283 / 1,480
拝命
しおりを挟む
謁見の間に入り、中央まで歩いていく。
ジョージアも私より一歩下がり、ノクト同じ位置で私の後ろを歩く。
今日、私は公爵位を公より拝命することになっている。
なので、今日の主役は私であるので、私が一人で立たなくてはいけない。
これから、アンバー領の領民全ての命を預かるための誓いを立てるのだ。
「公がいらっしゃいました」
宰相のその声に、私は大広間の真ん中で最上の礼を取る。
呼ばれるまでは、決して面をあげず、じっと声がかかるのを待つ。
この体勢は結構大変なのだが、私はブレたことがない。
しっかり体勢を保たせられず普通はフラフラするものだ。
特に令嬢や夫人は、うまくバランスが取れないものが多い。
爵位が下がれば下がるほど、最上の礼などする機会が少ないので顕著なのだそうだ。
「アンナリーゼ、面をあげよ!」
言われた通りに姿勢を正し、その場に立つ。
そして、挨拶をする。
いつもは、ジョージアがする挨拶を私がしなくてはいけない。
「公、召喚状により参上しました。
アンバー公爵、アンナリーゼ・トロン・アンバーでございます。
本日は、お呼びいただき誠にありがとう存じます」
「あぁ、本日は、そなたの公爵任命だ。早速始めようぞ」
この場に集まっているのは、公、公世子、宰相、近衛隊長、そしてジョージアとノクトがいるだけの寂しい任命式となった。
でも、それは、仕方がない。
私が病んでいることになっているので、今後のことを踏まえ情報漏洩を考えてのことだ。
まぁ、隣にジョージアがいれば正常に見えると言えば、多少、城に出入りがあったとしても怪しまれないだろう。
私は、ノクトに渡してあった剣を公の前までしずしずと持っていく。
そして、そこに跪く。
鞘から剣を抜き、公へと掲げ、頭を垂れる。
しんと静まりかえって何も音のしない大広間。
公の衣擦れの音だけが私の耳に入ってくる。
私には珍しく、緊張で体を強張せた。
掲げていた手から、剣の重みが無くなり、私はそのまま手を下げる。
すると、公が渡した剣の平にて私の両肩を軽く叩く。
公が言う任命の言葉が、大広間に朗々と響く。
「アンナリーゼ・トロン・アンバーよ
汝、国を想い国民を想いその命をかけ民を慈しめ
汝、国を裏切ることなく国民を裏切ることなく欺くことなく誠実であれ
汝、国を守り国民を守り弱者に手を差し伸べ強者に立ち向かえ
汝、ローズディアの真の貴族となりて、国のため国民のためその命尽きるまで尽くせ
アンナリーゼよ!アンバー公爵位の任命をする。
アンバーの光とならんことを!」
爵位をもらうような式典である。
それも、公爵位をもらうような式典だ。
本来ならお祝いの意味を込めて貴族たちからの拍手喝采があっただろう。
おめでとうの言葉もあっただろう。
妬ましいと睨みつける視線もあっただろう。
でも、今日はひそやかに執り行われた。
拍手もなくおめでとうの言葉もない。
何もない式典だった。
別に他の貴族に私が公爵位を得たことを知られなくてもいいのだ。
ただ、アンバーの領地を民を導くため、娘を守るためだけにズルをしたような形で得た爵位だ。
なので、お祝いされたいわけではない。
ただの私のエゴのためだけの拝命にむしろ恐縮してしまう。
拝命したこの公爵位。
必ず、アンバーのために、この国のために、そして三国のために上手に使わなくてはいけない。
私は頭を垂れていたが、顔を上げ公を見据える。
次は、私の宣誓の言葉を公に宣言する。
「アンナリーゼ・トロン・アンバー、公よりの公爵位の拝命を謹んでお受けいたします。
アンバー領民の手本となり、誠実にまた命尽きるその瞬間まで慈しみ尽くします。
そして、アンバー領をローズディア一の領地となることをここに誓います。
私たちの歩みは、決して早いものではありません。
しかしながら、領民と手を取り合い、笑顔溢れる領地とし、他領の手本となるような改革を進めて
行きます。
どうか、私たちアンバー領の民を見捨てることなく、これから新しく発展するアンバー領地への期待を
してください!!」
最後にニコリと笑う。
私は、公爵を持った女性だ。
女性には、女性の戦い方がある。
男性と同じ土俵に立つ必要はないし、独自に進んでも構わないと思っている。
これは、剣術や体術など武術を習ってわかったことだ。
力がないなら、違う方法で勝つしかない。
力で女性である私が男性に勝てるわけがないのだから……
それをうまく体現できているのが、力がないなら頭を使って手数を増やすという私の戦い方だった。
ジョージアの領地運営は、領主であるジョージアが一人で政策を考え、予算を組み、領地の管理をしていた。
私の目指す領地運営は、一言でいえば、人任せ。
適材適所に信用できる頭になる人を作り、その人を中心に進める。
これは、フレイゼンで父がすでにやっている手法であるが、理にかなっている。
国の運営方法は、同じようにしているからだ。
あの広大なアンバー領を一人で見ること自体が土台無理な話なのだ。
公から剣を返してもらい、鞘に戻す。
シャッと音が大広間に響く。
私は数歩下がって階段から降りて、ジョージアやノクトがいる場所まで戻っていく。
「アンナリーゼよ!
そなたのアンバー領の改革、楽しみしておる。あと、これとな!」
クイッとグラスを傾けるような仕草を公はしている。
あぁ、葡萄酒のことか……しめしめ、葡萄酒の愛飲者が増えていると心の中で拳を握る。
何事もコツコツだ。
こうして、1つでも縁が結ばれたことに感謝する。
ノクトに剣を渡し、公の方へ向き直り最上の礼をもって返事の代わりとした。
ジョージアも私より一歩下がり、ノクト同じ位置で私の後ろを歩く。
今日、私は公爵位を公より拝命することになっている。
なので、今日の主役は私であるので、私が一人で立たなくてはいけない。
これから、アンバー領の領民全ての命を預かるための誓いを立てるのだ。
「公がいらっしゃいました」
宰相のその声に、私は大広間の真ん中で最上の礼を取る。
呼ばれるまでは、決して面をあげず、じっと声がかかるのを待つ。
この体勢は結構大変なのだが、私はブレたことがない。
しっかり体勢を保たせられず普通はフラフラするものだ。
特に令嬢や夫人は、うまくバランスが取れないものが多い。
爵位が下がれば下がるほど、最上の礼などする機会が少ないので顕著なのだそうだ。
「アンナリーゼ、面をあげよ!」
言われた通りに姿勢を正し、その場に立つ。
そして、挨拶をする。
いつもは、ジョージアがする挨拶を私がしなくてはいけない。
「公、召喚状により参上しました。
アンバー公爵、アンナリーゼ・トロン・アンバーでございます。
本日は、お呼びいただき誠にありがとう存じます」
「あぁ、本日は、そなたの公爵任命だ。早速始めようぞ」
この場に集まっているのは、公、公世子、宰相、近衛隊長、そしてジョージアとノクトがいるだけの寂しい任命式となった。
でも、それは、仕方がない。
私が病んでいることになっているので、今後のことを踏まえ情報漏洩を考えてのことだ。
まぁ、隣にジョージアがいれば正常に見えると言えば、多少、城に出入りがあったとしても怪しまれないだろう。
私は、ノクトに渡してあった剣を公の前までしずしずと持っていく。
そして、そこに跪く。
鞘から剣を抜き、公へと掲げ、頭を垂れる。
しんと静まりかえって何も音のしない大広間。
公の衣擦れの音だけが私の耳に入ってくる。
私には珍しく、緊張で体を強張せた。
掲げていた手から、剣の重みが無くなり、私はそのまま手を下げる。
すると、公が渡した剣の平にて私の両肩を軽く叩く。
公が言う任命の言葉が、大広間に朗々と響く。
「アンナリーゼ・トロン・アンバーよ
汝、国を想い国民を想いその命をかけ民を慈しめ
汝、国を裏切ることなく国民を裏切ることなく欺くことなく誠実であれ
汝、国を守り国民を守り弱者に手を差し伸べ強者に立ち向かえ
汝、ローズディアの真の貴族となりて、国のため国民のためその命尽きるまで尽くせ
アンナリーゼよ!アンバー公爵位の任命をする。
アンバーの光とならんことを!」
爵位をもらうような式典である。
それも、公爵位をもらうような式典だ。
本来ならお祝いの意味を込めて貴族たちからの拍手喝采があっただろう。
おめでとうの言葉もあっただろう。
妬ましいと睨みつける視線もあっただろう。
でも、今日はひそやかに執り行われた。
拍手もなくおめでとうの言葉もない。
何もない式典だった。
別に他の貴族に私が公爵位を得たことを知られなくてもいいのだ。
ただ、アンバーの領地を民を導くため、娘を守るためだけにズルをしたような形で得た爵位だ。
なので、お祝いされたいわけではない。
ただの私のエゴのためだけの拝命にむしろ恐縮してしまう。
拝命したこの公爵位。
必ず、アンバーのために、この国のために、そして三国のために上手に使わなくてはいけない。
私は頭を垂れていたが、顔を上げ公を見据える。
次は、私の宣誓の言葉を公に宣言する。
「アンナリーゼ・トロン・アンバー、公よりの公爵位の拝命を謹んでお受けいたします。
アンバー領民の手本となり、誠実にまた命尽きるその瞬間まで慈しみ尽くします。
そして、アンバー領をローズディア一の領地となることをここに誓います。
私たちの歩みは、決して早いものではありません。
しかしながら、領民と手を取り合い、笑顔溢れる領地とし、他領の手本となるような改革を進めて
行きます。
どうか、私たちアンバー領の民を見捨てることなく、これから新しく発展するアンバー領地への期待を
してください!!」
最後にニコリと笑う。
私は、公爵を持った女性だ。
女性には、女性の戦い方がある。
男性と同じ土俵に立つ必要はないし、独自に進んでも構わないと思っている。
これは、剣術や体術など武術を習ってわかったことだ。
力がないなら、違う方法で勝つしかない。
力で女性である私が男性に勝てるわけがないのだから……
それをうまく体現できているのが、力がないなら頭を使って手数を増やすという私の戦い方だった。
ジョージアの領地運営は、領主であるジョージアが一人で政策を考え、予算を組み、領地の管理をしていた。
私の目指す領地運営は、一言でいえば、人任せ。
適材適所に信用できる頭になる人を作り、その人を中心に進める。
これは、フレイゼンで父がすでにやっている手法であるが、理にかなっている。
国の運営方法は、同じようにしているからだ。
あの広大なアンバー領を一人で見ること自体が土台無理な話なのだ。
公から剣を返してもらい、鞘に戻す。
シャッと音が大広間に響く。
私は数歩下がって階段から降りて、ジョージアやノクトがいる場所まで戻っていく。
「アンナリーゼよ!
そなたのアンバー領の改革、楽しみしておる。あと、これとな!」
クイッとグラスを傾けるような仕草を公はしている。
あぁ、葡萄酒のことか……しめしめ、葡萄酒の愛飲者が増えていると心の中で拳を握る。
何事もコツコツだ。
こうして、1つでも縁が結ばれたことに感謝する。
ノクトに剣を渡し、公の方へ向き直り最上の礼をもって返事の代わりとした。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる