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人の命
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「トッポ、ありがとう」
「いえ、何もしておりませんから……それでは……」
公世子の執務室を出てから、トッポとも別れノクトと二人で廊下を歩く。
「ノクト、人の命って何なんだろうね?」
「と、いうと?」
「爵位を持てば、簡単に刈り取ってしまえるのよね……」
「だからこそ、バカな爵位持ちにはならず、常に考え続けるのだろう?
公爵とは、権力があるがゆえに、起こりうる全てを考えろと俺は教わった」
「なるほどね……私は、爵位持ちになることはないと思っていたから、それは教わってないけど……」
「いや、俺が見る限りは、アンナの中にちゃんとあるぞ!
両親が教えてくれたのだろう……アンナが爵位持ちになるならないは別として、公爵夫人として
あるべき姿をアンナの両親やアンバー公爵たちが教えてくれたんじゃないか?
領地を領民を大切にすることは、爵位持ちとして、1番大事なことだ。
爵位があるからこそ、刈れる命と守れる命があることをしっかり覚えておけ。
今回は、守る命の方が、断然多い。力がないものを守ったことを誇りに思え!
刈り取った命の重みをいつまでも忘れることなきよう、ずっと心にとめおくのだ」
「えぇ、わかったわ。
ノクトが側に侍ってくれていることは、実は大きな財産なんだと思うわ。
私にはないものを補ってくれてありがとう……」
「だてに長く生きているわけじゃないさ。こんな老人の話も必要なときがあるだろう。
まだまだ、年若いアンナだ。経験以上のことの方が多い。
そんなときは、人を見て教えを乞えばいい。アンナなら、誰かを守るためなら、
誰にでも頭を垂れられるだろう?」
私は曖昧に笑っておく。
そう、私は、未来が少しでも悲惨なことにならないためなら、なんだってやろうと思っている。
今回のこともそのうちのひとつだったのだから……
地べたを這いずってでも、一人でも多くの命を守るために動くのが、私の使命なのだと握った拳を胸に当てる。
肩に手を置き、私のことを慮ってくれるノクトに感謝すると、ニカッと笑う。
迷っていた気持ちももやもやとしていることもあるけど、私が下を向けばついてきてくれている人たちに顔向けができない気がして、私は、踵をひとつ打ち鳴らすと丸まっていただろう背筋を伸ばした。
心を痛めることは悪いことだとは思わない。
むしろ、心を凍らせてしまうことの方が、私は怖かった。
人の命は、ひとつとして軽いものはない。
今回は、私やジョーが命を狙われた側であっただけで、自分の正義のためとのたうち回って私がそちら側になってしまうことだってあるかもしれない。
それをとめてくれる人が周りにいることを感謝しながら、自分の置かれている立場を再確認する。
◇◆◇◆◇
「アンナリーゼ様、おかえりなさいませ」
屋敷に戻るとディルとデリアが迎えてくれる。
私は二人の顔を見ると帰ってきたのだなと思え、ホッとしてしまう。
「お話があるのですが、よろしいでしょうか?」
ディルから話があるとは、なんだろうか?と思い、いいわよと答えた上で執務室へと向かう。
執務室へ入り定位置に座ると、ディルからの申出があった。
「アンナリーゼ様、そろそろカルアの遺体を埋葬しないと可哀想です。
こちらの地下に安置しておりますが、屋敷の者が近づかないともかぎりません」
「そうね……このままじゃいけないわね。
屋敷で火葬するわけにもいかないし……公世子様に聞いてくればよかったわ……
ディルたちは、火葬できるところは、知っていて?」
「いいえ、残念ながら……土葬が一般的ですので、その他となるとわかりかねます」
「地下は涼しいとはいえ、気温も上がってきているものね。
あと1日2日程待ってもらえるかしらね?」
「えぇ、それは構いません。事後処理で忙しくされているのに申し訳ございません」
「いいのよ!公世子様だけじゃさばききれなかったのを手伝っているだけだから。
さすがに、大本が死ねば、脅されたとかなんとかいう輩が増えてきたわね?
ノクト、そうは、思わない?」
「あぁ、印象的に増えたとは思うな。これを片付けないと領地には戻れないのだろ?」
「えぇ、そうね……早く、帰りたい……」
そうぼやくとディルが笑う。
「アンナリーゼ様は、領地がよっぽど気に入ってらっしゃるんですね!
普通、女性なら、公都で遊んで暮らしたいと申すものですよ?」
「そうなの?公都も目新しいものがあっておもしろいのだけど、やっぱり、領地で飛び回っている
ほうが、私には性に合っているのよ!」
その場に居合わせた、ディルやノクト、デリアがクスクスと笑っている。
どういうこと?と見回すと、代表してノクトが答えてくれた。
「アンナらしくって実に結構な話だってことだ」
「それは、ありがとう!」
三人に笑いかけ、私は領地からの報告書を読んむことにした。
その頃には、デリアによって飲み物が用意され、ノクトも応接セットでニコライが置いて行った手紙を読んでいるところだった。
私のほうは、特段変わったことは起こっていないということがセバスから、ジョージアの方には刺客がやっぱり来たことがウィルから、ナタリーから安く売るための普段着を作って売り始めたこと、イチアから麦や砂糖などの農作物と工場や住む家の進捗が書かれていた。
それぞれの報告書を読むと、余計に帰りたくなった。
チラッとノクトを見ると難しい顔をしている。
「どうしたの?」
「あぁ、いやな……ダドリー男爵家の抱えていた領地へニコライは商売しに行っていたようなんだが……
影響があると書いてある。男爵領だけでなく周辺領地も含めて」
「男爵領は、私がもらうことになっているから……治めるには難しいかしら?」
「そこまでは書いてないから……直接聞いた方がいいかもしれない」
「今、ニコライはどこにいるの?」
「公都にいると書いてある。明日、来ると書いてあるが……」
「早朝ならいいわと返事しておく」
わかったといいつつ、私にニコライの手紙を見せてくれる。
暗号文で書かれた手紙を読み解いていく。
しかし、今読んだ報告書は、全て暗号にて報告されているので、普通の人が読んだら、そんな内容私宛に書かなくてもいいんじゃないかと思われるものばかりであった。
「みんな、暗号文字、上手に使えるようになったね?」
「努力してたからな!コツさえつかんだらわかりやすし、今では、これがないとなかなか
情報伝達は難しいな」
「そうなんだ?私の知らないところで……みんなの役に立てているなら嬉しいわ!」
私もみんなへの返事を同じように暗号文として書き始める。
したためた手紙をニコライに渡すよう準備だけし、明日の朝、ニコライを呼ぶようにデリアに頼む。
それからは、明日、ニコライからの話を聞くことを考え、ノクトと話をしてから休むことにしたのである。
◆◇◆◇◆
翌朝、ニコライが屋敷に来てくれた。
「朝早くからごめんね!」
「とんでもないです!こちらは、まだ、片付いてないようですね……」
「そうなの。貴族の反発があるから、仕方ないし想像はしていたから」
「無理はなさらないでくださいね!
アンナリーゼ様は、身重なんですから、お体第一ですよ!」
おもしろいほどニコライは心配してくれ、なんだか笑ってしまう。
でも、それくらい無理をしているだろうとみなに思われているのかと思えば苦笑いにもなってしまう。
「それで、手紙に書いてあったけど……ダドリー男爵家の領地の商売はあまり芳しくないのね?」
「えぇ、男爵が処刑されたことは、国中に瞬く間に広がりましたからね……
領民が不安に思っているのと、やはり、アンバーをよく思っていないです。なので……」
「商売ができない?」
「お恥ずかしい限りですけど……なかなか、難しい状況ではあります」
「わかったわ!貴族たちの裁可が終われば、ダドリー男爵の領地へ向かいます。
元々、あの領地は、私がもらい受けたから、見捨てるつもりはないのよ」
「そうですか……でも、気を付けてください!アンバー公爵家だとわかると、領民は何をして
くるか……」
「それもわかった上で行くわよ!それこそ、アンバーを知らしめてあげるわ!」
「そのときは、お供させてください。
しばらくは、公都を中心に動いて情報収集をしようと思っているので……」
「うん、そのときは呼ぶわね!」
私は、ニコライとダドリー男爵家の領地へ行くときは一緒に行く約束をする。
まだまだ土地勘のない私より、国中、もしくは国外にも行商に行ってくれているニコライの存在はとても大きい。
よく知らない国でうまくなじめているのは、ニコライのおかげでもあるのだ。
「あと、ニコライ。どこかに火葬できるところはないかしら?」
「火葬ですか?」
「えぇ、教えてくれれば、私たちが行けるのだけど……」
「公都のはずれに古い教会があります。そこなら、火葬してもらえると思いますよ!」
教えてもらった情報を元にさっそく私は準備するようにディルに申し付ける。
朝食後、合流したノクトにニコライからの話をし、カルアの火葬へ向かうことに決めたのであった。
「いえ、何もしておりませんから……それでは……」
公世子の執務室を出てから、トッポとも別れノクトと二人で廊下を歩く。
「ノクト、人の命って何なんだろうね?」
「と、いうと?」
「爵位を持てば、簡単に刈り取ってしまえるのよね……」
「だからこそ、バカな爵位持ちにはならず、常に考え続けるのだろう?
公爵とは、権力があるがゆえに、起こりうる全てを考えろと俺は教わった」
「なるほどね……私は、爵位持ちになることはないと思っていたから、それは教わってないけど……」
「いや、俺が見る限りは、アンナの中にちゃんとあるぞ!
両親が教えてくれたのだろう……アンナが爵位持ちになるならないは別として、公爵夫人として
あるべき姿をアンナの両親やアンバー公爵たちが教えてくれたんじゃないか?
領地を領民を大切にすることは、爵位持ちとして、1番大事なことだ。
爵位があるからこそ、刈れる命と守れる命があることをしっかり覚えておけ。
今回は、守る命の方が、断然多い。力がないものを守ったことを誇りに思え!
刈り取った命の重みをいつまでも忘れることなきよう、ずっと心にとめおくのだ」
「えぇ、わかったわ。
ノクトが側に侍ってくれていることは、実は大きな財産なんだと思うわ。
私にはないものを補ってくれてありがとう……」
「だてに長く生きているわけじゃないさ。こんな老人の話も必要なときがあるだろう。
まだまだ、年若いアンナだ。経験以上のことの方が多い。
そんなときは、人を見て教えを乞えばいい。アンナなら、誰かを守るためなら、
誰にでも頭を垂れられるだろう?」
私は曖昧に笑っておく。
そう、私は、未来が少しでも悲惨なことにならないためなら、なんだってやろうと思っている。
今回のこともそのうちのひとつだったのだから……
地べたを這いずってでも、一人でも多くの命を守るために動くのが、私の使命なのだと握った拳を胸に当てる。
肩に手を置き、私のことを慮ってくれるノクトに感謝すると、ニカッと笑う。
迷っていた気持ちももやもやとしていることもあるけど、私が下を向けばついてきてくれている人たちに顔向けができない気がして、私は、踵をひとつ打ち鳴らすと丸まっていただろう背筋を伸ばした。
心を痛めることは悪いことだとは思わない。
むしろ、心を凍らせてしまうことの方が、私は怖かった。
人の命は、ひとつとして軽いものはない。
今回は、私やジョーが命を狙われた側であっただけで、自分の正義のためとのたうち回って私がそちら側になってしまうことだってあるかもしれない。
それをとめてくれる人が周りにいることを感謝しながら、自分の置かれている立場を再確認する。
◇◆◇◆◇
「アンナリーゼ様、おかえりなさいませ」
屋敷に戻るとディルとデリアが迎えてくれる。
私は二人の顔を見ると帰ってきたのだなと思え、ホッとしてしまう。
「お話があるのですが、よろしいでしょうか?」
ディルから話があるとは、なんだろうか?と思い、いいわよと答えた上で執務室へと向かう。
執務室へ入り定位置に座ると、ディルからの申出があった。
「アンナリーゼ様、そろそろカルアの遺体を埋葬しないと可哀想です。
こちらの地下に安置しておりますが、屋敷の者が近づかないともかぎりません」
「そうね……このままじゃいけないわね。
屋敷で火葬するわけにもいかないし……公世子様に聞いてくればよかったわ……
ディルたちは、火葬できるところは、知っていて?」
「いいえ、残念ながら……土葬が一般的ですので、その他となるとわかりかねます」
「地下は涼しいとはいえ、気温も上がってきているものね。
あと1日2日程待ってもらえるかしらね?」
「えぇ、それは構いません。事後処理で忙しくされているのに申し訳ございません」
「いいのよ!公世子様だけじゃさばききれなかったのを手伝っているだけだから。
さすがに、大本が死ねば、脅されたとかなんとかいう輩が増えてきたわね?
ノクト、そうは、思わない?」
「あぁ、印象的に増えたとは思うな。これを片付けないと領地には戻れないのだろ?」
「えぇ、そうね……早く、帰りたい……」
そうぼやくとディルが笑う。
「アンナリーゼ様は、領地がよっぽど気に入ってらっしゃるんですね!
普通、女性なら、公都で遊んで暮らしたいと申すものですよ?」
「そうなの?公都も目新しいものがあっておもしろいのだけど、やっぱり、領地で飛び回っている
ほうが、私には性に合っているのよ!」
その場に居合わせた、ディルやノクト、デリアがクスクスと笑っている。
どういうこと?と見回すと、代表してノクトが答えてくれた。
「アンナらしくって実に結構な話だってことだ」
「それは、ありがとう!」
三人に笑いかけ、私は領地からの報告書を読んむことにした。
その頃には、デリアによって飲み物が用意され、ノクトも応接セットでニコライが置いて行った手紙を読んでいるところだった。
私のほうは、特段変わったことは起こっていないということがセバスから、ジョージアの方には刺客がやっぱり来たことがウィルから、ナタリーから安く売るための普段着を作って売り始めたこと、イチアから麦や砂糖などの農作物と工場や住む家の進捗が書かれていた。
それぞれの報告書を読むと、余計に帰りたくなった。
チラッとノクトを見ると難しい顔をしている。
「どうしたの?」
「あぁ、いやな……ダドリー男爵家の抱えていた領地へニコライは商売しに行っていたようなんだが……
影響があると書いてある。男爵領だけでなく周辺領地も含めて」
「男爵領は、私がもらうことになっているから……治めるには難しいかしら?」
「そこまでは書いてないから……直接聞いた方がいいかもしれない」
「今、ニコライはどこにいるの?」
「公都にいると書いてある。明日、来ると書いてあるが……」
「早朝ならいいわと返事しておく」
わかったといいつつ、私にニコライの手紙を見せてくれる。
暗号文で書かれた手紙を読み解いていく。
しかし、今読んだ報告書は、全て暗号にて報告されているので、普通の人が読んだら、そんな内容私宛に書かなくてもいいんじゃないかと思われるものばかりであった。
「みんな、暗号文字、上手に使えるようになったね?」
「努力してたからな!コツさえつかんだらわかりやすし、今では、これがないとなかなか
情報伝達は難しいな」
「そうなんだ?私の知らないところで……みんなの役に立てているなら嬉しいわ!」
私もみんなへの返事を同じように暗号文として書き始める。
したためた手紙をニコライに渡すよう準備だけし、明日の朝、ニコライを呼ぶようにデリアに頼む。
それからは、明日、ニコライからの話を聞くことを考え、ノクトと話をしてから休むことにしたのである。
◆◇◆◇◆
翌朝、ニコライが屋敷に来てくれた。
「朝早くからごめんね!」
「とんでもないです!こちらは、まだ、片付いてないようですね……」
「そうなの。貴族の反発があるから、仕方ないし想像はしていたから」
「無理はなさらないでくださいね!
アンナリーゼ様は、身重なんですから、お体第一ですよ!」
おもしろいほどニコライは心配してくれ、なんだか笑ってしまう。
でも、それくらい無理をしているだろうとみなに思われているのかと思えば苦笑いにもなってしまう。
「それで、手紙に書いてあったけど……ダドリー男爵家の領地の商売はあまり芳しくないのね?」
「えぇ、男爵が処刑されたことは、国中に瞬く間に広がりましたからね……
領民が不安に思っているのと、やはり、アンバーをよく思っていないです。なので……」
「商売ができない?」
「お恥ずかしい限りですけど……なかなか、難しい状況ではあります」
「わかったわ!貴族たちの裁可が終われば、ダドリー男爵の領地へ向かいます。
元々、あの領地は、私がもらい受けたから、見捨てるつもりはないのよ」
「そうですか……でも、気を付けてください!アンバー公爵家だとわかると、領民は何をして
くるか……」
「それもわかった上で行くわよ!それこそ、アンバーを知らしめてあげるわ!」
「そのときは、お供させてください。
しばらくは、公都を中心に動いて情報収集をしようと思っているので……」
「うん、そのときは呼ぶわね!」
私は、ニコライとダドリー男爵家の領地へ行くときは一緒に行く約束をする。
まだまだ土地勘のない私より、国中、もしくは国外にも行商に行ってくれているニコライの存在はとても大きい。
よく知らない国でうまくなじめているのは、ニコライのおかげでもあるのだ。
「あと、ニコライ。どこかに火葬できるところはないかしら?」
「火葬ですか?」
「えぇ、教えてくれれば、私たちが行けるのだけど……」
「公都のはずれに古い教会があります。そこなら、火葬してもらえると思いますよ!」
教えてもらった情報を元にさっそく私は準備するようにディルに申し付ける。
朝食後、合流したノクトにニコライからの話をし、カルアの火葬へ向かうことに決めたのであった。
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