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拝命

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 謁見の間に入り、中央まで歩いていく。
 ジョージアも私より一歩下がり、ノクト同じ位置で私の後ろを歩く。

 今日、私は公爵位を公より拝命することになっている。
 なので、今日の主役は私であるので、私が一人で立たなくてはいけない。
 これから、アンバー領の領民全ての命を預かるための誓いを立てるのだ。


「公がいらっしゃいました」


 宰相のその声に、私は大広間の真ん中で最上の礼を取る。
 呼ばれるまでは、決して面をあげず、じっと声がかかるのを待つ。

 この体勢は結構大変なのだが、私はブレたことがない。
 しっかり体勢を保たせられず普通はフラフラするものだ。
 特に令嬢や夫人は、うまくバランスが取れないものが多い。
 爵位が下がれば下がるほど、最上の礼などする機会が少ないので顕著なのだそうだ。


「アンナリーゼ、面をあげよ!」


 言われた通りに姿勢を正し、その場に立つ。
 そして、挨拶をする。
 いつもは、ジョージアがする挨拶を私がしなくてはいけない。


「公、召喚状により参上しました。
 アンバー公爵、アンナリーゼ・トロン・アンバーでございます。
 本日は、お呼びいただき誠にありがとう存じます」
「あぁ、本日は、そなたの公爵任命だ。早速始めようぞ」


 この場に集まっているのは、公、公世子、宰相、近衛隊長、そしてジョージアとノクトがいるだけの寂しい任命式となった。
 でも、それは、仕方がない。
 私が病んでいることになっているので、今後のことを踏まえ情報漏洩を考えてのことだ。
 まぁ、隣にジョージアがいれば正常に見えると言えば、多少、城に出入りがあったとしても怪しまれないだろう。
 私は、ノクトに渡してあった剣を公の前までしずしずと持っていく。
 そして、そこに跪く。

 鞘から剣を抜き、公へと掲げ、頭を垂れる。
 しんと静まりかえって何も音のしない大広間。

 公の衣擦れの音だけが私の耳に入ってくる。
 私には珍しく、緊張で体を強張せた。

 掲げていた手から、剣の重みが無くなり、私はそのまま手を下げる。
 すると、公が渡した剣の平にて私の両肩を軽く叩く。

 公が言う任命の言葉が、大広間に朗々と響く。


「アンナリーゼ・トロン・アンバーよ
 汝、国を想い国民を想いその命をかけ民を慈しめ
 汝、国を裏切ることなく国民を裏切ることなく欺くことなく誠実であれ
 汝、国を守り国民を守り弱者に手を差し伸べ強者に立ち向かえ
 汝、ローズディアの真の貴族となりて、国のため国民のためその命尽きるまで尽くせ

 アンナリーゼよ!アンバー公爵位の任命をする。
 アンバーの光とならんことを!」


 爵位をもらうような式典である。
 それも、公爵位をもらうような式典だ。
 本来ならお祝いの意味を込めて貴族たちからの拍手喝采があっただろう。
 おめでとうの言葉もあっただろう。
 妬ましいと睨みつける視線もあっただろう。

 でも、今日はひそやかに執り行われた。
 拍手もなくおめでとうの言葉もない。
 何もない式典だった。
 別に他の貴族に私が公爵位を得たことを知られなくてもいいのだ。
 ただ、アンバーの領地を民を導くため、娘を守るためだけにズルをしたような形で得た爵位だ。
 なので、お祝いされたいわけではない。
 ただの私のエゴのためだけの拝命にむしろ恐縮してしまう。

 拝命したこの公爵位。
 必ず、アンバーのために、この国のために、そして三国のために上手に使わなくてはいけない。


 私は頭を垂れていたが、顔を上げ公を見据える。
 次は、私の宣誓の言葉を公に宣言する。


「アンナリーゼ・トロン・アンバー、公よりの公爵位の拝命を謹んでお受けいたします。
 アンバー領民の手本となり、誠実にまた命尽きるその瞬間まで慈しみ尽くします。
 そして、アンバー領をローズディア一の領地となることをここに誓います。
 私たちの歩みは、決して早いものではありません。
 しかしながら、領民と手を取り合い、笑顔溢れる領地とし、他領の手本となるような改革を進めて
 行きます。
 どうか、私たちアンバー領の民を見捨てることなく、これから新しく発展するアンバー領地への期待を
 してください!!」


 最後にニコリと笑う。
 私は、公爵を持った女性だ。
 女性には、女性の戦い方がある。
 男性と同じ土俵に立つ必要はないし、独自に進んでも構わないと思っている。

 これは、剣術や体術など武術を習ってわかったことだ。
 力がないなら、違う方法で勝つしかない。
 力で女性である私が男性に勝てるわけがないのだから……
 それをうまく体現できているのが、力がないなら頭を使って手数を増やすという私の戦い方だった。

 ジョージアの領地運営は、領主であるジョージアが一人で政策を考え、予算を組み、領地の管理をしていた。
 私の目指す領地運営は、一言でいえば、人任せ。
 適材適所に信用できる頭になる人を作り、その人を中心に進める。
 これは、フレイゼンで父がすでにやっている手法であるが、理にかなっている。
 国の運営方法は、同じようにしているからだ。
 あの広大なアンバー領を一人で見ること自体が土台無理な話なのだ。


 公から剣を返してもらい、鞘に戻す。
 シャッと音が大広間に響く。

 私は数歩下がって階段から降りて、ジョージアやノクトがいる場所まで戻っていく。


「アンナリーゼよ!
 そなたのアンバー領の改革、楽しみしておる。あと、これとな!」


 クイッとグラスを傾けるような仕草を公はしている。
 あぁ、葡萄酒のことか……しめしめ、葡萄酒の愛飲者が増えていると心の中で拳を握る。
 何事もコツコツだ。
 こうして、1つでも縁が結ばれたことに感謝する。
 ノクトに剣を渡し、公の方へ向き直り最上の礼をもって返事の代わりとした。
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