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アンバーの腕輪
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屋敷に帰ると、この数日の疲れが出たのか、また、急に体調が悪くなった。
元々悪阻も気分であったりなかったりとしていたので、緊張が緩んだここぞとばかりに体調不良が狙ってきたようだ。
「ただいま……今から、寝ます……」
「おか……アンナ様!!」
デリアの顔を見るなり、私は倒れ込むように蹲った。
貧血でもしたのだろうか?頭がうまく働かない。
ゆらゆら揺られながら、ぼんやりした頭で今を考えている。
私を抱き抱えて私室まで移動してくれているのか、ノクトらしく私が揺れないようにと気遣いされている。
「また、アンナ様は無茶をなさったのですか?」
手の応急処置がされているのを目ざとく見つけたのだろう。
隣を歩いているデリアから盛大なため息が聞こえてきた。
ごめんなさい……私は、声にならず、モゴモゴと口の中で言葉が消えていく。
「あぁ、ちょっとな。
デリアよ、そんなに怒ってやるな。アンナはアンナなりに今日はとても頑張った。
人の上に立ち、人の命の裁可を下したんだ。
アンナが大丈夫だと気丈に振る舞ったとしても、心が痛まないわけはないだろう。
直接ではないとはいえ、目の前で、バタバタと死んでいく男爵家をずっと見ていたんだ。
瞬きすらせずに、涙を堪えて……初めてにしては、上出来じゃないか?」
ノクトの頑張ったの言葉が、胸の重さをほんの少しだけ軽くしてくれる。
この体が重いのは、何も体調のせいだけではないだろう。
ここ数日、ずっと私は知らず知らずのうちに緊張していたのだ。
朝までなかった胸を覆う不安は、城を出たときよりずっと大きく、目に浮かぶ処刑の光景が怖く感じる。
今回のダドリー男爵家の断罪に、後悔はしていないと言えば嘘だ。
今でも、体が震えそうになるくらい、苦しい。
でも、間違っていたとは、決して思いたくない。
アンバー領でも、ダドリー男爵家による搾取により、たくさんの人が亡くなったのだ。
それを胸に私は深く息を吐く。
体の中にある空気を抜いて、屋敷の柔らかい空気を吸う。
さっきより重苦しく息がしずらかったのに、楽になったような気がする。
それにしても、ノクトにはバレてたのか……人が死んでいく姿を見て涙を流してしまいそうになったことを。
私は断罪する側であるので、涙などながすのはおかしい。
だから、我慢したのだ……思い入れがある人達ではないのだけど、人が死ぬということを目の当たりにして、心がバランスを取りたがっていた。
でも、私はそれを許さず、震えながらもきつくきつく拳を握って一人また一人と倒れていくさまをただ見ていた。
「ノクトは、よく見ているんだね?」
「あぁ、気が付いていたのか?」
「ずっと気は付いてるけど、体が言うことを聞かないの。ごめんね……」
「部屋はすぐだから、休め。どうせ、明日からも城に詰めるだろ?」
「ふふっ!よくわかっているわね。死人に口なしっていって公爵あたりが申し開きに来ると思うのよね。
公世子様だけだと、きついと思うから……私も向かうわ!
ついてきてくれる?」
「あぁ、一緒にいてやる。後悔のないように突き進め!」
「ありがとう……」
部屋に運んでもらいベッドの真ん中へへなへなとしながら行くと、デリアに着替えるように叱られる。
たしかに、このドレスで寝ると……寝返りできなくてしんどそうだ。
豪奢なので寝るには適していない。
ベッドに座ったまま、デリアに着せ替えてもらう。
なんだろう……ふだん、自分で着替えることが多いので不思議な気分だった。
「できました。ゆっくりお休みください!」
デリアがドレスを持って出ていく。
あのドレス、もう2度と見ることはないだろう……今日のことを思い出すだろうからと、デリアなりの優しさである。
それは、私にとってとても嬉しいことであるが、目に焼き付いているドレスは記憶から消えることがないだろうと、重い瞼を閉じて眠りにつくのであった。
◆◇◆◇◆
「……初めて紅茶を入れてみたよ!飲んでくれる?」
「えぇ、いいわよ!」
私は、差し出された紅茶の入ったカップを手に取る。
目の前にいる人物は、誰かわからない。
ただ、私に近しい人物であるだろうと思えた。
なんの疑いもなく、もらった紅茶を飲んでいるのから。
「とっても、おいしいわね!上手に入れてあるわ!」
「本当?よかった……」
私のおいしかったの一言で喜ぶ目の前の人物に私は微笑む。
可愛いなと思う感情が私の中で溢れてくる。
最近よく見る『予知夢』だった。
目の前にいるのに顔も見えないし、今日はなんとなく姿が見えたけど、いつもはもっとぼんやり声が聞こえるだけだった。
渡される紅茶の入ったカップ以外は、全くわからなかったのだが、今日は少し声がはっきり聞こえ、紅茶を差し出してきた腕までが見えた。
その手首にはまっていたのは、アンバーで出来た腕輪だった。
アンバーの宝飾品は、アンバー公爵家以外は、あまりつけない。
あまり強度も強くないため、宝飾品としてそれほど価値を見出してもらえないのである。
ただ、私が受け継いだアンバーの秘宝だけは、国宝級として扱われている。
私はアンバーで出来た腕輪をじっくり見てみる。
何の変哲もないアンバーの腕輪であった。
でも、アンバーを身に着けているということは、アンバー公爵家の一員なのだろう。
アンバーを身に着けているのは、今のところ私とジョージだけだった。
私は、基本的にアンバーはディルにもらったナイフを常備しているし、私が紅茶を入れてもらっているのだから……残るは一人しかいない。
でも、この紅茶を入れてもらうことは、何に繋がっているのか、私にはわからなかった。
おいしいわで終わる夢なら……何度も見ないだろう。
それとも、愛情注いだ子どもからの初めて入れた紅茶を作ってくれたからこそ、『予知夢』として出てきたのであろうか?
今はわからない。
変わっていく『予知夢』に私は戸惑っているのだ。
今では、何も描いてない白紙に地図を描き入れていくような感じである。
昔はもっとはっきりと未来が見えた。
これは、私の『予知夢』を見る能力が下がっているのだろうか?
私は、夢の中で目の前にいる人に笑いかけ、目を閉じた。
すると、暗くなりそこからは何も見なくなり、ぐっすり眠りにつく。
次、目を開けると真夜中であった。
「よく寝たわね……」
ベッドの上に座り伸びをする。
今からでもまだ寝られそうなのだが、少しお腹がすいたようで私は起きていく。
ちょうど、見回りに来たのだろうデリアに出くわした。
「アンナ様、どうかされましたか?」
「少しお腹がすいたのだけど……何か食べられるかしら?」
「えぇ、ご用意しますね。少々お待ちください!」
そう言って、私に上着を渡して着るようにいい、デリアは食べ物の用意に部屋を出ていく。
ろうそく1本を机に置いて行ってくれたので、その炎をじっと見つめる。
物悲しいような、その炎が、部屋に入ってきている風があるのか、ゆらゆらと揺らめいている。
私はさっきまで見ていた夢を思い出す。
あれは、この先どのことを示しているのだろう?
私の死に関する夢なのだろうか?
でも、特に違和感なく私は飲んでいたのだ。
もちろん、私はどんな顔をしているのか、相手がどんな顔でこちらを見ていたのかはわからない。
そんな夢は、実は珍しいのだが……実際に少し前に見ていたのだ。
何かしら、対策を練らないといけないと考えていた。
ほんの少しの不安を感じながら……私は、デリアを待つ。
しばらくすると、デリアに食べ物を運んできてもらい、それらをゆっくり食べる。
あたたかいスープは、体に染みわたるようでとてもおいしかった。
これまでもあった『予知夢』の差異について、私は考える。
まだまだ私が死ぬには時間はあるのだ、ゆっくり領地の改革もしながら……今後のこともみなに任せっぱなしで公都に来ているので気がかりであった。
「早く帰りたいな……みんなの顔が見たいよ……」
「アンナ様、しばらくはこちらですか?」
「うん、たぶんね……」
曖昧な笑顔をすると、デリアは心配そうにこちらを見ている。
「大丈夫だよ!調子はいいから……無理はしないし」
「アンナ様の無理はしないというのは信用できませんが、自分の体だけではないことも
きちんと考えてくださいね?」
うんと頷き、ベッドに戻る。
お休みなさいとデリアが布団をかけてくれ、私はまた眠る。
一人広いベッドでコロンと向きを変えながら、ゆっくり眠りにつく。
次、目が覚めたら、朝のいつもの時間であった。
元々悪阻も気分であったりなかったりとしていたので、緊張が緩んだここぞとばかりに体調不良が狙ってきたようだ。
「ただいま……今から、寝ます……」
「おか……アンナ様!!」
デリアの顔を見るなり、私は倒れ込むように蹲った。
貧血でもしたのだろうか?頭がうまく働かない。
ゆらゆら揺られながら、ぼんやりした頭で今を考えている。
私を抱き抱えて私室まで移動してくれているのか、ノクトらしく私が揺れないようにと気遣いされている。
「また、アンナ様は無茶をなさったのですか?」
手の応急処置がされているのを目ざとく見つけたのだろう。
隣を歩いているデリアから盛大なため息が聞こえてきた。
ごめんなさい……私は、声にならず、モゴモゴと口の中で言葉が消えていく。
「あぁ、ちょっとな。
デリアよ、そんなに怒ってやるな。アンナはアンナなりに今日はとても頑張った。
人の上に立ち、人の命の裁可を下したんだ。
アンナが大丈夫だと気丈に振る舞ったとしても、心が痛まないわけはないだろう。
直接ではないとはいえ、目の前で、バタバタと死んでいく男爵家をずっと見ていたんだ。
瞬きすらせずに、涙を堪えて……初めてにしては、上出来じゃないか?」
ノクトの頑張ったの言葉が、胸の重さをほんの少しだけ軽くしてくれる。
この体が重いのは、何も体調のせいだけではないだろう。
ここ数日、ずっと私は知らず知らずのうちに緊張していたのだ。
朝までなかった胸を覆う不安は、城を出たときよりずっと大きく、目に浮かぶ処刑の光景が怖く感じる。
今回のダドリー男爵家の断罪に、後悔はしていないと言えば嘘だ。
今でも、体が震えそうになるくらい、苦しい。
でも、間違っていたとは、決して思いたくない。
アンバー領でも、ダドリー男爵家による搾取により、たくさんの人が亡くなったのだ。
それを胸に私は深く息を吐く。
体の中にある空気を抜いて、屋敷の柔らかい空気を吸う。
さっきより重苦しく息がしずらかったのに、楽になったような気がする。
それにしても、ノクトにはバレてたのか……人が死んでいく姿を見て涙を流してしまいそうになったことを。
私は断罪する側であるので、涙などながすのはおかしい。
だから、我慢したのだ……思い入れがある人達ではないのだけど、人が死ぬということを目の当たりにして、心がバランスを取りたがっていた。
でも、私はそれを許さず、震えながらもきつくきつく拳を握って一人また一人と倒れていくさまをただ見ていた。
「ノクトは、よく見ているんだね?」
「あぁ、気が付いていたのか?」
「ずっと気は付いてるけど、体が言うことを聞かないの。ごめんね……」
「部屋はすぐだから、休め。どうせ、明日からも城に詰めるだろ?」
「ふふっ!よくわかっているわね。死人に口なしっていって公爵あたりが申し開きに来ると思うのよね。
公世子様だけだと、きついと思うから……私も向かうわ!
ついてきてくれる?」
「あぁ、一緒にいてやる。後悔のないように突き進め!」
「ありがとう……」
部屋に運んでもらいベッドの真ん中へへなへなとしながら行くと、デリアに着替えるように叱られる。
たしかに、このドレスで寝ると……寝返りできなくてしんどそうだ。
豪奢なので寝るには適していない。
ベッドに座ったまま、デリアに着せ替えてもらう。
なんだろう……ふだん、自分で着替えることが多いので不思議な気分だった。
「できました。ゆっくりお休みください!」
デリアがドレスを持って出ていく。
あのドレス、もう2度と見ることはないだろう……今日のことを思い出すだろうからと、デリアなりの優しさである。
それは、私にとってとても嬉しいことであるが、目に焼き付いているドレスは記憶から消えることがないだろうと、重い瞼を閉じて眠りにつくのであった。
◆◇◆◇◆
「……初めて紅茶を入れてみたよ!飲んでくれる?」
「えぇ、いいわよ!」
私は、差し出された紅茶の入ったカップを手に取る。
目の前にいる人物は、誰かわからない。
ただ、私に近しい人物であるだろうと思えた。
なんの疑いもなく、もらった紅茶を飲んでいるのから。
「とっても、おいしいわね!上手に入れてあるわ!」
「本当?よかった……」
私のおいしかったの一言で喜ぶ目の前の人物に私は微笑む。
可愛いなと思う感情が私の中で溢れてくる。
最近よく見る『予知夢』だった。
目の前にいるのに顔も見えないし、今日はなんとなく姿が見えたけど、いつもはもっとぼんやり声が聞こえるだけだった。
渡される紅茶の入ったカップ以外は、全くわからなかったのだが、今日は少し声がはっきり聞こえ、紅茶を差し出してきた腕までが見えた。
その手首にはまっていたのは、アンバーで出来た腕輪だった。
アンバーの宝飾品は、アンバー公爵家以外は、あまりつけない。
あまり強度も強くないため、宝飾品としてそれほど価値を見出してもらえないのである。
ただ、私が受け継いだアンバーの秘宝だけは、国宝級として扱われている。
私はアンバーで出来た腕輪をじっくり見てみる。
何の変哲もないアンバーの腕輪であった。
でも、アンバーを身に着けているということは、アンバー公爵家の一員なのだろう。
アンバーを身に着けているのは、今のところ私とジョージだけだった。
私は、基本的にアンバーはディルにもらったナイフを常備しているし、私が紅茶を入れてもらっているのだから……残るは一人しかいない。
でも、この紅茶を入れてもらうことは、何に繋がっているのか、私にはわからなかった。
おいしいわで終わる夢なら……何度も見ないだろう。
それとも、愛情注いだ子どもからの初めて入れた紅茶を作ってくれたからこそ、『予知夢』として出てきたのであろうか?
今はわからない。
変わっていく『予知夢』に私は戸惑っているのだ。
今では、何も描いてない白紙に地図を描き入れていくような感じである。
昔はもっとはっきりと未来が見えた。
これは、私の『予知夢』を見る能力が下がっているのだろうか?
私は、夢の中で目の前にいる人に笑いかけ、目を閉じた。
すると、暗くなりそこからは何も見なくなり、ぐっすり眠りにつく。
次、目を開けると真夜中であった。
「よく寝たわね……」
ベッドの上に座り伸びをする。
今からでもまだ寝られそうなのだが、少しお腹がすいたようで私は起きていく。
ちょうど、見回りに来たのだろうデリアに出くわした。
「アンナ様、どうかされましたか?」
「少しお腹がすいたのだけど……何か食べられるかしら?」
「えぇ、ご用意しますね。少々お待ちください!」
そう言って、私に上着を渡して着るようにいい、デリアは食べ物の用意に部屋を出ていく。
ろうそく1本を机に置いて行ってくれたので、その炎をじっと見つめる。
物悲しいような、その炎が、部屋に入ってきている風があるのか、ゆらゆらと揺らめいている。
私はさっきまで見ていた夢を思い出す。
あれは、この先どのことを示しているのだろう?
私の死に関する夢なのだろうか?
でも、特に違和感なく私は飲んでいたのだ。
もちろん、私はどんな顔をしているのか、相手がどんな顔でこちらを見ていたのかはわからない。
そんな夢は、実は珍しいのだが……実際に少し前に見ていたのだ。
何かしら、対策を練らないといけないと考えていた。
ほんの少しの不安を感じながら……私は、デリアを待つ。
しばらくすると、デリアに食べ物を運んできてもらい、それらをゆっくり食べる。
あたたかいスープは、体に染みわたるようでとてもおいしかった。
これまでもあった『予知夢』の差異について、私は考える。
まだまだ私が死ぬには時間はあるのだ、ゆっくり領地の改革もしながら……今後のこともみなに任せっぱなしで公都に来ているので気がかりであった。
「早く帰りたいな……みんなの顔が見たいよ……」
「アンナ様、しばらくはこちらですか?」
「うん、たぶんね……」
曖昧な笑顔をすると、デリアは心配そうにこちらを見ている。
「大丈夫だよ!調子はいいから……無理はしないし」
「アンナ様の無理はしないというのは信用できませんが、自分の体だけではないことも
きちんと考えてくださいね?」
うんと頷き、ベッドに戻る。
お休みなさいとデリアが布団をかけてくれ、私はまた眠る。
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