上 下
360 / 1,479

裁可終了、恨みは買うけど、あんまり面倒なこと言うと後には何も残さないよ?

しおりを挟む
 公世子からの答えをもらったあとは、ひたすら残っている裁可をしていく。
 かれこれ、ダドリー男爵家処刑の日から3週間がたとうとしていたが、日に日に多くなってきた異議申立書にうんざりしてきたところである。


「よし、できた!」
「何ができたのだ?」


 ひょこっと私の書いた裁可書をみてギョッとしていた。


『以降、他に異議申立をする場合は、自身の心と体に後ろめたいことがないか聞いてから
 提出するようにしてください。
 社会的地位だけでなく、失うものがたくさんあるかもしれませんから……』


 添え状が、あまりにも丁寧に書かれていたことより、喧嘩売るなら買ってやるけど、これ以上に最悪な未来が待っているかもしれませんよと書かれていた文面に公世子は驚愕しているようだ。


「アンナリーゼ、これは、まずくないか?」
「一人一人に追加で罪を1つくらい書いておいた方がいいですか?」
「そういうことでなくて……」
「あぁ、証拠になるようなものは残すなってことですか……?
 確かにお手紙は残ってしまいますね。気が付きませんでした……」


 そういうことじゃないんだけどな……と呟く公世子をそっちのけで、どうすることがいいのか……考える。
 やはり、公爵の処遇で反応が変わるだろうか?
 男爵程度の爵位なら、公爵でもなんとでもできてしまいそうなのだ。
 印象に欠けると言えば、そうだったかもしれない。

 それなら……同じことを公爵でするしかない。


「そういえば、公世子様」
「なんだ?また、物騒なことじゃないだろうな?」
「なんですか!いつも物騒みたいな……!
 公爵の処遇についてですけど……この前の話で大丈夫でしたか?」
「あぁ、あれな。いいぞ!」
「では、大々的に公開しましょう!公爵夫人も公爵をお探しのようですしね!」


 ヒラヒラと公爵夫人からの手紙を見せると、なるほどと頷いていた。
 私は、公世子をチラッと見てから、またスラスラと紙に筆を滑らせていく。


『公世子及び公世子妃・第二妃等殺害未遂事件について』とタイトルをつけていく。
 こういうのは、誰と誰が狙われたのか分かった方がいいので、タイトルの頭に書き入れていく。
 ダドリー男爵の事件を紐解いていくと、今回、このような事件が背後にあったことがわかったというように出だしを書く。


 ダドリー男爵の娘を自身の娘と偽り、公世子の側室として公家に連なる計画をたてた。
 公世子のお手付きがあり、男子が生まれた場合、公世子一家を殺害し、自身が摂政として公爵が孫を使ってこの国を思うがまま動かく計画であったことが判明した。
 数々の証拠もあり、それらに関わったものは、死罪もしくは爵位取り消しとする。


「再掲という形で、また、城以外にも出しましょう。
 あとは、公爵と公爵の息子を服毒刑とし、見せしめにすることになりますけど、
 いいですか?」
「あぁ、それで、いい。謀反として取り扱ってもいい案件であることを書き足すことに
 しよう。そうすれば、正当性も増すからな」
「わかりましたっと……できた!
 これで、清書をお願いします!最後にサインは書きますから!」


 わかったと隣の部屋に顔を出すと、向こうは大慌てて何事か起こっていた。
 それは、どうでもいいので、私はソファで脱力する。


「アンナよ」
「何かしら?」
「あの公爵にも協力者やなんやらがいるはずだ。表に出す前に……」
「絡め取っておけでしょ?済んでるわよ!9割程。
 泥水啜ってせいぜい生きるがいいわって、一度言ってみたかったのよ!なんて思って
 たら、まさかそんな機会が来るとは思ってなかったけどね?」
「それなら、いいんだが……迅速にことを進めるだけがいいことじゃない」
「そうなのよ!根回しは大事!ハリーが教えてくれたことよ!大きなことを成すためには
 小さなことから回り道をしてでも準備はしておかないと!」
「コツコツ努力は苦手だと思っていたが……」
「基本的にみんながコツコツ努力はしてくれるものね。
 でも、こういうのは、私がしないといけないから、これは、みんなを巻き込まないわ!
 それに、私が始めたことだから、最後まで責任はとることにしているの」
「小生意気な!」


 ノクトに軽口をたたかれると、エリックが近寄ってくる。


「アンナリーゼ様」
「エリック、どうしたの?」
「いえ、アンナリーゼ様はどこからそんな答えを導くのですか?」
「どこって言われても……経験から?」
「そなたの経験なぞ、たがだかしれておろう!」
「ノクトに言われると、そうかも。
 どこからかな?ふわっと浮かんでくるかな?ああしたいこうしたいって。
 それは、きちんとしたものではないから、それを伝えて形にしてくれるのが、セバスや
 ニコライの仕事ね!」
「それも自分でできるようになって満点だがな?」
「満点なんて目指さないわよ!欠点だらけの私を補ってもらうために優秀そうな人を
 集めているのだから!」
「俺も入れてますか?」
「もちろん、入っているからこそのでしょ?」


 キラッと光るエリックの左耳のアメジストの薔薇。


「エリックももらっているのか……そろそろ、俺も欲しいところだがな……」
「ノクトもイチアも欲しいんですって!それ!」
「あげませんよ!俺の大事な宝物なんですから!」
「宝物だとよ!可愛いこといってら!」


 ノクトにからかわれているエリックをみて微笑んでいると、公世子がこちらに戻ってきた。
 清書が終わったようで、私を手招きしている。


「ここにサイン書いて」
「わかりました!」


 これにて、公爵の処刑が決まる。
 覆せるのは、公のみとなったが、それはないだろう。


「2日後に貼りだすことにした」
「わかりました。処刑の日はいつですか?」
「4日後。異議申し立てがあるなら、その日までなら受け付けるが、以降の裁可について
 覆ることはないと明記してある。
 あと、何度もあると面倒だから、公にも一筆もらうことにする。
 そうしたら、これ以上の混乱は起こらないだろう」
「わかりました。では、そのようにお願いします」


 私は、残っていた裁可を全て終わらせ、公世子に渡し、席を立つ。
 今日も長い1日となった。



 ◇◆◇◆◇


 それから2日後、公示される。
 さらに2日後、公爵及びその子息の処刑と夫人たちが平民へと成り下がった。
 財産は没収され、国庫に収納し、残された領地は公直轄地となる。
 それをみていたのであろう、爵位の低い者たちから、最後の足掻きが数人、異議申立を出そうとしているようだ。
 命あっての物種だとは思うが、貴族として権力や財力をかざしてきたものたちからしたらいきなり奪われると困る人も中にはいるわけだ。


「公世子様!」


 呼び止められ、振り返ると年老いた男性がいた。


「今回の件、納得いきません!」
「納得も何も、そなたが手を出したものは、そういうものだったということだが?」


 すると、公世子の少し後ろを歩く私を睨みつけてきた。


「公世子様は、よほどそこのご婦人を大切にしていると見える!
 最近、いつも側においておるからなぁ……」


 殺気の籠った目つきにかわれば、私はもちろん身構えたが、自分が動くわけにもいかず、ノクトを呼ぼうとした。


「呼ばれなくてもわかっておる!」


 すでに抜剣されいる切っ先が老人の首元にあった。
 それもひとつだけではなく、反対側にもだ。


「やりおるなぁ、エリック。アンナが認めているだけのことは、ある!さすがだ!」
「将軍こそ、領地で気ままに暮らしていると聞いていたので腕が鈍ったかと思っており
 ましたが……いやはや……僕なぞ、まだまだ若輩ものですね!」


 二人が何故か睨みあっているのは放置して、呆然としている老人の手からナイフを取り上げた。


「先にこっちを取り上げて、舌を噛み切って死なないように意識を刈る必要があるわね!
 残念ながら、二人とも不合格!」


 老人の腹を思いっきり蹴っ飛ばす。
 すると、後ろに尻餅をついて咳き込んいるのですかさず馬乗りになり、手元にあったハンカチで猿轡を簡易的にする。
 流れるような一連を見ていた三人と城の近衛たちは、ポカンとしながら次を待っているようだ。


「私じゃこれ以上はどうすることもできないから、エリック、後をお願い!
 ノクト!」


 呼ぶと手を差し出してくれ、私を立たせてくれる。


「よいっせっと……
 売られた喧嘩と恨みは買うけど、あんまり面倒なこと言うと後には何も残さないよ?
 私は、ただの公爵ですけど、裏工作は意外と得意なの!」


 ニッコリ笑うと、その場に留まっていた貴族たちは握っていた書状をそっと内ポケットにしまう。


「今の裁可を私は間違っているとは思ってないわ!
 叩けば埃が立つようなことをしていたのだから、パンパンとするだけで……
 どれほどのものがあるのか知っているかしら?」


 老人は私を睨んだままだった。
 たぶん、周りにいるのも、そうだろうから釘をさす意味でも一押ししておいてやろう。


「ねぇ、そこのあなた!」


 えっ!俺?と指をさして驚いているが、今回のリストでも名前が挙がっていた侯爵だった。


「そう、侯爵よね!
 この国では、人身売買はご法度だったはずよ!特に奴隷として買って痛めつけた上に
 殺してしまうなんて……ダメよね?
 それも女子供ばかりの弱いものを虐げるのがお好きなようで……
 そんなに虐げられるのがお好きなら、私が剣で刺してあげますわよ?」


 ニッコリ笑うと、引きつった顔をしてへなへなとへたり込んでしまった。
 他にはいないのかとキョロキョロとすると私とは目を合わせたくないのかみな目を逸らす。


「あら……みなさん、目を逸らすだなんて、寂しいわ!
 私、好奇心旺盛だから、みなさんのことももちろん知っていますよ!
 困った趣味とか、性癖とか、怪しい儲け話とかね。
 お話したくなったら、いつでも来てくださいね!」


 笑いかけると、蜘蛛の子を散らすように裁可を下した貴族や高官だったものや近衛が逃げていく。
 もちろん、へなへなっとなっている侯爵に手を差し伸べる人は誰一人おらず、エリックにより近衛が縄をかけ連れていかれた。


「アンナリーゼには、逆らうな!これは教訓だな……この国の」
「失礼ですね!私だって叩けば埃くらいたちます。
 その埃は、デリアによって綺麗に処理されますからね!なかったことになっているので、
 誰もそこにはたどり着かないでしょう!さあ、裁可は全て終わりました!
 私は、もう解放でいいですか?」
「あぁ、悪かったな……長々と付き合わせて」
「本当ですよ!これで、少しだけ政治のやりやすい環境は整ったんじゃないですかね!
 若い優秀な貴族や城に仕えるものを育てましょう!」


 あぁと公世子は答え、私は意気揚々と城の廊下を闊歩する。
 ダドリー男爵の悪夢は、全て終わったと言ってもいいだろう。
 あとは、目下の目標である領地の改革を地道に進めていくだけとなったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。

みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。 主人公は断罪から逃れることは出来るのか?

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。

夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。 陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。 「お父様!助けてください! 私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません! お父様ッ!!!!!」 ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。 ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。 しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…? 娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)

処理中です...