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布革命

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「じゃあ、今、揃ってるから話を進めるわね!」
「あの……蚕の話でしょうか?」
「それも、今回進めたい事業のひとつなのだけどね?
 私が今回進めようとしているのは、題して『布革命』ね!
 デリア、ニコライが昨日見せてくれたものを出してちょうだい!」


 かしこまりましたとデリアは昨日ニコライから預かったものを出してくれ、机の上に並べていく。


「染物の技術で面白いものができていることが分かったの。ナタリーならわかるかしら?」


 ナタリーに布を手渡すと手触り、強度など確かめていく。
 そして、目についたのだろう。水玉模様に目が見開いた。


「アンナリーゼ様、こちらの布は手触りも強度も申し分ないですね。とても上質な布だと思います。
 今、私が手掛けているアンナリーゼ様の服もここまでの品質のものはございません。
 このような品質な上に、この水玉模様はなんですか?とても綺麗に布地に……」


 布の表裏を確認しながら、目をぱちくりして見ている。
 よほど、気に入ったようで……すごいな……とナタリーは声を漏らしていた。


「それは、ダドリー男爵領で作られる普通の布なの。
 品質は、さらに上のものがあることがわかっているわ!
 あと、昨日、手紙と一緒にナタリーにもその水玉模様の布を送ってしまったのだけど……
 その水玉模様は、私も初めて見る技術よ!
 これを、ワンピースにしてもらおうと思って……送ったんだけど、入れ違いになってしまったわね」
「ワンピースにですか?ちょっと待ってくださいね。デリア、紙と書くものがあるかしら?」


 デリアに言いつけ持ってきてもらうと、ナタリーはサラサラと絵に起こしてしまった。
 これから夏に向けてのワンピースと考えて半袖である。
 襟ぐりを白にして水玉模様を目立たせるように描き入れていく。


「ナタリー、ここに白のレースをちょこっと使って、ここにポケットとかあると可愛いかな?」
「いいですね。ポケットの入り口はあえて白で目立つようにしてっと……」


 サラサラっと描いた絵は、とても可愛らしいワンピースとなった。


「アンナリーゼ様、これ、いいですね!
 今年の夏、是非国中に流行らせましょう!布地って、たくさんあるのですか?」
「ニコライに聞いてみないとわからない。
 この領地では、需要がなかったようで、燻っていたようなのよ。
 だからこそのチャンスだと思うんだけどね!
 広告塔は、もちろん、私とナタリー、シルキー様にエリザベスかしらね?」
「わかりました。この夏の夜会用のドレスを急いで作りましょう。
 アンナリーゼ様、身重ですけど、必ず一度は社交界に出てくださいね!」
「もちろんのことよ!私が最大限の広告塔よ!」
「アンナにナタリーは、本当に強かだな……」


 ノクトに向かって、私とナタリーはニッコリ笑いかける。
 商売の基本は、宣伝から。
 その最先端は、上級貴族でなければならない。
 私が、最初に着ることで、誰彼に目にとまるようするのが、最大限の宣伝なのだ。


「当たり前ですよ!資金は、笑っていても一向に増えませんからね!
 それなら、増やすためにする努力は、決まっています!宣伝あるのみ!流行らせるのみ!
 私が動けば、右に倣えとご婦人たちがこぞってなることだってあるのよ!」
「そうですよ!アンナリーゼ様の夜会用ドレスのように、ドレスの腰の部分に必ず大きめの花を付けて、
 その芯に宝石を付けるというのが今の流行りです。
 これは、アンナリーゼ様が結婚式や夜会でアンバーの秘宝をそのように使ってらっしゃったのが
 始まりなのです。
 女性のドレスや宝飾品へのこだわりや流行りは、マネされることに上級貴族は重きを置くべきなの
 です!」


 ナタリーの熱量に男性陣や研究職は若干引き気味ではあったが、貴族のご婦人のステータスとして、流行りに敏感であることはもっとも重要なことであった。
 私が流行りを発信する側になることは、普通のことであるのだ。


「あと、ナタリーに見てほしいものがあるの。
 こんな感じに染めることができたら……ステキじゃないかしら?」


 ニコライに描いて見せた薔薇を見せると、ナタリーも頷く。これは、おもしろいですねと。


「例えばなんですけど、この薔薇はドレスに映えますよね。
 男性の場合でも……こうしたら、素敵な柄になりませんこと?
 あとは、白シャツに少し隠れたおしゃれとして、白に光沢のある白を重ねられたら……」
「素敵ですね!」


 私ではなく、タンザが反応した。
 誰か、想い人でもいるのだろうか?その彼を思い浮かべているかのようなうっとりした瞳で、ナタリーが描いたシャツを見ている。


「いい反応ですわね!こちらは、ジョージア様と……もし、可能でしたら公世子様にも広告塔の
 お願いができないでしょうか?」
「それなら、殿下とハリー、お兄様にもお願いするわ!
 ウィルがこれを着ると……ダメな気がするのよ……」
「なんとなく、わかる気がします」
「もみくちゃにされそうよね……最近、ただでさえ、イロイロと垂れ流している感じがするのよ……」
「わかります?私も感じてました。ただ、最近、ただの親ばかなんだということで落ち
 着いたんですけど、ミアへの可愛がりようが異常な気がします」
「そうなの?」
「そうなのです。可愛くて仕方がないのでしょうね。『父様』なんてちょっと舌ったらずに言われると、
 デレルのなんのって……」
「早く、結婚すればいいのに……」
「あれは、もうしないんじゃないですかね?レオもミアも懐いていますからね、他に何もいらないって
 感じがしますよ。そこに、ジョー様まで混ざって、親子四人で毎日幸せに暮らしていますから……」
「あの、ジョーはジョージア様の子どもだからね?」


 そうでしたと当たり前が当たり前になってないナタリーの常識に少し驚く。
 これは、早々に領地に帰った方がいいなと思わされる。
 ジョージア様、頑張ってくださいね!このままじゃ、本当にジョーが誰子どもなのかわからなくなりますよ!なんて、心の中で応援だけしておく。


「あっ!でも、ジョージア様もジョー様と一緒に過ごされてますよ!
 最近、パパと呼ぶようになりましたし、相変わらず、ジョー様はウィルの方が好きみたいですけど、
 アンナリーゼ様の部屋で親子三人で眠ってらっしゃいます」
「それは、よかったけど……私の部屋じゃなくてもいいんじゃない?」
「うーん、そこは、ジョージア様がアンナリーゼ様の帰りを待っているのだと思いますよ?」


 ますます、早く帰らないといけないような気持ちになる。


「それじゃあ、私、この染物をしているところへ行きたいのですけど、いいですか?」
「わかったわ。ノクトを連れて一緒に行って来てちょうだい」
「アンナリーゼ様、私も養蚕しているところへ……」
「いいわよ!そっちはヨハン教授を連れて行きなさい!ニコライもそろそろ帰ってくると思うから、
 一緒に行ってもらうといいわ!」


 ありがとうございますとナタリーとタンザの話がついた。
 私たちはそれぞれ、今後のことを話したうえで、向かうべきところへと散って行く。
 私は、いつものごとく男爵の隠し部屋で読書時間となる。
 最近、裁可するようなこともなく、のんびり過ぎていく。
 アンバー領地へ帰ってからも役立つことがないか、男爵が自領のためにためた本をひたすら読み進めて行くこととなる。


 私、相当知識を留目込んだのではないだろうか?
 誰か、私を褒めてくれないだろうかなど考え、今日も本を捲ってくのであった。
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