上 下
314 / 1,479

これ、何?

しおりを挟む
 殿下のクローゼットの奥から出してもらった服は、当時わりと気に入っていた服だったが、年のせいか服の好みが変わったからなのか、とても私に似合っているとは思えなかった。
 家に帰ったとしても似たり寄ったりの服しか無いので、一時しのぎだと言い聞かせ我慢する。
 私は、服1枚でも気持ちの上がり下がりがあることを初めて知った。
 いつも私にあった服を用意してくれた侍女たちには感謝しかない。
 デリアにはもちろん多大なる感謝だが、最近、ナタリーが趣味のいいドレスや服を作り始めたことに、かなり期待している。
 その服が、とても私の好みにあうのだ。
 というのも、ナタリーがデザインしているので、私に似合うのは当たり前なのだけど……廉価版を、他領へ売り出したいと最近言っているのをニコライ通じて聞いている。
 領地を飛び回っていたのは、服を作るためだったようで、ナタリーにも領地での楽しみができて何よりだった。


 今着ている服を着ていた頃を知っている殿下は、懐かしむように私を見ていた。


「そんなに見られると恥ずかしいんですけど?」
「いや、すまぬ。今でもその服が似合うのは、そなたくらいだと思って」
「そういえば、この服は殿下のプレゼントでしたね?」
「覚えていたのか?」
「えぇ、覚えてますよ!
 確かハリーと服を買いに街へ出かける話を聞きつけて、お小遣いくれたんでした。
 殿下の分も買って、そのあとちょくちょく抜け出しましたね?」
「アンナリーゼ様って、王太子殿下まで連れ回していたのですか?」


 パルマ、驚いているところ悪いのだけど……ハリー……宰相の息子となら、ほぼ毎日、街をぶらついていた。
 それも、泥んこになったり、服を破いたり……近所の悪ガキよりなまじ強かったから、お山の大将もしていたくらいだ。
 だから、フレイゼンのじゃじゃ馬アンナと言われるまでになっていたのだが黙っておこう。
 知らぬが仏。黙っているのもパルマのためだ!と思っていたが、そうは問屋がおろさない。


「パルマとか言ったか?」
「はい、王太子殿下」
「アンナは、毎日、街で暴れまわっておったぞ?お供にハリーをつけて。
 そうであろう?サシャよ」
「全くですよ!いつになったら大人しくなるのかと思っていましたが……
 全然変わらず……親の顔が見てみたい!ってうちの女王様でした……
 僕はもっとアンナが小さいときに振り回されていましたよ!
 ヘンリーと幼馴染になった頃から、僕はお払い箱でしたけどね!」


 私は殿下とお兄様の話にぐぅの根も出ない。事実なのだから、否定もできないし……身に覚えのあることを知らないパルマに言ってイメージを刷り込まれては困る。

 殿下もお兄様は、それにしたって私の話に花を咲かせている場合なのだろうか?
 確かにあの頃は、わりと無茶もしてたし、ハリーに何度も何度も叱られたこともある。
 服を破ってしまったり、汚してしまったりはしょっちゅうしてたから、城下では有名であったし、デビュタントまでは、ハリーと一緒に自由気ままに遊びほうけた生活をしていた。
 その頃には、お兄様がもう相手をしてくれなかったからいつもハリーと一緒にいたのだ。


「そうなんですね?アンナリーゼ様は、ずっと変わらずなのですね!」
「ずっと変わらずって……パルマ、私も淑女として、成長はしてるよ?
 なんならダンスを一曲踊る?」
「いえ、ウィルさんに姫さんと踊ったら2度と他の人と踊りたくなくなるからやめた方が
 いいって言われましたから、遠慮させていただきます」
「それは、ウィルにとっての最高の誉め言葉だな。
 他の女性と踊るのが、億劫になるくらいアンナは最高のパートナーになるんだ」
「そんなにアンナリーゼ様のダンスは素敵なのですね?
 まだ、僕、夜会に行ったことがなくて……」
「パルマよ、行った方がいいぞ?アンナの課題にそれはないのか?」


 殿下に問われパルマは考えていただが、私がその課題を出した記憶はなかった。
 そうか……社交界の話は、パルマからも聞き出せるようにした方がいい。
 願ったりかなったりだと、私はパルマに課題を出すことにした。


「パルマ、夜会にいってらっしゃい。
 お兄様に、私が必要としている情報を聞いて、自分でどの情報が必要なのか精査できるように」
「でも……夜会や茶会にそんな価値があるように思えません」
「それは、違うわ!夜会や茶会にこそ、隠された情報が蔓延しているのよ!
 うーん……根本的な考え方から勉強するとなると、お兄様は役に立たないわね!」
「アンナ!僕だって、あの頃の僕じゃないさ!
 パルマ一人くらい、立派に育てることができるって!」


 私は兄をジトっと見やって、やれやれと頭を横に振る。
 我が家はこれでも上流階級の貴族であった。
 なので、それとなく両親はそういうことも教えてくれていたのだが、兄はわかっていない。

 私たちには基礎があって、お母様に叩きあげられた最高情報機関とするなら、パルマは末端貴族と庶民との間くらいの生まれであるため、基礎もない状態なのだ。


「私が手を貸してあげれればいいけど、それは無理だから……お母様にお願いしておくわ!
 お兄様にお願いしたら、パルマの今後がかなり心配になる。
 わかっているのかいないのか……私たちは、上流貴族の側にいるのですよ?
 情報収集に関しては、元々お母様が教えてくれていました。
 パルマには、その基礎がないのです。
 お兄様には、とてもじゃないですけど、パルマを基礎から教えるなんて任せられません」


 来年の今頃には、パルマはローズディアの文官として働くことになっている。
 時間にも余裕がないので、兄に任せることで、時間を無駄にはしたくない。


「パルマ、私のお母様に師事をしてちょうだい。
 失念してたけど必要があるので、早急に情報収集能力はつけて!
 これがあるのとないのでは、文官として働くにしても雲泥の差が出ることになるはず。
 情報は、武器よ!
 何も切ったり殴ったりだけが攻撃できるもので戦えるわけではないのよ。
 情報があってこそ、勝てる戦も攻め入る場所もあるのよ」


 パルマを悟らせると、納得してくれたのか今晩帰ってからでもお願いしてみますと返事をくれる。
 うん、兄と違って、こういうところが柔軟でいいのだ。
 見習ったらいいのに……聞こえない程度に呟いたつもりだったが、殿下には聞こえたようで苦笑いしていた。


「ところで、シルキー様の処方されたお薬ってわかりましたか?」
「あぁ、昨日煎じたものと処方箋、あと産後から飲んでいるもの食べた物を全部洗い出した。
 そんなものでいいのか?他にももっと何かあるんではないのか?」


 殿下は心配そうにしているのだが……やっぱり、シルキーをとても大切にしていることをうかがえる。


「殿下も忙しいでしょうから、ご自分の仕事をしてください。
 こちらは、私たちで考えますから……あまり、時間もないので、早速始めていきますよ!」


 殿下の執務室の応接セットで頭を寄せていたのだが、殿下には離脱してもらった。
 それに同じ執務室の中にいるなら、兄は私の方を手伝ってもなんら問題はなさそうなので、私と兄、パルマの三人で、読み解いていくことにした。


 その中で気になるものがあった。
 これ、何?
 私は、それらを中心に調べていくことにしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。

みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。 主人公は断罪から逃れることは出来るのか?

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。

夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。 陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。 「お父様!助けてください! 私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません! お父様ッ!!!!!」 ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。 ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。 しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…? 娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)

処理中です...