせて
 もらいます!」
「みんな爵位順だと、バラバラになってしまうの?」


 まぁなとウィルが答えたため、少し寂しく思う。
 ジョージアは貴族順位2位のため、私と並び経つのであるが、口上は順位1位である私だ。
 公世子がどの程度の口上を持ってくるのかわからないが、私は楽しみにしている。
 出来れば、あまり御立派な口上でないことを願うばかりである。
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