上 下
314 / 1,480

これ、何?

しおりを挟む
 殿下のクローゼットの奥から出してもらった服は、当時わりと気に入っていた服だったが、年のせいか服の好みが変わったからなのか、とても私に似合っているとは思えなかった。
 家に帰ったとしても似たり寄ったりの服しか無いので、一時しのぎだと言い聞かせ我慢する。
 私は、服1枚でも気持ちの上がり下がりがあることを初めて知った。
 いつも私にあった服を用意してくれた侍女たちには感謝しかない。
 デリアにはもちろん多大なる感謝だが、最近、ナタリーが趣味のいいドレスや服を作り始めたことに、かなり期待している。
 その服が、とても私の好みにあうのだ。
 というのも、ナタリーがデザインしているので、私に似合うのは当たり前なのだけど……廉価版を、他領へ売り出したいと最近言っているのをニコライ通じて聞いている。
 領地を飛び回っていたのは、服を作るためだったようで、ナタリーにも領地での楽しみができて何よりだった。


 今着ている服を着ていた頃を知っている殿下は、懐かしむように私を見ていた。


「そんなに見られると恥ずかしいんですけど?」
「いや、すまぬ。今でもその服が似合うのは、そなたくらいだと思って」
「そういえば、この服は殿下のプレゼントでしたね?」
「覚えていたのか?」
「えぇ、覚えてますよ!
 確かハリーと服を買いに街へ出かける話を聞きつけて、お小遣いくれたんでした。
 殿下の分も買って、そのあとちょくちょく抜け出しましたね?」
「アンナリーゼ様って、王太子殿下まで連れ回していたのですか?」


 パルマ、驚いているところ悪いのだけど……ハリー……宰相の息子となら、ほぼ毎日、街をぶらついていた。
 それも、泥んこになったり、服を破いたり……近所の悪ガキよりなまじ強かったから、お山の大将もしていたくらいだ。
 だから、フレイゼンのじゃじゃ馬アンナと言われるまでになっていたのだが黙っておこう。
 知らぬが仏。黙っているのもパルマのためだ!と思っていたが、そうは問屋がおろさない。


「パルマとか言ったか?」
「はい、王太子殿下」
「アンナは、毎日、街で暴れまわっておったぞ?お供にハリーをつけて。
 そうであろう?サシャよ」
「全くですよ!いつになったら大人しくなるのかと思っていましたが……
 全然変わらず……親の顔が見てみたい!ってうちの女王様でした……
 僕はもっとアンナが小さいときに振り回されていましたよ!
 ヘンリーと幼馴染になった頃から、僕はお払い箱でしたけどね!」


 私は殿下とお兄様の話にぐぅの根も出ない。事実なのだから、否定もできないし……身に覚えのあることを知らないパルマに言ってイメージを刷り込まれては困る。

 殿下もお兄様は、それにしたって私の話に花を咲かせている場合なのだろうか?
 確かにあの頃は、わりと無茶もしてたし、ハリーに何度も何度も叱られたこともある。
 服を破ってしまったり、汚してしまったりはしょっちゅうしてたから、城下では有名であったし、デビュタントまでは、ハリーと一緒に自由気ままに遊びほうけた生活をしていた。
 その頃には、お兄様がもう相手をしてくれなかったからいつもハリーと一緒にいたのだ。


「そうなんですね?アンナリーゼ様は、ずっと変わらずなのですね!」
「ずっと変わらずって……パルマ、私も淑女として、成長はしてるよ?
 なんならダンスを一曲踊る?」
「いえ、ウィルさんに姫さんと踊ったら2度と他の人と踊りたくなくなるからやめた方が
 いいって言われましたから、遠慮させていただきます」
「それは、ウィルにとっての最高の誉め言葉だな。
 他の女性と踊るのが、億劫になるくらいアンナは最高のパートナーになるんだ」
「そんなにアンナリーゼ様のダンスは素敵なのですね?
 まだ、僕、夜会に行ったことがなくて……」
「パルマよ、行った方がいいぞ?アンナの課題にそれはないのか?」


 殿下に問われパルマは考えていただが、私がその課題を出した記憶はなかった。
 そうか……社交界の話は、パルマからも聞き出せるようにした方がいい。
 願ったりかなったりだと、私はパルマに課題を出すことにした。


「パルマ、夜会にいってらっしゃい。
 お兄様に、私が必要としている情報を聞いて、自分でどの情報が必要なのか精査できるように」
「でも……夜会や茶会にそんな価値があるように思えません」
「それは、違うわ!夜会や茶会にこそ、隠された情報が蔓延しているのよ!
 うーん……根本的な考え方から勉強するとなると、お兄様は役に立たないわね!」
「アンナ!僕だって、あの頃の僕じゃないさ!
 パルマ一人くらい、立派に育てることができるって!」


 私は兄をジトっと見やって、やれやれと頭を横に振る。
 我が家はこれでも上流階級の貴族であった。
 なので、それとなく両親はそういうことも教えてくれていたのだが、兄はわかっていない。

 私たちには基礎があって、お母様に叩きあげられた最高情報機関とするなら、パルマは末端貴族と庶民との間くらいの生まれであるため、基礎もない状態なのだ。


「私が手を貸してあげれればいいけど、それは無理だから……お母様にお願いしておくわ!
 お兄様にお願いしたら、パルマの今後がかなり心配になる。
 わかっているのかいないのか……私たちは、上流貴族の側にいるのですよ?
 情報収集に関しては、元々お母様が教えてくれていました。
 パルマには、その基礎がないのです。
 お兄様には、とてもじゃないですけど、パルマを基礎から教えるなんて任せられません」


 来年の今頃には、パルマはローズディアの文官として働くことになっている。
 時間にも余裕がないので、兄に任せることで、時間を無駄にはしたくない。


「パルマ、私のお母様に師事をしてちょうだい。
 失念してたけど必要があるので、早急に情報収集能力はつけて!
 これがあるのとないのでは、文官として働くにしても雲泥の差が出ることになるはず。
 情報は、武器よ!
 何も切ったり殴ったりだけが攻撃できるもので戦えるわけではないのよ。
 情報があってこそ、勝てる戦も攻め入る場所もあるのよ」


 パルマを悟らせると、納得してくれたのか今晩帰ってからでもお願いしてみますと返事をくれる。
 うん、兄と違って、こういうところが柔軟でいいのだ。
 見習ったらいいのに……聞こえない程度に呟いたつもりだったが、殿下には聞こえたようで苦笑いしていた。


「ところで、シルキー様の処方されたお薬ってわかりましたか?」
「あぁ、昨日煎じたものと処方箋、あと産後から飲んでいるもの食べた物を全部洗い出した。
 そんなものでいいのか?他にももっと何かあるんではないのか?」


 殿下は心配そうにしているのだが……やっぱり、シルキーをとても大切にしていることをうかがえる。


「殿下も忙しいでしょうから、ご自分の仕事をしてください。
 こちらは、私たちで考えますから……あまり、時間もないので、早速始めていきますよ!」


 殿下の執務室の応接セットで頭を寄せていたのだが、殿下には離脱してもらった。
 それに同じ執務室の中にいるなら、兄は私の方を手伝ってもなんら問題はなさそうなので、私と兄、パルマの三人で、読み解いていくことにした。


 その中で気になるものがあった。
 これ、何?
 私は、それらを中心に調べていくことにしたのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...