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楽園に降り立った招かざるものⅣ

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「おはようございます、公世子様」
「あぁ、ウィルか。久しぶりだな!こっちでアンナリーゼにこき使われているのか?」


 ウィルと応接室に入って開口一番、公世子の物言いになんで?と私はなる。
 私、ウィルに対して……他の友人たちに対してもそんなふうに強要したことはないはずだった。
 とっても、働きやすい職場であると自負しているのに……公世子は軽い冗談で言ったのであろうが、むぅっとしてしまう。


「姫さんの元は、毎日目まぐるしく過ぎていって、とってもおもしろいですよ!
 指示も的確にしてくれるし、おもしろいことは考えるし、なんだかんだと自分が1番動き回って
 あっちでもこっちでもアンバー領地のためになることをもぎ取ってくるんですから、本当に俺たちも
 姫さんを見習わないとですよ!ねっ!公世子様」


 私がむっとしているのに気づいたのか、ウィルが公世子に意趣返しをきっちりしてくれる。
 それには、苦笑いの公世子と満足にニコッと笑いながら頷く私であった。


「そう……だな。アンナリーゼを見習わないとな?それで、アンナリーゼは、もう体調はいいのか?」
「えぇ、もういいですよ!」
「あぁ、姫さん、悪阻で食事の匂いがダメで俺たちとも別じゃないとダメなんですよ。
 本当に体が悪いとかそんなんじゃないんで、気にしないでください。
 それと、こき使われてるかって話ですけど、のびのびと好きなことをさせていただいていますから、
 ご心配には及びません。公世子様、お気遣いありがとうございます!」


 私も公世子もウィルを思わず見てしまった。
 なんていうか……本当にウィル?って感じなのだ。
 いつもチャラけているのだが、公世子の冗談をちゃんと受け止めただけでなく私が納得するような切り返しで話の着地点を押さえたのである。


 やってやったぞ?と二ッと私に笑うと……それも台無しな気がするが、私はウィルの言葉を聞いて、とても嬉しかった。


「それで、悪阻っていうのは本当なのか?」
「えぇ、本当ですよ!」
「まさか……?」


 ウィルの方を公世子は見ているが……横に首を振っておく。
 ジョージアとの子どもなのだから、何もおかしなことはないだろう。


「公世子様じゃあろうまいし……ジョージア様の子どもですよ!」
「なんだ、公世子様じゃあろうまいしって!否定はしないが……」
「しないんですか?」


 まぁ、座れと我が物顔で、我が家のソファを進めてくる。
 ここ、私の領地で、私の屋敷で、私のソファなんですけど!口にはせずに、やたらニコニコとしておくことにした。


「それで?ウィルは、なんでいるんだ?」
「私が呼びました。それに、ウィルにも関係ない話ではなくなったので、聞いてもらった方がいい
 かなって思って」
「それは?」
「俺が、ダドリー男爵の子どもたちの養父になったからですかね?」
「押し付けられたか……」


 公世子の言い方は、またもやどうかと思うけど、ウィルからしたら、私に押し付けられたというのはあながち間違ってはいない。


「いえ、最初は断っていたんですけどね……なんていうか、いいもんですね!
 子どもに好かれるって。父様なんて、呼ばれると最近じゃ嬉しくって。
 あっ!特に下の子なんて、女の子だから……特別可愛い。
 ジョーも可愛いんだけど……ミアはまた違った可愛さがあるんっすよ!」
「お……おぅ……そうか、よかったな?でも、ダドリーの娘だぞ?」
「それがどうしたんですか?可愛いものは可愛いんですから仕方がないじゃないですか。
 親として言っているんですからね。公世子様みたいな邪な目で娘は見てませんよ!
 公世子様もお子様いらっしゃるでしょ?可愛くないんすか?」


 ウィルのその真剣な質問に私は笑ってしまった。
 公世子は、子どもがとても苦手らしいのだ。自分の子どもすら抱いたことがないと言っていたくらいなのだから……


「あ……あぁ、可愛らしいな……」
「公世子様、無理はダメですよ?ぷくく……」
「アンナリーゼ!」
「なんです?」
「いや……子どもって可愛いのか?」


 信じられないものを見たとウィルは公世子を見ていた。


「他人の子どもを可愛がるウィルの前で言うことじゃないですね。
 たぶん、父様と呼ばれたら、わかるんじゃないですかね?
 ジョージア様も必死にジョーに呼ばせるために話しかけていましたから」
「あのジョージアがなぁ……俺も帰ってプラムを相手にしてみようかな……?」
「そうしてあげてください!」


 私たちの話を聞いて、エリックは微笑んでいる。
 エリックは、実のところレオとミアを引き取ったことも反対だったのだ。
 ウィルが溺愛しているのだから……もう見守るしかないと思っているのだろう。
 しかし、ウィルが、公世子をなんであの可愛さがわからないのか!って説き伏せそうな勢いで見つめている。
 ウィルは、もうすっかりレオとミアの虜であるようだ。


「それで、食休みが終わって、この話が終わったらウィルと一緒に領地へ出掛けてください。
 領地の案内人としてウィルをつけますし、馬の用意はします。
 少し変わったアンバーを堪能してください。
 あと、時間があるなら、泊まってもらってもいいですし、領地を回ってきてからでも話し合いは
 いいですから、どうされますか?」
「あぁ、たぶん半日では終わらないと思っていたところだ。数日厄介になるが……いいか?」
「もちろんですよ!この屋敷の客間をご用意しますね」
「すまぬ……」
「何を言っているんですか!あまり聞かれない方がいい話をするのです。
 多分、領地の屋敷が最適だと思いますよ!ここは、この国一番の守りが固いところですからね!」
「それにしたって、ウィルに領地の案内なんか、できるのか?」


 ウィルの方を見るが、ノクトやリリー、ニコライと一緒に領地を回っているらしく、私より領地の生の声やら実情の全体を把握している。
 領地を回れない私の代わりに目になり耳になり口になりとしてくれているのだ。
 毎日色々な報告を受けている。
 きちんとした報告は、各担当しているものから聞いた方がいいということもわかっているので、寝る前の雑談程度に時間を作っては話をしてくれるのだ。


「私より領地のことを把握していると思いますよ。
 ウィルの懐っこい人柄は得ですよね……あと、無駄にいい顔と体」


 隣に立つウィルを見ながらぶつくさというと、公世子が俺も鍛えた方がいいのか?と独り言を言い始めた。


「鍛えた方がいいと思いますよ!公世子様は、私たちよりだいぶ年上なんですから、体はちゃんと
 整えておいた方がいいです。
 エリックに少し汗を流せるくらいの剣術でも習ったらどうです?プラム様と一緒に」
「プラムは、まだ、2歳にもなっておらぬぞ?
 もしや、そなたの娘は、もう、剣を握っているなんて言わぬだろうな?」


 私は、視線だけそらせておく。
 トワイスから帰ってくるときに、両親がジョーにおもちゃをくれたのだが……その中に実は子ども用の模擬剣があった。
 しかも、ジョーのお気に入りで……すでに握っていたりする。
 レオがウィルに剣術を習っているので、たまに妹のミアやジョーに教えているようなのだ。

 視線を逸らした私にため息をつく公世子。
 でも、ジョー本人が気に入っているものを取り上げるのも……しのびない。
 使えて損はないはずだし、ゆくゆくは、公世子の後ろでずっと見守ってくれているエリックが指南役になるのだから……エリックはその話を聞いて言葉に出さないけど嬉しそうにしている。


「ほら……早く、領地回ってきてください!私もイロイロと用意しておきますから!」


 急に立って公世子の手を取り立たせ、背中を押して応接室から追い出した。
 これ以上、ジョーの話になると……まずいような気がしたので話を逸らしたわけだが……


「まぁ、いいさ!ウィルの案内で領地見学に行ってくる!」
「いってらっしゃーい!」


 部屋から追い出すことに成功した私は、ふぅっと息を吐いた。
 ただ、おつかいもしてきてほしかったので、ウィルだけを呼び止める。


「あっ!ウィル!公世子様に蒸留酒のところ見せてあげてほしいの。
 例のあれに、蒸留酒を入れてみてほしいから、これ酒蔵で渡してくれるかしら?
 しぶられたら……これだけでもって拝み倒してでも、入れてもらってちょうだい!」


 ウィルに、領地の執務室にあるトワイス国で買ってきた裸体のお姉さんを箱ごと取りに来てもらいお願いするとわかったと請け負ってくれる。


「あと、公世子様には中身は見せないで。何か持ってるとチラ見せはいいけどね。
 帰りに高値で買ってもらうから!」
「姫さん、悪い顔してんぜ?」
「失礼な!いい顔って言ってくれる?ニコライと値段は考えておくから、お願いね!
 気を付けて行ってきて!」


 あぁ、と手を振って公世子とエリック、ウィルは領地を回ることになった。
 さて、私は……その間に公都の情報をまとめて、今晩にでも公世子と話ができるようにしておかないといけない。
 こちらでも調べたダドリー男爵のこと、最近の出来事など……結構情報提供は多いのだ。
 私は、夕方に公世子が返ってくるまで、執務室に籠るのであった。
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