上 下
343 / 1,479

登城

しおりを挟む
 翌朝、ジョージアはまだ寝ているジョージを抱いて、公都の屋敷から領地へと移動することになった。
 それには、理由がある。
 ジョージが異様に私を気に入ったらしく、私の姿を探すようになったのだ。
 たった数時間、一緒に過ごしただけなのにだ。


「ジョージ様は、乳母もいましたが、乳母にもソフィア様にもそれほど手をかけてもらったことは
 なかったと記憶しております。
 特に母であるソフィア様が抱かれることはほとんどなく、愛情に飢えているのだと……」


 別宅に潜ませていた私の陣営であった侍女やメイドから話を聞くとそのように口を揃えるかのようにそのように話す。
 ほんの少しでも、抱いてあげたり、本を読んであげたりとしただけで懐いてしまったというのだ。
 そんなことって……ある?

 母親を奪ったのだ。恨まれるなり拒まれるなり、小さいなりに私へ対して反応するかと思ったが、思わぬ反応に私は逆に戸惑ってしまった。
 昨夜は、私のベッドに潜り込んできたのはジョージアだけでなく、ジョージもお気に入りのぬいぐるみを持って侍女に連れられ来るほどである。
 抱きかかえジョージアとの間に入れようか迷ったが、なんとなくジョージアに潰されそうだったので私が後ろから抱きしめる形で眠りについた。

 別宅の朝はゆっくりなので、私が起きたときもジョージはまだすやすや眠っている。
 こっそりジョージアと並べて寝かせ、私は朝の支度をする。

 ジョージアも起きたのか、自分の腕の中にいたのが私でなく息子であったことに驚いていた。


「アンナ、いつの間に?」
「2時くらいでしたかね?」
「俺が寝てすぐぐらいに来たのか。昨日のベタベタぶりだと、起きたら離れなくなりそうだね……」
「どこかの誰かさんみたいですね?」
「……俺のこと?」
「さぁ?誰のことですかね?」
「親子なんだから、仕方ないんじゃない?」


 ジョージアは苦笑いして、ベッドからそっと出て朝の支度をする。
 朝食の話になり、馬車の中で食べられるようにしてと言って、旅支度をするようディルに指示を出す。
 夕べの内に済んでいるので、あとは朝食を持てばいいだけとなる。
 ジョージを毛布にくるんで、抱きかかえ、早々にジョージアは馬車に乗った。


「アンナ……後は、頼んだよ!」
「えぇ、任せてください!」
「くれぐれも無理はしないように」


 いってらっしゃいと見送ると、屋敷に残る私は寂しくなる。
 また、置いて行かれたような気持ちになった。
 でも、今度は、置いて行かれたわけではなく、これから私が成すべきことを成さねばならないための時間がきただけなのだ。


 玄関から踵を返し、唇を引き締め、私室へと向かうのである。



 ◆◇◆◇◆



「デリア、城へ向かいます。用意して……そうね、ナタリーの作ってくれた紫薔薇のドレスにするわ!」
「かしこまりました。用意いたします」


 私室に入った頃には、ドレスが用意され、着替える。
 まだ、それほど、出てきていないお腹でも締め付けるようなドレスは着るのは阻まれるが、ナタリーの作ってくれたドレスは、切り替えが胸のすぐ下であったため、全く窮屈に感じない。
 公爵らしく、威厳を持たせてくれるよう出来上がった私は、城へと向かった。



 ◆◇◆◇◆



「公世子様、いらっしゃいますか?」
「引継ぎなしで入ってくるのは……って、ノクト将軍まで……」
「ん?あぁ、ノクト将軍、どうぞ!」
「何を言っているアンナ」
「公世子様がね、私よりノクト将軍の方が好きみたいで!」
「いや……俺はいくら何でもそこまで範囲は広くないぞ?」
「俺もこんなやつの相手は嫌だぞ?」


 ん?と私は小首をかしげる。
 一体何の話をしているのだ……?


「なんでもいいですけど、入っていいですか?」
「なんでもよくないけど、入っていいぞ」


 廊下と執務室の中とで話していたのだが、許可がおりたので、執務室の中に入った。


「で、何の用だ?」
「確認にきたのです。ダドリー男爵の血縁と近親は全員捕縛できましたか?」
「あぁ、おかげで出来たぞ!子どもたちは、どうすることもできなかったから、一部屋で固めて面倒
 見ている。成人済みの者だけ事情聴取を取っているところだ」
「そうですか……殆どが、知らぬ存ぜぬでしょうけどね」
「そうだろうなぁ……第三妃候補ですら、しらばっくれているらしい。
 そなたが調べたところをちょこちょこ出すと、訳知りのやつらは、口を割ってくるぞ。
 大人は、減刑のために……と言ってな」
「減刑なんて、ありえないですけどね?」
「そなた、腹が座っておるな?」
「そうですか?そんなことないですけど、侍従の前で無様な恰好はできないですからね!
 ただ、それだけですよ!」


 そうかと、私の後ろに護衛として立っているノクトをチラッと見ている。
 まぁ、従者として扱っているのは私とか私の友人とか侍従たちだけなので、公世子のその顔の意味はなんとなく分かる。
 いわゆる、贅沢な護衛であり、皇弟を公爵ごときが従者とは普通呼ばない。
 公爵も辞めたしインゼロ帝国から出てきた身でただの雇われだからと、当のノクトが言っているので、あえて、そのように扱っているのだ。
 仰々しく扱われるのが嫌なんだそうで、私とウィルたちのような関係がいいと言っている。
 考えてみると、従者がいいと本人が言ったのだから、公世子もそのつもりでいてくれればいいのだけど、そうもいかないのは根っからの公族であるゆえだろう。


「それで、どうです?順調に行きそうですか?」
「あぁ、何はともあれって感じではあるのだが、そなたの悪評が結構厄介でな……」
「そうですか……じゃあ、こういってやればいいんです。
 私の粗探しに忙しかったようですけど、私を貶めるということは、トワイスで1番の軍事力を持って
 いるおじい様によって、治めている領地が更地になりますよ!って」
「アンナよ、それは言い過ぎではないのか?」
「ノクトは知らないかしら?私の祖父のこと」


 考えて思い至ったのだろう……私と同じような髪の色をしているのは意外と珍しい。


「あぁ、あれ……女……」
「お母様も戦場に出てましたよ?」
「そしたら、そなたの母親と対峙したことがあるぞ?今のそなたより若かったと思うが、妙な巡り合わせ
 なだ」
「ノクトは、お母様を知っているのです?」
「あぁ、知っている」
「アンナリーゼの一族は、どこにでも顔を出すのだな?」
「お母様は、トワイスで1番のはねっかえりですから!」
「そなた「「アンナ」だけには言われたくないと思うぞ」……」
「二人して失礼ですね?私なんて、お母様に比べたら、まだまだひよっこですよ!」
「そなたがひよっこなら……母なら国の3つくらい落とせそうだが……」
「落とせるでしょうね……いろいろな意味で強いですから。国なんてものに全く興味がなくてですね。
 お母様の興味は、今も昔もこれからもお父様以外、他に何もありません」
「それは、夫としてずいぶんと重くないか?」


 私は、トワイスにいる両親のことを思い浮かべる。
 女王様のような母に、付き従う執事のような父。
 見た目はあれだが、とても仲がいいし、お互いを大事に思いあっているのだ。


「そうでもないですよ?両親ともにとっても仲良しです。
 女王様と執事みたいな見た目ですけど……私の理想の二人です!」
「そうすると、ジョージアは理想から程遠いなぁ……?」
「そうですね?でも、理想であって、私は私たちなりの形でいいんです。
 複雑な家庭ですからね!どこかと一緒では面白くないですし!」


 その場にいる近衛も含めてため息をつかれたが、私はどこ吹く風である。
 別に家族の形は、それぞれでいいのだ。
 昨日なんて、全く他人であるこれから私の息子なる子に気に入られて、私はご満悦なんだから。
 きっと、今頃起きて、わけもわからず馬車に乗っていることで泣いているんではないかと想像して、クスっと笑ってしまった。


「それじゃあ、処刑の日が決まったら、ご連絡ください。
 あと、何かありましたら、ごねられない程の資料くらいは出しますので、それも連絡くれたら、
 お渡しします。
 貴族の処罰の方は、どうですか?」
「そっちは、なんとかなりそうだ。ほとんどが爵位返上や爵位を下げることになる。
 なんていうか……よくもまぁ、国の中枢にこれだけのつながりがあったことに驚くばかりだ。
 何はともあれ、連絡はするから、それまでは待機していてくれ!」
「わかりました。暇なのでいつでも呼んでください!」


 私は、ニッコリ笑って、部屋を退出し、私は屋敷へと戻る。
 優しい従者たちの笑顔に迎えられホッとして、部屋で休むことにした。
 体を休めることも、私の仕事の一環だとデリアに言われているので、今日は残りの時間をダラダラと過ごすのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。

みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。 主人公は断罪から逃れることは出来るのか?

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。

夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。 陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。 「お父様!助けてください! 私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません! お父様ッ!!!!!」 ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。 ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。 しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…? 娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)

処理中です...